レベルMAXのユーリがエステルを守るお話   作:ニコっとテイルズ

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 なんか前書きにネタを書く予定だったような気もしますが、本文書いている間にぶっ飛びました。すみません。

 そして……すいません。今回はついつい筆が暴走しまして……はい。


2.キス

『以下に記載されているのは、人魔戦争の戦没者である。

 本案件は極秘事項であり、決して外部に漏らしてはならない。

 ここに掲げてある者の遺族に対して、密やかに慰問及び補償金の支払い、そして口外の禁止の伝達を行うように。

 

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 129 シュヴァーン

 130 イエガー

 131 キャナリ

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 以上、全201名』

 

 

 

 

 

 

 

 

 足元がふわふわする。

 

 念願の外に出ることができたらどんなに感動するのだろうかと、長年エステルは夢想していた。

 しかしながら、城門の御階(みはし)を下っても、生まれ育ったお城を地面から直接見上げる形になっても、一向に心を動かされるということはない。

 景色を感知するための神経伝達物質が存在していないかのようであった。

 代わりに、身体全体の神経は、全て目の前にいる黒髪の青年に収束されているのである。

 

 告白。「好き」だと言われた。

 あの衝撃の炎は、エステルの頭から全然抜け切れていない。

 むしろ、目の前にこの黒髪の青年がいる限り、より一層煽られてしまう。

 そして、いつまでもいつまでも舞い上がるほど燃え続けるのだ。

 

 だから、文字通り熱に浮かされているエステルは、いつの間にか市民街の一軒家にワープしたような気分であった。

 己の髪と同じピンクを基調とする旅装束に着替えたことも、城内がやたらと静かだったことも、青年が密やかに女神像の下を見て嗤ったことも、城のある貴族街から市民街への長い長い階段を下っていることも。

 一切エステルの頭の中に刻み込まれることはなかったのである。

 

「んじゃ、今日の所はここに泊まるぞ。

買い物とかもしなきゃなんねぇし」

 

 ずっと無言だったユーリが、神経の終着地点だった人間が急に話し出したことで、エステルの身体は過剰なほど震える。

 

「え、は、はい……。えっと、ここは……?」

 

 エステルは、いつの間にか目の前にあった2階建ての、近隣と比べても普通の大きさの家に、おっかなびっくりしながら訊ねた。

 

「オレんち。取り敢えず入れよ」

「は、はい……」

 

 女の子が、独り暮らしの男の家に入るのが危険極まりないということを、エステルはこの時知らなかった。

 すぐに学習するが。

 

「寝室は2階。風呂はあっち。トイレはそこ。取り敢えず覚えたか?」

「はい」

 

 エステルは、通されたダイニングキッチンをキョロキョロ見回しながら頷く。

 テーブルや、椅子、食器棚といった最低限の家具に、壁に掛けられた剣や斧が調度品代わりに設えられている実に簡素な部屋であった。

 また、ユーリには失礼ながら少し意外だったのは、棚の中に結構本が詰まっていることである。

 

 ―――ユーリって、読書家なんだ。

 

 何というか、言動から武人の血が心身を循環しているような雰囲気が醸されていたので、文の方にも才があるとは思わなかったのである。

 

「んじゃ、ちょっと休んだら買い出しに行くぞ」

「はい」

 

 本について尋ねるのは後でもいいかと思い、エステルはダイニングルームを後にするユーリを見送った。

 

 

 

 

 

 

 買い物というのも、エステルにとっては初めての体験であった。

 市民街の一角の、人々の賑わいに包まれる商業地区のテントの張られた出店群に2人は入って行く。

 

 まず買いに行ったのは、帽子と眼鏡。

 ユーリ曰く、変装用だから早めに買っておくべきとのこと。

 そう言うものなんです? と思いながらも、真っ白な帽子と度の入っていないハーフレスメガネを気に入ったエステルは、早速購入してもらった。

 次に、ユーリが食料品を的確に品定めをし、手際よく籠に詰めていくのを、エステルは目を大きく開けながらまじまじと観察していた。

 ついでに、お金を払ってモノを買うということも、ユーリの姿を見て初めて学習した。

 

