進化を続けるこの世界で   作:だゆつー

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序章 アスタ遺跡調査編
第1話


 子供の泣き声が聞こえる。まだ声変わりも何もしていない甲高い声だ。

 

 その泣き声の方に目を向けると10歳くらいの少年が地面に顔を埋めていた。

 泣きじゃくるその子供とそれを黙って見ている自分。

 

 この世界は夢だと気がついたのは、泣いている子供が昔の自分だと分かった時か、それとも、いつの間にかに子供の前に立っていた美しい女を見た時か。

 

 その女は少年を黙って見つづけている。泣いている少年に声をかけず、ハンカチを渡すことも無くただただ見続けてている。

 

 何時間たったのだろうか、夢だと分かりながらもその二人から目を離せなかった、いや違うか、目を離してはいけなかった。何故なら、これが自分の恩人となる女性との初めての出会いであり、そして…この女性を俺が、リョウ・リノーアが--

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺さなければならいから」

 

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼ 

 

 

 

 

 

 

「嫌な夢を見た」

 

 思わず呟いてしまう。気分が悪い。ふと枕元にある時計を見ると時刻は午前5時。いつもよりも1時間早く起きてしまった。このままもうひと眠りするのもいいが、さっきの夢のせいで目が冴えわたっている。

 

「たまには早く起きるか」

 

 そう呟きながらベッドから抜け出す。冬ならばここで身震いのひとつもするのだろうが、今は4月、寒さはもうほとんどなくなっていた。

 

 パジャマ姿のまま朝食を食べようと、リビングに向かうとテレビの音が聞こえてきた。どうやら先客がいるらしい。とは言ってもここの住民は自分を含めて2人しかいないので誰だかは分かっているのだが…。

 

「おはよう……」

「おお!おはよう。なんだ、今日は早いじゃないか」

 

 朝の挨拶をするとかえってきたのは綺麗なソプラノの声。声の主の方に顔を向けると見慣れた人物がいた。整った顔、黄金色のパッチリとした目、珍しいライトグリーンの色をした髪を背中まで伸ばしている。そして服の上からでもわかるでかく、形の良い胸、100人中100人が見惚れるであろう美女、エレナ・リノーアがコーヒーを飲んでいた。

 

「なんだリョウ、私のことをじりじろ見て、もしかして惚れたか?」

 

 艶やかな笑みを浮かべながらこう言ってきた。普通の男ならばついついここで顔を赤くしたまま黙ってしまうだろう。美女を目の前にした男なんてそんなものだ。

 だけど俺は……

 

「それはない、見た目が全てだと思うなよ。」

 

 冷静にそれに言い返す。こいつの正体や本性を知っていると恋愛感情だの性的感情だの全く起こらない。しかし、そんな俺の冷たい返しにひるむことなく今度は馬鹿にするような笑みで言い返してきた。

 

「相変わらず可愛げのない男だな、冗談の一つも吐けないようじゃ女にモテないぞ。」

「その男から可愛げを奪ったのはどこの誰ですかね、それとモテたいという気はさらさらない。」

 

 つまらないな~、なんてふざけた返事を聞きつつ俺もコーヒーを淹れテーブルについた。

 

「おっと、すまない。コーヒーを飲む前にカーテンを開けてくれ。朝日はあまり好きではないから閉めてたんだが、流石にもうそろそろ外の光を浴びないと違和感がある。」

「自分で開けろ」

「私は今から朝食を作るんだ。お前の分もな。それなりの対価はあるんだ、それぐらいしろ。」

「……分かった」

 

 違う、窓を開けるのが嫌なんじゃない、むしろそれには賛成だ。朝日を浴びなければ体内時計がくるうからな、俺が嫌なのはお前の命令を聞くことだ。なんて言いたいのだが言おうものならどうなるか分かったもんじゃない。

 

 寝起きのせいで重く感じる体をなんとか動かして自分の身長くらいのカーテンの前に立つと、俺は早くなる心臓の鼓動を静めるために深呼吸をする。カーテンを開けるというのはいつもの日常だがここのカーテンだけは別だ。開けるのに相当緊張する。

 

「--よし!」

 

 気合を入れ、カーテンを思いっきり横にスライドした。朝日の眩しさに思わず目をつぶる。

 そして目を開け見た景色は--

 

 

 圧巻だった。

 

 

