平凡は、いちごと共に消ゆ   作:フリードg

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27話

 今は夕方。

 学校も終わって帰宅中だ。

 

 あー、後明日の朝は早めに家を出ないといけないな。東城や真中たちと約束してるし、すっぽかすのは頂けないし。

 

 それにしても朝の勉強会か。なんだか凄く新鮮な気がするよ。普段が普段な連中だから、勉強なんて全然考えてないし、話の話題にもなってなかったから仕方ないかもしれないだろうな。

 それに『一緒に勉強しよう!』なんて この学校に来て初めての事だし。

 

 

「……ねー 蓮?」

「ん? どうした?」

 

 後 勿論、オレの隣には西野がいるよ。

 

『登下校は一緒だからね! 1人で行っちゃダメだよ』

 

 と言う事で一緒にいる。

 勿論 一緒にいたいって思ってるのは西野だけじゃない。オレ自身も同じ気持ちだ。だから喜んで応じた。西野も笑ってくれてほんとに良かった。

 

 そんな西野なんだけど、なんか難しい顔してた。明日の勉強会の事や受験の事でも考えてるのか? と思って、もうちょっと続く様なら聞こうと思った。

 

「あたしさー、とてもとても大変な事思い出したんです」

「……? 大変な事? それになぜ敬語?」

「そっ。大変な事! ねー あたし達付き合ってるんだよね?」

「あ、ああ そうだ。(敬語に関してはスルーね。……ん、でも 改めて聞かれると やっぱ恥ずかしいかも)」

 

 でもそれは西野も同じだろ? と思って顔見たんだけど、まだ何か考えてる仕草だ。

 それで 次にぱっ! と擬音を付けたくなる勢いで顔を上げると、指さされた。

 

「あたし! 蓮のケータイの番号知らないんだよ!!」

「……はい?」

「はい? じゃないよ! どーして 彼氏彼女なのに、お互いの番号知らないのさ!? おかしくないっ??」

 

 西野 さっきから 何か難しい事でも考えてるなー、と思ったらそんな事か……。

 

「もう 蓮! 何だそんな事かー! って顔してる!? 絶対大事な事じゃん! ……それとも蓮は 知らなくても良いの? あたしの……」

「………」

 

 思考を呼んでくれるのは やっぱエスパーだって思うな。

 でも最後に そんな顔されたら『別に知らなくて良いよ?』なんて絶対言えないし。てか言うつもりなんて元々ない。

 だからさ オレは 言葉で言うよりも先に鞄から出した。もう速攻で携帯取り出したよ。

 それにちょっと予想外だったのか、西野は 眼を丸くさせてたよ。ちょっとしてやったりな気分だ。

 

「あれれ? 何だか反応早いね?」

「ちょっとでも遅れたら『蓮なら 別に良いよ? って言いそうじゃん!』ってさらに追い打ち喰らいそうだからな。自己防衛ってヤツだ」

「おおー、よーく判ったね?」

 

 あはは、と笑う西野。どうやら読み通り 今までの表情から ちょっと大袈裟な言い方も狙ってたみたいだ。怖い怖いってか?

 

「これが オレのメアドと……番号」

「んっ ありがとーっ! はい、これがあたしのだよ」

 

 西野は 笑顔いっぱい。これくらいの事でここまで笑顔になってくれるなら お安い御用ってヤツだ。と言うよりさっさと交換しておけば良かった。うん。家とかで寝る前に電話して……とかさ。彼氏彼女だったら普通だよな? うんうん西野が言う通りだ。

 なんでしなかったんだ?

 

 ………愚かなり神谷蓮。

 

 

「あ、蓮。この番号あたしの家族と蓮しか知らないんだからね? 他の人に教えないでよ?」

 

 でもそれも今日までって事だ。

 初めて好きなコが出来て、好きなコと一緒になれた。

 

 また オレの中で新しい扉が開いた気がするよ。

 

「おう。それオレからも言っとく。家族以外知らないから、オレもそれで頼む」

「あはははっ! 蓮の番号だったら欲しがりそうな人多いもんね?」

「……その言葉もそっくりそのまま返すぞ。と言う訳で互いに色々と一致してるって訳だから、この約束は鉄壁だ。やぶれないし、やぶらない」

「はーい! あたしも右に同じー! ……これからもずっとって訳にはいかないと思うけど 今は蓮だけが良いから」

 

 手をひょい、と上げた後、西野は小指をオレに向けた。

 

「ほら、指切り。約束だからね」

「――了解。約束だ」

 

 がっちりと約束を交わしたよ。

 その後は西野は携帯を鞄にしまって……オレの腕を取ったよ。逃がさないーって言わんばかりに強く。 ……逃げないって。

 

「んーっ すっきりした所で いこっ!」

「ははは。はいはい」

 

 何だか凄く暖かかった。

 寒空に丁度良い。心地良くて暖かい。心から笑顔になれる。

 

 

 

 

「あ、そうだ! 先週の笑点みた?? 桂 歌丸最高だったよねー? 円楽さんとの掛け合いなんかほんっと絶妙で!」

「あー、そう言えば西野が好きな芸能人って桂 歌丸だったって言ってたな。……アレはあの2人ならではのやり取りだろうな。座布団1枚じゃ足りないって思った」

「でしょでしょ??う~~ん 蓮なら判ってくれると思ったよ!」

 

 楽しそうに話すのは笑点の話。

 

 勿論色々と業界の事知ってる。(流石に まだ話したりはしないけど)

 それとなく会った事のある人だって多いんだけど…… 流石にそっちには姉は呼ばれてないし、付き合いもそこまである訳じゃないから 笑点のメンバーの人とは会った事は無い。 会った事は無いけど 西野と同じく母さんが昔から好きで 家では大体TV番組かかってるから、それなりには判るつもりだ。

