あれから多分、まだ20分も経ってないと思う。
いつもは、ここにいると時間が経つのは結構早いんだけど……今日は別だったみたいだ。
何かで訊いた事だが、アインシュタインの相対性理論だったか?
こんなにも長く感じるもんなんだな……。
「ん……。ふぅ 今日はここまでで、もう帰ろうかな」
色々考えてたら、あの女の子は帰ろうとしていた。長く感じたけど……まぁ よしとしようか。
「(うーむ……、暫く屋上に来るの止めておこうかな……)さて、とりあえずオレも準備を「きゃっ!」は?」
本当にいきなりだったよ。
さっきまで静かだったのに、確かに小さな悲鳴が聞こえてきて、反射的にそっちを向いたんだ。あの子がバランスを崩してて、変な体勢で倒れ込んで おまけにその身体が視界から消えたんだ。衝撃映像を見た気分だったけど、何とか咄嗟に捕まる事が出来たみたいで、捕まってる手だけは見えた。
――転んだ? でもここは平らで段差もないし、足を取られる様な地面じゃないんだけど……。
って思ったけど流石に危ないとも思った。
そこまで高くないとは言っても、変な体勢で落ちてしまったら危ない。……前にジャンプして降りたけど、結構足に響いたし。
「おい、大丈夫か!?」
「えっ!?」
とりあえず、オレは彼女の手を取る事が出来た。
見てみたら片手だけで自分の身体を支えている様で、あと少し遅かったら下に落ちていたかもしれない。
「落ちついて足でしっかり梯子を踏め。ほら、右足を10㎝くらい横にずらせ。直ぐそこにあるから」
「あっ は、はい!」
何とか足でもしっかりと体勢を整える事が出来たのを見届ける。
「よし、ほら 支えといてやるから 左手も梯子を掴んで」
「わ、わかりました」
パニックを起こさなかったのが良かっただろう。しっかりと指示は聞いてるし、ちゃんと捕まる事も出来たみたいだ。……そろそろオレの手もしんどくなってきた。
「もう放しても大丈夫か? 掴んだままだったら降りれないだろ」
「あ、だ、大丈夫です。ありがとうございます……」
頷いたのも見たし、しっかりと両足と右手で身体を固定出来てるのも見た。
ここまで来たら…… 普通は大丈夫だ、って思うだろう? 普通。
なのに―――。
「きゃんっっ!」
「……へ?」
多分、つるっ と滑ったのかな? 足も手同時に。しっかりと支えれていたと思ったけど。
……そんな事ってある?
そのまま どさっ と下に落ちてしまった。
オレの苦労はいったい……。オレが落とした事になる? そんな訳ないよな?
「………って、自問自答してる場合じゃないか。おい、大丈夫「い、いちごの……パンツ♡」は?」
そんな時だ。もう1人の声が聞こえてきた。
今まで、少女の姿しか見てなかったけど、ここにはもう1人いたみたい。そいつは、マジマジと倒れてしまった少女の事を見てた。
そりゃ、穴が開く程見てたよ。うん。スカートの中を。
結構風は今も強いし、はたはたと棚引くのも上からでもしっかりと判ったんだけど……。
「おい馬鹿。真中!」
「うぉっ!?」
誰が来てたのか、と思ったら真中だったよ。兎に角 オレは足が痛くなりそうだけど、また飛び降りた。
「うわっ! って神谷? 何でここに? なんでお前まで上から降ってくるんだ?」
「これにはいろいろと事情があるんだが、話しは後。まずはあの子だ」
大丈夫かな? と振り返ってみると…… あの子はぱっちりと目は開いてて 必死に捲れるスカートを抑えてた。
あぁ…… 見られたって判ったみたいだ。
「きゃ、きゃあああっ!」
「お、おい 落ち着いて」
ぶら下がった状況ででも、結構落ち着けてたみたいなんだけど、今更パニックを起こして走り去っていった。
「あれだけ走れれば大丈夫か……」
「おい、説明してくれよ」
とりあえず、かいつまんで説明。
落ちそうになってたから助けようとしたこと。……だけど、よく判らないタイミングで落ちてしまった事。そしてまた、見事なタイミングで真中が来た事全部。
嘘みたいな話って自分でも思ったけど、真中に一通り説明したら判ってくれたみたいだ。
「成る程……。っていうか上から降ってきたらオレの方が驚くだろ? 驚くのはオレの方だって」
「まぁ気持ちは判らんでもないけど。 空から女の子が~ なんて真中風に言えば映画の展開。中々現実じゃ起こらんよな……」
「だろっ!? って、それより……あんな美人ウチの学校にいたっけ?」
真中は、あっと言う間に顔を赤くさせてた。
夕日のせい? って一瞬思ったけど、違うみたいだ。
「誰なんだ?」
「知らん」
「知らん、って上でいたんだろ? 2人で」
「いやいや、オレが上で寝てたらあの子が来ただけ。ダブルブッキングってヤツだ。話してもないよ」
名前なんか確認する間も無ければ、顔をまじまじと確認する様な事も出来ない。落ちかけてたあの状況だし。
「でもよぉ あーーー! すっげぇいいシーンだったよ!! ほら、綺麗! 美少女! 夕日に照らされてスカートがめくれて……。アレが映画のシーンなら、起き上がる瞬間は絶対にスローモーションだなっ!!」
「おい、それじゃ単なるエロビデオにしか見えんぞ」
「………あ、それもそうかな?」
「んでもって、倒れてて無事かどうかも判らない少女を助けて介抱するどころか、『ぐへへ、スカートの中が丸見え。儲けもんだぜ~』ってな具合で襲うとする変態役が真中って事だな」
腕を組んでうんうん、と頷いてたら。
「なんでそうなるんだよ! オレは監督だっっ!!」
盛大にダメ出しされた。と言うか、ツッコむトコそこ?
