第8話
無数の高層ビルが建ち、自然が少ないこの国では貴重な緑を多く見ることができる公園のベンチに座りながら、俺は幼馴染3人を待っていた。
俺を含めた4人で学校に行くために、ここで待つ合わせをするのはいつも通りの事だが今日は少しいつもとは違うところがあった。
「あら、リョウが1番最初にいるなんて、珍しいことがあるんですね。今日は雨でも降るのでしょうか」
そのいつもとは違う部分を言ってくれた、黒髪ロングの女性の名前はシズ・アルノール。俺の幼馴染の1人だ。
「今日の降水確率は1日を通して0%だ。」
「ふふっ、冗談ですよ。それにしても本当に今日は早いんですね、何かあったのですか?」
「いや、特に何かあったわけじゃないんだけど久しぶりの学校だから、楽しみで体が勝手に家を出てたんだ。少し子供っぽいけど」
「気持ちは分かりますよ。私も今日は楽しみでしたから」
学校というものは不思議もので、毎日通っているとだんだん同じ生活に飽きてきて、行くの面倒くさいと思ってしまうが逆に長期の休みなどで学校に行っていなければ、久しぶりの学校が楽しみで仕方がなくなる。
俺たちの場合は始業式の時を除くと、本当に久しぶりにちゃんとして学校生活を送ることができるのだ。
「お~い!」
「そんな話をしていると、私たちの中で1番学校を楽しみにしてそうな人が来ましたね」
「あれ!?リョウ、今日早くない?」
「珍しいこともあんだな、雨でも降んのか?」
今来たこの2人もシズと同じく俺の幼馴染で、俺を見てびっくりしたように声をあげた、ショートヘアの元気な女性がリア・ルノア、身長が高く、がっしりとした体形で今俺にシズと同じことを言ってきた男性がコウタ・ソラルだ。それにしても、
「そんなに俺が早いのが珍しいか?」
俺の問いかけに3人は少し考えると、
「だって、ねぇ……」
「リョウは来るのいつも1番最後ですし……」
「珍しいっつうより、俺達より早く来たの初めてなんじゃねぇのか?」
「……まぁね」
ぐうの音も出ない答えが返って来た。結局は自分の日ごろの行いが原因……
「でもさ、1番最後なのに遅刻したことはないんだよね~」
「そうなんですよね。遅刻はしてないから文句が言えないんですよ」
「つまんねぇの」
「なんでだよ!別に時間通りに来てんだからいいだろ!そんなあきれたような顔をするな」
それにコウタ、お前今なんつった!?
「まぁいいでしょう。そろそろ時間ですし、おふざけはここまでにしてそろそろ行きましょうか」
「さんせー!」
「ああ」
「……納得がいかない」
▼▼▼▼
学校に着くと学校の桜が結構散ったな、というのが俺が1番最初に思ったことだった。4月1日、始業式の日から4日がたち今日は4月5日。ほとんどの桜が散ってしまうのは当たり前なのだが、それでもその4日が1日にも思えた俺にとっては、目に留まった大きな違いがそれだった。
俺達4人は昇降口で学校指定の運動靴に履き替えると、それぞれ別れを言ってそれぞれの教室に向かう。今年は4人ともきれいにクラスがばらけてしまった。俺が1組でシズが2組、コウタが3組でリアが4組だ。俺たちの学年は全部で10クラスなのできれいに数が並ぶのは珍しい。それはさておき、
「そういえば初めて会う人もいるのか」
クラス替えをしたから当然、知り合い以外の人もいるわけだ。新クラスになって早々休んだからクラスになじめるか心配だが……まだ5日目だし、何とかなるだろう。
俺はそう勝手に結論づけると教室の後ろの自動ドアから教室に入った。前からは流石に入りずらい。
教室に入ると何人かの生徒がそれぞれ固まって談笑しているのを視界に入れながら自分の席を探す。
「お前の席は俺の隣のそこ」
席を探していると、俺が立っている位置の真後ろの席から聞いたことがある男性の声が聞こえてきた。
「よっ、久しぶりだな」
「ああ、久しぶりだな。ソラ」
話しかけてきたのは去年のクラスメイトで、今日もワックスでキッチリ髪を整えているソラ・ワンドだった。
「始業式に見なかったんだけど、休んでたのか?」
「いや、いたんだけど終わったらすぐに呼び出しされてな」
「ってことは、またエレナ先生の手伝いで休んでたのか?」
「そんな感じ」
俺たちが前回のような理由で学校を休む時、学校側にはエレナの手伝いと言ってごまかしている。エレナはこの国では地位が高い方だから学校側は何も言及してこない、というかできない。
「か~!いいなそんな美人と一緒に仕事とかうらやましいぜ!つーか、いつも通り幼馴染3人で行ったんだろ」
「まあ……」
「てことはシズさんやリアちゃんも一緒ってことだろ!ハーレムじゃねぇかこのやろう!」
「いや、コウタもいるから……」
それにシズやリアはともかくエレナは女として俺はカウントできない。神だし。
そんなことは口が裂けても言えず、ソラのハーレム談義?は続いた。
「つーか、俺も可愛い幼馴染が欲しい!俺も女の子に囲まれてウハウハしたい!」
何を言ってるんだこいつは。
「ハーレムと言えば男の夢だろ!?1度は人生で体験したいだろ!?」
「お、おい。もうちょっと声を小さく」
ヤバい、ソラのやつ声が大きくなってきて周りの人が興奮具合にも話の内容にも引き始めている(ほとんどが女の子)!
