平凡は、いちごと共に消ゆ   作:フリードg

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20話

 

「なぁなぁ神谷。西野はどうしたんだよ。最近オレらのクラスに来てないじゃん」

「それを何でオレに訊くんだよ。それに そもそも そんな頻繁には来たりしてないだろっ!」

 

 さっさと切り上げたい気持ちが凄い強いんだけど……上手くあしらう事が出来ないんだ。大草は 他の連中(真中や小宮山)と違って単純じゃないから。

 

 でも、大草はそんなオレの気持ちを見抜いていたみたいに笑ってたよ。

 

「……まっ オレはしつこくは訊くつもりは無いよ。でも あんま皆に心配かけるもんじゃないぜ? 他の皆はまだ気づいてないっぽいけど このままじゃ時間の問題だって」

「っ………」

 

 どうやら、オレは 心配をかけてたらしい。

 そこまで気の抜けた顔をしていたんだろうか、と自己嫌悪になりそうだった。

 

「……なんか悪いな」

「いやいや。唯一の常識人である神谷が抜けるとなると、オレにとっても負担が凄い増えるんだ。頼むぜ? 相棒」

「そう言う扱いは 止めてくれって。めちゃ疲れるんだから」

 

 腕を回してきた大草。

 オレは苦笑いしつつ ゆっくりと大草のその腕を払ったよ。……なんか周囲の女子の視線が少々気になったけど、やっぱり大草を見てるんだろう、と結論した。結構強引に。

 だって オレが人気…… とか全然信じられないし。

 

「でもさ。オレなんかちょっとだけ安心って感じだ」

「は? 安心?」

「ほれ、神谷って中坊らしくないって先生にまで言われてただろ? オレも妙に大人びてるよなー、ってずっと思ってたし。的確なツッコミ入れるし」

「あー、まぁ そうだな。……てか ツッコミ云々は ボケ役が濃すぎるからだろうが」

「ははっ! そりゃそうか」

 

 大草の言う通りだ。先生とかに何度かそう言われた。転校してきたばかりで 話す機会自体少なかったんだけど、それでも言われた。色んな荒波に子供ん時(今も子供だけど)からずっと揉まれてきたから仕方ないって、自分を客観的に見れるよ。

 ほんと……色々と大変だったからなぁ……。

 

「つまり、お前が人並に恋煩いをしたってのが卒業前に見れて良かったって思ってんだって」

「っっ! こ、こいわっ!? な、なんでそーなるんだよ!?」

「いやいや何でも何も、そもそもアレで誤魔化せてるって思ってんの? 『なんか悪いな』って返事返した時点で認めてるだろ」

「ぅ……」

 

 違いない。……全くその通りだ。いかん 最近のオレ隙だらけって感じだよ。

 

「っとと、しつこく聞くつもりないっつったしな。この辺にしとくけど あんま無理はすんなよ? ……西野もお前が来るの、待っててくれてるかもだぜ」

「…………」

「(うーむ、……オレも結構西野の事気になってたから、話してみようかな と思ったけど…… 神谷(コイツ)が先に手だしたんだったら ま、手を引いた方が吉かな。神谷だし)」

 

 大草は 女子に関しては外れた事は言わない。相手が西野だったとしても……そこまで変わらない的中率だと思う。

 いや、オレがそう思いたいだけかもしれないな。

 

「ほれ、もう下校の時間だぜ。あの2人は補修受けてるみたいだし、今日は久しぶりにオレらだけで帰るか?」

「……そうだな」

 

 大草と2人だけってのは 最近じゃ珍しい。いつも真中と小宮山の2人がいて、4人で帰る事が多かったから。ああ、大草が女子に呼ばれていないってパターンはあったか。

 

 

 

 と言う訳で、真中と小宮山の2人は置いといて 帰る事にした。

 

『オレ達を見捨てるのかぁぁ!』

 

 と、小宮山が騒いでたけど、『この時期に んな点とるヤツが悪い』とドストレートに言ったら何にも返してこなくなった。いや、言葉が槍になって 小宮山を貫いちゃったからだと思う。言霊って具現化する事が出来るんだな…… とバカな事を考えつつ、オレと大草は教室を出たよ。真中は まぁ 小宮山のお守兼勉強だろう。 僅差だけど 小宮山より真中の方が学力は上だから。……団栗の背比べだけど。

 

 

「そう言えば、真中は東城と勉強って言ってたと思うんだけど、まだやってないのかな?」

「あー、そう言う話 確かに真中もしてた様な気がするな……。東城日直の仕事がちょこちょこ入ってたし、今日はしなかっただけなんじゃないか?」

「あ、そう言えばそうだった。……皆の前で盛大にこけたの思い出したよ」

 

 東城は、本当によく転ぶ。何にもない所でも くきっ! と足を踏み外したりして転んでしまうから、教室の様な机や椅子のジャングルだったら、高確率でこけても不思議じゃない。……でも 今までそんな気配は無かったんだけどな。そんな頻繁に転ぶ女子がいたら、目立つし 名前と容姿だって 幾ら真中でも覚えれると思う。……東城は 真中と知り合ってから 転ぶ事が多くなったとかか?

