「質問を質問で返すのは悪いと思うが……。何で追いかけてくるんだ?」
「キミが逃げるからだよ」
「………」
確かに、逃げた理由は勿論あるんだけど……、だからと言って追いかけてくるか? と聞かれたら オレなら首を横に振るよ。
それより、いつの間にか後ろを取られただろ。いやほんと いったいいつの間に……?
何処で修行を積んできた忍者ですか? 君は。 ……いや 女の子だから くのいち?
「まぁ……それは兎も角。……はぁ」
オレはとりあえず深く深呼吸したよ。色々とあって今日は疲れてたって言うのもあるし。いや でも深呼吸、と言うよりため息か?
多分 ちょっとそこもイラっ と来たんだろう。頬がぷくっ と膨れてた。『私、怒ってますよ!』とまた言われてるみたいに見える……。
オレ何か怒らせたかな?
「あっ! もー忘れてるんでしょ!? キミは私の……見ただろっ!」
「ああ、いちご柄の」
「わぁっっ!! もーーー! 柄まで言わなくて良いだろっ! このえっちっ!」
「……あ、いや悪かった。今のは失言だ」
実にタイムリーだ。
あの屋上で、見た(見てしまった)彼女のパンツだけど、彼女のもさっきの東城って子と同じくいちご柄だった。真中のヤツが いちごパンツパンツうるさかったから、思い返してしまった様だよ。……ひどく間の悪い事に。
「むー……」
「どうどう。うーん……。……まぁ 確かに オレが見てしまったまでの過程はとりあえず置いて。君に恥ずかしい想いをオレがさせてしまったー、と言えば……。………うーん。……うぅーん……」
「すっごく恥ずかしかったんだよ? 『あれ? オレの何処が悪いのかな?』って顔しないでよ! もうっ」
うん。とりあえず……。
~勝手に近づいてきて、驚いて転んで その拍子にスカートめくれて、中が見えてしまった~
短くまとめたらこんな所で 今思い返しても、彼女がピタリと当ててる様にオレが悪いとはどうしても思えない。
でも、今後も続くんであれば、はっきり言って オレは穏便に済ましたいって気持ちの方が強い。
「詫びるよ。ほんとごめん」
謝る方が早そうだ。例え非が無いって思ったとしても。
「うんっ。よろしい!」
それが正解だったのかな? 彼女 あっという間に笑顔に戻った。
んーと、今まで気づかなかった……とは言わないけど 彼女 にかっ と笑う顔は、お世辞抜きに可愛いい。いや 怒ってる膨れた顔も、慌ててる顔も……。寧ろ全部が。
「それじゃあな。オレこっちだから」
まぁ 可愛いのは判ったけど これ以上話す事も特に無いので帰ろう、って事でくるりと向きを変えた。ちょっと家までは遠回りになるけど…… まぁ良いだろ。ちょっとだけだし。
でも、帰る事出来なかったんだよな、これが。
「待ってよー」
「うん??」
がしっ、と肩を掴まれてしまったから。前にも言ったけど 女の子相手に振りほどいてまで…… はしたくない。ま、命の危機とか感じたら別だけど。今はそこまでは無いだろ? ……多分。
「ねー。キミってほんとに歌うまいよね!?」
「………」
パンツのおかげで忘れてくれた? って想ってたんだけど…… それは希望的観測に過ぎなかったみたいだったよ。
「えへへ。実はね。その……見た事に関しては私怒ってないよ? だって、キミが言った様に ぜんぜん悪くないじゃん。私が近づいて行って ころんじゃったんだから自業自得っ!」
実に、実にオレが言いたかったセリフを見事に代弁してくれたよ。……今更だけど。
「でも、やっぱ女の子の見たんだから、それなりにー……ね?」
「悪かった。悪かったから。その話題から離れてくれ……」
今はほんとに間が悪い。真中から散々 『パンツは良い』って言い聞かされて洗脳タイムに入ってしまったから、変に考えてしまいそうだ。
「あははっ キミって最初からあんまり興味無さそうな顔してたのに、今さらだよ? 顔赤くなるのっ」
胸元あたりを人差し指でつんっ と突っつかれた。
正直、女子とここまでのコミュニケーションは取った事ない。いやスキンシップかな? 慣れもないからかな、どうやらオレは顔が赤くなってるらしい。
「そりゃ、オレだって健全な中学男子。女の子に、それもアンタみたいに可愛い子にそう言われりゃ反応だってするだろ? 仕方ない事だ」
「……へっ?」
ん? なんできょとんとするの?
……あぁ 可愛いって言ったからかな。ストレートな褒め言葉って 大体は引かれるか照れるかの二択しかないって聞いた事あるよな。
この場合どっちだろ……?
