平凡は、いちごと共に消ゆ   作:フリードg

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13話

 

 学校が始まって、まだ午前の休み時間。

 

 オレは短い休み時間だけど屋上へと行ったよ。

 

 だって屋上が学校の中でやっぱ一番良い場所だから。

 

 今まででも考えすぎてて、頭の中が大変だった事は何度かあったけれど、ここだったら忘れられるんだ。

 

 でもまぁ、今まで(・・・)は、の話なんだけどな……。

 

 これまでは 面倒事に巻き込まれたり(大体がいつもの面子絡み)とあって、その度にここに逃げ込んできてた様な気がする。

 もうここは憩いの場と言うよりは、駆け込み寺だな。うん。

 

 だから、今日も色々と考える事が多すぎるからここに来てみたんだけど、どうしても考えてしまうんだよ……。

 

 

「……やっぱり、無理かな。簡単に吹っ切れる程、オレは単純じゃないって事か。……それもなんか複雑だけど」

 

 何度も何度も頭の中でループ再生されるのは、西野のセリフ。歌に関してを言ってるんだ、って何度も言い聞かせても……、やっぱり難しい。

 

『蓮に惚れちゃった』

 

 ずっと、残ってるんだ頭の中に。一晩寝ればと思ったんだけど どうにも駄目だったんだ。

 

「こういうのって、時間が解決してくれるんだろうけど……」

 

 色んな意味で長い間格闘するハメになってしまいそうだって改めて思う。

 

 

 それに 西野と顔を合わすのが……正直難しくなってしまってる自分がいるから。

 歌の件、約束したんだけど現時点では無理難題です。はい。

 それに学校内だから、クラスは違っても合ったりはするんだ。午前中だったのに2度も……。以前までは見た事無かった筈なんだけど……、遭遇率が上がってるとしか思えないし。

 

 でも、あからさまに無視とかはしないよ? 流石に、それはどうかと思う……んだけど、そうも言ってられないんだよなぁ。

 

 何せ、視界の端に西野の気配を感じたら、それとなく方向転換してる自分がいるから。殆ど条件反射になってしまってるみたいで、この分じゃ『逃げたら名前で呼ぶから』って言ってた西野のレッドラインに当たってしまってる可能性が高いかも知れないし。

 

「……ただでさえ、こんなんなのに 今 西野に名で呼ばれると……。うーん……、ちょっとどーなるか判らんな。……破裂するんじゃないか? オレ……」

 

 色々と悩みがあるけど、この手の悩みを打ち明けれる相手がいないのが少々痛い。

 

 家族は大々NGだし、まぁ 大草には割と話せそうな気がするんだけど、……なんかまた強引な誘いをしてきそうだから、とりあえず現状その案も却下の方向。それに小宮山は論外だ。真中に関しては、考える前に反射的に~とはいえ 自分が止めろ、と言った手前 どの面さげてこんな相談すりゃいいのか、自分でも判らん。

 

 つまり、自己解決しか方法はないのが辛い所です。はい。

 

 

「……気晴らしでもするかな。今じゃ焼石に水って感じだけど、ちょっとだけ―――」

 

 

 オレは、ゆっくりと 静かに、誰にも聞かれない様にハミングを奏でた。

 声に出さないのは 何やらこの屋上で歌が聴こえる~なんて、妙な噂が女子の間では持ち切りらしいからって理由もある。

 

 

 自粛を~と考えてたんだけど、やっぱりここ以上に安らぐ場所が他にはないんだ。だから、せめて数日くらいは、って思いながらハミング。そして 目を瞑って一眠りしようとしたそんな時だったよ。

 

 

 

 うん、最近はずっとこんな感じだったよそう言えば。

 

 

 

「あっ! やっぱりここだった!」

 

 

 そう、誰かがいつの間にか傍にまで来ているんだ。考え込んでる時、色々と意識をカットしてしまうのかな? オレって。

 

「西野……」

「おっす! 蓮」

 

 敬礼ポーズをする西野。

 いや、うん。とっても可愛いよ。ちょっと前までは普通に言葉にしてたんだけど、今は何だか喉がつっかえてるみたいだよ。出てこないんだな、これが。心臓がスゲェ鳴ってるし。……大丈夫かな? オレ。

 

「……どうしたんだ?」

「えへへ。なかなか蓮と話す機会が無かったからねー。言ったでしょ? あたしは蓮と話すのが楽しいって! 蓮も言ったもんね?『そう言う言われ方して嫌とは言えない』って! 蓮は言いそうだけどー、こんなタイミングで言っちゃう程 Sって訳じゃないでしょー?」

 

 とりあえず、何とか自然に話せて良かった。

 

 西野は、『あたしの事いじめないでよー?』 って にこにこ笑いながら言ってる様に見える。凄くアンバランスな気がするんだけど、やっぱり今の西野の笑顔はオレにとっては刺激が強いよ、ほんと……。

 

 でも、無視する事は出来ないな。オレは。

 それに、西野には思った事をそのまま伝えた方が良いんだ、って思えた。

 

 

 そう思えたら言える。少しずつでも言ってみようって思う。恥ずかしいセリフな気がするケドな。

 

 

「ああ、そうだな。……何だか不思議だよ。西野と知り合ってまだほんのちょっとなのに、……ずっと前から一緒だった様な、そんな自然さがあるんだ」

「っ! い、いきなり何言いだすんだよー。びっくりするじゃん!」

「だってそんな感じがしないか? また、こうやってオレの傍に西野がいるんだ。……最初に会った時も、ここだったし、こうやって寝っ転がってた時だ。今もだろ?」

 

 

 あぁ、因みに刺激が強いと言う意味では今の現状だ。

 

 西野がオレの顔を覗き込む様にしてる。

 

