「くっそぉ……。箒のヤツ、どこに行ったんだよぉ……」
そんな嘆きを口に出して、俺は学園を見回っていた。
現在の時刻は放課後。ホームルームが終わって箒と話し合おうと思ったんだが、すぐに教室を出ちまった。声をかけたんだけど、その表情は何だか悲しそうな顔を一瞬だが見てしまって、その躊躇が箒の行動に繋がってしまった。
そんで暫くその場で動けなかったんだけど、俺はすぐに教室を出て辺りを見渡したが、箒はすでにどこかへ行ったあとだった。いなくなるのが早いから、恐らく走ったんだろ。さすが剣道全国大会優勝者。俺と違って体力面は強いと思わされたさ。
そんなことを考えていたが、今日は箒と一言も話せなかった。探すのも難しそうだし、こうなったら、明日にでも教室で話そう。なのでこの放課後、学内にあるいろんな設備を見て回ろう。その途中で箒と出会えばラッキーだ。
「それにしても広い敷地だな。地図を見ても1日で全部は難しそうだ」
そう呟きながら、俺は本校舎にあった受付から貰った学園案内の地図を見て移動していたが、IS操縦者の育成に長けていることもあり、その設備もやけに金がかかっている。
主に学生が使う場所は次のとおりだ。
俺のクラスがある『本校舎』。各教室は他の高校より多く、体育館や部活動の教室もそこに含まれる。
生徒や一部の教員が住む『寮スペース』。全寮制なので俺も厄介になるが、政府の説明じゃあ部屋が決まってないらしく、1週間まで自宅通いだ。
1週間後の決闘が行われ、尚且つ実技の授業を取り込む各アリーナがある『実技スペース』。各アリーナに隣接する形で整備室があり、2年生から始まる整備科のための設備がある。
「ここがそうか」
そして最後が、俺が今いる場所の建物。時々2、3年生の先輩たちが俺を見て通りすぎるけど、気にしないで建物を見ていた。
整備室以上のISの本格的な開発、整備を行う場所の『開発スペース』。ここの使用は整備科が始まってから使えるらしいので、1年生が使うには整備科の生徒を伴わないといけないらしい……と、地図に書かれている説明から。
(まあ、
IS学園の警備システムは世界屈指と言ってもいい。各国から来た有望な生徒や代表候補生の保護のために必須で、移動しながら見かけたけど、庭剪定兼警備用昆虫型ゾイド『リルガ』が数体、芝生を綺麗にしていた。
リルガとはイモムシを模した数十センチ程のゾイドだ。機体の腹部の剪定刃で芝生を刈る他、頭部先端には不審者捕獲用のトリモチを噴出する機能がある。その元となった『モルガ』と呼ばれるゾイドがいるけど、あっちは広大な土壌での作業で活躍している。
まあ、見た目がイモムシだから、虫嫌いな女子が見たら卒倒してしまう可能性があるんだけど、じっちゃんの作ったゾイドでは好評なんだぜ。リルガは警備要員として、モルガは環境保護団体とかが荒れ果てた地を耕したりするのに便利だとかで……。
おっと、話が逸れてしまった。開発スペースを使う際、先輩を伴わなくて済む抜け穴とはーー
「し、獅子蔵くーん!」
「へ?」
ーーって、俺を呼ぶのは誰ですか?
呼ばれた方へ視線を向けると、少し離れた場所を副担任の山田先生が駆け足でやって来ていた。
「はぁ、はぁ……っ!」
「……………」
見ているこっちがハラハラする足取りだが、それ以上に俺の視線は山田先生のたわわな果実に釘付けだった。うーん、デカい。おふくろと比べると、おふくろがかわいそうになる程デカい。多くの男子なら前屈み必須ですよ。
そんな下品な考えをしている中、ゆっさゆっさと果実を揺らす山田先生が、俺の近くへとやって来た……………ふぅ。
「さ、探しましたよぉ……」
「……ふぅ。山田先生、俺に何か?」
俺は山田先生に声をかけるが、急いでたこともあるのか、未だに肩で息をしている山田先生。その際の小さな上下の揺れもエロいね。走ってる時の大きな揺れもエロかったが、この人は無自覚で異性を誘っているのか?
