恋は直球、届け白球   作:最強エースあかね

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第13話

3回戦を難なく突破し、準決勝へと駒を進めた城戸中。

「あと3回じゃんか!」

昨日の2回戦後に敦史が言ったことに対し、茜が指摘をする。

「くらいって言っただろ。細かいことに反応するな」

3回戦は、仙台代表との試合だった。重苦しい0封試合をぶち壊したのが和田の一撃。6回にようやくチャンスを作った城戸中。和田の長打が決勝打となり茜が7回を完封してみせた。

周りからの元々の注目にプラスα、本物の野球ファンからもより見られるようになり、城戸中へのプレッシャーはそれはすごいものになっていた。

しかし、そのプレッシャーも跳ね除けようと茜の元気な姿について行く城戸ナインは、固定された打順で見事にここまでやってきた。

そして準決勝では茜の打撃が冴える。強豪の神奈川代表との一戦。エースと4番が固まっている神奈川代表に臆することなく望む茜。

「スライダー」

「が、どうした?」

試合前、最後の投球練習をする神奈川代表の投手を見て茜が言う。

「あれ打ったら心折れるかなー」

大きく曲がるスライダーを武器だと考えた茜。すると

「打てそう」

自信ありげな言葉を発したのは先頭打者の西村だ。

「お、いいねー」

「いつになくやる気だな」

「まあ登場頻度が少ない気がしたから」

「なんのことだ?」

「気にするなって、名古谷」

茶番を挟んだところで、

「じゃあさ、久し振りにやろっか!」

そう言って手を出す茜。

「本気かよ」

嫌がる敦史に引き換え、西村は乗り気だ。

「はい」

「剛、ノリがいいねー」

その姿を見て、はぁーっと大きくため息をついた敦史は、重なる手の上に続いた。

「ほんじゃ、敦史、作戦言って!」

「西村は出塁をどんな形でもして来てくれ。初球打ちはNGな」

「了解」

「松原は進塁を優先するため、引っ張れ」

「ほいほい」

簡単に確認をしたところで、

「初回から行くぞ」

敦史の掛け声に、

「「「うぇーーーぃ…」」」

 

打席に向かう西村の背中をネクストバッターサークルから見守る茜。

プレイボールの掛け声とともに西村の集中力が一気に高まる。

初球から3球続けて見送った西村のカウントは2ストライク、1ボール。次の投球との合間に敦史へアイコンタクトをする西村。敦史が一度うなづくと、ふーーっと大きく息を吐き再び集中し直す。

それからファールを3回挟み、見事にフォアボールを選んだ。ベンチから歓声が上がる中、茜は1塁へ向かう西村をじっと見つめる。

西村はベース上から茜に向け、左目でウインクをした。それに対し、ヘルメットのつばを指で弾いて返事をした。

打席に入った茜のファーストコンタクトは送りバントの構えだ。それを見た三塁手が前に詰めてくる。

「あいつバントするのか?」

「しませんよ」

1番からの攻撃では2人の指揮を敦史に任せている監督は、茜の構えに疑問を抱いた。

「ボール!!」

少し球が外れた。しっかりバットを引き、球数を稼ぐ。

再びバントの構えを見せる。クイックモーションで投げ始める投手の背中越しに駆け抜ける人の姿が。

「走ったぞ!!!」

神奈川代表の守備の声に投手の手がボールを離す位置を狂わせた。

西村の盗塁により動揺する投手のボールを、早めに引いたバットでチョコンと当てて三塁手の頭を越してみせた。

息のあったヒット&ランでノーアウトランナー1.3塁を演出してみせた。しかし敦史は不満そうな顔で1塁の茜を見た。

「結果オーライだって」

と言わんばかりに可愛らしくウインクしてみせる茜。

「ったく…」

呆れる敦史。

「かっとばせー」

1塁から呑気に応援している茜。打球に集中する3塁の西村。

たっぷり西村が稼いでくれたおかげか、1球目から放って来たキレ味鋭い外角のスライダーを、しっかり踏み込んでお得意の打撃コースへ。

(カキーン)

鳴り響く金属音だけでもどこまで飛んで行くのやらと、西村はゆっくりとホームイン。右翼手がもたつく間に茜が。快速飛ばし、敦史もホームへスライディング。

送球も間に合わず、記録はランニングホームラン。初回、無死の場面で3点をもぎ取った。

守備では、決勝戦へ向け投げていなかった変化球を中心に組み立てられた配球に手も足も出ない神奈川代表。茜の異名を象徴するように三振の山を築いていく。

定番化しつつある茜のキリキリ舞いっぷりに、今日は大会打率4割の打棒が加わり無敵状態へと突入する城戸中。

ランナーを2塁に置いた状態で回って来た2打席目は、さっきのミスを続けまいと思い切り引っ張った打球は右翼手の頭上をライナーで越えていく。スタミナなんて気にしないと言わんばかりに爆走し、3塁を奪う。

「松原!無理するなって!!」

打席に入る敦史から怒鳴られるも知らん顔する茜。次の投球に不安が募る敦史だったが、攻撃を終えた後の守備では疲れをみせることはなかった。

さらにリードを広げ、前の打者の西村がセーフティバントで出塁。3打席目は西村の盗塁をアシストし、2ストライクで迎えた3球目。

「おら、よっしゃぁぁ!!」

可愛いらしさの可の字すら感じさせない雄叫びとともに放たれた打球は鋭く二遊間を切り裂いた。このヒットで点は入らなかったものの、その後の敦史、和田、高柳、加藤とフォアボールを1度挟んで、追加点を挙げた。

繋がった打線は茜に4打席目をもたらした。自分で0を積み上げて来たこの試合にトドメを刺したい茜は、ランナーがいない7回の表攻撃。

「重っ」

いつも使う軽い金色のバットではなく、和田がよく使っている黒いバットを手にとった。

「茜先輩、重くないっすか?」

「重って言ったじゃんか!重いよ!」

和田が打席に向かう茜に話しかけた。

「ほら、この打席で疲れてもー」

そう言うと茜は5回以降、攻撃の時に投球練習をブルペンで続ける青木を見て、

「やっぱ、なんでもなーい」

強者は多くは語らないとはこういうことなのか?と、半ば強引に納得した和田は青木を見た。

「青木!球走ってるよ!!」

ボールを捕球する井上の声がベンチにも聞こえて来た。

「負けてらんねぇ…」

それを聞いた和田は今自分にできる仕事をしようと、

「茜先輩、楽に振っていきましょーー!!!!」

大きな声で茜の背中を押した。

いつもより重いバットに体を持っていかれないように注意をしながら、ノーステップで初球からフルスイング。

(ガキーーン)

重く低い音を響かせ、弾き返した打球は右翼手の頭をノーバウンドで越えていき、茜は2塁へ。明らかに走りすぎで疲れているのが敦史にはわかった。打席に向かう前に、監督へ青木へのスイッチを申し出た。

7回裏、大量得点の後押しのなか、茜に代わり青木が登板。茜は明日の試合のことを考えベンチへ。

「青木、頑張れ!!」

茜からのエールがしっかり耳に入る。青木は茜に頷いて見せた。

この回に入ってポツポツと雨が降り始め、投球が不安視されるなか、茜とは違った球質のストレートで3人をピシャリと抑え、城戸中は初の全国決勝へと駒を進めた。

試合が終わる頃には本降りになった雨。

思いがけず、決勝戦は明後日へ持ち越された。


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