平凡は、いちごと共に消ゆ   作:フリードg

9 / 37
8話

 

 

 

 まぁ 真中は違うって言われたからって『そうですかー』と引き下がる様な性格じゃない。

 

「わかんねーだろ! ちゃんと確かめてやる! 同じクラスなんだったら直ぐだ!」

 

 と意気込んでいるんだけど……空回りしそうな気がするな。

 あ、走っていった。

 

「そんなに可愛かったのかなぁ……。あそこまでの意気込みだし」

「映画と連動させてるからだと思うな。今の真中」

「あ、それはオレも思う。アイツの中じゃ東城綾ってヤツは美少女だし。……ま 実物見たら180度変わると思うけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小宮山の意見でも たまには当たるってもんだったよ。

 

 学校に着いて、真中は東城って子に会いに行ってたけど その表情メチャクチャ引き攣ってたよ。頭の中のイメージが一気に崩れたって感じだ。

 

 

 でもはっきり言って、正直失礼だと思うのはオレだけか?

 

 

 幾らイメージが崩れたからってあからさまに表情に出さなくても良いのになーって思う。 

 

「あたしの数学のノート拾ってくれたの!? 昨日からずっと探してたのー。ありがとう、真中君っ!」

 

 それに お礼を言ってくれてるんだから無反応なのはおかしいだろ?

 と言う事で とりあえず、真中の隣にいたから、反射的に肘打ちしたよ。

 

「痛てっ!」

「いやいや、自分で言っておいて無視するなって」

「っ! ま、まぁ そうだな、そーだよなぁ…………」

 

 意気消沈って言葉が一番しっくりくる。それ位意気込みが強かったって事が判るからなぁ。あの時。

 

「ああ、でも良かった見つかって………」

 

 真中の顔を東城が見てなかったのがせめてもの救いだよな。うん。

 でも……両手に持った荷物が気になる。ノート見つかった事が本当に嬉しかったのかな? 随分と喜んでるから落としそうだ。

 

 って、考えてる傍から。

 

「ほっとしたよぉ……って、きゃっっ!」

 

 ほっ としたせいか、手に荷物持ってるの忘れちゃったらしい。

 元々不安定気味だったし、ちょっと気になったから。

 

「おっ……っと」

 

 何とか、落ちる前に間に合ったよ。

 プリントの束だったから、弾みで何枚かは落ちたけど大参事だけは免れた。結構重いし、落とさなかったの奇跡だ。

 

「わっ ありがとー。えと 神谷くん」

「いや。構わないよ」

「ナイスキャッチだな……。ああ、ほら まだ落ちてるぞ……」

 

 真中も何かして気を紛らわせたいのだろうか、せっせと落ちてるのを拾ってくれてるけど、今朝までの覇気は何処に行ったんだろうなぁ。

 

「(確かに別人だよなぁ……、記憶にないってのもうなずけるよ……、こんな地味ぃ~~な女子だったとは……)」

「よ~いしょっと!」

「うげっ!」

 

 とりあえず、ずっとしゃがみ込んで通行妨害してる真中のケツに向かって軽く前蹴り。

 

「痛いな! 何すんだ!」

「いやいや、いつまで座ってんだって。邪魔だろ? もう 紙落ちてないし、一体何探してんだ?」

「あっ、いや……そ、そーだな」

 

 まるで イジけてるみたいだし、それに 真中の顔みたらよく判る。『別人だ……』って明らかに思ってる感じが。

 

 まぁ、流石に東城の前でその追及をするつもりはないケド。

 

 

 

 それに、オレは大体判るんだ。

 

 

 

 何がかって、多分 東城があの時、屋上にいた子って事で間違いないって事。

 

 朝、大草や小宮山にマジマジと見たつもりはないから、って言った事は嘘じゃないけど、結構切羽詰まってたとは言っても顔はしっかり見てる。

 確かに雰囲気は全然違うけど目とか鼻とか口とか、それが変わった訳じゃないし。色々と頭ん中で組み替えたら……あの時の子になるんだ。

 

 

 何で判るかと言うと……、身内に色々変装するヤツがいたから。

 

 

 それは、黒歴史の1つでもあるからあまり思い返したくはない事だけど……。

 

 不覚にもあの姉と一緒に出掛ける約束をしてしまった事があって、それで『これデートだねっ♡』と意気揚々、ホクホクだった。でもでも姉はメチャ有名人。かなりの注目が集まる。

 

 そう言うの昔から嫌だったオレの事を判ってるからか、雰囲気100%変わる見事な変装をしてのけた。化粧等も殆どせず 地味な恰好になって誰からも気付かれる事は無かった。

 

 その日は乗り切ったんだけど……『うぅ~折角のデートだったのに。……蓮の前でもおしゃれして、手を繋いでデートしたいのに』とメチャクチャ落ち込んでた。はっきり言ってどうでもいいケド。

 

 

 その後も 何度か誘われる事があって、いつもスルーだけだったんだけど、『謹んで遠慮させていただきます』と丁重に断るようになったのはこの時からだったかな?

