君が為のヒーローアカデミア   作:潤雨

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ミッシング入学式

 

 

 

登校初日である。

登校初日と言ったら友達100人出来るかな?と理想を持った子供がコミュ力の差により理想に破れ、スクールカーストと言う格差社会へ投げ込まれるイベントである。

まぁ、一般のヒーロー科なら兎も角、雄英のヒーロー科に受かる様な人間にその手のカーストを良しとする者は中々居ないだろうけど、初対面の印象と言うのは大事だ。

初日に話しかけて来た人間は印象に残るし、仲良くなればそのまま友人へと移行できる。

そんな訳で、

 

「君が轟焦凍?俺、衣嚢蒐人。よろしく」

「何だ、お前」

 

難易度ベリーハードの挑戦してます。

 

 

 

俺が雄英に潜入なんて言う事やらかして居るのは、何も好きだった漫画を側でみたいと言う野次馬根性だけでなく、ちゃんとした目的がある。

 

それは、対AFOの一環であり、AFOを打倒するだろう緑谷出久の監視と原作の流れが変わり、AFOが倒せないと言う事態にならない為に介入する事である。

 

詳細は省くが、俺以外にも転生者と言うのは存在している事が確認されており、その存在によって原作が大きく変わるのを防ぐ必要がある。その為には他の転生者よりも近くに居ることが望ましい。そして、それには主人公のクラスメイトと言う立場は適していた。

しかしかと言って、近づき過ぎても悪影響を与えてしまう自信が有る為に友達の友達と言うポジションを狙うことにしたのだ。

主人公のライバルにして友人、ヒーローに心を救けられた者。そんな彼をターゲットにして・・・

そうターゲットは現在、俺が話し掛けた相手、轟焦凍である。

 

轟焦凍、緑谷出久の友人になる少年。

あえて非人道的な表現をするならば、強個性同士の交配(・・)によって作り出された存在。

それだけならよくある不幸なお話だが、今の彼にとって不幸なのはその個性を自在に扱えるだけの才能があった事だろう。子供の頃から受けてきた英才教育や、不本意な高い目標、様々な歪みが奇跡的なバランスで重なり、高校1年生と言う現時点でさえプロに通じるレベルになっている。

その歪さは呆れてしまう有様ではあるのだが、今までの彼は取りあえず置いておき、これからの彼は緑谷出久と関わり変わって行くのだ。

その変化には緑谷出久が関わり続ける以上、轟焦凍を観測する事で間接的緑谷出久の観測も行える。

 

それに、現在で確認が出来ていて原作に介入して来る可能性がある転生者の傾向として、轟焦凍の様なタイプが狙われやすいのでそれを防ぎたいのもある。

いや、アレに襲われたら本気で洒落にならないので何とかしたい。

兎も角、色々な理由でクラスで最初に声をかける人間を轟焦凍にしようと決めた。

 

 

しかし、恐ろしいまでの絶対零度の関わるなオーラ。まだ笑顔を取り繕えるレベルだが、コレは酷い。

 

「何だ?ってクラスメイトだよ。よろしくね」

「此処じゃ、別に仲良しこよしなんてしなくて良いんだろ?」

「しなくて良い事は楽しい事だよ?しょうと君。」

 

返ってきた拒絶を笑顔で躱す。

突然の名前呼びに本気で煩わしそうにこっちを見た。その目は一体何が憎いのかと聞きたくなるほどに淀んでいて、見られるだけで睨まれていると錯覚しそうになる。

 

「俺はしゅうとで君がしょうと。ニアミスな名前を見つけて、コレはもう話し掛けるしかないなって思ってね」

「くだらねー」

 

とびっきりおどけて言ってみると、吐き捨てる様に言われてしまった。

しかし、この程度でめげる程『ヒーローを目指す衣嚢蒐人』は脆い設定ではない。

 

「人と仲良くなる理由なんて、くだらない理由で良いんだよ。つまらない理由よりはだいぶマシだ。」

「・・・」

 

誰かに歩み寄るときは、親がどうとか、力がどうとか言うつまらない理由より、くだらないけど笑える理由の方がきっと良い。

まぁ、俺が話しかけてるのって打算の上でのつまらない理由に分類されるのだが、そこら辺は知らないふりがズルい大人の処世術である。

 

ヴィランとしての本音を笑顔で隠し、言葉を続けようとするが、入り口の方で騒がしい声が聞こえてくる。

どうやら緑谷出久がやって来たらしい。潮時と見なして、轟焦凍に軽く別れを告げて自分の席の方へと移動した。

 

