「ようこそボルマーレ帝国へ!」
膝まで伸びているライトグリーン色の髪をたなびかせながら俺たちを出迎えたのは、何を隠そうこの人。この大会の聖都側の責任者にしてみんなのあこがれ、そして俺たちにとっては悪魔、疫病神、創造神のエレナ・リノーア様である。
今にも光に反射して輝きだしそうなほど綺麗な色をしている髪を膝まで伸ばし、モデルのような体系に男でも女でも見惚れてしまうほどの容姿をしている。そんな絶世の美女が胸元が大胆に開かれた髪と同じ色のドレスを着て、さらにしっかりと化粧もしていたら見惚れない人はこの世の中には数人を除いていないだろう。その証拠についつい大声で叫んでしまった俺たちの声は周りの人達には聞こえていないようだった。
数秒間の静寂のうち、再起動したと同時に混乱している生徒たちの声が聞こえ始めた。それもそうだろう。滅多にお目にかかれないみんなのアイドル的存在が目の前にいるのだ。普通は混乱しながらも、急いで紙とペンを探してサインを求めてしまうところだ。今回はエレナと一緒に待っていた先生達が素早く生徒のこの行動を止めていたが。
ていうか、実際は行きの電車の中で手が届く範囲まで近づいた人は何人もいたのだが。まぁあの時は疲れ果てて俺以外はぐっすりだったので誰も気が付かなかったのだろう。
いきなりだが、ここにいる生徒たちの反応から分かるように人間としてのエレナ・リノーアはほとんどの人にとっては雲の上の存在だ。この容姿にして、すべての聖都の騎士を束ねる者。「女神」エレナ・リノーアの名前は聖都だけではなく、他の二国にもその存在が知れ渡っている。この女性を知らない人はそれこそ、まだ言葉が分からない赤ちゃんしかいない。
曰く、その女神の容姿はいついかなる場所でも美しく、
曰く、その女神の声は男女問わず聞き惚れ、
曰く、その女神の戦いはこの世のどのようなダンスよりも華麗である。
それが、「女神」エレナ・リノーアの姿。人間としての創造神の姿である。
……ちなみにその「女神」は今の状況を見ながら、してやったりと言いたげな顔をしているのだが。
あの女、この今の生徒たちの反応を見たいがために普段では絶対にしないおめかしまでして、忙しい中この場に顔を出したのが俺たちにはすぐに分かった。となりのリアが「服のセンスは壊滅的のくせに……」と小さい声で呟いている。
ちなみにこれは俺たちしか知らないエレナの弱点?である。
俺たち四人がこぞって呆れている中、生徒のざわめきがヒートアップしてきたところで先生達が注意をし始めた。約3分ほどの生徒と先生の格闘の結果、この場には二度目の静寂が訪れていた。
それを確認したエレナは、胸元につけているマイクのスイッチを入れると同時にさっきまでのふざけた表情を引き締めて、今度は責任者としての話を始めた。
「改めて、ようこそボルマーレ帝国へ」
先ほどと同じセリフだが、先ほどと異なっているのはエレナの声の鋭さだろう。まるで澄み切った声がナイフのようになり、俺たちの喉元へ突き付けてられるような感覚だった。それと同時に生徒たちは顔を引き締めてエレナのセリフを一字一句逃さないように耳を傾ける。
「私がここに来たのは皆さんを驚かせるためだけではない。ちょいとこの大会のルールを説明するために来た」
大会のルールはここに来る前に最低限は説明さている。今更何を説明するのかと首を傾げたが、エレナから説明されたのは急遽決まった追加ルールだった。約二十分間の話をまとめると、
1、フィールドについて
普通のフィールドではつまらない。ということで急遽追加されたルールらしい。内容は単純で、フィールドの地形、そして天候は完全にランダムに決められるということだ。例えば、一回戦が雲一つない晴天の中草原で戦っていたとしても、二回戦では嵐の中、足場の悪い泥の中で戦うことがあり得てしまう。これにより、参加者たちはあらゆる地形と天気を考慮してより念入りに作戦を立てておかなければならなくなってしまった。
2、武器について
武器は自分たちの使用していた武器ではなく、国が用意したものを使用しなければならないというものだ。ちなみに、武器の種類は指定できるが、すべてまったくの新品らしいので進化も改造もされていない。つまり、武器による選手たちのレベルの広がりを抑えたわけだ。確かに改造ならともかく、武器の進化の段階では大きすぎるほどのアドバンテージになってしまう。
武器の指定は明日全員に前もってしてもらうらしい。一人につき最大三つの武器指定が可能で、すべて違う種類にしても良いし、逆にすべて同じ種類にしても問題ないそうだ。
3、ポイント制の導入
