平凡は、いちごと共に消ゆ   作:フリードg

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滅茶苦茶遅くなってごめんなさいm(__)m

その上進んでないです……。入試はこの次くらいだと……( 一一)


35話

 

 

「ふーん。……オレさ、小宮山程は言ってないけど、今日ほど真中の事バカだと思った事は無い。……でもまぁ、最初の頃から薄々感じていた事は間違ってなかったんだなぁ、うんうん」

「ぶえーーくっしょんっっ!! しみじみ言うなっ! 妙な感情も込めるな!! そんな演技できんなら、ぜーーったい俺の作る映画の配役にするからな!」

「なんでそーなるんだ。……そもそも、なんでオレにそっち方面を要求すんの?(歌がどーのこーのって言ってた癖に)」

 

 

 

 集英高校への受験も終わって安心感に包まれてた。

 難易度的には肩慣らし程度だったんだけど、まぁ所謂一山超えた、って気分だったんだろう。

 

 そんな時に聞いたんだ。真中のアホが2階の窓からダイブしたって。その先が校長の池。そこに向かって2階からダイブしたんだって。

 あまりに無茶苦茶な話だったから思わず2回訊いたよ。

 

 

 なんでも、昼休みの時間に東城が書いてくれた小説読んで、またまた心を射貫かれた! らしくてさ。その想いを言葉に変えて情熱をこめて ぶつけようとした(大草談)らしい。

 

 

 丁度 東城は、西野と勉強の事話してたらしく、そこに真中が抑えきれない欲望?を持って状況もちゃんと把握せずに窓からダイブ。それも2階の窓からだ。……まぁ 怪我しなくて良かったとだけは思うよ。馬鹿は風引かない~ って聞いた事あるけど、怪我はするだろうし。

 兎も角、西野と東城に引っ張られながらそのまま保健室に直行。

 

 

 でも幾ら私立の試験が終わったと言っても本命は泉坂だって事忘れてんじゃないか? コイツって。って素で思ったよ。割と真面目に。

 

「本当にびっくりしたんだよ? だって 突然 真中君が上から降ってきたから……」

「はは、まぁそりゃそうだ。でもアレだな。今度は真中が~ だ。上から降ってくる、なんて状況になるなんて滅多にない事だろうし」

「あ、あぅぅ…… わ、忘れてくれると嬉しいなぁ……神谷君」

 

 ふと思い出したのは、東城と初めて出会った屋上での事だ。上手く助けられた、と思ってたのに、東城は落下してしまい、真中がそれを目撃した。……東城の見なくても良い所も見たらしいが それはそれだ。オレは見てないし。

 

「とりあえず、だ。もう本命高校の受験日近いんだから。今はそっちに集中しろって」

 

 オレは真中の机に どんっ、と『わかりやすい高校入試対策』って言う参考書を置いた。

 

 今更 勉強したって~、と思いがちだが ボーダーラインも妖しい真中や小宮山は最後の最後まで無理にでも詰め込んだ方がまだ良い。身の丈に合ってないって先生たちにも言われるほどの難易度の高校選んだんだし、ちょっとでも足掻け、と思う。

 

「うげぇ……」

「うげぇ、じゃねーって。東城は真中の事宜しく。ああ、後ついでに大草は小宮山係で」

 

 オレは東城にバトンタッチ。笑顔で頷いてくれた。

 

「オレはついでかよ」

「っつーか、俺係ってナンだ!!」

 

 大草と小宮山辺りが煩い。主に小宮山だけだけど、オレはそのまんまの意味 って一言答えた後教室を出た。

 

 実はついさっき携帯が鳴ったんだ。それで見てみたら西野からのメールだった。

 呼び出しを受けた場所は屋上だから、直ぐに屋上へ。

 

 

 

 教室~とかは 元々待ち合わせ場所として除外してる。西野がいたら男子が沸くからだ。……あんまり認めたくないけど、オレがいたら女子がちょこちょこ来るみたいだった。

 

 

