(やっと終わるなぁ……)
これほど濃密な1日は滅多に体験出来ないことと、やっと解放される期待で、俺は内心ホッとする。
今は最後の授業が終わってホームルームの時間。入学式早々の授業だったが、ISに関する知識を再認識させられた。じっちゃんたちの教えも分かりやすいけど、本場の教えも同じくらい分かりやすく丁寧だ。
とはいっても、疲れを感じることも多々ある。休み時間に多くの女子に質問攻めされたりーー好き嫌いや趣味といったありきたりなものから、じっちゃんの研究やどんな人物なのかとかーー、昼休みに一夏と一緒に学食へ行くとゾロゾロと全員ついてきて食事中でも注目されるし、いろいろと疲れて大変だった。
そのせいか、結局オルコットさんとは最初の休み時間に話したっきりで来てないし、箒に至っては昼食に誘おうとした時には教室を出てた。
(……どうして避けるんだよ、箒)
ふと、俺は後ろにいる幼馴染みを思う。今はホームルームだからいるけど、休み時間になるたびに教室を出ていくようだ。小学生の頃はそんなことしなかったけど、時間が過ぎれば変わっちまうな……。
いや、待てよ?
(……もしかして、まだ
そうだとすれば、何かと引きずることが多い性格の箒だ。合点はいくけど、まずは話しかけることはしたいな。ホームルームが終われば、すぐにでも話すぞ。
「さて、再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないとな」
俺が箒のことを考えている中、千冬さんが話し出した。一夏の方へと目を向けると、一夏は何のことだか分からないといった表情だ。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。一度決まると1年間変更はないからそのつもりで」
そんな一夏を見てたのか、千冬さんは説明していく。しかしクラス長かぁ……。
(俺としてはやりたくないな……)
開発者志望の俺としては戦闘よりも技術を身に付ける方が優先だしな。まあ、性能を示すのも大事だから実践しないといけないけど、むむむ……。
「はいっ。織斑くんを推薦します!」
「私もそれがいいと思いまーす」
「では候補者は織斑一夏……他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」
「お、俺!?」
(よっしゃ。一夏がクラス長だな)
一夏が立ち上がる中、俺は内心で女子たちに感謝。やっぱ千冬さんの弟としての期待が高まってるようだ。実際、一夏も我流で剣道を続けてるし、千冬さんには及ばないけどなかなかの腕だ。クラス対抗戦でもいい成績を残せるんじゃないか?
「織斑、席に着け。さて、他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」
「ちょ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらなーー」
「自薦他薦は問わないと言った。他薦された者に拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」
「だ、だったら俺は勇人を推薦するぜ!」
「ふぁっ!?」
いきなりの爆弾発言に変な声を出したじゃないか。一夏のやつ、千冬さんに言われながら俺の方を見てたのはこのためか!
「拒否権は……ダメですよねー」
「当たり前だ。織斑に、獅子蔵……他にはいないか?」
千冬さんが再度訊くが、女子たちに動きはない。これじゃあ俺と一夏で決めないといけないみたいだ。どうすれば一夏に押し付けられるだろうか?
