IS:Z ー若獅子は大空を駆けるー   作:仮面肆

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第2話

(……………静かだな)

 

窓際の1番前の席で、気持ちよさそうな青空を見上げながら俺は思う。

 

こんなに静かなのはなかなか無い体験だ。じっちゃんの研究所にいれば殆どが機械音や作業音で騒がしく、こんなに静かなのは自宅で1人ゴロゴロしてる時しかない程だ。

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。出席番号順で」

 

そんなことを思っていたら、教壇にいる女性副担任の山田真耶先生が、変な緊張感に包まれたこの教室で少し狼狽えながら声をかけた。

 

じっちゃんに本土まで送られてから、俺は愛用である手作りのフロートボードで何とか遅刻を免れた。フロートボードはこれまた手作りの粒子変換可能のバングルに収納して、それから入学式を受けてはこの学園……公立IS学園のホームルームを受けていた。

 

IS……正式名称『インフィニット・ストラトス』。

 

今から10年前。とある科学者が世界に発表した、宇宙空間での活動を想定して作られた。しかし一向に宇宙進出は進まず、結果スペックを持てあましたISは兵器へと変わり、各国の思惑からスポーツにと落ち着いた飛行パワードスーツだ。

 

発表当初は世界中がISの成果を認められなかったが、その中で1人だけ、その成果に拍手を送った人がいる。じっちゃんだ。

 

ISの誕生以前、ゾイドを開発して科学を大いに発展させた天才科学者。ゾイドを搬入した作業は早く、死傷者を大幅に下げては人々に様々な恩恵をもたらした。それにじっちゃんは科学者だけでなく、考古学や医療関係にも詳しく、その顔はとても広く知られている。

 

そんなじっちゃんだけが、ISを認めた。

 

人類の新たな宇宙進出の第一歩であり、その形を当時中学生だったIS開発者の努力と情熱に感動した。それだけで開発者は壇上で嬉し涙を流して笑顔だったと、俺はじっちゃんから聞いている。

 

まあ、その開発者はじっちゃん唯一の弟子で、俺の近所に住んでた幼馴染みのお姉さんで……。

 

「……………」

 

俺のすぐ後ろの席にいる女子が、その妹であり幼馴染みの篠ノ之箒(しののの ほうき)だ。

 

ってか、外を見てた時にチラッと箒を見たけど、ものっすごく俺を見てくるな。6年振りの再会で俺も嬉しいけど、何だろうな。剣道をしてただけあって鋭さが増してる気が……。

 

(授業前は一夏と話しきりだったしな。いろいろ話したいけど、1時間目が終わってからかな……)

 

そう考えた俺はとりあえず、箒に笑顔で手を小さく振った。

 

「……っ」

 

おっと箒のヤツ、目を逸らしたか。そういえば昔も似たようなことがあったな。アレは確かーー。

 

「えー……えっと、織斑一夏(おりむら いちか)です。よろしくお願いします…………………………以上です」

 

ガタタッ!

 

「ん?」

 

思い出す直前、その音を聞いた俺は辺りを軽く見渡す。多くの女子がーー教室には俺と一夏しか男子がいないけどーーずっこけていた。しかし席につきながら転けるって何気に高度な技術だな。机におでこをぶつけたり、突っ伏すなら分かるけど。そんな一夏も困惑顔だ。

 

織斑一夏。俺のもう1人の幼馴染みであり、俺がこの学園に入学する切っ掛けを作った。

 

事の発端は、一夏が高校の試験場でISを動かしたことから始まった。

 

そもそもISは女性にしか動かせない。どうして一夏が動かせたのかは知らないけど、起動させたところを学園関係者が目撃して政府に報告。全世界の男性を対象に適性検査を行った。

 

当時の俺は高校入試を終えて、じっちゃんの研究所ではまだ日が浅いIS開発部署を見学していた。主にゾイドの開発を中心にしていた研究所だけど、ISが世間に知られて大分後から着手したそうだ。

 

各国から見れば開発に携わった年月で劣るけど、そこはじっちゃんと研究員の手腕によってすぐに埋まり、今ではどこにも劣らない程の成果を出しては、各国の研究所と契約して技術を共有しているところもある程だ。

 

話しを戻そう。俺はそんな部署で見学をしてる際、研究所の中では最新鋭のISを見つけた。まだ開発途中のモノだったが、独特のフレームに剥き出しのISコアの姿に興味を持っていた。大体見てきたISは完成された姿が殆どだったから、作りかけの姿は俺にとってはレアな光景だったしな。

 