 

「おっ?」

「……いてっ!」

 

 オレも人の事言えないかもしれない。前を見てなかったから、オレの前を行く大草にぶつかったから。

 

「っと、危ないな。何で急に立ち止まってんだよ」

「ふふ。良いタイミングかもしれないぜ? 神谷」

「は?」

「ほーれ!」

 

 大草は、オレの腕を掴んで強引に前に行かせた。……それで 目の前に見えてきたのは2人。 黒髪をポニテで纏めた やや長身の女子。名前は 知らない。それと…… もう1人は明るい金髪のショートの。

 

 

「ぁ……」

「っ……」

 

 

 西野、だったんだ。

 

「(互いに目と目が合って3秒。……赤くなって目をそらせたら 惚れてる。これ間違いない診断だけど、2人はどうだ?)」

 

 

 

 西野の顔、久しぶりに見た気がした。たった4日間だったのに、1週間も経ってないのに。本当に久しぶりに感じる。それと同時に、何だか顔が赤くなってきて 西野の顔 中々見れない。反射的にオレはそらせてしまったよ。

 

「おおーっ 噂をすればなんとやら、だね? つーかさっ!」

「ゆ、ゆりっ!! (ま、まだまだ心の準備出来てなかったのにー!)」

「(だいじょーぶだいじょーぶ。5秒前の自分を思い出してって。すっごく気合入れてたじゃん? 後はあたしの勘を信じなさーいっ!)」

 

 

 なんか、向こうも賑やかになってたよ。……それに、こっち側で言う大草みたいに、西野の事を強引に前に出した。

 

 

「ん?(ほほぅ 向こう側も似た様な事考えてたって訳ね。んじゃ 一口乗りますかなって)良かったなぁ、神谷。さっき考えてた事が、こんなに早く叶うなんてなぁー って、いでぇっ!!」

「……アホ。んな事言ってねぇ。考えてたって、なんで判んだよ」

 

 オレは にこやかに晴れやかに笑う大草の足の爪先をストンプ。慌ててたって事もあって結構強めに入っちゃったけど……良いだろ。

 

 

 

「………」

「………」

 

 

 

 その後は自然と西野と対面したよ。させられた、って言うのが正しいかも。

 でも やっぱり、動悸が止まらない。頬も赤くなってるって思う。

 だから夕方だって本当に良かったと思ってるよ。夕日が窓から差し込んでて、結構辺りを染めてるから。夕日の色に。

 

 でも ちょっとだけ会ってなかっただけなのに…………… こう、なるんだな。

 

 

「おっす……、れ、れ…… 神谷、くん」

「ああ。……」

 

 

 物凄くぎこちない。うん。滅茶苦茶違和感ありまくりだ。平静を装うとしても 霧散してしまうよ。……どうすりゃいいんだろう。ほんと。

 いつもどうしてたっけ……?

 

 

 

「さーてと! おお、大草くんじゃん! 今日も相変わらず格好良いねー?」

「ん? ああ、確かキミは椎名さん」

「へー、あたしの事知ってたんだ?」

「そりゃね。前に話した事 あるじゃん?」

「ありゃりゃ、そうだったっけ?」

 

 

 

 横で2人が話してるんだけど…… ほんと頭に入ってこない。

 西野に全神経が集中しちゃってるから。

 

「あー、つかさ? こんなチャンスあんまりないから、ちょっとあたし 大草くんと話してくるねー?」

「………ええっ!?」

 

「おー、神谷。オレもちょっと椎名さんとは話があるんだったんだよ。ほれ、確か椎名さんって生徒会の書記やっててさ。サッカー部の事もちょっと聞いとかないと~だったんだ」

「………はぁ!?」

 

 

 驚いた。 

 ほんと、2人は示し合わせたかの様に、あらかじめ 打ち合わせでもしてたん? って聞きたくなる程自然に、離れていっちゃったんだから。

 『ちょっとまてー!』って言う暇もなくさ。西野も同じ気持ちだった様で、口をぱくぱくさせてた。

 

 

 

 

 ほんと、あっという間の出来事。……ぽつんっ、と2人きりになっちゃった。放課後だし周りに生徒がいなかったのがせめてもの救い……かなぁ。

 

 それで その後少しだけ変な間があったんだけど、最初に話したのは西野からだったよ。

 

 

 

「……え、えと。ねぇ 蓮?」

「……おう」

「ちょっと、歩かない?」

「……ん、わかった」

 

 西野に連れられて、一緒に歩いた。肩を並べて、ね。行き先は 大体だけど想像がついたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段を上がって、上がって……一番上まで。そこにある扉を開くと 夕日が身体を照らしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここが西野と初めて出会った場所だったから 感付けたかもしれない、かな。

 

「……西野、ちょっとだけ待ってて」

「え? どしたの?」

 

