恋は直球、届け白球   作:最強エースあかね

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第12話

涼介と美優を見送って、2人は宿舎で作戦会議を始めた。そこには西村、高柳、加藤、菅野と3年生スタメンが集まった。

「芹那たち送って来たのか?」

「うん。遅くなって悪かった」

高柳ら3年生選手は、美優たちが学校をサボって来ていることを敦史から知らされている。

「遅くなったことは気にするな。試合はしっかり見て来たんだろ?」

「もちろんだ」

すると菅野が身を縮ませ言う。

「打球強そうだよね…」

「左打者も多かったし、ガノのところには飛びそうだな」

ガノというのは、菅野の愛称だ。

「左だけじゃなくて、右の流し打ちも警戒したほうがいいだろ」

西村、加藤が菅野のポジショニングのアドバイスをする。しかし、真面目に悩む3人に対し茜が口を開いた。

「打たせなきゃいいんでしょ?」

「おい」

「また始まったよ」

菅野、西村が茜の発言にため息をつく。

「いやいや、この相手こそ茜ちゃんの奪三振ショーを開催するべきでしょ」

その言葉に敦史も乗った。

「それは一理あるな」

茜の意見に敦史が乗ることはそうない。茜を除いた4人は驚いた。

「今回はスプリットが有効だと思うよ」

「高めの球に手を出してる奴もいたな」

「勝負は5回までかなー」

「早めにコールドしておいたほうが良さそうなのは確かだな」

どんどん進んでいく会話を高柳が抑制する。

「2人とも1回落ち着け。打撃の策も立たなきゃいけないってことか?」

「『も』じゃないよ。『だけ』だよ」

「は?」

茜が高柳の言葉を直すが、その意味をなかなか理解できないでいた。

「だ、か、ら!!」

まだわからないのかと呆れる茜。強めにそういうと続けた。

「打たせないって言ってんじゃん」

「!!」

いつものアホっぽい可愛らしい目ではなく、冷静に獲物を狙う狼のようにゾッとさせる雰囲気。

「まあ松原の組み立ては俺に任せろ。お前らは、ガンガン打ってくれればそれでいいようにする」

「守備はどうする、名古谷?」

「いつも通りでいいよ。松原は、部屋に戻って休んでおけ」

さらっと悩んでいた守備のことを片付けた敦史。茜を部屋に戻し、一息ついた敦史は期待する表情で言った。

「観戦してる時からさ、あいつ強気だったよ」

「松原がか?」

「自信満々なのは、いつもそうだけどさ…」

敦史はあまり表情や言葉で茜のことを表現しないのだが、今日は機嫌がいいようだった。

「あいつ、ピンチの時とか全く違う目をするんだ。その時の球は受けていて信じられないくらい気持ちがいいんだ」

そういって茜の投球を思い出し、ついニヤつく。

「観戦中さ、あいつ大阪代表の方がいいって言ってた。だからわかんないけど、大丈夫だと思う。」

「らしくないな。根拠がないじゃないか」

高柳が感情論に走る敦史を問いただす。

「すまん。でも明日はやれる気がするんだ。だから守備はいつも通りでいい」

「まあ名古谷が言うならそうする。グラウンド内の指揮官はお前だからな」

「ありがとう、高柳」

「いつも通り指示をくれよな」

西村も高柳に続いた。加藤も菅野も頼んだぞと敦史の策に乗る。

「明日、頑張ろうな!」

団結が高まった3年生スタメンは明日の大阪代表戦に向かう。

 

 

 

9時から始まる大会2日目、1回戦から城戸中の出番だ。

「調子はどうだ」

グラウンドでキャッチボールをする茜に敦史が声をかけた。

「眠い」

「そういうことを聞いてるんじゃない」

「ほら、見てみて」

そう言った茜は打撃練習をする大阪代表を指差した。轟音響かせ、打つ姿を見て言う。

「気持ちよく空振り三振とれそうじゃない?」

「そうだな、」

「配球お願いね」

「任せろ」

茜の調子を確認した敦史はしばらく相手チームの打撃練習を見ていた。

 