好奇心で俺はISに触れたその瞬間、忘れられない感覚を味わった。

 

頭の中に数多の情報が入る中、胸が高鳴る程の感覚。ISコアが増す輝きは、まるで長年会えなかった人との感動の再会を果たせたように思い、頬に滴が通ったのを覚えている。そんな俺の姿をじっちゃんと研究所に訪れた政府の役員に見られた結果、俺は2番目の男性IS操縦者となってしまった。

 

もしもISに触れてなければ、俺は機械関係を専門に教える高校へと入学が決まっていた。だけどそこ以上の知識と設備があるIS学園に、強制的とはいえ入学出来たのは嬉しかった。この辺りは一夏に感謝だ。お礼として入学までのISに関する勉強を一緒にしたのは、いい思い出だ。

 

そんな中、教室のドアが開いては見知った顔の女性が入室していた。

 

「山田くん。クラスへの挨拶を押しつけてすまなかった」

 

黒のスーツにタイトスカート。長身でモデルにも負けないようなセクシーボディ。鋭いつり目で腕を組む仕草なんて、どこぞの組織のボスだと言われてもおかしくないはず……。

 

「あ、織斑先生。会議は終わられたんですね」

 

そう、入ってきたのは一夏の実姉である織斑千冬(おりむら ちふゆ)さん。小学生の頃、運動が苦手だったのを理由に体力作りを行ってくれた。一夏の家は両親がいない暮らしだったから、俺のおふくろの恩をこの形で返したんだ。

 

今でも覚えてる千冬さんの厳しさ。立てば侍、座れば狩人、歩く恐怖の鬼軍曹。申し訳ないけど、そんな物騒な言葉が並ぶ程に厳しかった。

 

まあ、結果的に体力はついたし、今でも怠らないようにベンジャミンさんに特訓は付き合ってもらってる。千冬さんほど厳しくないけど、付き合ってくれる時間も限られてるから、短い時間で濃厚な特訓を行ってくれる。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。キミたち新人を1年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

そんな自己紹介の結果、女子たちが黄色い声援を響かせて鬱陶しそうな顔をする千冬さん。しかしそれでも女子たちの声援は止まず、千冬さんの顔に怒気が含まれていた。

 

「静まれバカども。……まったく、時間は限られているんだ。さっさと残りの自己紹介を済ませろ」

 

瞬間、今までの声援がピタリと止んだ。さすが千冬さん。日本代表だった頃のカリスマ性は衰えてないようだ。

 

そんなこんなで自己紹介が再開すると、とうとう俺の番となり、俺はクラス全員が見えるように席を立った。

 

「えーっと、獅子蔵勇人です。政府が行った適性検査で発覚した2番目の操縦者として入学しました。将来は憧れのじっちゃんのような科学者になるよう、この学園で多くの技術を覚えていきたいです。どうぞ、よろしくお願いします」

 

最後に一礼し終えると、多くの女子から拍手を送られた。いやはや、ちょっと目立って恥ずかしいな。

 

「はいはいしつもーん!」

 

っと、いきなりだけど、1人の女子が手を挙げた。確か相川さんだったか?

 

「獅子蔵くんってもしかして、あのゾイドの生みの親、獅子蔵博士の関係者なの?」

 

「はい。じっちゃんの獅子蔵丁夫の孫です」

 

『『『『『おーっ!』』』』』

 

「すごい! このクラスに有名人の身内が増えた!」

 

「千冬お姉様の弟の一夏くんに、天才科学者と尊敬されてる獅子蔵博士のお孫さんの勇人くん。するとまさか、獅子蔵博士の娘さんって勇人くんのお母さん?」

 

「ふえー。私、将来は獅子蔵博士の研究所で働きたいと思ってたのよ。これはお近づきになれるチャンス!」

 

質問を皮切りに女子たちが騒がしくなった。俺は身内のことを誉められて若干照れるけど、それ以上にじっちゃんの功績がここでも知られているから嬉しさがある。

 

その後、自己紹介は滞りなく進むと千冬さんの口が開く。

 

「終わったようだな。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月、その後実習で基本動作を半月、それぞれ覚えてもらう。いいか、いいなら返事しろ。よくなくても返事をしろ。私の言葉には返事をしろ」

 

そんな鬼教官のような言葉の後、1時間目の授業が始まった。

 

因みに、入学前に基礎をだいたい覚えたのが幸いし、俺は授業で分からない場所は今のところ無かった。その時は一夏と一緒に勉強してたけど、様子を伺ったところ、苦戦しながらもノートに書いていたのを確認した。


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