 

 でも、初めて西野に聞いた時は 『渋いな』、って思ったのはこっちの話。

 

 

 笑点の話で良い感じで盛り上がってた時だ。

 

 

「あたしのお母さんもねー笑点が……って、あっ! そうだ。お母さん、蓮にまた会いたいって言ってたよ?」

「んん?? 何でまた。 オレ……何かミスったのかな……? 確かにやっぱり緊張してたし……」

「へへー(あれで緊張してたんだね……。絶対ポーカーフェイス過ぎだって)そんなんじゃないよ。ちょっと落ち着いてねー? 蓮って元々有名人だったけどさ! 更に有名になっちゃったみたいなんだ」

「……はい?」

 

 

 何言ってんの? って素で思った。西野に対しては沢山そう思ってきたケド 過去最大級かも。その後に教えてもらった内容が過去最大級……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれはね、蓮の彼女になれた次の日だったよ。

 

 やっぱしちょっと ぎこちなかった気がするケド、何だか見える景色がすっごくキラキラと輝いてる気がした。恋すると、大好きな人と通じ合えると、ほんとに変わるんだね……。って言うのがあたしの感想だったよ。 とてもくすぐったくて、それでいて心地いいんだ。

 

『つかさ。神谷君の話だけど』

 

 そんな浮かれてるあたしの事 しっかりと見抜いてますよ? って言わんばかりにお母さんが蓮の話を始めたんだ。

 

『え? ……蓮の事? どうしたの』

 

 あたしはちょっとドキドキしてた。

 あの時 お母さんは許してくれたのは間違いないんだけど、やっぱり反対だ! って言いだすのかな、って。中学生が早過ぎだ、って。お父さんも許してくれなかったりしたら、更に大変だし。

 

 でも、何言われてもあたしは蓮の事諦めるつもりないから。

 

 そう身構えてたら、お母さん笑ってた。

 

『今度ゆっくり話したいわ。……ちゃんとお礼を言わないといけないコなんだから』

『……へ? お礼??』

 

 予想外だったよ。お礼を言うって。

 だって お母さんには ずっとずっと謝ってばかりだったからさ。あたしも……それに蓮も。

 

『ふふ。色々と訊いたのよ♪ なんだか羨ましいわーつかさの事。今時、そんな風に助けてくれるなんて中々あるもんじゃないわよ?』

『……えっ?』

『『蓮はあたしを助けてくれたの』ってほんとそのままの意味だったのね。ふふ。私も神谷くんみたいに助けてくれるかしらね? お父さんは。……それは兎も角』

 

 お母さん あたしの目を真っ直ぐ見たよ。

 

『つかさはしっかり者だって事は判ってる。でも、つかさが襲われそうになったって話を聞いてさ。……本当に心配したよ。それにそれ以上に神谷君には感謝しかないのよ。大切なつかさを守ってくれてありがとうって。だから……』

 

 お母さんはニコっと笑った。

 

『また、連れてきてね? 未来の私の息子をさ』

『っっ///』

 

でも 流石に、最後の辺りは ちゃんと聞けなかったよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西野から色々と話は聞いた。

 

「と、言う事があったんだー。どうもね? コンビニのあのお姉さんって 近所に住んでる沖田さんだったんだねー。蓮の事すっごく印象に残ったって言うか、その…… か、格好良かったとか何とかって。沖田さんだけじゃなくて、店長も直ぐ傍に住んでる人で…… それであっという間に広まったんだって」

「……………」

 

 うん。西野のお母さんにそう言ってもらえるのはとても嬉しい。感謝してくれてるって言われて、嬉しいけど やっぱり なんて言われても西野が襲われそうになった原因の1つは自分にあるから 素直に受け入れるのは難しいかもしれない、かな。

 

 

 でも、それ以上に……。

 

「……広まった?」

「あー……うん。で、でも 大丈夫だと思うよ?? 蓮の名前は言ってなかったから!」

「…………」

「うー…… そ、そうだよね? ……ゴメン。蓮はそう言うの嫌いだったんだよね……」

 

 確かに、西野の言う通りだ。

 姉の影響からだって自覚してて、色々と騒がれるのは苦手だ。

 

 でも、苦手であって嫌いだって訳じゃない。

 それを言えばもっと嫌な事だってある。

 

「大丈夫だ」

「え?」

 

 西野が悲しそうな顔してるのを見るのが嫌だ。 それが自分の事であるのなら尚更。

 自分の中での色んな順位なんて、あの告白した日から総入れ替えだ。

 

「何でもない事だって。西野を助ける事で出来て、一緒になれて。その代償? ってのがそれなんだったら 軽過ぎ」

「そ、そっか!」

 

 よし、笑顔に戻ったな。

 色んな顔、西野はどんな顔してても可愛いってずっと思ってるけど、やっぱり笑ってる顔が一番だ。

 

 

「それにしてもなぁー 平凡は、いちごと共に、消え去るよ。ってか?」

 

 

 平凡を目指して頑張った? けど。あの屋上での出会いから全部ひっくり返ったって事かな。元々 オレの事噂されてたみたいだけど、それもあの出会いがきっかけだって思ったりしてるよ。

 

 

 

 

 

「ふふっ 何詠んでるの? ……んん? ちょっとまって。いちご(・・・)ってどー言う意味??」

「あー いや。何でもないさ。西野との出会いは衝撃だったなーってだけ」

「もーーっ! え、えっちなのはダメだぞ! ま、まだ早いってば!!」

 

 

 

 過去よりも今を大切にする。

 それが今後の抱負ってヤツかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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