「はいはい、真中監督~ すいませんでしたー。って、そうだ」
オレは1つ思い出した。
あの子は屋上で何かを書いてた。そんでもって逃げ去る時手には何にも持ってなかったし。
「上に忘れもんがあるかも……」
「え? 忘れもん?」
ひょいっとまた元の場所に戻って確認してみると、ノートが落ちてた。
「3年4組……って、オレらと同じクラスか。東城、綾……ああ、確かにそんな名の子いたな」
「おーい! 神谷ー。忘れもんってヤツはあったのか?」
「ああ、あった。このノート」
今度はジャンプしないで 梯子使った。足がしびれるし。
とりあえず真中に渡すと、真中は首を傾げてた。何でも名前も知らなければ、容姿も全く記憶にないとの事。
「クラスメートくらい覚えとけよ……って、言いたいが、オレもピンと来てない。……あんな状況だったし、はっきり顔も覚えてないし」
「それを言うならオレだって殆ど一瞬だったぞ! 夕日に照らされて、捲れるスカートしか!」
「おーい、それ以上言わん方が良いぞ。オレも男だし、判らなくも無いけど、口に出して言ったら変態だ」
「オレは芸術を求めてんの!
「大声で否定してもボロが出るだけだから。良かったな? ここにいるのがオレだけで。……真中の性癖はオレの胸の中に留めとくよ」
「違うっつーの!!」
これが ちょっとした事件だ。
オレにとっては、突然の救出劇。無事助けれたらクールってもんだが、何でか失敗した。
それで真中にとっては 突然美少女が空から降ってきて、スカートめくれて いちご柄のパンツが見えた衝撃シーンの目撃者。
1つ間違えばあの子だけじゃなく、真中も怪我したかもしれない状況で、誰も怪我が無かったのは良かったと思うんだけど……、妙な火が真中についてしまったのが、面倒かもしれない。あの後、何度も同意を求められたから。
逆光の中振り向くシーンが最高とか、夕日と美少女といちごパンツのマッチアップが最高だとか。どの映画よりも美しかったとか。
もう、最後の方は オレを変な世界に引き込もうとしてるとしか思えなかった。
ノートに関しては、真中が渡したい、って言ってたんで よろしく頼んだ。……とりあえず釘刺しといたよ? 犯罪者にはなるなよ、と。
「やれやれ……真中の空想癖も困ったもんだ。周りに誰もいなくて良かった」
「そうだねー。誰も周りにいない方が良いよね? キミとっては」
「はぁ? まぁ 確かに1人は好きだけど、何か含みのある言い方だな」
「えー。だってさ。キミ逃げちゃうじゃん。逃げちゃったじゃん」
「何でオレが逃げるんだよ。……って」
ようやく気付けた。こんな事ってそれこそ映画とか漫画の中の話だって思う。
普通に独り言を言ってる最中に自然に会話の中に紛れ込んできてた。違和感が無かったから、思わず続けちゃったけど……一気に悪寒が走ったよ。いつの間に、後ろにいたのか判らないし。
「よーーやく、見つけたゾ!? 何で逃げたんだよー!」
後ろにいたのは、あの時 最初に屋上で出会った少女だった。
あれ? でも髪が短くなってる?