その後は特に面白味も無く体力テストが行われた。そう、体力テストだ。俺にとっては個性把握テストになんてなり様が無かった。

俺の個性はポケットに入れている道具を幾らでも取り出せるのが利点であり、個性は許可されても道具の利用が許されない(八百万百のは個性で作られた道具なので可)殆ど個性の活かせない俺にとって通常の体力テストと変わらない。

その為、どの種目でトップを取る事も無く終わってしまった。

気になる事と言えば、

 

「合理的虚偽だ」

 

その言葉を言ったイレイザーヘッドがコッチを見ていた事だ。

原作通りだったから気にしてなかったけど、明らかに俺に不利なテスト、最下位は除籍と言う宣言。

もしかしてバレてる?確証は無いが疑わしい生徒を、実力の発揮出来ない試験で除籍処分にしようとした?

まさかね・・・

 

 

 

 

 

切島鋭児郎と自分の名前が合格通知で呼ばれた時の感動は未だに忘れられない、けど、憧れの学園生活の初日がコレってどうなんだ?

 

割り振られた教室の自分の席に座って見れば、机に足を投げだして座ってる奴とそれを注意する奴、怒鳴り声に近い声は初日から聞きたいもんじゃ無い。

いや、ほぼ全員が席に着いて気まずい沈黙に耐えてる現状で良くやるなとは思うが、あの勇気は真似出来ない。

そんな中でまた新しく1人教室に入ってきた。峰田って奴よりは高いが小柄な男子、ヒーローに憧れる奴ら羨望の雄英高校に入学し、その初日だって言うのにそれを全く気にして無いように歩いている。

そして、張り出されている席と名前の一覧を見るなり、既に座っている1人の生徒の方へと歩み寄っていく。

 

「君が轟焦凍?俺、衣嚢蒐人。よろしく」

「何だ、お前」

 

よりにもよってな奴に声を掛けた。

クラスの中でも一際近寄り難い空気がある轟に、なんの躊躇いも無く話し掛けて言ったのだ。直後に返された明らかに不機嫌そうな声にも衣嚢は一切怯まず言葉を続ける。

 

「何だ?ってクラスメイトだよ。よろしくね」

「此処じゃ、別に仲良しこよしなんてしなくて良いんだろ?」

「しなくて良い事は楽しい事なんだよ?しょうと君。」

 

本当に楽しそうに言う衣嚢、同い年のはずなのに、年下に見える衣嚢の無邪気な言葉に、轟も怯んでいる様に見えた。

 

「俺はしゅうとで君がしょうと。ニアミスな名前を見つけて、コレはもう話し掛けるしかないなって思ってね」

 

それを聞いて思わず吹き出してしまった。そんな理由なのかよ!それだけで気まずい空気の中を突っ切った姿は、とても漢らしい物に思えてきた。

 

「人と仲良くなる理由なんて、くだらない理由で良いんだよ。つまらない理由よりはだいぶマシだ。」

 

にこやかな笑顔と共に出された言葉は確信と自信に満ちていて、その上楽しそうで、オールマイトの様にその言葉だけで人の心を震わせるような魅力があった。

直後、先生が来てしまったせいで話は途切れてまったようだがもし話し続けていたらどうなってたのだろう?

 

その後、突然の個性把握テストと言う個性アリの体力テストが始まった。

氷や爆発、創造なんて言う華やかな個性持ちが活躍している中、俺はそこまでの活躍は出来て居なかった。

個性で硬化した体を武器にするから鍛えてはいるが、硬化が役に立つ種目が少ない所為でパッとした活躍が出来ない。

そんな俺を尻目に、さっきのやり取りから気になっていた衣嚢は小柄な体からは想像も付かないような身体能力で1位こそ取って居ないが常に上位に食い込んでいる。

 

「さっきから見てたけどスゲーな!さっきから5位以内には入ってんじゃねぇか?」

「え?」

 

思い切って話しかけてみると、衣嚢は一瞬不思議そうな顔をした後、ありがとうと笑った。声変わりの途中か、したてのような少し掠れた高めの声だった。

 

「大抵の種目で個性が全く使えないから結構必死なんだけど、全然上手くいかないね。一つもベスト3に入れないて無いし」

「えっ?個性使ってないのかよ!?益々スゲーな!」

「けど、切島鋭児郎君だって似た様なものでしょ?」

 

言いながら、ポケットから明らかに入りきらない大きさのペットボトルを取り出してがぶ飲みする衣嚢。

 

