平凡は、いちごと共に消ゆ   作:フリードg

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遅くなりましたが、こっちでも明けましておめでとうです。



原作では真中君 帰っちゃいましたケド(状況が状況だからショウガナイ)、もしも 何事も無かったら 泊まっていったでしょうねぇ。(・∀・)ニヤニヤ


32話

 

「さっ 蓮は座っててー。勉強みてくれたお礼にって事で ごはん作ってあげるからさっ」

「ん。ありがとな、西野」

「お礼はあたしの方だよー。だってすっごい充実した勉強時間だったよ? あたし1人じゃこんなに集中できないって判りきってるしさ」

 

 

 とりあえず、2人の勉強会は終わった。

 

 その後は、それなりに時間も遅かったから 最初の約束通り西野が夕食を振る舞ってくれるとの事だ。後ろから見てても凄く良く似合う西野のエプロン姿。それだけで何だかお腹いっぱい! って感じるのは、きっと今が凄く幸せだからだって思う。

 好きになった人が振る舞ってくれる手料理。その気持ちだけでも嬉しいし、何より凄く美味しいって思うから。

 

 

――って、オレは思ってたんだ。本当の本当に。西野の料理の内容を訊くまでは……な。

 

 

「ところで何を作ってくれる? 出来た時のお楽しみ……てヤツかな?」

「ん? あー それも良いかもだけど、それは次回、そうしてみようかな? 今作ってるのは イタリアントマトとチキンの地中海風リゾット仕立てのオムレットデミグラソースがけってとこかな?」

「…………うん?」

 

 料理に関して。他人と比べたりするのは正直嫌いだけど 食べてきた種類に関しては他の家の人より断然上だと思う。姉貴が何処ぞの国の料理~ とか振る舞ってくれたりしたし、母さんも珍しくて高級な素材を頂いて~ って事で腕を振るって色んな料理を作ってくれたから。舌が肥えてる、グルメだ。……とまではいかないけど、それなりには判るつもりだった。

 

 でも、西野のメニューを訊いて、何度も頭の中でリピートして…… 浮かび上がったのは『結局何?』って事だったよ。

 

 直接訊こう、と思ったんだけど 西野は下拵えに入ったみたいだから止めた。包丁つかってるし 止めるのも危ない気がするから。

 

「えーと、玉ねぎはみじん切りで……だね」

 

 まだまだぎこちなさがよく判るリズムの刻み方だったケド、一生懸命してる って言うのは凄く伝わった。

 うん。凄く伝わったんだけど…… 次の言葉は訊きたくなかったかな。

 

 

「で、スープの隠し味に―――チョコレートとマヨネーズとお酢を少々」

 

 

 一体何を作ろうとしているのだろうか。

 お菓子作り? いやいや マヨネーズと酢の組み合わせが来てるし、それに夕食作りって言ってたんだし……。

 

 

「ん~ もっともっとパンチが欲しいから、味醂とお酒、あっ あとはバニラかな? 甘酸っぱさが仄かに残って味が素敵になりそう! 後はワサビもイケるかな?」

 

 

 

 ……うん。続けざまに連続攻撃が頭の中に叩きこまれた。

 そのおかげで想像の範疇を超えちゃったよ。

 

 その味を想像出来た西野はきっと一周まわって ある意味 有能なんだって なんでか思った。

 

 

 何でオレ、止めなかったんだろうね……。多分 途中から考えに考えすぎてたんだろうなぁ。

 

 

「えへへ。下拵え完成っと。どうかな? 味見してみる??」

 

 おたまを持って にこっ と笑って『先に飲んでみて♪』 凄く笑顔が眩しいって思ったよ。 

 純粋にオレに御馳走してあげたいって気持ちは痛いくらい伝わってくるよ。うんその綺麗な笑顔見てたらさ。

 でもな。確かに未知数な味。未確認生物……じゃなく、未確認料理なんだよ。

 

 

 

 

 いや待てよ……? ここは冒険してみるのも面白いかもなぁ……って、な訳あるか!

