平凡は、いちごと共に消ゆ   作:フリードg

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23話

 

 

 

 

 

 

 

 人通りがそれなりに多い場所について、とりあえず一安心だろう。

 さっきの連中も逃げていったみたいだし。

 

「大丈夫か? 西野。無事でよかった」

「……………」

 

 西野の事、何とか助ける事は出来たけど あれから西野はずっと黙ってしまっている。

 当然だと思う。……あんな目にあったんだから。

 

 そんな西野を見てたらやっぱり罪悪感が凄く出てきた。だって切っ掛けが オレがコンビニに寄ったからだから。

 

「その…… ごめんな。オレが寄り道しないで 真っ直ぐ帰っていれば……」

 

 オレは西野に謝ったよ。ちゃんともう一度謝ろうと下ろそうとした時だったよ。

 

「れん……、れん……っ」

 

 離したくないって言わんばかりに西野が、オレの首に手を回して ぎゅっと引っ付いてきた。

 …………い、幾ら非常時だったとしても、罪悪感がメッチャあったとしても、これは……い、色んな意味でヤバかった。段々思い出した、と言うか実感してきた。

 

 オレ 西野を……抱いてるんだって。へ、変な意味じゃないぞ?? でも、オレだってれっきとした男なんだから仕方ないって!

 

「あの、に、にしの? そろそろ……降りない、か?」

「れん……れん…… こ、こわかった。こわかったよ…… あ、ありがと……ありがとう」

 

 ずっとずっと抱き着いてきてる。

 抱き抱えた時は あまり意識しなかったんだけど、今 西野を全身で感じる……。西野の体温や耳元で囁くように言ってるから吐息もはっきりわかる。

 つまりすげぇ恥ずかしい! ……それ以上どう表現していいか、わからなくて…… と、と言うか何か考え続けてないといけなかったんだ。

 

「(だ、だって 理性……跳ぶ、かも……だし。やっぱり凄く柔らかい……)」

 

 やっぱり、と言うか、……まぁ オレは姉に何度も抱き着かれたりしてるから、それなりに女の子の柔らかさと言うか、感触と言うか その辺の事は大体判ってたつもりだったんだ。

 

 でも、西野は今までのとは違った。……やっぱり、初めて好きになった女の子だから、だと思う。

 

 でも……。

 

 

 

 ひそひそ………………。

 

 

 

 

―――やぁねぇ……、最近の子供は。

―――節操ってものが最近のコってないのよねー。

―――こんなとこでイチャイチャしなくても……。

――― 見せつけやがって……!

 

 

 

 

 だんだん周囲の目がきつくなってきたよ。痛いくらい視線が集まってくる。

 何か 鋭い視線と言うか殺気と言うか、嫉妬染みたものも感じるけど、今はそれどころじゃない。早く逃げたいからここから。

 

「っ…… 西野、走るからな!」

「れん……れん……っ」

 

 オレは 正直少しばかり疲れていた。あの連中を上手く撃退できたのは良かったけど、やっぱり、身体は疲れてたみたいだし、西野を抱えてきたから、って言う理由もあるかな。

 でも火事場のバカ力が出たみたいでしっかり走れた。

 

 あ、一応言っておくけど 西野が重いから……とかそう言うのは無いから。と言うか、そんなの考えられないから。ただただ……柔らかかった、とだけしか……。

 後 何処に行くかとかは考えてなかった。第一この場に居続けるのも無理だし、それに今の状態の西野を下ろすのも無理だ。走ってる間も西野はオレにずっと強くしがみついてたから。……その、恥ずかしいけど 西野は今オレを求めてくれてる。怖かったって事だって理解できる。……それなのに、それを無碍にするなんてできないから。

 

 

 

 

 それで 何とか人が少ない場所、日も落ちかけてる黄昏時って言う時間帯の公園についた。近所の子供達が沢山遊びまわってる場所だけど、流石に今は誰もいなかったよ。

 でも もしもって事だってあるし、さっきみたいなになったら嫌だから、遊具のひとつのドームの中にとりあえず避難したよ。西野もさっきと比べたら大分落ち着いたみたいだし、一安心だ。

 

