平凡は、いちごと共に消ゆ   作:フリードg

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14話

 

 うん。そうだよ。ガンガン攻める! それが あたしなんだ。

 

 どんな事だって 受け身でなんて性に合わないんだ。

 それに よく考えてみたらやっぱり昔からだったと思うしね。

 

 そう幼稚園の時だって、小学校の時だって、中学の今だって 待ちなんて無かったよ。

 

 どんな遊びだって全部全部攻めるのが一番楽しいし、面白い。 守りなんて二の次っ!

 

 

 ま、まぁ 流石に中学にもなってきたら それなりに気を使う様にはなったよ? だって、女の子だからさ。それにいつかは、こう言う時(・・・・・)だってくるだろうって、ずっと思ってた。

 

 

 

 

 でもやっぱり、こう言う時だって ガンガン行くんだ。絶対に負けたりしないように。……誰にも。勿論自分自身にもね。

 

 ずっとそう思ってるのに…… ずっとずっとそう自分に言い聞かせてるのに なかなか思った通りにいかないんだ。

 

 

 そうなんだ……。だって今日は、なかなか蓮に会えなかったから。

 

 

 いや、違う。それはやっぱり嘘だね。

 だって会えてるって思ってるもん。でも…… 会えていないのは最後の一歩を躊躇してしまってるんだって自覚もしてるから。

 

 これは蓮に出会ってからだった。こんな気持ちになったのは蓮の歌に惹かれて、それで出会った時からだったんだきっと。

 

 普段なら、蓮以外の人なら 絶対自分から行けるって判る。廊下で騒いでた2人組にも躊躇なんかせず入っていけたし! 

 でも、蓮は違う。蓮だから見えない壁が邪魔してくれてる。蓮とあたしの間にあるその壁は、自分が作っちゃってる理性の壁。

 

 でもでも 立ち止まり続けたくない! とりゃー! とそんなのなんか蹴っ飛ばしてつき進みたい。このままは嫌だから。ちょっとでも臆しちゃったらずるずると続いてしまうって思っちゃうから。

 

 厄介極まりない壁だけど、隔たったままなのは絶対嫌。何度も何度も自分に言い聞かせて頑張ってきたんだから。昨日のお風呂の中でもずっと考えてたから。

 

 だから あたしは今度こそ決めたんだ。行く場所はひとつ。きっと、そこにいるって思ってたから。

 

 思った通りだったよ。そこにいた。……蓮がいた。想いが通じたってちょっとだけ思っちゃったかもしれないかな。

 

 やっぱり 蓮と話すのは楽しい。すごっく楽しい。休み時間が本当にあっという間だよ。昼休みの時間が良かったって思ってる。正直短すぎるから……。 

 ちょっと授業サボっちゃおうかな。 っと提案しようと思ったくらいだったよ。。

 んー、後でほんとに言ってみようかな?

 

 それで、直ぐ後に 念願の蓮の歌を聴く事が出来たんだ。

 

 

「(これは――あの映画の主題歌の……)」

 

 

 有名な邦画の主題歌だから直ぐに判った。上映してた時は ニュースでの何度も取り上げられて、その度に流れてるし、今でもコンビニに流れてるから。

 心地良くてゆっくりやわらかなテンポ。だからかな、心の奥にまで響いてくるんだ。

 

 

「(後は多分……蓮が歌ってるから、だよね……。いや 絶対そうだよね)」

 

 

 あたしは 自然と目を閉じていた。

 蓮がそうしてる様にあたしも目を閉じて耳を、いや身体全体を集中させた。耳だけじゃなくて、身体全体で受け止めたいって思ったから。

 

 

「(あ……、目を閉じたら、ほんとに気持ちいいかも……、蓮の歌が心地よくって、優しいから……)」

 

 

 これじゃ子守歌になっちゃってるよー。でも 今寝ちゃうのは勿体なさすぎるから駄目! 起きてろよ! あたし!!