 エステルの性格ならば、好奇心の赴くままに後先考えず軒を連ねる店の品々に心を傾かせてしまい、一向に買い物が終わらないのが通常である。

 しかし、ユーリの第一印象があまりに強過ぎたため、その本能すらユーリの方向へと捻じ曲げられてしまったようであった。

 本来乱反射するはずのエステルの好奇心は、全て目の前の青年を凸レンズとして収斂してしまっているのである。

 だから、割と従順にユーリの後ろ姿を追っている。

 だけど、割と頻繁にエステルの方を振り返るユーリの顔を見つめる勇気はまだない。

 なので、伊達メガネ越しに映ってしまう美男子の物憂げな視線は、白い帽子の鍔を盾に防がざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 月がきれいであろうがなかろうが狼男は出現する。それをエステルが知ったのは、まさしくその日の晩であった。

 

「エステル、こっち手伝ってくれ」

「は~い」

 

 まず人狼は、牙を隠す。

 ユーリがエビの腸(わた)を慣れた手つきで取っている間に、エステルはマイタケむしりを楽し気に勤しむ。

 ユーリがだし汁を混ぜ合わせているときに、エステルはおっかなびっくりしながら白菜を包丁で切る。

 そして、ユーリがうどんやその他の具材が煮えたのを確認し終えた後、エステルは生卵を割るのに失敗し、あわてて殻の破片を鍋から手で掬おうとするのをユーリに止められた。

 

 そんな買い物から続くユーリの常識的行動の連続は、常識を形成し得なかったエステルだからこそ容易に油断を誘えた。

 

 エステルは、初めて調理体験を堪能し、すっかりと心が弛緩してしまったのである。

 

 

 

「いただきます」

「いただきます」

 

 エステルは、出来上がった『鍋焼きうどん』を小鉢に取り分けて、スルスルとすすっていく。

 醤油の出汁の効いたえびやいかの魚介類の濃厚な味を、滑らかなうどんが程よく薄め、口の中が心地好く中和されていく。

 白菜のシャキシャキした食感に、シイタケのコリコリした食感は、栄養の偏りの矯正だけではないハーモニーを奏で、食べていて飽きを来させない。

 それに卵のまろやかさが全体を包み込み、喉越しを良くする。

 概して言えば、

 

「とっても美味しいです!」

 

 エステルが、眦(まなじり)を極限まで弛緩させ、自然と弾んだ声音に乗せた端的な絶賛こそが、この鍋焼きうどんに対する評価であった。

 

「そいつはよかった」

 

 普段と変わらない調子のユーリは、瞳を閉じたまま、ズルズルとうどんをすすっている。

 それが、照れ隠しなのか、それとも単に意に介していないのか、エステルには判断がつきかねた。

 しかし、今は別のことを尋ねることにする。

 

「ユーリって、お料理上手なんですね。どこかで習ったんです?」

「いいや。ガキの頃からやってるから、慣れただけ。

こんなもん慣れりゃ誰だってできるようになるさ」

「そうなんです?」

「ああ。……味見さえ、忘れなければな」

 

 最後の一言が、一オクターブ下がったことをエステルは聞き逃さない。

 

「味見って……昔、何かあったんです?」

「まあな」

 

 そう誤魔化すように軽く答えたユーリは、小鉢の縁に口をかけ、うどんの汁を飲み始める。

 

「………………」

 

 エステルは、ユーリの喉仏が、嚥下に連動して蠢(うごめ)くさまをじっと見つめる。

 しかし、ユーリは、小鉢をテーブルに置いて、大鍋からうどんと具材を取り始めた。

 エステルの視線を一瞥にとどめ、そのまま、またうどんを箸で摘まんでいく。

 

 どうやら僅かに疑問に思った程度の眼圧では、ユーリが口を割ることはなさそうである。

 しかも問い質すほどの必要性も今は特に感じない。

 なので、エステルもユーリから目線を逸らし、好物となった鍋焼きうどんに頬を緩ませることにした。

 

 そのふんわりとした口の緩みこそが、

 

「………………」

 

 オオカミさんの狙いの一つでもあった。

 

 

 

「んじゃ、エステル。風呂沸かしたから入って来いよ」

「え? わたしもお片付け手伝いますよ?」

「いいって。今日は疲れてんだろ。ここは任せとけって」

「……わかりました。では、お言葉に甘えさせていただきます」

 