「それがお前の個性か?」

「うん、『ポケット』って言って俺は何でもポケットに入れられるし、どのポケットからでも取り出せる」

 

そう言いながら俺のズボンのポケットから衣嚢が飲んでいるのと同じペットボトルを取り出して見せた。便利な個性だが、確かに今回の様なテストだと使い所がない個性だ。

 

「まぁ、使い所が無いなら良いんだ。それはしょうがない事だし」

「へー、割り切ってんだなぁ」

 

その個性の持ち主から飛び出して来た言葉は、活躍出来ない事を歯がゆく思って居た俺からかけ離れた言葉だった。

 

「応用が利く個性でも、それが使えない時もある。どんな時に自分の個性が役に立たなくなるか、使えなくなるかを知るのも応用の内だよ。

・・・あれ、説教臭い?」

 

指をくるくると回しながら説明していたのに、首を傾げるおどけた仕草と共に言葉を区切った。

 

「そんな事はねぇよ。けど、そんな考え方も有るんだな」

「そう言って貰えると嬉しいな」

 

ニコニコと無邪気に笑いながら言う衣嚢、その顔がこれからボール投げのテストを受ける奴の方を見たまま固まる。

 

「現在順位最下位。身体は鍛えてあるのに身体の動かし方が出来てないね」

 

勿体無いと言う様に呟かれた言葉、それが向けられたのは入試で0Pヴィランを殴り飛ばした緑谷だった。

今回のテストなら最も分かりやすく活用出来る身体強化系の個性を持っているはずなのに、それを使った様子も見られない。本人も焦ってるみたいだし、手を抜いている訳じゃなさそうだ。

1投目、また個性は使用していないのかと思ったが、先生の個性によって消されたらしい。

その説明後、2投目。

最初の個性無しでの投擲を見ているからかなおの事、その個性の強化性能がどれだけ強力かがわかってしまう。反動で腫れ上がった指に涙目になりながらも、動ける事を先生に吠えてみせる。

漢らしくて格好良いじゃねぇか!

 

「うわぁ、痛そう」

 

そんな興奮も隣からの無感動な一言で冷める。自身の身を省みない献身、ヒーローを目指すなら憧れるモノを前にして、横にいる幼くさえ見える少年は全く心を動かされなかったのだ。

だから、まるでテレビの向こうで事故の動画を見ているかの様な、無責任にさえ感じる感想が口から出てきた。

思わず横を向き、その顔を確認して瞬間、背筋が凍った。その横顔に浮かぶのは痛ましい物を見たようなやるせ無い顔で、そう、憐れんでいるのだ、緑谷を、緑谷の行動に心動かされた俺達を。

その瞳に一切の光を感じない、それなのにそこに闇を感じる事は無い。深すぎて光の届かぬ深海の様な、引きずり込まれる錯覚さえ覚える瞳。

揺るぎない瞳を見ているうちに、俺達が可笑しいのではないかと言う不安が胸を占めていく、もし俺達が間違っているなら正しいのはコイツで、そして・・・

 

「どうしたの?」

「えっ?」

 

いつの間にかこっちを見ていた衣嚢が声をかけて来た事で正気に戻る。こちらを見ている目にはさっきまでの可笑しな様子は無く、ごく普通で、今まで夢を見ていたんだと思いたくなる。

 

「あ、あぁ。大丈夫だ」

「凄かったもんね。緑谷出久」

 

普通の感想を言われて、曖昧に頷く。緑谷の活躍は、衣嚢の瞳に塗り潰されて上手く思い出せなくなっていた。

 

 

 




U.A.FILE.××× 断章
SYUUTO INOU

個性:ポケット
ポケットを亜空間と繋ぎ、どんな物でもポケットに入れる事が可能で、どんなポケットからでもポケットに入れた物を取り出す事が出来る個性。
亜空間はPCのフォルダの様に分類されていて番号と名前が振られている。


蒐人's瞳
絶望的なヴィランの目
オールマイトの瞳が平和の象徴としての矜持で輝きを放つ様に、ステインの眼が静かに燃える炎を幻視させた様に、自身こそが絶対であると言う揺るがぬ意思により、見る者に「自分の方が間違って居るのではないか」と言う不安を与える底無しに暗い瞳。
普段は隠せて居るが、些細な事で表に出てくる。見た者はアイディア判定を行い、成功すると異常な思考の一部を読み取ってしまいSANチェックになるラスボス仕様の瞳である。

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