ヒロインの一人にTS転生したので主人公を他のヒロイン達に押し付けたら……   作:メガネ愛好者

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 どうも、メガネ愛好者です。

 遅れてしまって申し訳ない。お詫びに本日は——二話分投稿します
 まずはロア視点から。それでは。



第三話・”初めて”の友達

 

 

 どうもこんばんわ、ロアです。

 

 

 

 早速ですが、現在オレは――――部屋に引きこもってます。

 

 

 

 あ、別に嫌なことがあったから引きこもってるとかそんなんじゃないぞ? ならなんで部屋に引きこもってるのかって言うと……えっと……そう、あれだ。無性にダラダラしたくなったからだ。

 

 一仕事終えた後ってさ、無性にだらけたくならない? 体を休める意味合いも込めて、こう……横になってのんびりと自由な時間を味わいたくなるんだよ。

 人生何事においても息抜きは欠かせないってやつだな。そもそも前世から無駄にダラダラと時間を潰すのが好きだったし、それが転生したことで今は変わったなんてことはなかったりする。

 

 そんな訳で、今オレは自室のベッドで惰眠を貪っております。寝るっていいよね。寝てるときは何も考えなくていいから気を楽にできるし、寝ることにお金は一切かからない。最高のリラクゼーションだと思うのはオレだけかな?

 とにもかくにも今はこの至福の時に身をゆだねるのみだ。あぁー癒されるわぁー……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ロア……その、大丈夫?』

 

 「……何が?」

 

 『大丈夫ならいいんだけど……でも、よかったの?』

 

 「だから何が?」

 

 『……いえ、何でもないわ』

 

 ……だから別に、母さんが心配するようなことなんて一切ないからね? まあ、心配してくれるのは純粋に嬉しいけども。

 

 部屋の外から聞こえてくる声は母さんのものだ。

 おそらくは扉の前にいるのだろう。扉の向こうからオレに向けて気遣うような言葉を投げ掛けてくる。おそらくは……オレがライルと口喧嘩したことを気にかけてるんだろうね。

 

 

 

 先日、狙い通りにライルから嫌われることが出来た、と思う。

 何せ結構な口喧嘩になったし、程度は知らないけどいくらかはオレのことを嫌いなった筈だ。少なくとも誰が好きかを仲間連中に聞かれた際、真っ先にオレの名前が挙がることはないだろうね。

 ゲリックさん達もあまり見ないライルの荒れ様に困惑していたぐらいだからな。結果的に手は出されなかったものの、下手をすれば取っ組み合いになっていたかもしれない程の険悪ムード全開だったぜ!

 

 にしても、普段温厚な(皮を被った)ライルがあんなに怒るとは思わなかった。珍しく目つきを鋭くして怒鳴ってきたぐらいだからな。それ程オレのことが憎たらしかったんだろう。

 ともあれこれで少なからずライルはオレに嫌悪感やら苦手意識を抱いてくれたことだろう。オレの目的が一つ達成されたわけだ。

 

 ……うん? あいつをどう怒らせたのかだって?

 別にそんな難しいことをしたわけじゃないさ。オレはただ……ライルの掲げた目標を全力で否定してやっただけだからな。

 

 

 

 そもそもな話、ライルが開拓者になろうとしてたなんて予想外だった。

 だってあいつゲームでは冒険者止まりだったし、開拓者になりたいなんて描写もなかった……筈、だからな。読み逃した可能性もなくはないけど、少なくとも物語の中であいつが開拓者になることはなかった。それは確かだ。イベントで半ばで強制的に未界へと赴くことにはなるけどそれはそれだ。今は関係ない。

 

 なのに、それがどうして急に開拓者になるだなんて言いだしたのやら……冒険者(ゲリックさん)に憧れていたお前は何処に行ったんだっての。

 

 全く……マジもんのバカだよ、あいつ。

 だって何もわかってねーんだもん。開拓者になることがどういうことなのか……どれだけ無謀なことに挑もうとしているのか、全然、全く、これっぽっちもわかってねぇ。

 

 

 

 

 

 □□□□□

 

 

 

 

 

 開拓者は国にとって国土を広げる為にも必要不可欠な存在だ。未界攻略の為に支援金が送られる程度には重要視されている。

 

 ただ……たまに思うんだけど、そもそも危険を冒してまで国土を広げる必要ってあるのか?