 西野を抱き抱えるのは 今考えても凄く恥ずかしい。……でも、名残惜しかったりもする。下心はない、とは言わないが それを掻き消すくらい西野の身体 とても柔らかくて、何だか心地よかったから。

 

「西野。大丈夫か? 落ち着いた?」

 

 オレは 座って前をじっと見つめていた西野に話しかけた。

 その言葉に反応したみたいで、西野はゆっくりとオレの方を見た。

 

「……蓮」

「ん? どうした?」

「……さっき、『ごめんね』 って言ったよね?」

「ん……あぁ。だって あのコンビニ。オレが寄ろうって言ったから。それのせいだ。ああ言うのがいるなんて思わなかったけど、切っ掛けは オレ……だから」

 

 そう言ったオレが 今度は西野みたいに顔を俯かせたよ。言葉にすると より実感してしまうんだ。

 

 もしも…… 相手が大人で、車でも乗ってきていて 西野をそのまま連れ込んでしまったら?

 

 考えるだけで怖かったよ。……本当に。

 オレでさえ それだけ怖かったのに 西野本人は比べ物にならないくらい怖かったと思う。

 

 そんな時だった。風が吹いて、外の冷気で少しばかり肌寒かったんだけど、頬が凄く暖かくなったのは。西野の手が、オレの両頬を挟み込んだんだ。

 

「……あたしはさ、『ありがとう』って言ったんだよ。蓮があたしを助けてくれたから、あたしは無事だった。悪いのはさっきの男達! ……だから、蓮に謝ってほしくない。何度も言うけど 悪いのは、さっきの人達だから。蓮は、何一つ悪くないから。……だから もう一度……だけ言うね」

 

 西野は目を瞑って 額をオレの額に、当てた。

 

「ありがとう。……蓮。助けてくれて、うれしかった……。ありがとう」

「…………」

 

 言葉が出ないって言うのは こう言う時の事を言うんだろうな。

 さっきまで罪悪感で押し潰されそうだったんだけど、何だかいつの間にか……消えてた。消えたのを実感したと同時に、また改めて西野が本当に無事でよかったって思えた。それと同時に安心感が凄く出てきたよ。

 

「よかった。……無事で、良かった」

 

 オレは 西野に身体を預ける様に、額を付けるとそっと目を閉じた。

  

 

 

 

 

「それでさー、蓮? あたしと付き合ってるって本当なのかなー??」

「うん? 何の事?」

 

 すっかりと調子を戻した西野。

 本当に良かったとは思うけど、何言ってるのか判らなかった。別に恍けてるとかそんなのじゃなくて、本気で。

 それを多分西野も感じ取ったみたいだ。凄く頬を膨らませてるから。

 

「なんだよそれっっ!! あの時、テキトーな事言ったって言うのっ!!」

「???」

「本気で判んないって感じ!? 無意識っ!?」

「ええっと……」

「う、うう……」

 

 西野は 怒って頬を膨らませていたけど、今度は少しずつ顔を俯かせてた。

 

「蓮、言ったもん。『その子と付き合ってんの。オレなんだけど、勝手に連れて言ったら困る』って、言ったもん」

「………!!」

「言ったもん!!」

 

 い、言ったような 言ってない様な……。言ったっけ???『言ったもんっっ!!』わ、判った判った!!

 

「あ、あぁ。言った、……かも」

「なんで、『かも』なんだよっ! あーんな恰好付けて言ってた癖にっ!」

「いや……、ほら あの時オレも結構テンパってたから……、正直細かいトコ、覚えてないんだよ……」

「え? テンパ? そうなの?? 自信満々に堂々としてたって感じたけど。今思い返してみればさ」

 

 西野が言うのも仕方ないかも。だって表情豊かじゃないって言われた事は何度かあるんだよな、オレ。

 

 でも 思いっきり感情を表情に出すのは、……やっぱり 身近の連中だけだから。

 

「それに、蓮ってすっごく強いんだね? 相手高校生っぽかったじゃん。ひょっとしたらもっと上だったかもしれないし」

 

 西野にそう言われて、オレは慌てて西野に言い返したよ。

 