 何でも本当に西野と付き合ってるのかどうか自分の目で見て確認する、って事らしい。

 

 

 間違えてないんだけど、人前で堂々と色々する程 オレは目立ちたがり屋じゃないし、西野もあまり人前では好ましく無いらしい。以前までは 普通だったんだけど、何だか最近は、だって。何か心境の変化でもあったのかな? と思ったりもしてる。

 

「んー……、西野が来たら、それ訊いてみるのも良いかもな」

 

 オレとしてはありがたい事だが、ちょっと気になったりする。男女問わずのクラスの人気者なのが西野。人目を避ける~なんて正直似合わないから。

 と、色々考えながら 屋上の扉をガチャっと開いたら。

 

「やっほー! れーんっ!」

 

 ほんとナイスタイミングで西野が笑顔で迎えてくれた。

 計ったのでは? って思える程見事なタイミングで笑顔で迎えてくれると言う粋な計らい。ダメージがある意味溜まってるオレの心を癒してくれそうだ。(主に、お気楽組の勉強を教えてて負ったダメージだろう)

 

「おっす、西野」

「おっすっ! 蓮っ」

 

 手を上げて応え、西野は笑顔で敬礼。うん ……やっぱりかわいい。

 

「それでどうしたんだ? 突然屋上にって。昼休みでもないのに」

「えー、今日は 朝の勉強会で以外 蓮に会えてなかったんだもん。ちょっとの休み時間でも、会いたい~って思うの普通じゃないのー?」

「あー……うん。同感。普通だなそう言われてみれば」

「えへへ」

 

 人前、いやいや いつものメンバー真中達の前でもあまりやらない受け答えだって自分も判るな。でも 自然で言えるようになれたのはやっぱりうれしいかもだ。自然に言いたいって想うくらい西野の事が好きだから。

 

「と言う訳で……、今から、蓮分を補充するのだーー!」

「っ! っとと!」

 

 がばっ、っと両手を広げて飛び込んでくる西野。これは予想してなかったので不意打ち気味だった。でも よそ見してた訳ではないから難無く受け止めた。 

 

「明日、泉坂だよね? 大本命の」

「ああ、そうだな」

「蓮分。蓮のエネルギーを、私の中に! これで敵無しだねー。頑張れる!」

「お役に立てて何より。西野サマの仰せのままに~」

「ふっふっふ~ 苦しゅうなーい苦しゅうなーい。えへへ」

 

 ぐりぐり~ と二度三度と頭を摺り寄せて、満足したようで西野が身体から離れた。

 

「うんっ、よしっと。堪能したした! それで、蓮。私に聞いてみたい事がある、とか言ってた気がするけど、なに?」

「ん? あー、ほら 以前は普通に教室入ってきたり 呼んだりしてたけど、無くなったな~ って思っただけだよ」

「あー、それ。……だってさ、沢山来るでしょ? 色んな人が。蓮分は私だけのものだから」

 

 べっ と舌を出している西野の頬は仄かに赤く染まっていた。独占欲がある~ って西野は言ってたけど、それはオレだって否定しない。

 

 他の女子達に悪いケド やっぱり西野が一番可愛い。学校一の美少女と言う肩書は伊達じゃないって事だ。確かに東城も凄く綺麗だったがオレは西野だ。

 

「な、なーに? あたしの顔ジーっと見て。何か変……だった?」

「いやいや。嬉しいなー、って思っただけだよ。ほれ、オレって引っ込み思案、だろ?」

「え? あはははー。大草君や真中君、小宮山君たちと一緒にいるトコ見たら、全然なんだけどね? 普段はそんな感じかなっ、確かに」

「……あれはあいつらに良い意味で毒されてるからじゃないか? まーそれは兎も角」

 

 オレは西野に向かって笑いかけたよ。

 

「オレは西野分を補充、って事で」

「わっ」

 

 きゅっ と西野の頭を自分の胸に抱き込んだ。結構大胆な行動取ったな! って我ながら自分を褒めてあげたいよ。……屋上で2人きりだからこそ出来た。うん絶対そうだ。

 