 

 

 

 

 

「――――――………」

 

 

 

 

 

 それで、ほんとにあっという間だったよ。ゆっくりで、それでいてサビの部分では激しさもあって、遊園地にでも行ってる様な気分になっちゃった。だから、終わっちゃうのは寂しさがあったんだ。

 

「はい終わり。ご清聴ありがとうございます」

「…………ん」

「? 西野?」

「あ、いや……何だかふわふわしてると言うか、何と言うか……」

「ん」

「……ひゃっ!」

 

 びっくりしたよ。眼を瞑ってて判んなかったけど突然、おでこが暖かくなったんだ。ビックリして目を開けてみると、蓮があたしのおでこに手を当ててた。

 

「熱がある……って訳じゃなさそうだな」

「わわっ! も、もーそんなんじゃないよ! ほら、ふわふわ浮いてる様な感覚ってあるじゃん。心地良過ぎてーってヤツだよ。浮遊感、ていうのかな? だから蓮のせいなの!」

 

 蓮が離すのがもうちょっと遅かったら、あたしの熱、勘付いちゃったかもしれない。触れられてるって判って 蓮が手を離した途端に熱を帯びちゃったって判ったから。 

 

「ああ、なるほどそう言う事か。……ありがとな」

「ふふっ あー ほんっとまた聴けて良かったよー。これから毎日頼もうかな? 蓮!」

「CD買って聴いてください。若しくはレンタル。これ普通にビデオ200においてるから」

「もーー!! その丁寧に断るのやめてよー! それに蓮が歌ってるから良いんじゃん! CDじゃ感動も半減しちゃうよ!」

 

 何だか歌手の皆さんに失礼な事言ってる気がするケド、いいや そんなの今は。

 

「ねぇー アンコー「ルはダメ」えーー! なんでだよー」

 

 先読みされちゃってたよ。何だか笑顔で返してくるのちょっと腹立つな。……でもあたしは蓮の笑顔は す……っ えと、笑顔が似合うから良いけどね!

 

「だって、もう時間がアレだろ? この歌は大体4~5分だし、時間的に無理」

「うー…… よしっ! ねぇちょっと授業をさb「いやダメだろ」もーー! ちょっと言い終わるまで待ってよ」

 

 何だか今は蓮に心読まれてる気がするよ! あたしの事何度も言ってきた癖に。

 

「成る程。顔に出やすいってこういう事を言うんだな。よーく判ったよ西野。……ふふんっ 仕返しだ」

「むむっ! 蓮に言われちゃうのは複雑だ……。気を付けないとー」

 

 あたしは、思わず頬をぺちぺちっと叩いてた。

 そんな時、だったよ……。2人しかいない、って思ってたのに! 誰かがやってきたんだ。

 

 

 

「……ほんとびっくりしたよ……」

「神谷って、歌メチャ上手いんだな……。オレ知らなかった」

 

 

 

 それも――2人も増えちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、想定外も想定外。

 完全に油断していた。此処には西野しかいないって思ってたし、風もそれなりにあったから他に聴かれる様な事は無いだろって考えてたんだけど、……まさかの来訪者登場だよ。

 

 それも 真中に東城の2人。

 

 何で屋上(ココ)にって思ったから、その理由を訊こうとしたんだが、……真中と東城の方がメチャクチャ早かった。

 

 

「いや、すげーよ! オレ、歌でこんなに感激したの初めてだ! マジでマジ! 東城の小説と同じくらい!!」

「ちょっ、ま、真中くんっ!?」

「あ……わ、悪い……」

 

 何か真中が口走って東城が思わず止めてたけど。しっかりと聞こえてるんだよな、これが。

 

「あのー、なんで2人はここにいるのかなー」

 

 西野だけは何だか不機嫌気味だったよ。視線が結構鋭いし。……まぁ 西野は可愛いからどうしたって そっちの方向に考えてしまうケド。

 

「あ、ご ごめんなさい。邪魔をするつもりは……」

「お、おう。ってあれ? 西野……さん?」

「そう言うキミは真中くんだったねー。ちゃんと考えない様にしてる? えっちな事はダメだぞ」

「し、してないって! 今のオレは猛烈に感動してるんだ。2つもデッカイのがあって オレ今やばいんだって!」

 

 やばいのはオレの方だっての……でも。

 

「んん……、はぁー まぁしょうがないか。こうなったら1人も3人もあんまり変わんないし……」

 

 という事で受け入れたよ。

 歌を3人って数に聞いて貰ったのは、あの時(・・・)以来だったな。

 

 あまり――良い思い出じゃないから、忘れよ。

 

「うぅー 蓮 機嫌悪くしちゃった?」

「いや、大丈夫だ。……って、西野」

「あ、ご、ごめん!!」

 

 ちゃっかりいつも通りに名前で呼んでくれた西野だったけど、まぁ この面子ならって思った。

 でも真中だから……ちょっと困りもんだ。

 