「っ…… 悪い西野。それ見たの、ここだけの話にしてくれ」

「え? ……って、蓮そんなのばっかだね。お姉さんの事もそーだったしさー」

 

 なんだかジト目で見てくる西野。

 それも仕方ないかもだけど、これも姉ん時同様、しょうがないんだ。これもバレたら結構大変だから。

 

「いや……、折檻されるかもしれないんだオレ。小さいころから 祖父の道場で合気習ってて……、それ 外で使ったって事がバレたら。(バレる訳ないとは思うけど……)」

「え……? ええ!! 蓮って武闘家だったんだ!?」

「い、いやいやいや。そんな大それたもんじゃないって。オレ、職業中学生だって。これも昔ちょっとあって、オレの爺ちゃんのトコで色々と教わってたんだ。……でも、外では使うなって言われたから」

 

 勿論理由は判るよ。

 ほら、プロボクサーとかが一般人を殴っちゃいけない、のと同じ事だ。力に酔うような事にならない様に、って何度か爺ちゃんは言ってた。

 

「……蓮。後悔してる?」

「え? 後悔??」

「うん。……お爺さんから教わったもので、あの男達にひょっとしたら怪我させたかもしれない事」

「……ぜんっぜん!」

「ふふ。助けられたあたしが言うのも 変だけど。蓮がそう思ってるなら、大丈夫だと思うよ。蓮のお爺さんも絶対に怒らないって思う。だって あたしを助けてくれたからさ!」

「あ、あぁ。確かにそうだ。ふふ。仮に折檻されたとしても、オレは堂々としてると思うよ。……西野の事、助けれたってな」

「っ……/// う、うんっ! そーだよっ!! 蓮はどうどうと胸張ってたら良いの! そして、助けてくれて改めてありがとおーっ! だよ!」

 

 西野の良い感じの右ストレートが オレの頬を叩いた。

 はは、と笑みを受けつつ オレはウインクを返したよ。

 西野も、へへっ と笑う様に 白い歯を見せたよ。

 

 それで終わるかと思ったんだけど……。

 

「そーれでー! 蓮はあたしと付き合うの?? ……付き合ってくれるの??」

 

 なんか、話を戻された……。あの時の事 ほんと頭から抜け落ちちゃってるのに。

 

「え、えっとな…… 西野。あの時は多分、あいつらから西野の事を突き放したくて言ったんだって……。それにさ、西野。そう言うのって好きなヤツに訊くべきじゃないか? ほら こんな状況で 気持ちが昂ったりして…… ほら、吊り橋効果とかなんとかってヤツ? もうちょっと落ち着いて「もうっ 落ち着いてるよ!」っっ!?!?」

 

 ………な、なに? い、いきができない?

 なんで?? なんで? いきができない?? なんで、にしののかおが こんなにそばに??

 なんで、くちにやわらかいかんしょくが??

 

「ん……、む……、んん……。ぷはぁっ!」

「……………」

 

 すこし、にしののかおが、はなれた。でも まだにしのと……つながってる。

 とうめいな いとがおれと、……その、にしののくちびるに。

 

「あたしは、キミのことが……好き。蓮のことがずっとずっと好きっ! あたしを 蓮の彼女にしてください!」

 

 それで にしのは あたまをさげた。

 

 

 

 

 それで、ようやく……何が起こったのか オレは理解したよ。

 ……うん。西野に告白 された。いやそれどころじゃない。

 

『オレ、西野と……キス、したんだ』

 

 それで 西野は頭を下げてる。オレの返事を待ってる。……凄く震えてるのは、多分怖いからだと思う。オレだって怖い。何倍も時間が長く感じると思う。その待ってる間は ずっと辛いと思う。だから震えてるんだ。

 

 だから、オレは震えを止めてあげたかった。

 

 西野の肩を掴んだ。

 

「っ……」

 

 西野は 少し体を揺らせた。

 それで、西野はゆっくりと顔をあげたよ。それと同時に、オレは行動したよ。

 

 うん。ちゃんと告白の返事を返した。男として当然だ。

 

 

「れ……。――――んっ」

 

 

 オレは、告白の返事を返したよ。ちゃんと……、その唇に かえした。

 

 

  


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