 

 それでもしつこく迫ってくる時は、完全なる無視(パーフェクトスルー)をしてたよ。今朝みたいに。

 

 

 兎も角、東城は七三分けにした前髪をちゃんと下ろすだけでもガラっと変わると思うって事。

 

「あ、あのー それであたしのノートは?」

「おおっと、そうだったよな。ほれ真中。来た目的ちゃんと果たしてけって」

 

 ノートを返すって名目で東城って子を確認しに来たとはいえ、ちゃんと返すべきだろう。

 一応、第一発見者としては しっかりと返す所は見届けたい、って思っちゃったりしてるし。

 

「そうだな。ええっとノート、ノート……」

 

 暫く鞄の中捜索してる真中。でも、この指定鞄はそこまで大きくないから、そんなに時間は掛からない筈なんだけど、と言う事でオレは大体察した。

 

 ……名目で、とはいえノート返しに来た癖に。

 

「……ごめん忘れた」

「アホか」

 

 真中が答えた瞬間に、オレ ツッコんでたよ。察した通りだったし。

 

 

「ええ―――っ!!」

 

 

 ここでちょっとびっくりしたのは東城の反応だったよ。大人しそうな印象だったんだけど、大きな声で結構取り乱してたから。

 

「ええっと、いーじゃん。今日数学ないんだし」

「まぁ……落とした東城にも責任あるとはいえ、返しに来たって言ったヤツが忘れんなよ……。返しに来た~って言っときながら、忘れた~~って、一体何のいやがらせだ」

「うっ…… し、仕方ないだろ。今日数学ないし……オレのノートと一緒に出しちゃったんだよきっと」

 

 呆れてると、東城が一歩前に出てきてた。

 

 

「ねえ真中くん! あたしの……なか、見てないよね?」

 

 

 色々と誤解を招きそうな言い方だと思うんだけど……、まぁ ノートの事だろう、きっと。

 

「え、えっと……、ノートの事?」

「うんっ! そう!」

「あ、ああ。見てないけど」

「おねがい!! 絶対絶対、絶ッッ対に中、見ないで! ねっ! 真中くん!!」

 

 物凄いお願いの仕方。

 この言い方じゃ、誰だって気になるけど……、まぁ 所詮はノートだろう。誰かの悪口書いたり、……うん。そんな子には見えないかな。

 

「あ、えっと、ほら その……あたし 字 物凄く下手だから見てほしくないな……って、思って」

 

 結構な剣幕だったから、真中も呆気に取られてたみたいだけど。

 

「わかったよ。見ないよ」

 

 と約束してた。

 

「見る見ないの前にちゃんと持って来ような? 手にでも書いとけよ」

「うっせーな! 今度は忘れないって!」

「前に貸した漫画、帰ってきたの随分遅かったの忘れたか? ほれ、天国先生べ~ぬ~31巻」

「う゛……あ、あの時は悪かったよ」

 

 オレもこの時まで忘れてたけど 真中って結構おっちょこちょいと言うか物忘れがあると言うか……、マイペースなんだ。よくもわるくも。だからこの位の釘はさしといたほうが良いって思った。

 

「ともかくだ。東城。ちゃんと明日持ってくるし、中も見たりしない。ほら、早く行こう。鐘なるぞ」

「う、うん……。あ、神谷くん。ずっと持ってもらっててごめんなさい。私の当番だから……!」

 

 ずっと取り乱してたせいか、プリントの束の事漸く思い出したみたいだ。

 まぁ、オレ自身もちょっと忘れてたケド。

 

「いや良いって。同じクラスだし。それにコレ結構重いし、ついでに運ぶよ」

「え、そんな……」

「大丈夫だって。んしょっと」

「どわっ!!」

 

 とりあえず、半分程真中にパス。

 

「手伝ってもらうから」

「渡す前に言えよ! 危ないだろ!」

「え、えっと……、ま、真中くんにも悪いよー」

「はぁ……、ああ、良いって良いって。ノート忘れちゃったお詫びって事で」

 

 と言う訳で、仲良くプリント分けて教室へ向かった。

 

 

 あ、半分の方がやっぱ楽だわ。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。