 

 今でさえ開拓されはしたが無駄に放置されている土地がそこら中にあるし、それだって全貌を完璧に把握したわけでもない。それだってのに、これ以上幅を広げて国は管理しきれるのかって話。もう充分大きな国になってると思うんだけど……寧ろ大きすぎる気がするのはオレだけか?

 

 別に広げるなっては言わないぞ? でもせめて広げるなら未開発の土地で起きる問題を一つ一つ解決してから広げるべきだとオレは思うんだ。

 何かしら考えか、それとも目的でもあるんだろうか? ……オレにはさっぱりわからねぇや。

 

 

 

 そんな開拓者だか、彼らには予め求められる能力が主に三つほどある。

 

 それは”技量”と”知識”、そして”運”だ。

 

 未界を渡り歩くだけの技量。

 未界におけるあらゆる知識。

 未界の驚異に歯向かえる運。

 

 これら三つは開拓者になるために必要な最低限の条件と言っていいだろう。逆に言えば、この三つの内どれか一つでも欠けていればその時点で開拓者になることは叶わなくなる。要は"力不足"ってことだ。

 

 そして、この三つ全てを兼ね揃えている者が……案外いなかったりするみたいだ。

 

 前者二つは努力次第で何とでもなるだろう。才能に左右されるところも出てくるだろうけど、そこはその人の頑張り次第だ。決して覆せないなんてことはそうそうない。

 

 でも、運だけはどうしようもなかったりする。

 周囲が認める程の才能を持った者でも、結局のところ運が悪ければあっけなく死んじまうなんてこともある。しかもその事例は決して少なくはないのだ。寧ろ未界で行方不明になるほとんどの原因が「運悪く」とか「不幸にも」と言った理由が占めている。そういう意味では運も実力の内ってことか?

 

 そんな三つの条件を見極めるべく執り行うのが開拓者認定試験ってわけだ。

 ただこの認定試験、かなりのキワモノだったりするかもしれない。

 

 ここだけの話、ゲームの設定資料で補足されてることなんだけど……開拓者認定試験の7割は運に左右されるものであるらしい。

 幼子でさえクリア出来る簡単な試験があれば天才と呼ばれる者達でさえ困難な試験も出たりする。試験は始まる前から始まっている状態だ。ぶっちゃけくじでアタリ引くかハズレ引くかって話になってくるんだとか。

 極端すぎる。加えて製作者陣の悪ふざけ具合がよくわかる内容だ。ゲームに深く関わらないからって適当すぎるだろ……

 

 実際にはどう言った内容なのかは確認のしようがないためわからない。ただ試しに母さんに聞いてみたところ、どうやら必須条件の項目に先程の三つが記載されてるようだから、下手をすると……あの悪ふざけ染みた試験内容である可能性がなきにしもあらずと言ったところか。

 

 この世界、良くも悪くもゲームに忠実なところがちらほらとあるからなぁ。悪ふざけで付け足した設定が実際に反映されてるとかざらにあるし。

 例えば設定のみで実装されなかった敵モブやアイテムなんかがいい例だ。正直どう対処すればいいのかわからなくなる。

 

 願わくばここが現実であることによって試験内容が変わっていることを祈るばかりである。本気で開拓者を目指してる者があんなふざけた内容の試験を受けさせられるとか……流石に気の毒に思えてならない。

 

 

 

 まあこの際試験内容については置いておくことにする。別に開拓者になりたいわけでもないんだし、ぶっちゃけどうでもいい。気にするだけ無駄だ。

 何はともあれ、技量と知識、運の三つを見事証明することが出来て初めて開拓者になれるわけだ。

 

 ただし、さっきも言ったがあくまでもこれは"最低限の"条件だ。

 技量や知識に運があっても、それで安心とはとても言えたもんじゃない。例え認定試験に受かって開拓者になれたとしても、それを嘲笑うかのように未界は彼らに牙を向く。

 最早未界は危険の代名詞だからな。そんな未界に行くとかハッキリ言って死にに行くようなもんじゃねーかって思うわけよ。どこに憧れるっもんがあるってんだ……

 

 

 

 

 

 □□□□□

 

 

 

 

 

 そんな命を粗末にするも同然のようなものに、ライルは目指すそうだ。

 開拓者になるなんてオレには全く理解出来ない。それだったらまだ冒険者の方がマシだったろうに……

 

 だから言ってやった。「くだらない」「現実を見ろ」「そんな目標は捨てちまえ」って。

 

 勿論ライルはそれを聞いて怒鳴ってきた。自身の目標を貶されたんだ、無理もない。

 でもライルの反論に耳を貸してやる気なんてオレには一切なかった。周りの言葉も聞かずに危ない橋を渡ろうってんだ、そんな奴の言葉を態々聞いてやる必要があるかっての……

 

 ホントに、ライルは何もわかっちゃいない。

 お前が傷ついたら悲しむ人達がいるんだぞ?