 オレは、ちょっとした階段の踊り場にある机やら椅子やらを屋上に引っ張り出した。

 

 西野は、何してるのか判らないからか、頭に幾つもの《?》を浮かべてる感じだったけど、今は説明はせずに ある程度引っ張り出した後は、屋上の扉の前に積み上げる。大分完了した所で、西野は声をかけてきたよ。

 

「なにしてんの? 蓮」

「………覗き見とかしてきそうな気配がするから。その予防策を、と」

「……ぁ、な、なるほど」

 

 西野にも心当たりがあるのか、うんうん と頷いてた。

 でも…… 冷静に よくよく考えたら 2人きりの空間。その出口を塞いで……って 状況も不味いんじゃ…… って思ったケド その辺りは西野は気にした様子は 多分ない。きっと信頼してくれてるんだろうし、オレはそんな馬鹿な真似は絶対しないし。

 

 兎も角ちょっと疲れたけど完了だ。これだけつんでれば、開けれない……事はないと思うけど、開けようとすれば音は出るし、ちょっとだけ開けて~ って事も出来ないと思うから。

 

「へへっ てーーっきり 出口塞いで あたしの事、襲っちゃおう! とか考えてるのかと思っちゃったよ」

 

 西野は、もうすっかり元の調子に戻る事が出来た様だったよ。うん、そりゃ良い事だ。何だか、様子がおかしかった気がするからさ。

 

「はぁ…… んな事するわけないだろうが。この大変な時期に」

「へー、大変な時期じゃなかったら、シちゃうんだ?」

「揚げ足取らないでくれって……。それに、ちょっぴり はしたないって思うぞ?」

「うっ……、そ、そんなことないもーんっ! 蓮がそんな感じにするんが悪いんだから!」

「あー…… はいはい。そーだな」

「もぅっ はい は1回、だゾ!」

「はーい」

「伸ばさないー!」

「OK」

「って、なんで今度は英語になるんだよっ!」

 

 

「「……あははは!」」

 

 

 面白いくらい会話が弾む弾む。

 

 あ、ちょっと思い出したよ。『女の子が、そんな はしたない事言うもんじゃありません』って、確かオレの母が最初の方には姉に言っていたんだった。それを思い出したら、何だか笑えてくる。西野と話してる楽しさに相余ってさ。あの時は全然通じなかったし、多分西野に言っても通じないだろう、って思うからなぁ。

 

 

  

 

「ふぅ……」

「ね、蓮。ここはまだゴールじゃないよ? ほら、上!」

 

 西野は 上をさした。そう、給水塔が立ってる本当に一番高い場所。……本当に初めて出会った場所だ。

 

「ここでも良くないか?」

「駄目。折角来たんだもん。……うえ、いこ?」

 

 ここで上目遣いするの……か。

 それを断れる……か? 男が。

 

 と言う訳で、選択肢 YES/ONの内の1つを一瞬で消し去って、颯爽と返事する事にしたよ。

 

「はいはい。西野サンのおおせのままにー」

「うむうむ。くるしゅうないゾ?」

 

 にこっ と笑ってオレから先に上がったよ。

 だって西野から上がったら…… まぁほら ちょっとしたトラブルが起きるから それを見越しての行動だ。

 

 

 西野もそれには気付いてる様で ただただ笑っていた。

 

 

 

 

「ふー、やっぱここだねー」

「下も上もそんな変わらんだろうに……」

「いいの! ここが一番いいの!」

「はい。了解であります」

 

 西野はちょっと膨れながらそう言ってる。その顔も良いんだけど、やっぱりオレは笑ってる顔の方が良いからすぐに認めた。認めたら、西野は本当に直ぐ笑うから。……笑ってくれるから、さ。

 

「……ねぇ、蓮。ちょっと聞いても良い、かな?」

 

 でも、西野の笑顔は直ぐになくなったよ。……何だか真剣な顔になってた。

 

「うん? 良いよ。答えれる範囲内でなら、だけど」

 

 何を訊かれるのか…… この時は想像できなかったんだ。

 

 でも、訊かれた内容。……それを訊いて オレは正直震えてしまったよ。

 ほら、西野に歌を聴かせて、って言われたあの時みたいに……。

 

 

 

「その………前に、蓮が 女の子と一緒に……歩いてたけど、だれ……なのかな、って」

 

 

 

 前とはいつの事? 学校での事? 歩いたのって西野の事じゃ?

 

 

 色々と疑問を強引に生んだけど……、それらの疑問は一瞬で消えたよ。

 だって、判ったから。西野が言ってる()っていつの事なのかと、それと 女の子って誰の事をさしてるのかも。

 

 

 

―――見られてた………!?

 

 

 でも 何だか 色々とバレるのって……西野から始まる事が多い気がするケド 気のせいじゃないよな?

 





西野は 確か真中の事、じゅんぺーって呼んだ時期があった様な…… それでいつの間にか くん 付けになった気がする。

蓮に対してはどうしようかな……。

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