 空になった大鍋に2つの小鉢を重ねたユーリがキッチンに向かって行くのを、エステルはペコリと頭を下げて見送った。

 ニヤリとしながら、ユーリは鍋類を運んで行く。

 

 

 風呂上り。

 エステルは、乾燥魔導器(スカッティオブラスティア)という、所謂ドライヤーを駆動させて、水気を吹き飛ばした。

 エステルは、ユーリがこんな魔導器を持っていることに少しクスっとした。やはり、あの肩甲骨付近まで掛かっている長髪のためだろうか、と考える。

 それに魔導器は、帝都が一括して管理しているから、貴族ならばともかく一般の人なら入手困難だというのに。

 こんなものまで設(しつら)えるとは、やっぱり底の知れない人だな、と思う。 

 

「上がりましたよ~」

 

 エステルは、寝巻用の桜色のネグリジェに着替えてから、踝まで覆う白いソックスでフローリングをペタペタと歩き、ダイニングへと赴く。

 そして、ユーリの背中へと快活に声をかけた。

 

「ん。じゃあ、俺も入るわ。

そこに本あっから、適当に読んどけよ」

「はい。ありがとうございます」

 

 椅子に座って読んでいた本を棚に戻した後、ユーリは本(エサ)を指差してから、風呂場へと向かう。

 ワクワクしながらエステルが、本棚を検(あらた)めると、

 

「『エアルの詳解』? 『魔導器と術式の相関関係』? 『リゾマータの公式 序論』?

……何だか、難しい本ばかりですね」

 

 この世界のエネルギー源のエアルや、魔術的奇跡を齎す魔導器に関する学術書が並んでいた。

 『リゾマータの公式』とは、エステルも聞いたことがない。

 エステルが嗜まざるを得なかったお城の蔵書には、普通の貴族の所蔵している以上に多くの稀覯書(きこうしょ)が揃っていると思っていたが、そのエステルでさえ覚知しないものがかなりある。

 もっと丹念に見詰めてみると、古代ゲライオス文明や、その文字の解読法について著された書物、さらには御伽話の類まであった。

 

(………………)

 

 ……エステルは、ユーリという人間について、改めて首を傾げた。

 

 突然の告白……はともかく。

 

 エステルも剣を修行しているから判るが、ユーリの剣技は絶技と言ってもいい。

 一般の騎士ならば、場合によっては一生をかけても辿り着けない領域に至っている。

 

 さらに、世界の理を文理の別を問わずに、奥深く究めんとする蔵書の数々。

 これらを読破し、さらに理論の体得までするとなると……夥しい年月が必要なように思われた。

 

 加えて言うと、あの料理の腕。

 正直なところ、お城のコックよりも美味であった。

 城内で食す豪奢にして、薄味の料理にエステルがやや辟易していたこともあったが、一応舌の肥えた自分にあれほど舌鼓を打たせられるとは……。

 

 ついで、部屋を見回してみる。

 家具が必要最低限なのはともかく。

 市民街にあるこの家屋を所有するか借家するには、それなり以上の財産が必要なはずである。エステルには家の物価などはわからないが、それぐらいのことは推察できた。

 これらの分厚い本を取り揃えるのにも、決して低廉とは言えない額の財が課せられるのは、想像するに及ばない。

 

(うーん……?)

 

 ユーリを眉目秀麗で、文武両道な人間と評するのは容易い。

 そんな人間に、自分があんな……大胆なことを言われるのも、まあ、悪い気はしない。

 だが……ミステリアスな部分をどうしても拭い去れない。

 不気味というほどではないが、ここまで並々ならぬ人間だと少し引いてしまう。

 

 別にエステルは、優れた人間に嫉妬するたちではない。むしろ素直に礼賛できる性格だ。

 とは言え……一の人間が完璧と呼ばれる型まで鋳られた趣を目撃するとなると……やはり気後れしてしまうのは抑えきれない。

 対して自分は、実戦経験ゼロの剣技。蔵書のレベルと比すると、教養レベル程度しかない知識。料理など習得の機会すら与えられなかった。

 外見だってきっと大したことない。そんな自分と、何もかも凄まじいレベルにまで達しているユーリとは……比較するのすら烏滸(おこ)がましさを感じる。

 皇女という、先天的に与えられた身分がその間隙を埋め合わすには到底足らない。

 

 わたしじゃ、ユーリと釣り合えない……。

 

 と、そこまで考えて。

 

 あれ……? わたしは何を考えているんだろう?