 お前がいなくなれば泣く人達がいるんだそ?

 

 それなのに……なんで気づいてくれないんだよ。

 

 もしもお前が怪我をして、その上後に響くような障害が出たらゲリックさん達はきっと後悔する。自分達の息子を助けられなかったことを、止められなかったことを……

 

 お前はそれを男の勲章だとか言って笑い飛ばすのかもしれない。でも、皆が皆お前と同じ考えじゃねーんだよ。心配する奴もいれば悲しむ奴だっている。レイラさん泣かせでもしてみろ、絶対に後悔するぞ。

 

 それに——

 

 

 「オレは……死にたがりと”友達”になった覚えなんてねぇぞ。バカヤローが……」

 

 

 

 ライルに好意を持たれたくはないけど……オレだって、心配しない訳じゃないんだ。一応あいつとは……友達、なんだから。

 

 

 

 □□□□□

 

 

 

 突然になるが、オレは前世でボッチだった。

 そもそも他人と関わること自体消極的で、何かしらの関係を持つのがめんどくさいと感じてしまうような奴だった。

 

 なんでそうなったのかというと……オレは、人との付き合い方がわからないからだ。

 

 何を話せば相手の気分を害さないか、相手の望む返答を返せるのかがわからなかった。どのぐらいの距離感を保てばいいのかもわからなかったんだ。

 元から考えて話すような性格じゃなかったし、相手のことを考えて話すとかそんな面倒なことをする気にもなれなかった。

 

 そうしてめんどくさがっているうちに、やがてオレは人と話すこと自体に抵抗を持つようになっていった。その結果はゲームや漫画、アニメをこよなく愛する自宅警備員っていうね……こうして振り返って改めて思うけど、前世のオレってどうしようもない奴だったんだなぁ。

 

 今は母さんのおかげで(せいで)ある程度の会話術を得られたからそこまで酷くはない。まあ積極的に話す気にはなれんけども。

 

 そんなオレに友達がいたと思うか? 当然誰一人としていなかったさ。

 知り合いはいても友達かと問とれれば答えはNO。元々一人でのんびりするのが性に合っていたのも相まって、前世で一人も友達がいなかったという快挙を達成したのだった。……その報酬がTS転生ってか? 「友達が出来ない君に恋人が出来るようにしてあげよう。——ただし相手は彼氏な?」ってか? 主人公補正付きのマジカル☆スティックの餌食になれとでもいうのだろうか? ふざけんなバカヤローが。余計なお世話どころか傍迷惑この上ないわ。それならグッスリと永眠したかったわ!

 

 

 そんなオレに出来た初めての友達と言える存在……それがライルだった。

 

 

 普通、仲を深めたくないならなんで友達になったのかって疑問に思うことだろう。

 でも……あれはしょうがなかったんだ。正直ライルの行動力を舐めてたのがいけなかった。

 

 

 

 当初のオレはライルを徹底的に無視し続ける方針を取っていた。好きの反対は嫌いじゃなくて無関心だっけ? とにかく相手にしなければその内ライルの方から話しかけなくなるだろうと考えていたんだ。

 

 でも違った。いくらライルを無視し続けても、あいつは諦めずに話しかけてきた。その上、次第にライルの言動が段々とストーカー染みてきたんだよね。行く先々に先回りされてたり、家に朝早くから訪ねてきたりな。何故そうなったか疑問が尽きない。

 

 これからのことを考えて街の図書館や近場の森などに足を運ぶようになった時なんて、誰にも何処に行くか告げていないのにライルは当然の如くオレの前に現れるんだぜ? 主人公補正か? ……いや、あれはストーカー補正だな。ストーカーこわい。

 

