恋は直球、届け白球   作:最強エースあかね

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第4話

合宿2日目、今日は全体打撃から始まった。好打順で起用されている茜、敦史、西村、和田はいいところを見せようといつも以上に気合が入っていた。しかしいつになく茜は打撃練習中にも関わらず右腕を気にしていた。それは茜自身、左打席に入っているからだと思いながらその時を過ごしていた。

「松原!」

打撃練習を終えた敦史が茜を呼ぶ。

「なあに?」

「終わったら、土手ランしてこいよ」

「うぇ…。やだ!」

下半身強化のため、土手ランニングを指示する敦史と、走ることを嫌がる茜のよくある言い合い。

「じゃあ、インナーやっとけ」

「投げる!」

茜の打撃練習は中断。次に待っている部員に交代した。

「投げたい!」

「肘壊すぞ」

「あたしを誰だと思ってるの?」

「ただの中学生投手だよ」

「むーー!!」

こうなると茜が面倒なのは敦史も分かりきっていた。

「しょうがないな…」

だから、ため息を吐きながら敦史はそばにあったミットを持った。

「うん!敦史わかってるー!」

「ったく」

先を行く敦史に足並みを揃えるべく、少し駆け足で追った。途中、ベンチに寄り自分のグローブを手にした茜は、敦史と共にブルペンへ向かった。

(スパーン)

軽いキャッチボールから入った2人。投球距離をしっかり取れたところで5分ほどキャッチボールを続けた。投げ、返球されるその度に噴き出す汗を袖で拭う茜。敦史は防具をすることなくホームベース後方に立っていた。

「ほんじゃ、いくよーー!」

その声で腰を下ろした敦史。足を肩幅より少し広げ、オレンジ色の的を茜に向けた。

「ゆっくりな」

「わかってるってば」

マウンドのプレートを踏んだ茜からすっと表情が消えた。可愛い目は鋭く力を加えミットの中心のみを見つめるというより、睨むようだ。完成されたフォームから放たれる球は高い回転数でミットへ収まった。そして、15球ほど投げ込んだ頃だろうか。

「んー」

「どうした」

茜が投球を止めた。

「ちょっと休憩」

「らしくないな、まだそんなに投げてないだろ」

「ほら、暑いじゃん?水飲まなきゃ」

そう言った茜は右手首、右肘のストレッチをしながらベンチへ戻っていった。その姿を見て悟った敦史は茜の後を追い、ベンチへ向かった。

「おい松原」

ベンチで座り、休憩している茜。

「なによ」

左手にはジャグから入れたスポーツ飲料が入ったボトルを持っていた。

「お前、肘…」

「は?何言ってんの?」

いつになくピリピリしている。これはおかしい。

「痛くないし。だから暑いだけだって」

そういうと、グッと水分を摂った茜はグローブを持ちブルペンへ戻った。

「おい、待てって」

敦史はジャグからコップに一杯分注ぎ、一気に飲んだ。休む時間もままならない中、ブルペンへ戻った。

茜がブルペンに戻る頃に青木、和田、そして井上と1年生組が合流。

「茜先輩、投げないんですか?」

「あー、いいの。さっき投げたから」

「なんだー。見たかったなー」

「いつでも見れるからいいでしょ」

茜は笑っていた。いつも通りだ。後輩たちと話す仕草や表情、いつもと変わらない。さっきとはまた違う。敦史は少し離れたところからその様子を見ていた。

「名古谷先輩!なにしてるんすか!」

青木だ。

「俺の球受けてくださいよ!」

「っと、悪い悪い」

「あ、俺も受けてくださいね!」

和田も続いた。今は考えるのはやめておこう。もう少し様子を見てからにしよう。敦史はそう決め、目の前の練習をこなす事にした。

キャッチボールを投球距離でし終えた、青木と和田に茜は言う。

「だいぶ良くなったんじゃない?」

「昨日結構投げましたからね」

青木が昨日の練習を振り返る。

「もうちょい良くなったら、変化球教えよっか」

「お、まじすか!!?」

「2人に合ったいいやつね」

「おっしゃー!」

やる気になった2人はコントロールを高めたあと、回転数の高いボールを投げるため指先への意識をつけた。

(ズバーン!)

いい球が行くようになった。ようやく変化球を教えてもらえると喜びを見せる2人だが、空は赤くなっていた。

「茜先輩!!」

茜は必死な2人にクスッと笑ってみせた。

「時間切れよ。じ、か、ん、ぎ、れ」

脱力感のパンパではない姿。そんな2人にそっと近づき肩をポンポンと叩き、優しく言った。

「明日もあるからね、頑張ろうねー」

「は、はい!」

「ほら、着替えてご飯だよ」

茜はグラウンドに持ってきた荷物を手に持ち、宿舎へ戻った。

自室へ戻った茜は部屋にあるシャワーを浴び、疲れを飛ばした。

「くぁーー。生き返る…」

どっちかと言うと冷たい温度の水を頭からかぶる。出続ける水を静止したまま受けていると、ふと触れる右肘。

「いや、痛いわけじゃないし」

そう言い聞かせる。

「なんか気分が乗らなかっただけだし…」

今日の敦史からの心配に少しイラついてしまった自分を反省。

シャワーを止め、髪の毛をサッと払いタオルを手に取る。なかなかのサイズ感の胸の膨らみの先から滴る水をすくうように拭く。拭き終えたら、いつもの赤ジャージに着替え食堂へ向かおうと扉を開けると、

(ガチャ)

何かにぶつかった。

「いてっ!」

「ごめん!だいじょぶ!?」

後輩3人ほどだ。

「だ、大丈夫っす!茜先輩、シャワーっすか?」

「うん。汗かいてたからね」

するとニヤつく後輩たち。

「ありがとうございます!」

深く頭を下げる、後輩たち。

「…?う、うん」

訳も分からないままお礼を言われた茜は、こういうことに鈍感だ。下着なしの茜の胸元に見える一本の線が後輩たちのそれをそそった。

「変なの」

茜はそういうと後輩たちをさておいて食堂へ向かった。

夕食はカレーだ。野球部らしいメニューに盛り上がる部員たち。最高で5度もお代わりをするものがいる中、茜は2度お代わりをし空いたお腹を満たした。食べ終わると部屋に戻ろうとする茜を敦史が引き止めた。

「松原、待てよ」

「なに?」


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