恋は直球、届け白球   作:最強エースあかね

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第11話

全国大会1回戦の相手は、群馬代表。しぶとい打撃が持ち味のチームだ。このチームは、茜対策として徹底的なクサい球カットの練習を重ねてきている。

「今回、遊び球はないからな。5回は投げきろうな」

「え、完封でしょ?」

変化球多投が予想される試合で、疲労を考えた敦史の配慮に茜は当然のように否定した。ついこの間まで球数を気にしていた茜は、頻繁にマウンドに立ったことが引き金になったのか思考が1年前に戻っていた。

「肘やるぞ、お前」

「うっ…」

敦史がクギを刺すと思い出したかのように反応をみせた茜。

「まあまあ、試合当日の調子でみようよー。完封いけるかもしれないしー」

「それもそうだな」

事前に発表されているスターティングメンバーは、

① 中 西村

② 投 松原

③ 捕 名古谷

④ 一 和田

⑤ 遊 高柳

⑥ 左 加藤壮

⑦ 三 清水

⑧ 右 加藤和

⑨ 二 菅野

 

そして向かえる1回戦。岡山で行われるこの大会。ベンチ前の掛け声を終えてマウンドに立った茜は、プロ野球公式戦で使用されたことのある球場の雰囲気を堪能しながら投球練習を始めた。いつもはマウンドでは口角すら上がらない茜だが、またここで投げられるという高揚感でつい上がってしまう。

「プレイボール!」

プレイボールとともに茜目当てに来ている野球ファンも含め、スタンドにいる観客が湧き立つ。その歓声に物怖じせず茜は敦史のサインを見て投球モーションに入った。この夏、連勝街道に乗ったオリックス金子千尋と瓜二つのフォームでリリースはギリギリ。放たれる真っ直ぐは、標示よりも明らかに早く見えた。序盤は真っ直ぐ中心、ストライクゾーンから離れることなく投げ込んだ茜。群馬代表は三振はしないものの、凡打の山を積み立てていった。

一方、打撃面では4番の和田が絶好調。ワンアウトからフォアボールで出塁した茜を敦史がライトへのシングルヒットで三塁へ進めた一回の攻撃。回って来たチャンスで先輩の作ったチャンスを無駄にするかと内角に入るシュートボールを振り抜いた。芯に乗った打球は大きな弧を描き、外野の頭を越えていった。二打席ではツーアウトランナー2塁からライトへ引っ張るバッティングで得点をもぎ取った。チャンスで活躍する2年生4番打者はチャンスを作り上げる3年生に引けを取らない輝きようだ。

茜は4回以降ヒットでランナーを背負うことがありながらも要所を得意のチェンジアップと真っ直ぐの変幻自在の緩急でピンチを切り抜け打者にいい流れをもたらす。

当初のデータ通り、際どい球は積極的にカットしてくる群馬代表は三振はしないものの茜のじわりと変化するカットボールやツーシームを外野まで跳ね返すことができずにいた。球数を投げさせたものの1点も奪うことができなかった。6回を80球で投げ切った茜は7回はライトの守備に着き、マウンドには青木が上がった。青木は茜よりも球質の重いストレートで凡打を3つ生み出し、完封リレーで城戸中を勝利に導いた。

試合終了後のクールダウン中、茜はすこし不満があったようだ。

「完封いけだじゃん」

「青木も投げさせたかったんだよ。当初の予定よりも1回多く投げたんだからいいだろ」

「ちぇー」

肘を痛める前より聞き分けの良くなった茜に成長を感じる敦史だった。

「じゃあ次の試合見にいくぞ」

クールダウンを終えた敦史と茜はスタンドへ向かい、次の対戦相手になるであろうチームの試合を見ることにした。

対決するのは投手王国の宮城代表、豪打の大阪代表。宮城代表は1年生を含めた6人の投手を細かく起用する。突出した選手はいないものの、全員に内角を攻める勇気がある。一方、大阪代表は軟式野球にも関わらず、フェンスを越える打球を放つ選手が数多く在籍する。すでに府内有数の強豪高校に入学を決めているものもいる。

「敦史、茜!こっち、こっち」

スタンドに着いた2人を呼んだのは、観戦に来ていた美優だ。横には涼介もいた。学校の授業をサボって岡山までわざわざやって来た美優と涼介は伊達メガネでしょぼい変装をしていた。学校の関係者にバレたら大変なことになるだろう。最初は来なくていいと言っていた茜と敦史。どうしても来ると聞かなかった美優と涼介は勝手に今日だけとやって来たのだった。試合前にそれで動揺しそうになったがなんとか試合ムードが押し勝った。2人の姿を確認した敦史と茜はそれぞれの相手の横に向かった。

「あーちゃん、ナイスピッチングだったね」

「完封いけたのになー」

「その話はもう終わっただろ」

「敦史が変える指示だしたんだー」

「いや監督も合意の上だってば」

「名古谷くんも大変だな」

「ちょ、上原くんまで!!」

たまに一緒に出かけるだけあって、テンポの良い掛け合いが自然と始まった。

「ほら、そんなことより試合!」

茜が3人に向けて言った。

「言い出しっぺは松原じゃないか」

「まあまあ」

少しいじけた様子の敦史を美優がなだめる。

そして、試合が始まった。宮城代表がテンポよく大阪打線を封じ込めるが、貧打の宮城代表もまたテンポよく打ち取られていく。

「どっちが上がって来た方がやりやすいの?」

涼介の疑問に2人が答える。

「あたしは大阪ー」

「いや宮城だろ」

早速意見が割れた。

「あーちゃんはなんで?」

「だって、大阪の投手は打てそう!」

打ち勝つ野球をしようというのだった。一方敦史は、貧打の宮城を抑え、投手戦をしようと考えていた。

そして試合は早くも6回裏の大阪代表の攻撃、4番から始まる。フォアボール、犠打とノーヒットでチャンスを築き上げた。宮城代表はここで5人目の3年生が登板。左対左の勝負に大阪代表もたまらず代打を起用。これまた3年生だ。最後の大会に力が入る両者。2ストライク1ボールからの3球目、渾身のストレートを内角低めに決めて見逃し三振。この投球に思わず拍手を送る茜。

「とんでもない球投げるのね」

「右にも動じないところは、さすが3年生ってところだな」

続く打者も三振に打ち取り、宮城代表はピンチを脱した。しかし、次の攻撃ではやはり打線が続かず、あっさり大阪代表に明け渡した。そして最終回、大阪代表は8番の1年生が初球をスタンドに運び、サヨナラ勝ちを収めた。

「あっさり決まっちゃったね」

「このチームと戦うんだぞ」

「わかってるってばー」

明日、2回戦大阪代表との試合が決定した。


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