「え、えへへ~ あたしも更に補充~だね? ん! よーし、学校帰りにちょっとデートしない?? いいでしょ??」

「うん? まぁ用がある訳じゃない、が……、明日だぞ? 大丈夫か?」

「此処まで来たら勉強したって今更だよ。今は英気を養って蓮分を更に補給して、心と身体をリフレッシュさせる方が良いじゃん」

「まぁ…… 否定はしない。西野も十分ボーダーライン突破してるし、オレもそうだが、ケアレスミスが最大の敵っぽい。……そもそも 今慌てるって 確かにもう遅いし。うん。良いよ」

「ほんとっ? やった。んじゃ ぜーったいカラオケも行くからね!」

「おおせのままに。姫様」

 

 と言う訳で放課後デート。

 

 試験日前だけど、まぁ 良いリフレッシュになると思うな。真中とか小宮山にはああ言っといてなんだけど、嫌味っぽいが ちょっとレベルが違う。

 

 ……それで何処からともなく、小宮山辺りが嗅ぎつけてきたけど、一蹴したよ。帰って最後まで勉強しろ、って。

 

 

 

 

 場所はカラオケsea。

 

 前にも一緒に行った場所で店員さんも顔を覚えててくれたみたいで微笑ましそうに笑ってたのが印象的だった。行きも帰りも笑顔。『お楽しみでしたね?』とか言ってきた時は流石に ぶっ! って拭きそうになったが 西野はただただ笑ってるだけだったよ。

 オレは何だか恥ずかしかったから、さっさとエレベーターに乗ったケド。

 

「あははは 結構たくさん歌ったね―――。やーーっぱり、蓮って歌上手! 途中で何度うっとりしたか~。余は満足じゃぞ!」

「いえいえ、西野サンも素敵でしたよ、ハイ。ありがたき幸せ~ってな感じ」

 

 まだ熱が冷めない、と言わんばかりに西野はハイテンション。当のオレも同じくだった。歌をうたうのが純粋に楽しかった、というのもあるけれど、やっぱり 西野と一緒が一番か。勿論、西野も上手かった。これはお世辞じゃない。

 

「ん~~、喉はだいじょーぶみたいだね。沢山うたったんだけど、まだまだいけるかな?」

「それはまた今度だな。……やっぱりさ、あまり心配をかけたくない」

「あっ……。えへへ。そーだね。ありがと」

 

 西野は、にっ と笑ってウインクした。

 勿論、心配かけたくない相手は、西野のご両親だ。娘を心配するのは当然だと思う。一人娘であれば尚更だし、心配してて外にまで来てたから。今回はしっかりと事前に連絡を入れて、帰る時間も伝えてるし、部屋を出る時に西野はメールも送ってた。

 名残惜しい気持ちはよく分かるけど、今日の所は終わりだ。明日入試だし。

 

「今度はちゃんとお母さんに紹介したいなー。あの時はちょっと私情けなかったし……」

「ん。ならオレも………、あ。うぅぅん……」

「あはは。蓮の事が大好きなお姉さんの事?」

「う………。全部 否定したい所だけど、……一部は出来ん」

 

 前半部分は赤くなる、後半部分は痛くなる。

 でも、以前はちゃんとした挨拶出来てないって思ってるから いつかはちゃんとしたいよ。

 

「あははは! お姉さん蓮の事が大好きだもんねー。私とも気が合いそうだと思うんだ! ちょーっと怒られちゃいそうかもだけど。……あ、そーだ。受験で受かったら―――ッッ!」

 

 いきなりだった。いきなり、ガクッ! と大きくエレベーターが揺れた。

 

「え……、何? 今の揺れ」

「……故障か? ボタンの照光が全部消えた……」

「ええ!? ほ、ほんとだ。た、確か 今2階くらいじゃなかったっけ?」

「ああ。カラオケが5階。はっきりと覚えてる訳じゃないが、表示灯の3が光ってるのは見たと思う」

「うぇ~~。じゃあ閉じ込められちゃったって事? わーー、私のせーかも!」

「?? なんで西野の?」

 

