平凡は、いちごと共に消ゆ   作:フリードg

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時系列


西野つかさ 神谷蓮と別れて家に帰る途中。


12話

 

 

 

――――本当にびっくりしたんだ。

 

 

 西野の言葉に本当に。

 それに あそこまでびっくりして動揺した事って今まであったどうか判らないんだ。

 

 いや、今も思い返してみてるけど やっぱり多分無いって思う。実の姉がオレに色々とカミングアウトした時の衝撃よりもずっとずっと上だと思った。

 ……それはそれでどうかと思うけど、まぁ 良い。姉のアレは日常茶飯事になってしまってるから、もう記憶も薄れてるんだと思う。寧ろ永遠に忘れ去りたいって思ってるくらいだし。

 

 

『あたし蓮に惚れちゃった』

 

 

 西野からそう言われて、オレの頭の中でずっとその言葉がぐるぐると回ってる。今も回り続けてる。

 

 当の本人は 何だか判ってなかったっぽいけど、それはそれで有り得るの? って後から思った。でも、西野の慌てっぷりを見てみると あるんだろうな。きっと。

 

 それに殆ど告白に近い。いや まさに告白だって思う。そんなの今まで……受けた事無いとは言わないけど、他人(・・)に言われたのは初めてだったし。 

 

 慌ててる西野を見て、逆に何とかオレは平常心を保てたけど やっぱりまだ胸の奥が熱い。顔もきっとまだ赤いって実感してる。 

 

 

 

 そんな時だったよ。皆と合流したのは。

 

 

 

 その時は正直嬉しかったかもしれない。幾ら西野の勘違い《?》だったとしても、色々と考えすぎてて、頭の中が悶々としてしまっていたし、今は気を紛らわせたかったんだ。

 

 

 

 でも…… 違う意味で疲れる事になるんだよな、これが。

 

 

 

 

「なぁなぁ! やっぱあの女だと思うんだ! 髪型は違ったけど 切ったとかなんとかって言ってたし、あいつスカートめくれてもパンツ隠さねーよーなタイプっぽいもん! オレのことなんか 気にしてた気がするし、いちごのパンツ履いてるって言ってたし!!」

「……こんな住宅街地でんなもん力説すんな。訊かれるとメチャ恥ずかしいだろ」

 

 そう言えば、真中に説明してなかったよ。あれは西野じゃない、って。

 

「でもさぁ……。真中がそう言うのならそうかもしれないけど、西野が2日も同じのを履いてるなんてちょっと想像したくないなぁ~~……」

「んなら 想像しなきゃいいダロ……(オレ、直接言ったけど)」

「でもよー。神谷も見ただろ? 知らんって言ってたけど、学校じゃ1番可愛いって評判の女の子だぞ? そんな子が……って思っても」

「気持ちは判るよ。……真中。大草の様に単語に気を付けて話せよ? これなら変質者扱いされない、って思うから」

 

 大草は、必要最低限の単語を使用して、意図を伝えようとしてる。パンツパンツって大声で言ってる真中とは大違いだやっぱり。

 

「うっせーな! オレは今メチャ熱くなってんだよ! やったぞー! とうとう見つけたんだ! それに、パンツの件はオレは許すね! 2日なんて大甘だ! オレなんて最高5日間履きっぱなし!」

「だから力説すんな! 聴きたくもないわ! んな情報!」

「そーだ! それに西野とお前を一緒にすんなよ!!」

 

 真中のコレは熱が冷めるまで無理だって判った所で、はてさて、どのタイミングで話せば良い事やらって考えてた時だったよ。うるさいのが復活したのは。

 

「おいコラっ!! そこのさんにんッ!! フラれたオレに慰めの言葉も無しかよ! ええッ!? 真中や神谷が屋上で見た女の謎が解けりゃそれでいーのかよ!!」

 

 今の今まで死んでた小宮山が復活したのだ。

 オレは、途中で合流したから魂の抜けた様な顔した小宮山を見てるんだけど――、まぁ つまり『返事がないただのしかばねのようだ』となりそうだったから、放置してたよ、うん。多分 大草と真中は完全に忘れてたっぽいけど。

 

 だって、あからさまに顔に出てるし。こう言うのを表情に出るって言うんだと思う。

 

 じゃあ、西野から見るオレってこんな感じだったって事なのかな……? だったらちょっと複雑だよ。でも今は小宮山だ。

 