これが今回の大きな追加点にして、この大会で最も重要なルールだろう。ちなみに、なぜそのような重要なことがこんなギリギリで話されたかという疑問に関しては、帝国側が準備に手間取っていたかららしい。地下に大帝国を作れるほどの技術を持っているこの国が手間取ってしまったかという疑問に関しては少し後に説明するとして、まずはこのポイント制についてだ。簡単に言うと、このポイントを専門の販売店に払うことで、そのポイントの量に応じて武器改造に使用する道具や材料などの戦いを有利に進めるためのものを買うことができる、というものだ。つまり、簡易的なお金の役割をする。
しかし、お金と言ってもこの大会期間中で特定の店でしか使用することができないのでそれほど万能ではない。それでもこのポイントが今回の戦いで重要なカギを握っているのは確かなのだが……。
さて、ここら辺を考えるのは後でにして、ここまで聞いて気になり始めるのはそのポイントの集め方だろう。ポイントを集めるのにはいろいろな方法があるらしい。カジノやバイトや友人からの受け渡し、もしかしたら道端で拾うこともあるかもしれない。このように基本、実際の金を増やす方法でポイントは増やすことが可能だ。 また、ポイントを増やせる期間はこの大会開催中なので、ポイントがなくなったらどこかで増やすというのもできる。
ちなみにこの制度の急な導入を帝国全土に説明したり、専用の機械の準備などのせいで帝国側は準備が遅れてしまったそうだ。
それはさておき、以上の三点が今回説明された追加ルールだ。
「理解できたかな?もしもより詳しいことが聞きたかったら後で近くの教師にでも聞いてくれ。それでは、時間もないので早速……」
エレナがパチン!と指を鳴らす。するとここにいる生徒すべての右手首に電子的なブレスレッドが巻かれた。そこには10000という文字が浮かんでいる。
「それでポイントのやり取りをしてくれ。最初は全員公平に一万ポイント配布することになっている。そこに、10000という文字が浮かんでいるはずだ。これが今の君たちが手にしているポイント数、ということだ」
ちなみに、文字の色は変えることが可能!と、どうでも良い情報もついでに話した。そして少しブレスレッドの使い方について話した後、
「さて、私の仕事は終わりだ。あとは先生方の指示に従ってくれたまえ」
そう言い放ち、エレナは後ろに控えていた最新鋭の技術が詰まってそうなリムジンに乗ってどこかに行ってしまった。
嵐のように現れて、嵐のように去る。つまりいつも通りのエレナだった。
「それにしても、まるでゲームのようなルールが追加されたな」
エレナがいなくなったと同時に緊張の糸が切れ、周りが急な追加ルールのことで盛り上がり始めているところだが、それとは正反対のテンションのコウタがため息をつきながら右手首に巻き付いているブレスレッドを観察し始める。
「さらにこれ、絶対にエレナが企画設計したものだよね」
「エレナの自分が作成したものにどうでも良い機能を付けて、さらにそれをまるで世紀の発明品のようにドヤ顔で話す癖も出てましたしね」
リアとシズもコウタと似たような表情をしながらブレスレッドについての感想を話していた。
各自いろいろなことを思い、声にしているそうだがそのせいで、またもや先生たちと生徒たちとの格闘が始まることは誰もが簡単に予想できる未来だ。
「それにしても」
「エレナが責任の一端を担っている、にしては少しグダグダなようにも思えるんだけど」
これが今回の話を聞いた俺の感想だった。
エレナが仕事をめんどくさがったのか、はたまた三国がしっかりと協力しあってないのか。
「それとも、何か企んでいるのか」
そんな俺のつぶやきは、たぶん誰にも聞こえてはいないだろう。
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座り心地の良い椅子に座りながら私は持参した紅茶をカップに入れ始める。今はリムジンの中なのだが、揺れを全く感じないのがこのリムジンの性能をはっきりと表していた。
おかげさまで紅茶をこぼさずに入れ終え、周りの高そうな酒やジュース囲まれている中、私はここでは場違いな値段の紅茶に口をつける。
「さて、これで準備は整った」
つい口から漏れてしまった私のつぶやきは、きっと誰にも聞かれることはないだろう。
こんにちは、だゆつーと申します。
第14話を最後までお読みいただきありがとうございます。
これからも頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。
最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。
無料配布の星4サーヴァントはパールヴァティーにしました。