 いや、ユーリはそういう対象じゃ……。

 いえ、決して嫌いというわけではなくて……。

 えっと……あの……その……何て言えばいいんだろう?

 だから、うん。あれ……何でしょう。あれですよ。

 友達……ではなくて。

 恋人……いえ、ちが、います。

 嫌いではないんですけど……うん。

 好きかと言われると……カッコいいし、何でもできるし……。

 ちがうちがう! 好きでも、嫌いでもない。

 まだ、保留ですよ、ほりゅう!

 ……ってそういえば、まだユーリに何にも言ってなかったような……。

 これは、失礼でしょうか? 

 好きの返事に……えっと……好きでも嫌いでもない……。

 うんうん!! ちがう。嫌いというのは何か違う。じゃあ、でも、その。

 好きと認めれば……。

 そ、それもちがう、ちがいますって!

 

 エステルは、己の中を駆け巡る感情にうまく言葉を宛てられないでいた。

 本の山の前で、身悶えしながら時折顔をブンブン振り回している様は、端から見るとなかなかに滑稽である。

 気を紛らわすために、火照った顔を眼前の蔵書群に向けるが、雰囲気的にエステルの悶々を解消するような本はなさそうであった。

 

 しかし、それでも諦めないことが大切という格言を胸に宿し、射抜くような目線で本を睨みつけていると、

 

「きゃっ!!」

 

 後ろから抱きすくめられた。相手は言うまでもない。

 

「あれ、本読んでなかったの? 意外だな」

「ゆ、ユーリ!? な、なんですか!?」

 

 背中から感じる熱と、お風呂上がりのシャンプーの香りにエステルは吞み込まれる。

 ユーリの両腕は、華奢なエステルの肩を優しく包み込んでいる。

 それに、耳元で不惑な声が囁かれるものだから、エステルの脳はとろけそうになった。

 

(いけません! このままではいけない気がします!)

 

 エステルの本能が警鐘を鳴らす。

 このままでは、行ってはならない方向に行ってしまう。

 これは危険! ピンチだ!

 

「は、離してください!」

 

 なので、エステルはジタバタと身体全体を必死に動かそうとすると、

 

 

 

ペロン

 

 

 

「ひゃいっ!」

 

 エステルの首元を、熱くざらついた感触が流れた。

 それが、ユーリの舌だと気付いた時には、

 

(あ、あれ……?)

 

 身体の力の大部分が抜けていた。

 そこに、

 

「エステル……」

「~~~~~~~!!」

 

 物憂げなユーリの声が、完全にエステルの抵抗を停止させる。

 そして、ユーリがエステルの身体全体を壊れない程度に強く抱きしめ続けた。

 

(あ、あう……)

 

 ユーリの雄々しさと洗髪剤の混合した香りが、エステルに延々と注ぎ込まれる。

 あらぬ方向に向かったエステルの思考は、『チーターは突進してガゼルに噛みついて引き倒した後、5~10分噛み続けて窒息させてから捕食する』ことを思い出させる。

 

 今も似たようなものではないか。

 ユーリは、わたしを捕まえた後に、香り殺してから捕食するのではないか、と。

 

 そうは思うのだが、やっぱりどうしても力が入らない。

 首元に停止ボタンでもあったかのように身体がどうしても動かず、ただただユーリの熱気と芳香を延々と受け続けることになってしまった。

 

 5分ほど経ったであろうか。

 もはやエステルに時間の感覚など分からないが、しばらく包み込まれてから、

 

「ぅぅぅぅぅぅ……」

 

 か細い呻き声と共に、膝から完全に力が抜けてしまった。

 もはや身体にどうやったら力を入れられるのか、その方法さえもエステルは忘れてしまっていた。

 

「んじゃ、行くか」

 

 それを切っ掛けとして、ユーリは、脱力しきったエステルをいったん離す。

 そして、崩れきったエステルの膝裏と背中に腕を回して、軽々とその身体を抱え上げた。

 

(………………!?)

 

 しばらくトリップしていたエステルは、自分の視界に自分の生脚が広がっていることに気付き、意識を取り戻した。

 そして、今どういう態勢で自分が運ばれているかを認識する。

 

(お姫様抱っこ!?)