「そんなもん仕様がないだろ。……大体、廊下であんな大声であんなやり取りされりゃ、誰だって嫌がる。女子なら尚更だ」

「そ、そうだが……。って待て、それってつまり……」

 

 あ、小宮山が真中の方に行った。何か不穏なオーラを纏ってる気がする。

 

「てめぇのせいかぁぁぁっぁぁ!!! 真中ぁァぁァ!!!!」

「んぎゃああ!!」

 

 小宮山の渾身の右ストレートが炸裂したよ。真中は綺麗に放物線を描きながら飛んでいったよ。……おお すげぇ 人っあんなにて飛ぶんだなぁ。

 

「痛ぇぇぇ!! なんすんだよ! だいたい、フラれた理由っててめえの顔のせいだろ~~~!! 怖い顔駄目、って言ってたじゃん!!」

「うるせぇぇ!! 大体お前がつかさちゃんのパンツがどうのこうの、ってあんな場所で言うからだろうが!!」

「だから 本人がそこじゃねぇー! って言ってたろーが!!」

 

 真中はちゃっかり無事だったみたいだ。

 

 その後は 見てられない男同士の取っ組み合いと言うかじゃれ合いと言うか。受験シーズンで色々と肌寒いと言うのに、見てて暑苦しいし。今はオレの頭の中は、こいつらと同じ様に(なんか嫌だけど)西野がいるから。それに加えて更に熱くなってしまってるんだよ……。

 

 さっき会った事、そして 合った出来事を含めて話したら、オレも小宮山右ストレート喰らうかもしれんから気を付けよ。

 

「真中ぁァ!! おまえも告れ!」

「はぁ!?」

「おまえもつかさちゃんに告白してみろっつったんだよぉ!! おまえも告ってオレみたいに、フラれてみろ!! 同じ痛みを味わえぇい!!!」

「んぎゃあぁ!!」

 

 おっ、今度は左アッパー。

 真中死ぬんじゃないか? ……ああ、大丈夫みたいだ。

  

 小宮山の気持ちは判らんでもない事もない。つまりは ただの八つ当たりじゃん。って思うよオレは。だから 正直それは反対だったよ。…………色んな意味で、賛同出来ないんだ。

 

「そうだよ。告ってみればいいじゃん」

 

 オレが何か言う前に大草が先に言ってたよ。

 

「よくわかんねーけど、西野のパンツを撮りたいんだろ? はっきり言って彼氏にでもならねーとそんなカッコ、撮らせてくれねーぜ?」

「そもそも、幾ら彼氏だっつっても そんなトコ撮らせる方もおかしい、って思うのは気のせいか? 大草」

「惚れた相手なら、何されても許すってよく言うじゃん。そりゃ暴力とか超えちゃなんない一線はある、って思うけど『可愛い所をビデオに撮って収めておきたいんだ……』って、甘い言葉で誘えばどうにかなるってオレは思うよ。オレは成功する場面しか想像が出来ないな」

 

 そんなん許すのって、大草の周囲の女子だけだと思う。

 例え大草だったとしても、相手が西野だったら『そんなえっちなの駄目だろ! ぜったい!!』って言いそうだ。いや、間違いなく言う。しつこかったら 小宮山顔負けの攻撃放ってきそうだし。

 

 ……うん。ここに西野がいなくて良かったよ。持ち前の読心術使われたら、オレが被害を受けるから。……絶対。

 

「う、うぅん、確かにそうだよな……」

「馬鹿言ってんじゃねぇって、大草! 何本気にしてんだよ。オレは真中がフラれる所を見るだけで十分なんだ! それに、つかさちゃんは、今までどんな野郎が告っても、一度も『うん』って言わねぇ強者中の強者なんだぞっ」

 

 真中が悩んでるのを見たからなのか、大草の助言があったからなのか、今度は止めに入ろうとする小宮山。一体どっちなんだ? お前って言いたいけど……。今は頭の中整理が先だ。

 

「でもさ、西野って誰かと付き合ってるって噂ないしさ、やってみなきゃわかんねーじゃん」

「そりゃそうだけどよぉ……」

「当たって砕けてみるって言うのも有りかもしれないなぁ……」

 

 何だか方向性が決まりかけてきたって思ってしまった。だから、オレは。

 

 

「それは駄目だ」

 

 

 真中が意気込む前に止めたよ。自然と口に出てたよ。多分いきなりだったからと言う事と全員が色々乗り気気味だった所に反対の意見だったから 反応したんだと思う。

 