 どのくらい無視し続けたかはもう覚えてないけど、それなりの期間をライルにつきまとわれた気がする。まあつきまとわれたって言っても、四六時中周りでウロウロされたとか家の陰から覗きこまれていたとかではないんだけども。

 実際は日に二、三回程声をかけられたり、時折何してるのかと尋ねられたりしただけだったりする。……ただ確実にオレの居場所を見つけてやってくるんだよなぁあいつ。

 

 話す内容は総じて「友達になろうよ」の一つに尽きる。毎回話す内容は変わるけど、伝えたいことは結局のところソレだ。

 

 そうして、気づけばあまりにも言われ続けたせいでライルの「友達になろうよ(スカウトアタック)」が夜な夜な聞こえてくるレベルで頭にインプットされてしまった。いやまあ実際にはそんなことは全然ないんだけどさ? 例えだよ例え。

 ただその例えのせいかなんなのか、オレにはもうアイツの「友達になろうよ(純粋)」が「友達になろうよ(脅迫)」にしか聞こえなくなっちまったんだよなぁ。あいつ自身悪気は無いんだろうけど、それがかえって質が悪いというかなんというか……っ、思い出したら体が震えてきた。もしかしてこれトラウマになってない? なってるよねこれ? 主人公にトラウマを植え付けられるヒロインってどうなのよ。……新しいな。需要があるかと言われればなさそうだけども。

 

 

 そうして徹底無視を続けたわけだがどうにも効果が薄いことに気づいたオレは、次に言葉で直接あいつを拒むことにした。

 「来るな」「近寄るな」「話しかけるな」とにかく思い付く限りの拒絶の意を示してみたんだけど……うん、駄目だった。寧ろ「やっと話してくれた!」と喜ばせてしまう始末。完全にミスったと頭を抱えることになるが最早後の祭りだ。

 

 今思うと口で言うんじゃなくて何かしら嫌がらせをしたり手を出せば早かったのかもしれないなぁ。……いや、後になってそれが母さんに知られた場合のリスクを考えると、とてもじゃないが下手に手は出せないな。しかもソレはソレで「相手にしてくれた!」とか言ってきてはないんだけど喜びそう……あれ、詰んでねこれ?

 

 

 

 そういった経緯もあり、ライルは以前よりも話しかける回数を増やしてきた。

 いくら拒絶してもライルはめげずに話しかけてくる。寧ろ時間が経つ毎にどんどん馴れ馴れしくなった。

 

 なんでオレにばっかり構ってくるんだ? 友達になりたいってんなら他にも同年代の奴等がいただろうに。わざわざこんな不愛想なひねくれ者を相手になんてしてないで他の奴等と遊べばいいものを……これもヒロイン補正ってやつの弊害なのか? そんな補正ダストボックスにシュートしてエキサイティングしたいです。

 

 

 無視をしても駄目。拒絶しても駄目。

 何をしても意味がない。てかライルが諦めるビジョンが見えない。

 

 

 そんな結果にオレは……ついには諦めた。

 

 

 逆に考えるんだ、別に友達になってもいいじゃないかと……

 勿論オレはライルと恋仲になる気なんて一切ない。……でも、まあ、友達としてなら……別にいいかなって思ってしまった。ぶっちゃけ妥協したと言ってもいい。

 

 世の中には憎まれ口を叩く仲、つまり悪友ポジってもんがあるぐらいだし、そう言った立ち位置に収まればオレの貞操も安泰と言うものだ。……出来れば童貞を守り続けたかったけどね!

 

 いやだってもしかしたら童貞を守ったまま三十代超えて転生すれば本当の意味で魔法使いになれたかもしれないじゃないか!! ワンチャン魔法を使うことが出来たかもしれないじゃないか!! なんで男として転生しなかったんだチクショー!!

 

 ……よし、もしもオレをロアに憑依転生させた元凶がいるってんなら——問答無用で一発ぶん殴ることにしよう。非力な今のオレでは大した威力にはならないだろうけど、この苛立ちだけはぶつけたい。切実に。

 

 

 

 とにかくだ。そんな経緯からオレはライルと友達(仮)になったわけなんだ。

 (仮)というのも、ただの口約束だから本当に友達になれたのかがわからない、ぶっちゃけ微妙なところなんだよね。

 何せオレには友達の定義ってのがわからんからな。どうすれば友達なのか? 何をもって友達と言えるのかがオレにはわからない。だからオレは自信をもってライルのことを友達だって言い切ることが出来なかったりする。

 

 ……それでも、まあ、なんだ。ライルはオレのことを友達だって思ってくれてるみたいだし……(仮)は外してしまつてもいいのかもしれない、なんて……

 

 ――ああ、もうっ、ホントよくわかんない! 友達って何!? 何をどうすれば相手のことを友達だって判断することができるのさ!? てか友達ってナンジャゴラー!! 人差し指突っつきあえばトモダチだって!? こちとら相手は宇宙人じゃなくて異世界人なんだよバカヤローがッ!!