そんなことを思っていても止められずにソラの興奮具合は上がってきている。もうソラが何言っているのか俺には分かりません。
「そろそろホームルームよ~、座った方がいいんじゃないかしらぁ~」
もうダメか、そう思ったとき俺たちに声をかけてきた人物がいた。
「ダメよソラちゃん、そんなに変なことで興奮しちゃ。そんなことじゃ、いつまでたってもモテないわよ~」
「誰がモテないだ!ってお前かよ、ゴリ」
「そうよ~、さっきも言った通りあと1分くらいでホームルームだから座った方がいいわよん」
「分かったよ、リョウも悪かったな変なこと言い始めちまって」
「あ、ああ」
そう言うとソラは自分の席に座った。それにしても、
「久しぶりだな、ゴリ」
「久しぶりね、リョウ。いろいろ話したいけどんホームルームが終わった後にしましょ、じゃあね~」
そう言い残し、マッチョで去年と同じクラスだったゴリ・ピエールは自分の席に戻って行った。
▼▼▼▼
ゴリが戻った後、ちょうど鐘がなり俺も自分の席に着き、担任が来たところでHRが始まった。
「さて、今日ホームルームで話す内容はお前たちも、もう知っているであろう騎士交流戦の話だ」
教室ががやがやし始めるのを担任の先生、ソロア・ロウ先生は目を鋭くしながら一喝して鎮めた。
「全く、人の話はしっかりと聞け。私も詳しいことはまだ聞いてないが、学校側から言われたことを要約して伝える。今回の騎士交流戦はプロの騎士ではなく、お前たち学生が主役だ。プロの騎士が戦うのはエキシビジョンで何戦かやるだけでそう多くはやらないらしい。」
「つまり、今回は俺達、若い騎士のレベルや実力の向上が目的ってことですか?」
「私もそれ以上は何も聞いてないからその答えには返答できない」
男子生徒の質問にロウ先生は腕を組みながらそっけなく答える。
先生も今日いきなり言われて本人もまだ困惑しているのだろう。クラスのみんなも同じようで、何人かがまた話し始めた。
「うるさい!でだ、その騎士交流戦に出る代表生徒を学校と国で決めるらしい。その評価にはこれまで、そしてこれからの成績や態度で決めるらしい。お前達全員に出場するチャンスはあると思え。以上、HRを終わりにする!」
そう言うとロウ先生は教室から出て行った。
「ひゃ~相変わらず凄い覇気だなあの女先生は」
「ああ、去年と変わりなくて安心したよ」
ちなみにロウ先生は去年の俺たちのクラスの担任だったりする。
「なんか面白いことになりそうじゃない」
「ゴリは出場を狙っているのか?」
「当然よ!全国にあたしの肉体美を見せつけるチャンスだわ!」
俺たちの前にやって来たゴリはそう言い放ち筋肉を目立たせるようなポーズをとる。相変わらず凄い筋肉だ……。
「俺も出場を狙うぜ!何故なら……」
「「女の子にモテそうだからだろ(でしょ)」」
「その通り!」
騎士交流戦の話を聞いてもいつも通りの2人だった。
「リョウちゃんも出場狙ってるの?」
「俺か?俺は……」
そう言いかけると1時間目予鈴ともに授業担当の先生が入って来る。それと同時に俺たちは話を止めて授業の準備に取り掛かる。
「みんな準備が終わったな。じゃ、始めるぞ~」
そう言うとさっそく黒板に何か書きだす。俺は板書を移しながらさっき俺が言えなかったことを誰にも聞こえない小さな声でつぶやいた。
「俺はどうせ強制だからな」
また面倒ごとが起こるだろうが、それまでのこのいつも通りの日常を楽しもう。そう思いながら、俺は授業に耳を傾けた。
こんにちは、だゆつーと申します。
第8話を最後までお読みいただきありがとうございます。
また、お気に入り登録をしていただいた1名様、本当にありがとうございます。
これからも頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。
最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。