 地平線にまでそびえ立つビルの数々、そのビルほとんどが40から50階建だ。早朝にも関わらず、すでに空には車が行き交い、地面を見ると多くの人々が忙しなく歩いている姿が見える。そして一番目につくのはてっぺんが雲に隠れて見えないほど高く、国の3分の1を占めるほど大きい城だ。60階建のマンションの最上階から見ても圧倒される立派な城。永遠のエネルギーを持ちうる三つの都市の一つ聖都ルドリアの主張にして要、ルドリア城。その中にはこの国の王がいたり、学校があったりと多くの機能を兼ね備えている。まあとにかくこの国はこの城を中心に出来ているということだ。

 

 全く、本当に何度見ても見慣れない。この景色を見るだけで全身に鳥肌が立つ。

 

「まったく、人間はまた凄まじい物を作ったな。」

 

 台所で料理をしているエレナがそう呟いた。

 

「違う、これは人間の力で作ったなんじゃない、あんたの力で創ったんだ。」

「何度も言うがそれは誤解だ。私はただ、一つのパーツを与えただけだ、単体ではなんの役にも立たないパーツをな。それを研究し、他の物と組み合わせ、役に立つようにしたのは人間の力だ。」

「……そうか」

 

 この国、いや、この世界の科学がここまで発展したのには理由がある。

現に二百年前にはこの世界の科学の進歩は完全に止まっていたという。空飛ぶ車もなく、一瞬で遠くまで行ける機械もなければ人を守るバリアもない、そんな世界だったという。そして人間が科学の発展を諦めかけていた時、現れたのが自らを創造神と名乗る謎の生命体だった。

 創造神は言った、「この世界は残念ながらこれ以上の進歩はない。しかし、それではあまりにもつまらないので私はあなたたちにチャンスを与えよう」と。

 そのチャンスというのが、「永遠のエネルギー」と言われる永遠に衰退することの無い未知のエネルギーを渡す代わりに、新たな生命体をこの星に宿すというもの。

 当時の人間はすぐにこの話に乗ったという。「永遠のエネルギー」があれば間違いなく、また科学は進歩を始める。新しい生命体の事など考えてはいなかったらしい、新しい生命体など自分たちよりも高次の存在ではないと、犬や猫のような存在だろうと思っていた。……しかしこの考えはすぐに改めることとなる。

 

 人間が創造神から「永遠のエネルギー」を受け取った数日後「魔物」と呼ばれる生命体が現れた。

 その魔物と呼ばれる生命体は、知恵は人間に届かずとも身体能力は完全に人間を超えており、その種類によって火を吐いたり、物を凍らせるなどのの能力も使ってきたのだ。当時の兵器のほとんどが魔物に効かず、人間はやられるばかりだった。

 

 人間は今のままでは滅んでしまうと思い、「永遠のエネルギー」を兵器として使おうとした。その考えは的を得ておりすぐに「永遠のエネルギー」を使った兵器を編み出すと、従来の兵器とは比べ物にならない程の破壊力がある兵器ですぐに人は魔物と互角に戦える力を手に入れた。だが、それがいけなかった。

 

 そこから二百年、後に「暗黒の時代」と呼ばれる時期が訪れる。

 

 魔物と人間の戦争に加えて、人間同士による「永遠のエネルギー」の奪い合いも始まったのだ。いや、より詳しく言えば「永遠のエネルギー」を使った兵器の奪い合いか。

 

 同時に行われた二つの争いはそれぞれとてつもない戦いだったという、今でもなぜ人間がこの時代を乗り切り存在しているのか分からないとまで言われている。

 

 暗黒の時代を乗り切り、「永遠のエネルギー」は三つの国が所有する事となった。そしてその三つの国々は互いに和平の条約を結び、魔物から人間を守れるように、そしてより良い暮らしのために共同研究に乗り出した。

 百年間、「永遠のエネルギー」を研究し、これ以上ないくらいに科学の発展は進んだ。魔物が入ってこれないようなバリアを開発し、その中で人間はより良い暮らしを手に入れた。その結果が今、俺たちが生きているこの時代だ。

 

 さて、落ち着きを取り戻した世界にある一つの疑問が生まれる。ある者は救世主と、ある者は災害を招く者と呼ぶ創造神はなんなのか?そして「永遠のエネルギー」を人間に渡し、魔物を誕生させた後どこに消えてしまったのか。世界で一番の謎と言われている。

 

 もちろんその答えを知る者はいない、今も、そしてこれからも現れる事はないだろう……今俺の家のキッチンで鼻歌を歌いながら朝ごはんを作っている奴以外は。

 

 なぜその世界で一番の謎をこの女が知っているかというと、答えは至極単純。

 