 

 

 ……難しく考えすぎなんだろうな、きっと。

 相手が友達だって言って、自分も友達だって思えれば……それでいいのかもしれない。実体験じゃないけど、アニメや漫画を参考にするなら、そんな感じだし。

 

 オレはライルと恋仲になりたいわけじゃない。でもライルと普通に話したりなんだりすること自体は別に嫌ってわけじゃない。寧ろ楽しいって思える。……何より、一人でいるよりも寂しくないし。

 

 ……もしも、それでいいのなら。

 それが友達ってことなら……それならオレは、ライルと友達になってもいい……いや、なってみたいって、思える。

 

 それぐらいには、オレはライルのことを好ましく思ってるのかもしれない。……なんだか小恥ずかしいこと言ってる気がする。まあ流石にストーカー行為はもうやめてほしいけども。

 

 

 

 そうなってくると、オレにとってライルは初めての友達ってことになる。……その初めて出来た友達が未来の旦那様になるかもしれないという可能性には全力で目を瞑ります。そんなことあってはならないのだ。

 

 ともかく、そんな初めての友達が自ら死地に行くと言っているのも同然なことを目標にしてたらどう思うよ? 普通止めるだろ?

 でも結局あいつは撤回しなかったんだよなぁ……あの様子だと多分諦めてはないだろうし……あークソッ、思い出すだけでイライラしてきた。

 

 なんだって開拓者になるだなんて言い出したんだアイツ? 冒険者じゃねーのかよ。もっと刺激とロマンが欲しいってか? 名誉や富を得て有名になりたいとでも? ……バカヤローが。死んじまったら元も子もないだろう。もしも忠告を聞かないで死んだらあいつの墓に塩を振り撒いてやる。

 

 「……もういい、寝よ」

 

 ライルの掲げた目標を思い出しイライラしてきたオレは、気持ちを落ち着かせる為にも寝ることにした。布団を頭からかぶり、身を縮こまらせながら目をつむる。普段はのびのびと手足を伸ばして寝るところだが……今はこっちの方が都合がいい。

 

 今更だけど、今のオレは現在進行形で体調がすこぶる悪い。

 ライルと口喧嘩した後、家に帰ってきた辺りからずっと気分が悪いのだ。全身から嫌な汗が吹き出てくるし、体が物凄くふるえて止まらなし、気持ち悪いぐらい眩暈はするし、肺を握られてるみたいに息苦しいしでもう立ち上がる気力が沸かないぐらいに気分が悪い。なんかの病気に罹ってるんじゃないかと思うレベルだ。

 

 あまり母さんを心配させたくないから体調が悪いのは隠してるけど、そろそろ治ってくれないとバレそうなんだよね。多分寝てれば治るとは思うんだけど……大丈夫だよね? 徐々に落ち着いては来てるし、もうしばらく横になってれば治るかな……

 

 そうしてオレが眠りにつく直前、不意に開拓者になると言った時のライルの顔が脳裏によぎった。

 その時のあいつの顔に不安などは一切見られなく、あるのは目標に向かってただただ真っすぐに突き進む……そんな希望に満ち溢れた表情だった。そんなあいつの能天気さに……危険を顧みずに進んでいくのライルの無謀さに、尚もオレの苛立ちは溢れ続けていた。

 

 そして、ライルとの口喧嘩の最後に言ったあいつの言葉が……今も尚、頭から離れない。

 

 

 

 

 

 『ロアなんか大っ嫌いだ!!』

 

 

 

 

 

 「……バカヤローが」

 

 やがて苛立ちは言葉となり、微かに溢れたその言葉を最後にオレは全身を襲う倦怠感から深い眠りへと落ちるのだった。

 

 





 ロア、知ってる?
 その症状……『ショック障害』って言うんやで?

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