「待ってください! 納得がいきませんわ!」
そんな中、机を叩く音と異議の声が響いて、俺はそこへと視線を向けると、オルコットさんが立ち上がっていた。
……そうだった。オルコットさんを推薦しとけば、押し付ける相手が増えるじゃないか。ゲスな考えだけど、俺がクラス代表にならないのならどんなことでもするぜ。
「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか!?」
うーん、この言いっぷり。嫌なら初めから立候補すればいいと思うなぁ。
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたしくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
(極東の猿て……)
さすがに癪だな。
俺自身の暴言なら特に気にしない。だけど、今の一夏を見るとイライラしてるのが分かる。まあ祖国をバカにされたんだ。気持ちは分かるしーー
「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
ーーそろそろ止めないと、
「ちょっといいか?」
そう言って俺は手を上げると、ほとんどの人が俺に注目する。オルコットさんに至っては言葉を遮られたのか、俺を睨んでるようだ。
「あんまり感情的になるなよ。見てるコッチがめんどくさい」
「めんどくさいって……あなた、わたくしを侮辱しますの!?」
「侮辱だと捉えてるのなら謝るよ。でも、そっちが侮辱だと言い張るのなら、オルコットさんのは侮辱に入らないのか?」
「う、それは……」
「それによ……日本人を極東の猿と表現したが、ISも元はその極東の猿が作ったものだ。それにーー」
そう言って千冬さんに視線を向けて、俺は続ける。
「そこに立つ人類最強のIS操縦者も、オルコットさんの言う極東の猿だ。
「そ、それとこれとは話が別ですわ!!」
「……………はぁ~……」
ため息をする辺り、俺は相当ムカついてるようだ。
それに思ったんだけど、極東の猿=日本人なら、俺の家族もその式に当てはまるってことだよな。つまり、俺の家族を侮辱したと認識させられたんだ。無茶苦茶な発想だと思うが、このムカつきは止められない。出しきるまでは止められないな。
「なあ、オルコットさん。あんたはイギリスの代表候補生だよな? イギリスの名を背負ってんだろ?」
「あ、当たり前ですわ!」
「だったら、その国の代表のあんたが、日本を一方的に貶したと理解できてるのか?」
「っ!?」
「あんたの発言は、イギリスが日本を貶めてるのとなんら変わりないんだぞ」
その事実に気付いたようで、オルコットさんは顔を青くする。俺としてはもう少し言ってやりたいが、さすがにかわいそうと思うし、ホームルームも限られてるから、このくらいにしとこう。
「……言いすぎたけど、少し落ち着こう? 話を整理して、それから話そうぜ」
そう言って俺は席に座り直し、オルコットさんも席に着いた。たけど、教室の空気が重くなってしまった。
「と、とりあえず、話を進めましょう。候補者は3人……それでいいですか?」
そんな空気を打開しようとしたのか、山田先生が場を仕切り始めた。
「さて、どうやって決めよう」
「手頃よくジャンケンでいいんじゃないの?」
一夏の声に俺は提案を出すが、千冬さんが楽しそうな笑みで発言した。
「実力が認められたらいいのだろう? 戦ってみたらどうだ?」
「織斑先生。運も実力の内とーー」
「戦ってみたらどうだ?」
「ーーあっはい」
発言厳禁ですか。まあ、あの表情をしたら断固として反対させられないしな。
「いいでしょう、言われっぱなしというのも気に食いません。決闘ですわ!」
「おう、いいぜ。四の五の言うより分かりやすい」
この人らは乗せられやすいなぁ。簡単にその意見に乗っかっちまってるぞ。
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い――いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
「そう? 何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
(あー、これは決闘フラグだよ。完全に勝負の雰囲気だ)
一夏とオルコットさんの視線が火花を散らす中、俺は内心めんどくさそうにぼやく。
勝負となれば準備期間がいるだろうな。その期間中にどれだけ相手のデータが取れるか、自分自身のデータを更新できるかで勝敗が決まる。
(とりあえず、試合でイギリス製のISが見れるだけでもラッキーと思っておくか)
いつまでもウジウジしてるより、前向きに考えておこう。ひとまず、箒の件が片付いたら準備を始めるか。
そんな考えの中、千冬さんが宣言した。
「話はまとまったな。それでは勝負は1週間後の月曜。放課後、第3アリーナで行う。織斑、オルコット、獅子蔵はそれぞれ用意をしておくように。では、ホームルームを続ける」
こうして、1組のクラス代表決定戦が決まったのだった。1週間の期間、俺は準備を始めよう。
(けどまあ、不本意だとは思うけど試合の時はよろしくな。相棒)
そう思いながら、俺は机の下で隠している腕輪に力を込めた。
因みに、ホームルームが終わった瞬間、箒には逃げられてしまった。んもうっ!