「神谷……、勝手で悪いって思うけど、ちょっと良いか?」

「ん? なんだ?」

 

 あ、多分西野の事を言われるんだな、と思ったよ。

 だって 西野に告白はダメって言っといて 当の本人は西野と一緒にいるんだからなぁ。色々と誤解される可能性だって捨てきれないし。

 真中は言いふらす様なヤツじゃないから、まだ助かった。これが小宮山だったら えらいこっちゃ、だ。

 

 

 

「なぁ! オレの夢、神谷にも聞いて貰いたいんだ!」

「……へ?」

「オレな! 将来映画を作る人になりたいんだ!」

 

 

 

 まさかの予想外のお言葉。

 この流れでなんでそうなる! って聞きたかったけど、とりあえず今は聞き手側に回ろう。というより、真中が返事を待たずに続けてきたし。 

 

「映画作る人……。あー成る程、オレが真中監督ーって言ったのって結構的を射てたって訳ね。変態役じゃなく」

「ちょっ!! それは今は どーだって良いだろ!」

「……ふーん、変態役、ねぇ。キミだったらありそーだけど。ね? そう思わない? えっと東城さん」

「ふぇ!? え、えと…… わ、私はちょっと判らないかなぁ」

 

 

 西野にまで言われような真中。ある意味可哀想だと思ったけど 廊下でのやり取りを考えたら仕方ないよ。

 

 んで、西野と東城は互いに自己紹介をし合ってた。

 オレは、何故か真中に夢の話を色々と聞かされてた。

 

 

「なるほど。……はぁ けっこー真中って酷いヤツだな。女の子に『見ないで!!』って言われてたノート、勝手に見た挙句に翌日にはその本人の東城を屋上に連れ出して……。将来警察の人にお世話になるのはやめとけよ」

「うぐぐ! そ、それはオレも悪かったって思ってるけど……、って んなヤツにはならねぇよ!! で、でも おかげでオレは東城の事訊けたんだ。本当に凄く面白い話で、今でも頭に浮かぶ。文字しか見てないのに、まるで映像が見えてたような感覚があった。自然とカメラワークまで考えてて……」

 

 

 いつもの真中の空想癖……とは思えなかったよ。

 そこまで真剣なんだ、って事が 情熱的なんだ、って事がよく判った。嫌でも伝わったからな。東城のノートの件も、まぁ本人が許してるんなら大丈夫だろ。あれだけ見ないで、って言われたら見たくなっちゃう心情も判らないでもないし。

 

 

 

「うん。それでな。オレ……東城の物語に彩る歌声が、神谷のものにピタっ、ってくっ付いたんだ。色んな演出、キャストもそうだけど、それら全部を更に彩るのが歌。映画のエンディングだけじゃなくて、途中でもあったりするじゃん。それがお前の歌だって思ったんだ!」

「お、おお。そ、そうなのか……、なるほど……」

 

 

 

 西野とはまた違った意味で強引な真中だよ。

 

 でも、真中でも西野でも同じなのは……、ここまで言ってくれて悪い気なんて全然しないって所。それでいて、それ以上に恥ずかしいって事だ。

 

「それでよー!」

 

「あ、東城さんって 確かどの教科も学年トップクラスだったよね? 今度さ! あたしに数学教えてよ! ちょっと一次関数の問題が辛くって――」

「え、えっと 私で良ければ……。でも 数学だったら――」

 

 

 真中が延々と話し続けてるよ。言葉のキャッチボールが出来ない。まー 映画関係だったら大体こんな感じだったけど。恥ずかしいって思ったり、声に出したりする暇が無いくらいだし。

 

 

 だけど、うん。皆仲良さそうなのは良い事だな、うんうん。

 

 

 真中に至っては ちょっと最低なタイミングでの西野との出会いだったし。東城に関しては いきなり友達を作れる様な感じじゃないって思ってるし。西野の性格なら、外見だけで色々と反応を変える様な奴じゃないし。流石に、最低ラインっつーのはあると思うけど。

 あ、西野は東城とばかり話してるから、真中と仲良いかどうかは判らないかな。

 

 でもなぁ……。

 

 

 

 キ~ン コ~~ン カ~~~ン コ~~~~ン♪

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 学校休みとかの時にやらない? そのやり取り。せめて昼休みとかにさ……。

 

 


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