 この人が創造神だからです。何を言っているのか分からない?安心してください、俺も本人から言われた時は唖然とした。

 しかし、それは事実なようで高級マンションの最上階に位置するこの部屋のもののほとんどはこの女が創った物だ。作ったのではない、創ったのだ。

 

 この世界に止まっている理由を聞いた事があるのだが、本人曰く、

 

「この世界でまだやり残した事がある。だから私はここに留まっている。ん?やり残した事とはなんだ?、だと?そんな事お前に教えるわけがないだろう。どうしてもというのなら私を殺してみせろ。その方がお前の目的も達成できて一石二鳥だろう。まあ、絶対に無理だろうがなww」

 

 なんて言いやがった。文末に草まではやして。

 もちろん、なぜ「永遠のエネルギー」なんて物を人間に渡し、魔物を誕生させたのかという質問も同じように教えてもらえなかった。

 

 そんな感じで創造神は意外と身近にいる。この事を知っているのは俺を含めて5人だけだが。

 

「さて、もう気は済んだか?この世界の説明はそれぐらいでいいだろう、朝食をが出来た。温かいうちにさっさと食べろ。」

「その発言にはいろいろ問題が発生するから止めろ。」

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

「「ごちそうさま」」

 

 

 朝ごはんを食べ終わった、悔しい事にエレナが作るごはんはとても美味い。どうやら料理が好きなようで、料理だけは創るのではなく、しっかりと作っている。しかしあとかたずけは嫌いなようでそこは俺にやらせている。俺も少しは手伝おうと思い、この件に関しては文句も何もないのだが。

 いつものように食器を洗っていると、いつの間にかにスーツに着替えていた~が少し慌てた様子で俺に話しかけてきた。

 

「私はもう学校に行くから玄関の鍵を閉めてくれ。」

「?、今日は随分と早いな」

 

 今は6時、いつも~が家を出るのは7時だから1時間早い。

 

「今日は学校の始業式だからな、教師は早く行って今日の動きを確認しなきゃいけないんだ。全く、教師も大変だ」

 

 そう言いながら靴をはき、玄関から外へ出ようとすると何かを思い出したかのように立ち止まった。

 

「そう言えば言い忘れていた、今日が今月最後の学校になるから楽しんでこい、他の3人にもそう言っといてくれ。じゃ、行ってきまーす。遅刻するなよ~。」

「はっ?それはどういう意味……行っちゃたよ」

 

 俺の疑問を聞く事なくエレナは外に出てしまった。今度は何を考えているんだか。

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 残った食器を洗い終えた後、俺は着替えなどの学校へ行く準備を整え、最後に持ち物を確認しているとテレビのニュースキャスターの慌ただしそうな声が聞こえた。どうやら速報が入ったらしい。

 

「新しいダンジョンが出現か……」

 

 ダンジョン、世界に魔物が現れてから出来るようになった謎の場所。現れる時間、場所はバラバラで種類もただの洞穴みたいだったり、遺跡みたいだったりと多種多様だ。

 ダンジョンの中には魔物が住み着いており、素人が入ったらまず生きて帰ることが出来ないであろう危ない場所だ。ただ、たまにお宝も眠っておりそれを狙って入る奴もいる。ほとんどが生きて帰ってきていないらしいが。

 

 そのため通常、ダンジョンというのは発見されたらすぐに国がそれが安全か危険かどうかの調査が行われる。

その調査というものどんなに狭いダンジョンでも必ず1ヵ月以上かけて厳重に行われる大掛かりなものだ。

 

 一瞬家から出て行く前にはエレナが言った言葉を思い出したがすぐに考えるのをやめた。

 俺の予想は多分当たっているが、それを俺たちがなんと言おうが、絶対にエレナは自分の考えを実行に移すだろう。全く、いつも振り回される方の気持ちも考えて欲しい。

 

 そんなことを考えながら、持ち物の確認を終えると携帯にメールが入った。

 中身を見てみると、俺の幼馴染の1人からで、内容は早く来いとのこと。どうやら少しゆっくりと準備しすぎたようだ。

 

「もう行くか。」

 

 戸締りをして、電気が全て消えているのを確認すると俺はバッグを持ち、玄関に出してある使い慣れたローファーをはいた。

 

「さて、今日はどんな事が起こるのか」

 

 そう呟くと俺は進化を続けるこの世界に今日も一歩踏み出した。

 

 

 




初めまして、だゆつーと申します。
最後までお読み頂きありがとうございました!
小説を投稿するのは初めてですが頑張りますのでよろしくお願いします。

誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください!

最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。

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