 

 

 

 

 

「あ、あー 西野? 一緒に味見してみない? ほ、ほら オレもスプーン借りて…… あーんっ」

「ふぇっ!?」

 

 

 

 なんか西野は自分に来るとは思ってなかったみたいで、ちょっと 驚いていたみたいだけど…… でも 最後は いつもの笑顔が待ってた。

 

 

「わ、それも良いかもねー! じゃ、一緒にやろっ! あーん……」

「あ、あーーん………」

 

「「あむっ!! …………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ザ・ワー○ド! 時よ ○まれぇぇぇぃ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、頭の中で声がした気がする。

 

 

 

「んっ、んっっ!! んーーーーーーっっっっ!!!」

 

 最初に動く事が出来たのは西野の方だったよ。

 スプーンじゃなく、おたまを放り投げる勢いで離して 両手をバタバタさせてた。

 

「み、みずっっ! みずぅぅぅぅ!!!」

「………」

 

 オレは無言で西野にコップ一杯の水を渡した。 

 思い切りそれをぐいっ! と飲み干した西野は、……うん。一杯の水じゃ足りないみたいだ。水いっぱい! 欲しい、と言う感じ? 蛇口を思いっきり捻って ダイレクトで口の中に入れてた。いやぁ 豪快な飲みっぷりですなぁ、はい。

 

「け、けほっ けほっ……。な、なんで!? そ、そーぞーしてたのと全然ちがうっ! パンチが効く所じゃないっ も、悶絶だよぉ……れ、れん~~ ……って あ、ご、ごめんっ! ま、まさかこんな味になるなんて…… って、蓮っ!?」

「ん………? どーした……?」

「そ、それはあたしのセリフっ! あたしの方が沢山入れてたし、まさかアレ、全部飲んだのっ!? だ、大丈夫? 顔が なんか真っ青と言うか、真っ白? と言うか 凄い事になってるよぉぉ!!!」

「そーか……? オレはべつに……、なぁ……?」

「別に、じゃないよー!! ほ、ほら! お水飲んでっ!!」

 

 頭の中では 冷静に西野の様子が見れてたオレだけど…… 身体は悲鳴を上げてたみたいだね?

 今更ながら気付けたオレは とりあえず西野からお水を御馳走になった。いやぁ 五臓六腑に染みわたる見事なお水だったよ。……ただの水道水とは到底思えないね。今日は。

 

 

 

 

「れ、蓮…… 大丈夫……?」

「あ、あー 大丈夫だ。ほらほら! ゲンキゲンキ! ばっちりぐーだ」

「……なんだかいつものテンションじゃない気がするケド…… ごめんね? あんなの飲ませるなんて……」

 

 

 西野、メチャクチャ沈んだ。

 

 調味料とか選んでる時 無自覚だったみたいだ。今更ながらよく判ったよ。で、ここで言うべき言葉はオレの中では決まってた。……あ、後テンションがおかしいのも認める。ちょっと舌とか、胃袋とかが 色々とハイになっちゃってるから それを誤魔化そうとしてるよ、今のオレ。

 そんな強烈で忘れられそうにない料理だった。……いうべき事は最初から決まってる。

 

「いやだってなぁ。西野が初めて振る舞ってくれたスープ、料理だし。そんな謝らなくて良いよ。色々とありがとう。オレの方が沢山貰ってるよ」

「れ、れん~……」

 

 スリスリ~ と頭をオレの胸元に押し付けすり寄ってくる西野は 何だか小動物みたいでほんと愛らしいって思うよ。幸せってきっと今を言うんだろうなぁ~ とか恥ずかしい事考えちゃってた時だったな。あの料理の攻撃力を思い出してしまったのはさ。

 

「……あぁ、でも これは初回限定生産にして欲しい……かな?」

「も、勿論だよっ!! ってか あんなの沢山生産してたらお母さんにも怒られるって!(……料理はちょっと自信があったんだけど、やっぱり1人でするのは初めてだったから、かなぁ……)」

 

 うん。自分の……彼女が頑張って作ってくれたんだ。ま、まぁ 得手不得手ってものだってあるし、西野は頑張り屋だから きっと進化するさ! ……でも、あの味はマジで初回のみにしてほしいって切に思っちゃったのも事実だったよ。

 

 

「あ、後…… 今は互いの心配をした方が良いかも……」

「うー……。え?」

 

 オレも今更なんだって思うんだけど、まぁ 言わないとだ。

 

 西野もオレも思いっきり濡れてるんだよね。水を飲む時にさ。西野のくれた水があまりにもおいしかったのか、オレも西野に倣って直飲みしたんだよ。水量もそれなりに有ったっぽくて、結構周りに飛び散ったみたいだ。よく見てみると床とかも結構濡れてるし。

 

「あ……あはははは。いい歳して水遊びした後みたいな恰好……だね?」

「判る気はするが、でも 時期が時期だからな……。風邪でも引いたら大変……っと、そうだ。体操服があったんだった」

 

 オレは鞄から体操服。つまりジャージの上下を引っ張り出した。

 体育があったんだけど、先生が今日休みだったから自習になったんだ。運が良いのか悪いのか判らんけど、とりあえず着替えはあって良かった。

 

