恋は直球、届け白球   作:最強エースあかね

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第3話

「今回はグラウンド広いなぁ」

「…」

合宿所に到着した一行。敦史は宿舎のすぐそばにあるグラウンドを見て言った。照りつける日差し、乾ききったグラウンド、まさに夏の野球日和と言ったところだ。

「よし、荷物を部屋に置いてから着替えてグラウンドに集まれ!」

「はい!!」

元気よく返事をする後輩たちの姿に、キャプテンを実感し始める敦史。2年生達は2度目の合宿ということで元気満々な者は少ない。しかし、群を抜いて元気がない者が1人だけいた。

「ほら、松原。」

地面に置いたクラブバッグの上に座り込む茜に水を差し出す敦史。

「ありがと…」

「今年もか」

「これは生まれつきだからしょうがないのだよ…」

もらった水をグイッと飲むと気分悪そうな顔のままカバンを持ち部屋へ向かった。去年も同じようにバスから降りた茜はこうだった。1日目の午前練習はほぼベンチに座っていた。今年はどうだろうか、敦史は少しでも動いてくれることを願っているがこればかりは、個人差だからしょうがない。敦史もみんなに続き部屋へ向かうことにした。

部屋は4人1組で構成されていて、なかなかの広さだ。やはり初の全国大会出場がこういったところに出ているのだろう。去年はそうはいかなかったのを部員達は思い出していた。すると敦史の部屋の隣が妙にバタバタと音を立てている。隣の部屋が誰だか知っている敦史は壁をノックして言った。

「おい松原!何したんだ」

すると隣の部屋から茜がこちらの部屋へ元気よくやって来た。

「ねぇ!広いよ!広い!ここ1人使っていいの!?」

「あー、そうだな。女はお前しかいないしな」

部内紅一点の茜は1人部屋だが、広さはみんなと変わらないのだ。妙に子どもっぽい一面のある茜は車酔いが吹き飛んだのかとても嬉しそうだ。

「いやー、部費様様だねー」

「それもそうだな…。っておい松原!」

「なに?」

敦史は思わず目をそらした。しかし同じ部屋にいた他の3人は固まったまま茜を見ていた。

「ズボン!」

敦史がそう言って茜は自分の脚を見ると、なんとまあそれはびっくり。

「おわ!気づかなかった!この変態!」

「どっちが変態なんだよ…、露出狂。」

「うるさい!」

着替えの途中だった。紺のTシャツに上から白の練習用ユニフォームを着て、紺色の靴下を履いて…。そのまま来てしまった。その部屋の男子達には白の綺麗な布が目に焼けるようにこびりついて離れなかった。茜は走って自室に戻った。

「白か…。」

「バカ!茜先輩の太もも見たかよ」

「肌綺麗だったな…」

「お、俺のジュニアが…」

見兼ねた敦史は恥ずかしい気持ちを払いのけ、盛り上がる同室の部員に言った。

「さっさと着替えてグラウンド行け!」

「す、すみません!!」

「ったく、」

 

敦史は各部屋に誰もいないことを確認しグラウンドへ向かった。そしてここから合宿メニューがスタート。今年の秋大会、そして来年の夏の大会で全国大会へ再び出場するためにいつもとは異なったメニューとなっていた。そのメニューを聞いた部員達は強豪に近づきつつあるチームである実感を噛み締めていた。

「それじゃあ、投手組はアップ後はブルペンで。」

「はい、質問」

内容を説明し終えたところで茜が敦史に手を挙げ申し出た。

「なんだよ」

「何百球投げていいの?」

その質問にそんなに投げるのかと若干引く後輩たち。そしてその質問に溜息を吐き答える敦史。

「それは後で言うし、そんなに投げさせるわけないだろ」

「え!!」

「はい、ランニングからいくぞ!」

若干のショックを受ける茜を無視し敦史はメニューを開始した。アップを入念にした一行は投手組、野手組に分かれての練習が始まった。

「茜先輩!」

「ん?どうしたの、青木(あおき)?」

「今日、白いパンツってホントっすか?」

(ガツン)

「いってぇ!」

「そういうことは女の子に直接言うな!てかあいつらだな…」

さっきの部屋での一件が後輩間で噂になっているようだ。1年生の青木大輝(だいき)もその噂を聞きつい直球質問してしまった。

「たく、中1はデリカシーねぇなあ」

「それズボン履いてないのに部屋来たお前が言うのか」

ふとツッコミを入れた敦史の言葉に恥ずかしく黙る茜。

「松原のパンツの話はどうでもいいだろ。練習するぞ」

「名古谷先輩、どうでもよくないっす!」

「話が進まないから青木、それまでにしろ」

「すみません…」

ようやく本題に入る投手組。投手組は投手はもちろんのこと捕手も含めての一組だ。よって正捕手の敦史、1年生捕手の井上、エースの茜に右腕青木、そして左腕の和田辰也(わだたつや)の5人で形成されている。

