恋は直球、届け白球   作:最強エースあかね

7 / 17
第7話

練習試合終了後、大型バイキング店での合宿打ち上げ。様々な料理が置いてあり、疲れた部員たちだったが疲れも感じさせないはしゃぎ様だ。騒がしい中、同級生のテーブルからも離れひたすらに葉野菜を食べる茜。冷凍庫に長時間手を突っ込んでいるかのように冷え切ったテーブル。死ぬほど暑い夏だが誰も近寄ろうとはしなかった。慣れない左手でフォークを握りしめ、レタスを食べる。

「おい、茜先輩のとこ行けよ」

「いや、今は無理だろ…」

「いつも可愛い、可愛い言って近づいてんじゃんかよ」

「いや、あんな茜先輩見たことないし、無理だろって」

後輩たちもだんだん気を使い始めた。そこで、勇気を出し茜にクレープを持って行ったのが…。

「茜先輩!こ、これ!」

茜は差し出されたクレープを見て言う。

「何入ってるの?」

高い可愛らしい声はどこへやら。

「チョ、チョコバナナです!」

そう聞くとため息を喉が出てくるような勢いで吐く。そしていつもの声に少し近づけて話し始めた。

「ありがとね、和田。気を使ってくれたのね」

「い、いえ…。」

もらったクレープを一かじり。すこし口の中に残るレタスとともに流し込むとすこし変な味だ。

「ごめんね、なんか変な空気になっちゃったよね」

「あ、いえ!そんなことないですよ!試合も逃げ切りましたし!」

「意地になっちゃったし…」

いつもとは違い、元気満点じゃない茜と会話を合わせるのが難しい。いつもは空気のノリで難なく行く会話も弾まない。

「肘、痛いんですか?」

「うーん…」

すこし考え、茜は寂しそうに笑い返答する。

「痛いよ」

思い切って聞いて見た和田だったが、この返答には言葉を失った。

「あたしが悪いのよ。普段から投げるばっかでトレーニングとか、ストレッチとかあんまりしてなかったし」

そう言って振り返る。

「まあ和田は、ちゃんとやんなさいよね」

そう言って茜は和田の肩をポンと叩いた。

「は、はい…」

それを聞いて茜は口角をどうにかあげた。

「ほら!戻った戻った!打ち上げ、楽しんできなさい」

和田にもわかった、無理して笑ってくれていると。

「うっす!!」

気づかいを無駄にせんと元気に返事をかえした。

この日茜は同級生の誰とも喋らず、合宿から帰ってきた。

帰りのバスは、豊島区で停車。茜はそこから電車に乗り帰宅をする。時間は午後16時。山手線の帰宅ラッシュには引っかからず、荷物が邪魔にならなかった。高田馬場駅で下車した茜は重い荷物を左手で持ち上げ、改札を出るとまだ少ない改札口に立つ涼介の姿を見た茜。そういえば今池袋だよーとメールをしたところだった。まさか迎えに来てるなんて思ってなかった。

「学校ないのに…、なんで…?」

高田馬場まで電車通学をする涼介は学校がない時は茜とのデート以外ではこちらにあまり来ない。

「だって、話したいことたくさんあるんじゃないの?」

涼介はユリゲラーみたいだった。普段ならちょっと引いてみて涼介を困らせようとするところだが、今の茜はそうならない。

「うん…。話したいこと……。たくさんある…」

人目を気にせず、エナメルをその場に置き涼介にぎゅっと抱きついた。嬉しかった涼介だが、ここは冷静に。そっと茜の頭を撫でて、

「ほら、ここだと人の邪魔になっちゃうから」

そう言われた茜は涼介にエナメルを持たせ手を引いた。

「ただいま」

少し歩いて、茜の実家についた。

「おかえりなさい。あら涼ちゃんも一緒なのね」

「すみません、お母さん」

よく実家同士を行き来する仲なことは互いの親が認めている。

「お、涼介きたか」

茜の部屋に入るくらいで茜の兄に呼び止められる涼介。だいたいこういう時は野球かサッカーのゲームに誘う時だ。すると涼介は、今日だけ申し訳なさそうな顔をして

「今日は先約いるから、ごめん!」

3つ離れているものの友達のように接する涼介と兄はこれからも仲良くしてくれそうだ。

「おぅ、そうか」

茜のいつになく静かな姿を見た兄も涼介を勧誘するのを諦めた様子。

(パタン)

茜の部屋に入って、涼介はゆっくり扉を閉めた。夕食までにはすこし時間がある。

「シャワー浴びてくる」

「うえっ!?」

突然の発言に驚く涼介。茜は顔を赤くしながら

「汗だよ!あ、せ!」

「あ、あー。どうぞ!!」

「ったく、変態…」

「ご、ごめん…」

つい期待してしまう面もあるが、まだ夕方だ。

シャワーをサッと浴びてきた茜はちょっとエロかった。ゴクリと一度唾を飲み込んだ涼介。

「唾飲まない!」

その一瞬も見逃さない茜。

「ご、ごめん!」

とか言いつつ、涼介と接触するほどの距離に茜は座った。肩に寄りかかる茜。

「野球部やめようかなー」

おもむろに肘を抑えた茜。

「やめないでよ」

涼介は相談にも乗ろうとしない様子だ。

「え、理由とか聞かないの?」

「ここでしょ?」

涼介は茜の右肘を触った。

「そこは鍛えようよ。できるって!あーちゃんなら!」

「そうじゃなくて、気まずくて…」

いつの間にか向き合って話をしていた2人。

「え、そんなことで悩むことあるの?」

涼介のデリカシーない発言が茜を少し怒らせる。

「あたしだって悩むんだよ!」

「いやいや、ケロッと行こうよ。気まずい方が名古谷くんもやりづらいと思うよ」

ここまでくると精神論だ。涼介はいつになく情熱的だった。

「でも…」

いつもはガンガン行く茜も今日は押されまくり。

「じゃあわかった。休部すればいいんじゃない?」

展開が早すぎて茜の少ないキャパを超えそうになっている。ガンガン攻めてくる涼介に戸惑う茜、そんな時だ。

「ご飯できたよー」

茜の母親の声で茜が立ち上がって、

「ご、ご飯行こう!!」

「え、あ、うん」

茜は涼介を置いてさっさとリビングへ向かった。取り残された涼介は少し言い過ぎたかなと反省した。

今日は茜の大好きな唐揚げだ。明日から夏休みの残りが始まる…。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。