「西野。トイレ借りて良いか? ちょっと着替えてくるよ。その間に西野も着替えた方が良い。風邪引いたらシャレにならないだろ? 最近のって結構長引くらしいし」

「うん。あっ、これだけ濡れてたら脱いで洗濯しちゃった方が早いからさ、後で蓮の服貸してね? 一緒に洗っちゃうから。そしたら明日のお昼には乾くと思うし、ちゃんと着て帰れるよね?」

「ああ、それくらい時間があったら余裕で………ん?」

 

 普通に会話してたんだけど……、なんだろ。なーんか大変な事を訊いた気がするんだが。

 

「どーしたの? 蓮」

「い、いや…… 『アシタのヒルにカワク』ってどういう意味かなぁ、って」

「はい? そのまんまの意味じゃん。今夜中に乾く訳ないでしょ? 流石に。家に乾燥機なんて無いし」

「…………」

 

 気のせい……じゃなかった。

 

 いつの間にか一泊する話になってたんだ。

 

「え、えっと……? つまりその……西野の家に泊まる、って事?」

 

 幾らオレでも流石に早速彼女のお家にお泊り~ なんて考えても無かったから、平常心でいられるはずも無かった。今 ゼッタイ顔に出てるって思う。

 等の西野はと言うと、手に持ったタオルで顔とか髪とか拭いてて こっち見てなかったから判らないかもだけど。

 

「……うん。そーだね。今日は 徹夜で蓮と……べんきょー会! しよっかなぁ ってさ!!」

 

 ……うん。声裏返ってる。西野もきっと同じ様な気持ちなんだな、って思った。いや 西野は勇気を出して誘ってくれてるんだって事も、よく判った。

 

 据え膳食わぬは男の恥!

 

 と言えるかもしれないけど、オレ達中学3年生だからな……?

 

「……じゃ、ビシバシ行こうかな? その、……夜の部もさ」

「お、おうっ! 望むところだーっ!」

 

 西野はくるっ と振る返って握り拳を作ってた。顔がやっぱり赤い。……うん。オレと一緒だ。

 

「と、その前にだ。着替えてくる。西野も着替えた方が良い。風邪引くと大変だ」

「そうだね。うん。このままお風呂に入っちゃうよ。……え、えーと 蓮、れん、れん……も……えっと、いっしょn「ちょっとストップ」むぎゅっ」

 

 さ、流石にやりすぎだ。

 

「……西野。オレはさ 何処にも行かないから。そーんな急ぎ足にならんでもさ」

「う、うぅん…… あ、あたしとしては頑張ってるんだ。だって、蓮ともっともっと仲良く……。うー 蓮はなんでそんなんなんだー! もーっと若者らしくエネルギッシュになれないのかー!」

「ぶっ!」

 

 どんっ! と両手で顔面に突っ張りされた。西野ってほんと突っ走るよ。一直線に。

 

「うー…… あたしは、とっても欲張りなんだ。蓮の事、もっともっと……その……」

 

 もじもじしてる 西野を見て オレが取った行動は1つだ。

 自分の方に抱き寄せたよ。自分の胸に抱き寄せた。

 

「……判る、だろ? オレだっていっぱいいっぱいだ。でも、西野のお母さんと約束もした。西野の事が大切だから……さ?」

 

 結構強く抱き寄せた。苦しくないかな? とか思う間もなかったよ。

 でも、その甲斐もあって多分さっきよりもずっと伝わったんだって思った。

 

「ほんと? ほんとにあたしだけでいてくれる……? 蓮、すっごくモテるから あたしはずっと心配なんだよ」

「……だから それを言っちゃあ西野だって同じだって。あのモテ方は異常だし……。大草でもあそこまではならんし。オレの方が心配だ」

「こ、答えになってな―――い! ぃよし! なら あたしは ず~~っと蓮だけ! ここに宣誓するもん!」

 

 抱いた腕の力を弱めると、ビシッ! と西野は手を上げたよ。眼もぎゅっ と瞑ってる。

 

 だからさ、オレはもう一度更に踏み込んだ。きっと不意打ち……になるかもだな。

 

 

「んっ」

「!」

 

 

 そっと、西野の唇に……不意打ち。

 軽めのヤツを。 

 

 

 

「―――誓います……ってな?」

「………っっ/// ずるいゾ! 不意打ちなんてっ!! んっっ!!」

 

 

 オレは 軽いヤツで済ませたんだけど…… 西野はそーはいかなかったみたいだ。

 

 

 だって 勢いが強過ぎてさ。 お互いの歯がぶつかって結構痛かったから……。

 

 

 


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