平凡は、いちごと共に消ゆ   作:フリードg

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投稿時間みたら……


7話

 

 

 

「じゃあ行ってくる」

「いってらっしゃいのキッスをっ♪」

「あ、かーさん 今日晩飯は良いから」

「蓮は私とディナーだもんねー♪」

「ああ、後明日の朝なんだけど、体操着がいるから。あ、でも勝手に洗濯機使うから」

「いけず~~!!」

 

 多分、何にも知らない人がこの会話を訊いたら、まず間違いなく耳を疑うだろうな。

 テンションがおかしい、って思うかもしれんけど コレ(・・)のテンションは年中変わらない。それこそ常にテンションMaxのバーゲンセールだ。

 

「こらこらこら。愛ちゃん。蓮を愛でるのは良いけど、事務所から連絡来てるよ?」

「えー、蓮と話してるから、待たしといてよ。お母さん!」

「もう、マネージャーさんを困らせないの」

「……母さん。止めるならもうちょっと激しめでお願いするよ」

 

 母さんとの話しから大体判ると思うんだけど、我が姉の職業は……まぁ 世間一般で言う万能型のアイドルってヤツだ。多分、間違いなく世の男であったら、オレを羨ましがるって思う。そりゃ アイドルクラスの美少女と同居だとしたら、オレだって良いじゃん! って思うかもだし。

 

 だがしかし‼ 考えてみてもらいたい。オレ達は家族。姉弟。血がつながってない~とかの義姉弟とかじゃないんだ。

 

 この姉を前にすれば、羨むより同情して欲しいわ。この女、下手したら人類の三大タブーの1つを大喜びで犯しそうだから。

 

 

 テレビ番組かなんかでのトークタイム時『将来結婚してみたい人はどんな人??』的なMCの質問に、100万㌦のスマイルで『弟です!』って大声で叫んじゃったんだよ……。

 ちょっとしたユニットと言うか、ツッコミ要員と言うか、相棒と言うか、そんな感じの人が痛烈なツッコミを入れてるのを見て、アイドルと言うより芸人さん? って思った程。

 

 そんなキャラだから、大御所にも気に入られた~とか、特番で出る~、とか 話しがワールドワイドになっちゃってて、非常にオレにとってはヤバイんだ。色々と追っかけとかがきそうだったし、母さんの方の爺ちゃん家に行ってて 難を逃れたんだけど 取材が来た事だってある。

 

 

 テロップとかで『噂の弟くんの所在は~~………??』

 

 

 って番組で流れた時はほんと肝が冷えたよ。妙な演出とかも加わったりして 期待感も出てくる様に煽ってる。うん、他人事なら面白いかもだが。全くをもって面白くない。ただただ激しく安堵したのを覚えてるよ。

 

 抜け殻気味だったのを、婆ちゃんが慰めてくれたのも良かったかも。多分、理由は判ってないと思うけど それだけでも十分さ。

 

 色々と多感な時期って自分ながらも思ってたけど、そんな中で 身内に強烈な爆弾がいたから、あれだけ普通を求めたんだろうなぁ……って思ってる。

 

 ほんと、他人事の様に言っちゃってるけど、ただの現実逃避だから。

 

 

「んじゃあ、行ってくる」

「蓮~! ホテルとか取ってるんだけどー行こうよー。ほら、蓮が好きって言ってたフランス料理とかバンバン出てくる一流レストランもあって、他にも好きって言ってた某プロボクサーも常連さんで~ 会えるかもよ~?」

「……絶対行かないから」

 

 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ心が揺らいだけど、そんな揺らぎ 姉同伴と言うペナルティがあるんなら、ただの苦行も良いトコだ。

 

 一度、結構真面目に怒った事もある。記者さんたちの追っかけがありかけた時だったよ。本気で怒ってるの判ったからか、そこからの根回しは異常なまでに早かった。アッと言うまに来なくなったから。……弱みでも握ってんじゃないの? って思うくらい。

 

 とりかえず……、朝っぱらから疲れた……。

 

 

 外の空気は新鮮で美味い。うん、心が癒される気分ってもんだ。 

 

「おーい! はよー、神谷! なーに猫背になってんだよー」

 

 でも、やや猫背になってるのは、少しどんよりとしてるって事かな。

 

「はよ。そっちは朝っぱらから元気だな? 真中」

「そりゃそうだろ! いちごパンツの美少女の事がやーっぱ忘れられなくてよー」

「朝からぱ……」

 

 さいごまで言いかけたけど、何とか口を噤めた。

 毒されてる、ってマジで思っちゃったから。

 

「なぁ、神谷も見たのか?」

「何かその訊き方嫌だな。オレを共犯っぽく言わないでくれよ。大草」

 

 因みに、大草や小宮山も一緒だ。家がそばだからか、結構この4人で登校が多い。

 

「なんてゆーのかなぁ、空から舞い降りた……まるで天使? 逆光の中で少女が振り向いたシーンとかがやっぱオレの中では―――」

 

 真中は周囲とか関係なく、自分の世界に入っちゃってる。

 昨日、あれだけオレに語ったのに まだ語り足りない、って感じだ。……でも、こういう強い強い芯を持つ様なヤツって 映画監督に向いてる様な気がしなくもない。表現物にはそれぞれ作り手の個性が出るし、それも大事だろうと思うから。

 