「……とりあえず落ち着きましょう。深呼吸して、はい。ヒッヒッフー」
「ひっひっふー……………って、それは深呼吸じゃないですよねぇ!?」
「アッハッハッハッ」
定番のツッコミありがとうございます。とりあえず、どんな話なのか訊いてみよう。
「ところで、何かご用ですか?」
「えっとですね、寮の部屋が決まりましたので、部屋の鍵を渡しに来たんです。織斑くんと一緒にいると思ったのですが、教室にいなかったので探したんですよ」
そう言って、俺は山田先生から部屋番号が書かれたメモと部屋の鍵を受け取った。
「あーそれはご丁寧にどうも……………って、あれ? 部屋が決まるのはまだ先ではなかったんですか?」
「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として無理矢理部屋割りを変更したらしいです。……あ、獅子蔵くん。すみませんが少し屈んでくれませんか?」
「あっはい、どうぞ」
「ありがとうございます。……その辺りのことって政府から聞いてます?」
すると、山田先生は辺りを見てから俺へと耳打ちした。
背丈は平均っぽいが、顔つきが幼く感じるからか低い印象を受けるな。まあ、俺の背丈は一夏より若干大きいから余計に感じるし、何より耳打ちの前に屈むように指示するなんてーー天然だろうけどーーあざとすぎじゃないんですかねぇ?
そんなことを思いながら、暫く俺は山田先生に耳打ちで説明を受けていた。
「そう言うわけで、政府特命もあって、とにかく寮に入れるのを最優先したみたいです。ですが無理矢理の部屋割りだったので、織斑くんと一緒に出来なかったらしくって……」
「それじゃあ、一夏と一緒の部屋は落ち着いてからですか?」
「はい、そうですね。すみませんが、1ヶ月以内には部屋が用意できますので」
「特に構いませんよ。……それより山田先生。そろそろ耳打ちは止めませんか? 耳がくすぐったくって」
まあ、実際は先輩たちの視線が俺たちに集中してるせいなんだけど。
「ふぇえっ!? あっ、いや、これはそのっですね。わざとじゃないんですよ……!」
「分かってますよ。寧ろ山田先生みたいなかわいい人に近寄られて、男なら嬉しく感じますって」
「かわ……っ!? も、もうっ。大人をからかってはいけませんっ! せ、先生、男の人に初めてかわいいだなんて、その……」
怒ったと思ったら、途中何やら妄想してるのか、いやんいやんと体を動かす山田先生。両頬を両手で押さえている結果、胸が腕に挟まれてすっごく強調してやがる。目の保養です。本当にありがとうございます。
(しかしいきなり部屋が決まったか。今から家に帰って荷物を取りに行くとすると、開発スペースの見学は今度だな)
妄想してる山田先生をひとまず放置して俺は考えていると、俺のスマホから着信音が響いた。画面を見ると、相手はじっちゃんだ。
「山田先生……って聞いてないか。じゃあ……………もしもしじっちゃん?」
『おお、ユウ。学園はどうじゃった?』
山田先生から少し離れた場所で、俺はじっちゃんと話を始めた。
「授業も面白かったよ。それにしてもどうしたの? 連絡なんて」
『いやぁ、IS学園を通して政府がユウと一夏くんの自宅通学が急遽変更したらくての。ユウの荷物を超特急で学園に送ったんじゃよ』
「そうなんだ。荷物はいつ頃に?」
『ベンジャミン自ら運んどるからの。すでに届いてるか、学園の正門で待っとるかのどっちかじゃ。因みに不審者扱いに関しては問題無いぞ。ボクの研究員の証明書を見せれば大丈夫じゃし』
「そうだね。学園の建築に多くの出費と手助けをじっちゃんは行ったしね」
学園案内にもじっちゃんの名前が記載してるしね。
「荷物のことは分かったよ。ベンジャミンさんにもお礼言っとく」
『うむ。要件も伝えたし、ボクも開発に戻るわい。……まったく、ISに代用する装甲を開発しろとは、国連もめんどーー』
最後のぼやきは聞き取れなかったが、じっちゃんの口調から察して乗り気じゃないようだ。何を開発してるのか気になるが、俺は荷物を取りに学園の正門まで行ってみるか。
その前に……。
「山田先、生……」
「だ、だめですよぅ、獅子蔵くん。私とあたなは、その、先生と生徒なんですよ? その、こんな行為はお互いにもっと知り合ってから……(クネクネ」
「……………」
仕方ないので、俺は山田先生を置いて正門まで行くのだった。因みに、荷物の方は初老の用務員の人がベンジャミンさんから受け取ってくれたので、俺はその荷物を受け取っては寮へと向かったのだった。
(一体誰だろうな、相部屋の相手って……)
そんな考えをしたからなのか、後に相部屋の相手と出会い、俺は驚くのだった。
この作品のゾイドのサイズに関しては、原作サイズに合わせてないです。まあ、IS化のゾイドなんてサイズそのものが意味無いですが!(暴挙)