平凡は、いちごと共に消ゆ   作:フリードg

3 / 37
2話

 

 

 

 

 

 なんだか知らんが、今オレは正座をさせられる勢いだ。今は彼女の説教タイム。

 

 正直 何でこんな事になってるのか、正直判らない。……解せない。

 

 確かにパン…… 下着を見てしまったのは悪いと思う。

 でも さっきも言った通り過失があるのは相手の方だと思う。だって突然目の前にいて、当然びっくりしたよ。 でも 彼女の方もびっくりしたみたいなんだ。おまけにびっくりし過ぎてひっくり返ってた。

 

 それで、見えてしまったんだよ。見たくてやった訳じゃない。大人だったら逮捕されるかもしれない様な事する訳ないし。

 

 

 それに 倒れてる所を起こそうとしてあげただけでも、感謝されても良いだろ……?

 

 

 そんなオレの想いとは裏腹に、眼前にいるのは腰に手をあてて仁王立ちしてるあの彼女。その顔『今、私すっごく怒ってます!』と言わんばかりだ。

 

 ぶっちゃけ面倒くさい。

 

「もー! ちょっと! 聞いてんの!? えっちなのは駄目だよ!」

「あー、はいはい。もう 耳ダコ」

「何よー! 耳タコって! それに はいは、いっかいだゾ! 不躾っ!」

 

 何? この子供みたいなやり取り。

 一体 何がどうなって こう言う状況になったんだっけ? 少し前の事をオレは思い返す事にした。

 

 

――この学校に転校してきたのは、中学二年に上がった直後くらいだった。

 

 

 ありきたりな理由だけど親の都合。

 どちらかと言えば 前の学校が良かったけど、中学生如きが何を言ったって覆る訳ないし、あくまで 『どちらかと言えば』だったから、そこまで苦痛ではなかった。

 

 それなりに会話はするからボッチだった、と言う訳じゃないけど 基本的に1人が好きだ。

 

 1人が好きだから この新しい学校の中でも特に屋上が好きだった。殆ど誰も来なかったから。

 

「それで なんで屋上(ここ)にいるんだ? って言うか 何で上にまで上がってきた?」

 

 たまに屋上に誰か上がってきてる感じはあったけど、この給水タンクの影のトコにまで上がってきたのは彼女が初めてだ。

 

 何だろう、……嫌な予感が頭ん中に過ってた。

 

「えー わかんないかな。あんなに気持ちよく歌ってたんだもん。そりゃ 近くに行ってみたいじゃない。歌、すっごい上手かったよ!」

「っっ!!!」

 

 嫌な予感――的中。 嫌な事に こういう時の勘は当たる昔から。

 

 と言うかさっきまで『怒ってます!』 だったのに 『実は嘘でしたー』 みたいな顔。いや寧ろ良い笑顔で言ってる。

 

 そして 聴かれてしまった事に関しては 実に、嬉しくない。すっごくうまかった……、美味かった? 何それ美味しいの?

 

 と言う訳で、さっさと降りようと横切った時だ。

 

「こらー! ちょーっと待ってよ。何で無視するんだよ!?」

 

 此処から先は通さない! とでも言いたげに両手を広げてる。

 

「いや もう下校の時刻 とっくに過ぎてるし。……校内に残ってる生徒は寄り道しないで帰りましょー。だろう?」

「あ、まぁ 確かにそーだけど……、って こらっ逃げるな!」

 

 さらっと躱そうと思ったけど、なかなかに動きが良い様で 逃げれなかった。

 別に紳士って訳じゃないけど 幾らなんでもオレは 女子を押しのけて帰ろうとする程 酷いヤツでもない。

 そもそも ここで暴れるのは非常に宜しくない。冗談抜きで危ないから。

 

「ああ、わかったわかった。とりあえず 降りよう。危ないだろ?」

「む……。それもそーだね。うん。でも 先に降りないでよ!」

「……?」

「むー」

 

 スカートを抑えてるけど、覗くって思ってんのかな? 

 

「……どっちかっていうと、見せられたに近いけど。つまり痴「誰がだよっ!!」ごめんごめん。調子に乗った」

 

 また長い長い説教が始まりそうだったから、直ぐに謝った。

 

「ふんっだ。じゃ 先に降りるからねー。1人ずつ降りる事! 安全第一!」

「(……どの口が言ってるんだか)」

「あ! どの口が、って思ってるでしょ!」

 

 どうやら、心を読んでくるエスパーな不思議少女らしい。ほんと厄介ですね、はい。

 

「別に考えてないって。ほら 早く降りて」

 

 頑張って自然に振る舞った事がよかったのか、何とか誤魔化す事が出来た。

 ちょっと鼻息は荒いけど さっさと降りてってくれた。

 

「よいっしょっと! さー良いよー」

 

 と彼女が言った殆ど同じタイミング。

 オレは狙ったよ。本気で。

 

「って わぁっ!!」

 

 狙ったのはジャンプするタイミング。ちゃんと彼女が降りたのを見届けてから降りたから、文句は無い筈だ。

 

「ちょ、危ないのはキミの方って……あれ?」

 

 

 

 そして 誰もいなくなった―――と言う事にしといてくれ。

 彼女が驚いて怯んでる隙にこの場から脱出する事に決めてたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もー、なんだよー! 別に逃げなくたって良いじゃん」

 

 私は何だか腹が立ってた。

 パンツ見られたことなんか忘れるくらい……まではいかないヨ。うん。えっちなのは駄目だからね。

 でも、それでも逃げる事は無いって思う。

 

 

「うーん、あの男子って 誰なんだろ? 背は私より大分高くて…… この辺り? それで赤みが掛かった茶色い髪で………、アイマスクを胸ポッケに入れてて……」

 

 

 さっきの男の子の顔 頑張って 頭の中に収納する。明日辺りにユリに訊いてみるんだ。

 

 でも ちょっとばかり違和感があるかな。

 

「……あの人 私の事 知らないのかな?」

 

 自分が校内の有名人ですっ! なんて言うつもりはないんだけど……、いつも沢山私の周りには男子たちが集まってくるのに、あの人は知らないのかな? って思っちゃう。 

 

 前に ユリが『つかさが学校一番の美少女って事だよー? だから 学校中の男どもがつかさの事ほっとかないってさ!』って言ってたけど やっぱり大袈裟だよっ! 恥ずかしくて 顔を赤くさせてる私を見ながらユリは笑ってたもんっ!

 

 ……それは兎も角、追っかけは迷惑だよ。私は誰ともお付き合いするつもりないっ て言ってるのにも関わらず 結構な頻度で集まってくるし。

 傍にいるだけで良いから、って言われてもほんと困ったものだよ。女友達の皆が何とかガードしたり、ちょっと行き過ぎ気味だったら 私も声を強めたりしてるんだけど。

 

「まぁ 私もあの男の子の事知らないから、他人の事言えないんだけどね。………むー。 でも 今はさっきの子の事 私すごく気になってるみたい。……すっごく」

 

 やっぱり あの歌の事だよ。

 

 まだ耳に残ってるから。それ程までに上手で綺麗な歌声だったから。

 

 ウォークマン……今度お母さんに買ってもらって録音したいな。 

 

 

「私も今日は帰ろ。……明日 覚えてろよーーっ! ぜーーったい見つけてやるんだから!」

 

 

 なんだか、大きな声でそう言いたくなった。

 風に乗って『……勘弁してくれ』って聞こえたきがするんだけど、きっと気のせいだよね? うんうん。 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。