 オレは寝てるから距離を取る事は出来ない。西野が離れない限り普通に無理。

 そして 西野との距離は非常に近く、離れる気配は0だし。会ってない時もめちゃくちゃ葛藤してたのに……。

 

 あ、頭ん中で一周まわったから出来てるのかも知れないな。つまり もう感覚が麻痺ったって事かな。

 

「知り合って直ぐって感じは全くしないんだよなぁ、これが」

「……ふふっ、そーだね」

 

 西野はオレの顔を覗き込むのを止めた~と思ったら、更に刺激的な事になった。麻痺なんぞ吹き飛ばす勢いだ。

 

「よいっしょっとー!」

「お、おい。制服汚れるぞ??」

「だいじょーぶだよ。ここって結構綺麗じゃん。蓮が寝床にしてるからだねー」

 

 西野も、オレの隣で寝転がってたんだ。

 丁度隣り合わせになってる……。

 

 健全な男子には、色々ときついよほんと。だから、オレは上半身を起こしたんだ。流石に寝るのは……なぁ? 

 

 それで 西野は不満だったみたいで、口をとがらせてたけど、直ぐに笑顔に戻ったよ。

 

「さっ、リクエストするからねー? 歌、よろしくっ!」

 

 

 

 オレは色々と大変なのに、西野は凄い普通に接してる。

 何でだろうな。それが、何処か複雑だったんだけど、それ以上に西野の事を見習おうって思ったよ。

 

 あ、因みに 歌のリクエストに関しては 好都合だって思う。歌をうたってる時は 紛らわせる事が出来るかもしれないから。

 

 

「ここで聴くって言うのも何だか良いよねー。蓮と初めて出会ったのもここ。それで初めて歌を聴いたのもここだしね? やっぱり最初はここからだよー!」

「……最初(・・)はって事は、まだまだ続くって感じ?」

 

 そこがちょっと気になった。いや 結構気になったかも。確かに、歌に関してOKと言ったんだけど……、広がっていくのは好ましい所ではない。大勢の前で~とかになったら流石にNG出すし。

 

 でも、西野が考えてたのはまた別の事だった様だ。いや、ある意味一番強烈なのを考えてたよ……。

 

 

「もちだよ! 何ならデュエットでもどーかな? ってさ!」

 

 そう来たか!! ってマジで思ったよ。でも、何か企んでそうな西野の表情も結構気になってた、というか勘付けたよ。

 

 

「ま、西野は この後オレが何言うか判ってるよな?」

「あはははっ、もっちろん! うーん、あたしとしては 一緒に歌うのも良いかな? って思ったりしてるんだけどー 蓮の邪魔になっちゃうかもだからね」

「邪魔?」

「だってー、蓮に比べたらあたしの歌なんて……。歌うのは好きだけどね。自信はぜーんぜん」

 

 

 これは何度も思ってる。

 本当に不思議だった。

 

 

 西野に合うまでは、絶対に普通に話す事なんかできないって思ってたのに。ましてやこんな事言える訳ない、思ったとしても 口に出す事なんかできないって思ってたのに。

 ついさっきだって 出てこない言葉だった筈なのに、西野と話してるにつれて 柔らかくほぐしてくれるみたいになってくるんだ。

 

 西野と話してると凄く楽しい。だからだと思うんだ。

 だから、自然と言う事が出来たってな。

 

 

 

「西野の声、オレは好きだな。透き通ってて 言ってみれば華がある、かな?」

 

 

 

 うん。言ったのは良いんだけど……すっげぇ恥ずかしい。

 でも 自然と言えた事には花丸だ。

 

 

 

「す、す、すきって……!? え、えっ ええええええええ!?」

 

 

 西野は一気に顔を真っ赤にさせた。面白いくらい真っ赤だ。

 それにあたふたしてる。こう言うって結構冷静になれるもんなんだな。自分の事じゃないからさ。

 

 だから、オレは西野のおでこを軽くぴんっ! と弾いてやったよ。西野は小さく『あうっ』って言いながら仰け反ってた。

 

「この間のお返しってヤツだ」

「……へっ!?」

「改めて西野。……オレの歌に惚れてくれてありがとな?」

 

 ここまで言って漸く西野はオレの意図に気付いたみたいだよ。

 顔を赤くさせつつも、ぷくっ と頬を膨らませてたから。

 

「も、もーー! からかったんだなー! なにさ! あの時の意趣返しってことー?」

「意趣返しって……随分と物騒な例えだな。それって恨んだりとか、遺恨とかだったと思うぞ? そんなもんある訳ないじゃん。オレの事褒めてくれたのに」

「ぜーーったい似た様なもんだって思うしっ! あの時、蓮すーーーっごく慌ててたもんっ!! 慌てさせた事、恨んでるんだろーー!」

「……恨みはぜーんぜん。西野の慌てた顔もまた見れたし、オレとしては上々だ。ま、慌ててたのはオレも否定はしないケドな。………ははっ」

「むーー! ずっるい! あたしばっかになってるじゃん! あたしの方が多いじゃん!」

「大丈夫だ。……西野はオレを驚かす天才だろ。……オレは、いつも集中しとかないと、だからな。今みたいに―――」

 

 オレは一頻り笑うと また寝っ転がって目を瞑った。

 頭の中で思い浮かべる歌。メロディーも自分のハミングで奏でる。

 

 西野も、きっと判ったんだって思う。声が聴こえなくなったから。訊いてくれてるんだって思うから。

 

 

 

 

 オレにとっての初めてのコンサートのお客様は西野ただ1人。

 

 うん――、最高の場所で、最高の相手。最高の舞台だ。初めてにしては出来過ぎてるって思う。

 

 

 でも、アンコールは無しだからな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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