「えーっと、全国大会で優勝するには投手が複数いた方が明らかに有利だと思う。」

「あたしが1人で投げればいいし」

「話を聞け、松原」

「へーい」

「さらに来年、再来年の大会でも勝つために青木と和田の成長は重要だと思う。」

「はい!」

「だから、雑誌やテレビで紹介されている、この『舞姫』さんから投球術を吸えるだけ吸い取ってくれ」

少し嫌味ったらしくいう敦史に微妙な目線を向ける茜。

「茜先輩から直接指導してもらえんのか!」

「よかったね、青木、和田」

「井上も名古谷先輩のリードを教えてもらえるんだから、頑張れよ」

完全試合を成した2人からの指導を喜ぶ1年生。しかしふと、よぎった。茜の性格。

「えー、面倒くさっ。投げたいんだけど」

というか

「あー、じゃあ100球とりあえず投げるか」

というか、指導者に向いてなさそうな性格だったことを思い出し、なんとも言えない表情になる青木と和田。

「教えればいいの?あたしが?」

「そうだ。教えることは自分にも返ってくるからな」

そう言われ少し考えた茜。

「うん、いいよ。お兄ちゃんも同じようなこと言ってたし。2人の人間が言えばきっとそれは嘘じゃないんだろうと思うし」

マウンドに背を向け話をしていた中、茜はクルッと半回転しマウンドへ向かった。

「ほら、教えるから青木も和田もおいで」

予想とは裏腹に前向きな茜に喜ぶ1年生2人は「はい!」と大きく返事をし茜の後を追った。

しばらくマウンドからホーム間でのキャッチボールをしてから投球練習に入った。まずは2人のフォームを見る茜。いつもの自分勝手でチャランポランな姿などなく静かに後輩の投げる姿を色々な角度から見ている。真面目な茜の姿に少し感動する敦史、そして緊張する1年生。バットの音やノックを受ける選手の声が響くグラウンドとは違い、ボールが風を切る音、ミットの音、「ナイスボール!!」という声かけのみが淡々と聞こえるブルペン。そして2人が20球ほど投げ込んだところで茜が止めた。

「一回おいで、」

マウンドに集まった青木と和田。

「まだ本気じゃないと思うんだけど、ちょっとボールがブレすぎなところがあるね。これだと四球パーティになりかねないから、コントロール重視してみよっか。」

茜は手本を見せようとマウンドに立った。捕手に敦史を座らせ、喋りながら投球を始めた。

「やっぱり初歩なんだけど、リリースポイントの安定がコントロールの生命線な訳よ」

(スパーン)

「あとはミットを見て、どういう意図でそこに構えているのかも考えたらいいかも」

(スパーン)

「あとは足だよね。真っ直ぐつけなかったら体が開いたり、軸がぶれちゃってボールはどこか行っちゃうからさ」

(スパーン)

喋りながらも構えたところに寸分狂わず球を投げ込んでみせた茜。

「回転数とかはこれが出来てからの話だからね、まずはコントロール、コントロール!」

圧倒される1年生。しかし起爆剤にもなった。早速、初歩のリリースポイント、足のつき方を注意、確認しながら投球を再開する2人。投球間隔の間に気づいた点は2人に惜しみなく言う茜。真面目な練習が出来て敦史は嬉しいさのあまり泣きかけた。

午前中の茜は車酔いによる後遺症のことも考えあまり投球練習をせずに教えることに専念し、昼休憩へと時間は過ぎていった。

「松原、なかなか丁寧に教えるんだな」

「え?あー、あれで伝わってるといいんだけどね」

昼食のおにぎりを食べながら話す敦史と茜。茜の指導者っぷりに感心する敦史。

「伝わってるさ。まだ投げ込んで時間経ってないが、2人とも良くなってる。」

「おー、それは嬉しいね」

「後でちゃんと投げるか」

「お、100くらい!?」

少し緩めるとすぐ調子にのる茜。とても笑顔だった。

「バカ、30くらいだよ」

「ちぇー」

昼食後の投球練習では茜がストレートのみの30球を投げ込む姿を1年生2人は見てフォームやスタイルの良さや時頼見られる、エロさを学んだ。それから基礎の下半身強化のためのランニングをした投手組は、クールダウンをし合宿1日目を終了とした。


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