「うー……(他の男子にいろいろ言われてるけど…… な、なんでかな? この人に言われちゃったら、ちょ、上手く言葉が……)」
「んー……(引いたかな? それとも照れ? ……夕日のせいで顔色が判らん)」
色々考えてる時間がちょっと長かったせいだろう。暫く沈黙が続いたよ。時間はもう夕方で人も誰もいない静かだからか、余計に感じてしまう。
「ま、まぁ ありがとね」
「うん?」
「その、可愛いって言ってくれて! どーも、って事!」
「ああ成る程……」
この場合……照れた の方かな? でも見た感じ、接した感じでは サバサバしてる様な性格みたいだから ちょっと判りにくいな。
「んじゃあ、これでほんとに「待ってって!」……」
今度は、ふふんっ と得意気な顔してるよ。
そう言えば彼女 心を読む様な力があるんだったっけ? オレの意図気付かれたかも……。
「歌の話にもどすからねー。お願いを訊いてあげて 確かに話題は変えてあげるけど、 歌の話題の方は変えないからねー」
「………はぁ」
そうだよ。話題を頑張って自然に変えよう。小宮山の様なあからさまじゃなくて、極自然に変えつつ、そのまま帰路に~ っていうのが、オレの下校プランBだったんだけど、ものの見事に撃墜されてしまった。
ぱんつの話題とそれとなく合わせて歌の話題も一緒に消そうと思ったんだけどなぁ……。駄目だったか。
「そんなに
「……いや、なんつーか……、恥ずかしいだろ? 屋上とかで 1人で歌うたってるーなんて 痛いヤツ~みたいで。それも聞かれてた事も知らないでさ」
頭がむず痒くなってきたから、掻き毟った。
……強くし過ぎてちょっと髪の毛が抜けちゃったよ。
「でもさー。とっても素敵だったんだよ? 私 キミにすっごく興味が出てきたのだって、ここまで追いかけてきたのだって、切っ掛けはキミの歌だったから。何だか、聴き入っちゃってて……、その どういっていいのか判んないんだけど、……感動しました! ってヤツかな?」
「……どういうか判んないって。判ってるじゃんか……」
「あははっ また照れたね?」
「夕日のせいだよ。顔が赤く見えるの」
「ふーん。じゃあ そう言う事にしておきますか」
「そう言う事にしといてください。よろしく」
「あははは!」
「……ふふ」
何だろうな。最初は直ぐに帰りたかった、って気持ちが強かったんだけど 話してる内に楽しくなってきたのかな? さっきまでの疲労感が少しずつだけど和らいでくみたいだ。
「私、西野。西野つかさ! えーっと、キミの名前は?」
「ん? ああ、そうだったな。そう言えば名乗ってなかった。……オレの名は……って、え? 西野?」
「え? うん。そうだよ? 私の名前は西野つかさ」
「…………」
真中レベルって言われるかもしれないけど、基本的にオレも女の子への興味ってヤツは希薄って言っていい。あれだけ小宮川が熱弁をふるってて、それ以外にも他のメンバーも その手の話題になったらほぼ100%西野の名前があがってたんだけど、見に行ったり、顔を覚えたりはしなかったから。
それに多分、転校してから一度も会ってない筈だし。
「ん? どうしたの??」
「あぁ、いや。可愛いのも納得って思って。確か『学校一のアイドル』ってオレの友達も言ってたし」
「わーわー! 恥ずかしいってば! そんなの本人を前に言わないでよー!」
むぎゅっ と手で口を塞がれてしまった。
「だっふぇ、けっふぉ ゆうへい……」
「恥ずかしいってば! 素直に口塞ぎなさーい!」
「ふいふい」
中々塞がれてたら上手く声出せないから、最後は首を縦に振って意思表示。
彼女、西野は今回は間違いなく照れてるみたいだ。
「むー。キミって そう言う事簡単に言っちゃう人だったの?」
「んー…… どうだろうな。家族を除いて、ここまで話し込んだ異性って、アンタが初めてだし」
「へぇー……そうなんだ(たらしじゃないって事かな。嘘言ってる様には見えないしなぁ……って)もう。私は自己紹介したんだよ? 返してくれないなんて、ずるいよ」
「ああ、ごめんごめん。オレは神谷。神谷蓮」
名前に関しては 親が花が好きでそこから~ とかまで言いかけたけど止めた。
そもそも、なんで言いかけちゃったのか判らないな。自分の名の由来なんて他人には関係ないことだし。
「神谷……蓮……?」
「そ」
西野は、何だかオレの事まじまじと見て考えてる。
さっきも言ったけど オレだって健全な男子中学生なんだって!
………恥ずかしいって。