「何でだよ。折角やる気が出てきたのに! それに上手く行けば学年№1アイドルのカレシだぞ! 野望が叶うに続いて、そんなでけぇ特典がついてくるんだ。男ならやらなきゃ損だ」

「……理由、か。理由。うん、そうだな。……たぶん、真中が後悔するって判ってるからって所だ」

「どういう事だよ! オレはフラれたりしねぇよ!」

「おっ、真中がいつになく強気だ!」

「へーん、ぜーったいフラれるもんねー!」

 

 何だか、盛り上がってるけど もう、このタイミングじゃないといけない、ってオレの中で言ってるよ。西野じゃない、ってちゃんと言わないとって。

 

「悪い。話すタイミングがつかめなくてアレだったんだが……、屋上での件だけど アレ西野じゃないよ真中」

「「「は?」」」

 

 何だか爆弾発言? でもしたのかな。って思うくらい3人の空気が固まった気がする。

 別に大した事じゃないって思ってるんだけどなぁ。

 

「そんな訳ないだろー! 色々符号が一致してってるじゃん。状況証拠は揃ってるし、あれ程の美人だし、答えは1つ! だろ!?」

「何かの映画のセリフかそれ? それは兎も角、オレの話聞いてって」

 

 

 一先ず、オレは3人に説明したよ。

 

 あの屋上で女の子……東城の事をオレが助けた事。幾ら短い時間で慌ててたから、ってあそこまで間近で見たんだから、間違える訳ないって。

 

 

「確かに――神谷にそう言われたら説得力あるな。ある意味真中より一番近くで、その美少女の事見てるんだし。……真中が見た部分以外は。ってかもっと早くに言ってくれれば良かったじゃん」

「だから言っただろ? タイミングがアレだったんだって。後は こいつらが暴走し過ぎなんだよ」

 

 そもそもパンツパンツ、って連呼してる連中の中に加わりたくない、って大草に目で伝えたら、伝わったよ。うん。気持ちは判ってくれてるみたいだ。 

 

「オレは、この変態野郎よりは神谷の事は信じられる! 信頼もできるぜ!」

「小宮山にだけは言われたくねぇよ!!」

 

「……なんかすごいな。信じてくれて、信頼されてるってまで言われてるのに、全く嬉しくないって事があるんだな、この世に」

 

「どういう意味だ!!」

 

 小宮山も色々と暴走してるから仕方ないし。

 

「それじゃ、誰なんだよー……。あー 最初に戻っちまったじゃん……。もっと早くに言ってくれりゃ、こんな消沈する事無かったのに……」

「だーかーらー、タイミングっつーのがあるって言っただろ! そもそも、お前らがもっと落ち着きがあれば早かったっつーの! 逃した理由はお前らに原因ありだ! それにまだ続きあるから訊けって!」

 

 とにかく、オレは続きを説明したよ。

 

 

 あの少女は東城だったって事。

 

 

 ちゃんと本人にも確認したし、証拠だって簡単に用意できるんだけど……。

 

 

「流石にそれは無いって思うぞ、神谷」

「オレもだ。ソレは絶対気のせいだって」 

 

 

 大草と小宮山が盛大にダメ出ししてくれたよ。

 ……最後まで聞けっての。

 

 

「東城の前髪を下ろしてメガネをのけたら直ぐ判る」

「いきなり東城に、『髪型変えて メガネも取って!』ってお願いするのか? それこそ彼氏彼女にならんと厳しいだろ?」

「……いやいや、確かに厳しいとは思うんだ。それに関してはオレもな? でも、真中が欲しがってる(・・・・・・)映像の恰好をしてもらうより、断然難易度低いと思うんだけど。いったい何を基準に難易度考えてんだよ、お前は」

 

 

「うぅん……。真中を信じるか、神谷を信じるか……」

「オレは現時点では難しいかもなぁ。神谷は信頼できるヤツって判ってるんだけど、……流石に相手が相手だから。いきなり信じろって言われてもな。……西野なら大体一致してるし、信じやすいんだけど。前は髪長かったし」

 

 小宮山と大草はちょっとばかり悩んでるみたいだった。

 

「うーん……。とりあえず、神谷の事を無視出来ないし、西野の事も気になるし、……オレ2人に確認してみるよ」

「そうしろ。2人があの時の子って訳無いんだから、もしどっちかに真中が告白したとして、……それに応えてくれた場合さ。違ってたらどうするんだ? 『人違いだったから、さっきの無しにして』って言うのか? ……流石にそれはオレはどうかと思うぞ」