 

 その言葉を宛てた時、自分が正真正銘のお姫様であることを思い出す。

 しかし、そのお姫様のエステルでさえ、こんな風に実際に“お姫様抱っこ”をされた経験はない。

 こんな風に、男の腕が自分の膝の裏を通り、背中を回るということは人生で初めてであった。

 

(~~~~~~~!!)

 

 しかし、それを認識したところでエステルにできることは何もない。

 ユーリの顔も、自分の態勢も現実として認められなくて、ギュッと目を瞑り、身体がより丸まってしまう。

 そして、よりユーリの運びやすい湾曲を描いてしまうのであった。

 

 

 

 再びエステルの身体の感覚を取り戻してくれたのは、ふわっと柔らかな感触である。

 階段の軋む音も、寝室のドアをユーリが軽く蹴って開けた音も、何もかも彼女の聴神経は伝えてくれなかった。

 そして、ちょっと乱暴にユーリがエステルをベッドに放り投げた時に、エステルは知覚を取り戻したのであった。

 

(あ、あれ……?)

 

 そして、エステルが現実に帰って来た時には。

 

 照明魔導器の燈っていない暗い部屋。カーテンは開いているが月光は入ってこない。

 自分の頭は少し硬めの枕の上。

 力の抜けきった身体もユーリの匂いが残存するマットレスの上。

 そして―――

 

 自分を覆いつくす巨大な影。

 眼前に聳(そび)える巨大な黒オオカミ。

 眼光は、純真な少年の面影が消え去り、ギラリとした肉食獣のそれと化している。

 ちょうど、舌舐めずりをした。

 

 それを、見て。

 ようやく自分の置かれている状況を掴んだエステル。

 食事から風呂までの流れで連想すべきだったのは、『注文の多い料理店』だった!

 

「ま、ままままままままま待ってください!!!」

 

 目の前にいるのがオオヤマネコであろうが、オオカミであろうが危険であることには変わりはない。

 生存本能か何かで、とにもかくも出鱈目に手足を動かすエステルに、

 

「やだ」

 

 ユーリは、エステルの爆発しそうな顔だけを両手で包みこみ、そして、

 

(!!!!!!!!!!????????????)

 

 唇を重ねた。

 

 今度。今度こそ。

 エステルは、自分を奪われた。

 唇というのが、誰であっても柔らかく、そこにも自分を停めるボタンがあることを自覚した。

 自分の唇が押し潰されると同時に、手も足もピシッと石のように固まってしまう。

 それでも、ユーリの侵攻は止まらない。

 

 ユーリの舌は、エステルの口をこじ開け、前歯の列を門歯から奥歯まで嘗め尽くす。

 2、3度の往復でエステルは屈服し、玉手貝が開かれた。

 ユーリは、牽制とばかりに、あるいは味わい尽くさんとばかりに歯列の裏側も一度だけ舌を這わせた。

 次に、口蓋のすべてに執拗なほど舌を走らせる。まるで自分以外の何をもエステルの口に通るのを許さないように。

 そして、とどめとばかりに、エステルの舌と自分の舌を絡ませる。

 エステルの舌は、本人と同じようにペタンと伏せていたが、ユーリの舌は強引に跳ね起こし、蛇のように巻き付いた。

 しばらくエステルのざらついた舌の感触を味わった後は、仕上げとばかりにエステルの口に溜まっている唾液という唾液をすべて吸い尽くした。

 そして、自分の唾液を注ぎ込んで行く―――

 

 

 

 この辺りで―――

 

 

 

 ああ、この人は、本当にわたしのことが好きなんだな

 

 

 

 そう確信できたエステルは、理性を手放した。

 

 

 

 

 

 




 一行書いてう~ろうろ。
 また一行書いてう~ろうろ。
 階下の人に大きな迷惑をかけたような気もします。

「お菓子を買いに行くのが面倒なら、自分で砂糖を生成すればいいじゃない」の精神で執筆を開始したら、糖分過多で死にそうだったニコっとテイルズです。お菓子とかを食べないで自分で虫歯をつくれるアホは、そんなにいないかな、と思います。
 
 ここまで暴走する予定はなかったんだけどな~、ユーリくん。ホントだよ。信じて。

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