1日目と変わらないスタメンで挑む城戸中。後攻めで守備につく城戸中は、それぞれ声かけをし先発の茜を鼓舞する。7球の投球練習を終えた茜は敦史から出るサインを待つ。

初回は内角高めストライクゾーンギリギリを決め球に構成する大胆な投球。ボール1つ分でも真ん中へ入ることが許されない中、持ち前の集中力と1番の武器であるコントロールを存分に発揮する。

「ストラァイク、バッターアウトォ!!」

三振は1巡目では1つのみ。それ以外を内野フライ、外野フライ。球威と打ちづらいコースでフライの山を築き上げる。

「よし、変化球ガンガン使っていくぞ」

3回を終え、ベンチに戻った敦史は茜にサイン変更を告げる。

「速い系多投?」

「中心はそうなるな。しかし緩急があればもっと楽にやれるだろう」

「じゃあ、チェンジアップ?」

茜は得意球の変化球を提案するが、敦史には違う考えがあるようだった。

「それは昨日見せたから、研究されてる可能性があるからスローカーブでいこう」

「研究しても打てないし」

「予防線張っとくんだよ」

「へーい」

しぶしぶ敦史の意見を聞いた茜は、自分の打席が目前に迫り、打撃の準備に入った。

この3回裏の攻撃は、9番の菅野から始まる。粘りに粘り、四球を選択。ランナーを1番西村のバントで進めると、打席には茜。

「お願いしまーす」

バッターボックスに入った茜はいつも通り審判、捕手に挨拶をする。1.2球は見送り、ボールが2つ続く。先取点が欲しいこの回、茜はバットを長く持ち、長打を狙う。3球目、真ん中に抜けたスライダーを弾き返し、前進するライトの頭を越えた。

「無理すんなよ!」

ネクストバッターサークルから敦史の声が飛ぶが、打った茜は2塁ベースを蹴る気満々で走り始めた。

「あいつ…」

茜は快速飛ばし、3塁へスライディング。セーフのコールにバッターボックスに入ろうとする敦史に拳を握ってみせた。せめて楽に返してやろうと敦史は集中する。

(カキーン)

十八番である右打ちで綺麗に右中間を抜けるヒットを放った。

追加点をあげた城戸中は後半戦の守りに着く。茜は投球練習中も三塁打の疲れを見せず投げ込んだ。この回から変化球による奪三振を狙うべく配球を組み立てた敦史は、サインを出した。迷いなく縦に首を振った茜は、いつも通り早めのテンポで投球を始めた。

「ナイスピッチング!」

茜の奪三振ショーの始まりにバックが声をかける。3人をパーフェクトに抑えた。

茜の快投に乗りたい打線は、この4回は下位打線から始まる。勢いに乗り、初球からどんどんミートして行く。

「早く決着したねー」

「思ったより投手が柔かったな」

終わってみれば、繋がった打線は4回までに12得点を挙げ、5回の表を茜が3人で締めて城戸中は3回戦へ駒を進めた。

「結構余裕じゃない?」

「慢心するな。まだ4回くらい戦うんだ」

「ちょっとくらいしても面白いでしょー」

茜が余裕を見せる中、敦史はチームメイトにすら隙を見せない様子で、ここまで打率.800越えとチームを勝利へ導くメンバーであることに変わりはない。

「完全勝利が1番面白いと俺は思うぞ」

「それエースに言う?理想高すぎだからー」

「お前ならできんだろ」

その言葉に少し間を開け、茜は返答した。

「まあそれもそうか」

 

 

 

「この2試合の成績だけではまだダメですか!?」

「コールド勝ちで、打撃が目立っているな」

「まあ、この打撃力も彼女が中心に回っていることに変わりはないか…」

上層部でも茜の実力を高校野球へつなげようとするものがだんだん増えて来た。

「決勝まで進めないようじゃ期待外れだがな」

まだまだ認められない者もいるが、着実に次のステージへ近付いている…


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