 故障したのは吃驚した。エレベーターに閉じ込められるなんて経験は流石にないからな。でも、吃驚するよりも、西野に対する疑問の方があっという間に上回ったよ。

 

「だって、蓮ともっともっと一緒にいたいなー! ってすごく考えてたら、ほんとになっちゃったんだもん……」

「………………」

「って、黙らないでなんか言ってよ! 恥ずかしいじゃん! せ、折角和ませようと思ったのに」

「あ、ああ。成る程……」

 

 和ませようとしたらしい。

 こういう事態ってパニックになる事が一番危険だって聞いた事ある。だから、オレは軽く深呼吸して、西野の頭をそっと撫でた。

 

「ありがとな」

「もー、遅いよっ」

「ははは。それは兎も角、早く店員呼ぼうか。非常電話」

 

 オレはエレベーターに常備されてる緊急用の非常電話を手に取った。

 ボタンを押すタイプじゃなくて受話器を取ったら自動的に繋がるみたいで、ものの数秒で繋がった。

 

「もしもし? はい。ビル内のエレベーターが突然止まってしまいまして、ええ。多分2~3F辺りで停止したみたいです。はい。人数は私ともう1人の2人です。……はい。宜しくお願いします」

 

 初めてかけてみたけど、存外噛む事なく言えたのは良かったな。横に西野がいるし、噛んじゃったら格好悪いし。

 

「どーだった?」

「ああ、『直ぐに調べるから待っててください』だって」

「りょーかい。んじゃ、座って待ってよう」

「だな。結構立ちっぱなしだったし」

 

 動いてないエレベーター内って駆動音とか全く無くて凄く静かだ。

 それがきっと、不安感を煽るんだろう。閉所恐怖症だったりするとそれだけで大パニックになりそうだ。

 

 暫く色々と話してて、西野もやっぱり不安になったんだろう。会話が途切れた後の間が凄く静かだったから、意識しだしたのかもしれない。

 

「―――止まったエレベーターの中にこんだけ長くいるのって初めてだけど、ほんと静かだね。本当に直るのかなぁ……?」

「大丈夫だ。……安心しろ。傍にいるから」

「…………あ」

 

 西野は、マフラーに半分顔を埋めて不安そうな顔をしていた。

 そんな西野をそっと抱き寄せたよ。やっぱり安心してもらう事。落ち着く事が何より一番大事だ。

 

「へへ。安心できた」

「ん。良かったよ。後ろ向きより前向きだ。きっと大丈夫。それに―――笑う門には福来る、だろ?」 

「うんっ」

 

 オレのエゴかもしれない。でも少しでも沈んだ西野を見てるのは、嫌だった。

 だからかな。西野が笑ってくれて本当に嬉しかったよ。

 

「ふ―――っ」

「ん? どうしたの蓮」

「いや、結構タイムリーに、『人を笑わせること、これはいっちばん難しい』って訊いたからさ。西野が笑ってくれてよかったなぁ、と思って」

「あっ!! それって桂歌丸!」

「――流石」

「もちっろんっ! 私ファンだもん」

 

 程よく笑いあった後だった。

 止まった時の様な振動があった後に、ウィーーンって駆動音が聞こえてきた。

 

「ほっ。流石蓮だねー。早速福来る! だよ」

「んんー、これはオレもビックリだ」

 

 笑ってた時に動き出した。福か? と言われればちょっと違う気もするが 兎も角安堵したよ。

 

 

 ……でも、その安堵感もすっ飛ばす出来事がこの後あった。

 

 

 ぽーんっ、と音が鳴って、扉が開いたかと思ったら。

 

 

「れんっっっ!」

 

 

 なんか、妙に聞き覚えのある声がエレベーター内に響いてきたんだ。

 

 

 

―――妙に、じゃない。すげぇ聞き覚えのある声だった。

 

 


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