「あーあ。始まったな……」

「いつもの事だろ?」

「んあ、でもあの空想癖はいつもよりは強烈って思うぞ、オレ」

「小宮山が言うなら相当だな……」

「どーいう意味だ!!」

 

 とりあえずまぁ、周囲にはオレ達以外に誰もいないのは良かったって思うよ。……あんなの皆に見られたら目立って仕方ないって思うし。

 

「でも、パンツってのは置いといたとしても真中があんなに興奮するって事はよっぽど可愛かったんじゃないのか、神谷? アイツ、ある意味お前よりそういう手の話しないじゃん」

「ある意味ってなんだよ」

「ん? たまに神谷って女子と話してるし」

「ぜーんぶ、お前のとばっちりなんだけどな! もう、黒板に大きく書いといてくれよ。メアドとか、番号とか」

 

 西野が言うには……、オレに人気があるらしいけど、まーったく信じられないんだなこれが。大体が『大草君も誘って~』とか、『大草君とどこ行ってたの~~』とかばっかりだったし。

 

「いやいや。流石にそれは……。ふっ、オレは女の子に頼まれたら断らない主義なんだけど、皆判ってないのかなぁ……」

「誰と話してるんだ?」

「さぁ、多分 PC(画面)の向こうの人達とだろ」

 

 真中ほどじゃないけど、大草もたまに変なトコある。ナルシスト~ッ気があると言うか、何か決めポーズを取りながら実況したり説明したり。……正直、そう言う場面に限っては残念イケメンって感じなんだけど、女子ウケは抜群だから 主に男の意見だ。あんまり大きく言うと 僻み~って言われそうだから皆気を付けてるけど。

 

「おっと、話しを戻すぜー神谷~。どれ程美人だったんだよー」

「うん? ああ、オレは会ったんは会ったんだが……状況が状況だったし、そんな余裕無かった」

「「ん??」」

 

 大草と小宮山に多少は端折ったけど大体の事を説明した。

 

「落ちそうな女の子助けるなんて、王道だねぇ。とうとう神谷もこっち側に来るかい?」

 

 なんか、大草が ずりっ! と踵で地面にラインを引っ張って 小宮山とか真中を置き去りに 引き込もうとしたけど、ご生憎。

 

「謹んで遠慮させてもらう」

「丁寧に話すときって結構嫌がってるよね。お前って……」

 

 しれっとスルーのつもりだったけど、何だか大草苦笑いしてるし。

 

「それはどーでも良いんだけどぉ~ なぁ、蓮くん~」

「……君づけ止めろ」

「名前とか知ってるって言ったじゃんか。教えてクレって~」

「おっ、オレも知りたいな」

「ああ、名前ね。確かにそれは知ってるけ「ちょっと待った!」んあっ!?」

 

 さっきまで妄想空想ワールドに入ってた真中だったけど、帰還したみたいだ。

 

「小宮山レベルの顔のヤツならともかく、大草には止めてくれよ。大分モテてるし、教えたくねー」

「変に嫉妬すんなって……。それくらいで」

 

「ゴラァァ!! そこをさらっとスルーすんな! どーいう意味だよ! オレレベルの顔って!!!」

 

 こんな感じで朝っぱらから結構賑やか。

 朝の家の疲れも忘れられるから、ある意味ではこいつらには感謝してるかもな。

 

 

 でも、最終的には名前を公表したよ真中が。

 受験シーズンだからって事と、大草は協力をする~って言い出した事もあって了承してた。

 

 確かに勉強に身が入らないのは正直きついんだろう。真中って泉坂に行きたいって言ってたし。あそこ、結構難易度高いからな。

 

「それで東城綾って名前なんだけど、知ってる? オレらのクラスな筈だけど――」

 

 女子の名前を言ったら2人ならまず間違いなく知ってるだろ、って真中の読みは的中するよ。2人は詳しいから。

 

 でも、さっきまでのテンションが急に下がったのはちょっと気になる。

 

「東城……? ああ」

「いたような気もするな、そんな名前のヤツ」

 

 大草は、女子の事ならノータイムで言うんだけど、ちょっと少し考える仕草をして遅れた。小宮山に至っては「ふーん」って感じ。女子の話題なのに。

 

 そして、その理由も直ぐに判明する事になる。

 

「ええっ! いんの? うそっ!? いやー オレって女子の名前と顔、いまだに覚えられなくってさぁ!」

「他人の事言える筋合いはないってオレでも思うけど、もう直ぐ中学卒業だろ?」

「何言ってんだよー! 神谷だって1年は一緒だったじゃん」

「……仕方ないだろ。クラスの人数だって、前んトコよりずっと多いんだから」

 

 と、2人で暫くそこそこ盛り上がりつつ話してると……、大草が神妙な顔をさせて真中に言ったよ。

 

 

「残念だけど、そのノートの持ち主はいちごパンツの美少女じゃないと思うよ。間違えて持ってた、とか借りてた~とかじゃないか」

 

 

 

 ま、オレは別に気にしないし、ノートは真中に預けたから義務感ってヤツも譲渡したようなもんだし、違ったって別に深く考えてなかったよ。

 

 

 ああ、話は変わるけど大草の話を訊いた後の真中の顔はちょっと面白かったかな。

 




最近残業が多い………って改めて思う。
ま、サビ残じゃないだけ マシか………。


オリキャラ 追加属性


ブラコン姉(過激派)

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