「あっ、それに関しては神谷に賛成だ。告白しといて、別人だったからゴメン、って最低な男だぞ、それ」

 

 芸能人とかでその手の話題は沢山あるっぽい。身近にその業界人がいるし、色々と話は聴いたりする。

 

 

『不倫とか浮気って最低だよね!?』

『蓮はぜーーったいしないでよ! あんな事する蓮なんて、見たくないんだから!』

 

 とか何とか。

 つまりは勝手に話してくるから嫌でも頭に入ってるんだ。しかも ちょっと端折ったり、隠したりしないで、モロに名前を言ったりするから現実味があって、その世界の闇がスゲェ見えてきたから 初めて聞いた時マジで幻滅したし。

 

 因みに、暴露してるのは姉だけど、姉は姉で色々問題があるけど 嘘を言ったりはしないからその点においては 嫌な事に信用できるんだよなぁ。

 

 

「た、確かに…… そこまで考えてなかったよ。皆サンキューな! んー でもやっぱ 映像を取るとなったら、彼氏彼女にならないと……だから、そっち方面も頑張ってみる! あの時の子に告白して、それで成功させてみせる!!」

「…………あぁ、頑張れよ」

 

 

 真中は、あの時のいちごパンツの美少女《東城》に告白をするつもりの様だ。間違いなく東城だったから100%。

 

 それはそれで良いって思う。

 

 でも、何でだろう……。オレこの時なんだか凄く安心したんだ。

 ずっと強張ってたって思う表情も、柔らかくなっていってるって実感してるんだ。

 

「うー…… つかさちゃんに真中が告って フラれるシーンこそを一眼レフカメラで撮ってやろうって思ってたのに! ちょっとオレとしては残念過ぎるぞ」

「小宮山ぁ~……おまえ性格悪過ぎだぞ! それじゃどの女子からも嫌われるって! 神谷も言ってやれよ。フラれたの必然だーって」

 

 そうだったな。ほっといたら 真中は西野に告白するつもりだったんだよな。

 

 

 

「西野に告白するのはダメだ」

 

 

 

 ……っ。考える前に、口に出てた。

 

「……ん? なんだ? いやにこだわるんだな。神谷。西野に告る事」

「……だって、ダメだろ?」

「いや、別に告る告らないは 本人次第だから。オレらの学校にそんな決まりなんて無いって。暗黙のルールってのも無いって。西野は小宮山が言う通り鉄壁の要塞だし。……んー」

 

 大草は、何か考えてる様子だ。

 

 でも、ちょっとオレの方も調子がおかしいよやっぱり。いつもなら、こんな風に言わない筈なんだけど、つい言ってしまったんだ。

 

 

「(神谷……西野の事好きになった? んー でも2人って確か接点無かった筈だし、それは本人も認めてるし……。一目ぼれ? いやー、神谷に限ってそれは無さそうだしなぁ。前に別の学校だけど そこで一番の子と一緒に誘った時も一蹴されたし。……性格には難ありだったけど、容姿だけだったら西野に匹敵する子だったし)」

「なんだ? 人の顔じろじろ見て」

「ん? いや別に何でもないよ」

「……なら、さっさと帰るぞ。あの角曲がってから全然先に進めてないし」

「それ絶対真中と小宮山のせいだから」

 

 

 

 小宮山と真中のじゃれ合いのおかげで全く進めてないって言うのは正解も正解、大正解だよ。

 

 

 とりあえず、オレ達は帰宅再開。数分後皆と別れた。

 

 

 うん。今日は色々とあった。たった数十分の間だったけど、メチャクチャ濃い時間だったよ。

 

 

「……とりあえず、帰って頭冷やすかな」

 

 

 頭がまだまだ熱い。今夕方だったから、皆に表情が見えにくいんだと思うけど、間違いなく顔は赤いって思う。

 

 

 

 その後、家に帰って 当然の如く 誰かさんに色々と表情の事で追及されたり、風呂場にまで突入しそうになったりとしてたらしいんだけど(後の母情報)。

 いつもより強力な完全なる無視(パーフェクトスルー)になってたらしく、姉は色々と断念して 散々喚いたそうだった。

 

 

 全然気づかなかったけど、それはそれでよかったかな。

 


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