平凡は、いちごと共に消ゆ   作:フリードg

12 / 37
11話

 

 

 蓮は出会った最初から こんな感じだったよね? そう言えばさ。

 

 でも蓮って、あんなに綺麗な歌声で凄く上手だって思うのに、なんでこんなに隠すんだろう。

 

 うーん 男の子ってこうなのかな?って思っちゃったよあたし。だって やっぱり『綺麗な』歌声って言われるよりは『格好良い』って言われた方が男の子にとっては良いのかもしれないし。

 

 でも、蓮の歌はとにかく凄かった。英語の歌詞をネイティブな感じって言うのかな? ほんと帰国子女って思えるくらい すらすらすら~ と英語で歌ってるんだ。直接見た訳じゃないんだけど、そこの所を見たら きっと格好良いかもしれないね。……うん、でも やっぱり格好良いより綺麗な声って言うのが一番しっくりくるかな。

 

 

 それに あたしは思うんだ。

 

 

 蓮と出会って、何だか毎日が違った色に見えてきてるって。

 

 

 あ、でも別に蓮と出会う前までの生活や学校に不満があった訳じゃないよ? 沢山囲まれちゃう時は正直困っちゃうけど 頼りになる友達も沢山いるし、とても楽しい。もうちょっとで中学卒業は とても寂しいし。だってだって 沢山の思い出があるんだから。

 

 でも、やっぱり違うんだ。違った色に見えるって言う表現以上に何だか上手く言えないんだけど、そんな感じがするの。

 

 だから、このお願いだけはどうにか聞いてもらいたいんだ。だって、あの歌があたしと蓮を引き合わせてくれたって思ってるんだもん。チャラにしてあげるって言ったけど……交換条件でも良いんだよねー。蓮はあたしに何かしてほしい事とか無いかな? 勿論っ え、えっちなのはダメだって断るよ! だって そう言うのって好きな人とするものだって思うし……。そもそも 蓮がそんな事言うとは思えないけどね。今まで散々怒っちゃってるし。

 

 

 ―――ん? でも あれ? どうしたんだろ?

 

 蓮が何でか固まってるよ。歌をうたうのやっぱり嫌なのかな。……でも あたしは聴きたいんだ。また、あの時の様に聴いてみたい。

 

「蓮? やっぱり…… 嫌、かな? あたしは……その……」

「………………」

「? 蓮? おーい れーん!」

 

 あれ……? 何だかいつもと違う気がする。

 よく見てみると、顔が凄い赤い……?

 

「って、どうしたの? すっごい顔が赤いよ? 大丈夫??」

「…………」

「ねー、ねぇってば! もうっ 無視するなっ! …………うー」

 

 無視するな、って言ったけど そうは見えないよ。

 

 ここまで固まってる蓮を見るのは初めてかも。

 そこまで嫌だったのかな……? 何だか罪悪感があるかも。

 

「ご、ごめんね? そこまで嫌がるとは思ってなくて……」

「……あ、あの に、にし……の?」

「う、うん?」

 

 蓮の顔が凄い赤い。……歌をうたうのって蓮にとってはそれ位の事なんだ。そうだよね。だから誰もいない屋上とかで歌ったりしてたんだよきっと。……あまり無理言う訳にはいかないかな。チャラにしてあげる、って言ったけど 元々 蓮は殆ど悪くないんだし。

 でも、あたしの考えとは何処か違う気配だったよ。

 

「ひょ、ひょっとしてだけど……… いま、なにを言ったのか……、わかってなかったりするのか?」

「……へ? どういうこと?」

「だ、だって に、にしのが…… そ、その……っ」

 

 蓮がめちゃくちゃ動揺してたから。

 でも なんで? あたし変な事言ったかな?

 

「あたしは蓮の歌をーって言ったんだけど……。それが何か変だった?」

「……はぁ、はぁ、はぁ~~………。……なぁ 西野?」

 

 顔が凄く赤いままだけど、深呼吸を何度かした後 蓮は少し調子を戻したみたいだった。

 

「歌が、なら 最初からそう言ってくれよ。……いきなりそう言う風に言われたら オレだって驚くから。メチャクチャ驚くから。それに 前にも言ったけど オレだって男子なんだぞ。西野がどう思っているのかは知らんけど、全く興味ない、って訳じゃないんだからな?」

「えっ? えっ?? どういう事?」

「……さっきのセリフ、西野自身が言ったセリフ、もう1回ゆ~っくりで良いから思い出してみてくれ。と言うか、オレとのやり取りも全部。数秒前だし ゆっくり考えたら思い出せるよ。……オレの口から説明するのは ちょっとハードルが高すぎる」

 

 蓮は真剣な表情でそう言ってた。

 あたしのセリフ……? さっきのセリフを思い出す、か。

 

 よく考えたら蓮の歌のことばっかり考えてたから、さっき言ったセリフなんて殆ど頭から抜けちゃってたよ。

 

 

 じゃあ、蓮の言う通りゆっくりと思い出してみよっかな。

 

 えーっと 確かあたしが『蓮の歌また聴きたい』って言ったんだよね。チャラにしてあげるからーって。それで 蓮の答えが『それ以外じゃ駄目か』だったよね。

 

 うん。最初は断られちゃったんだけど、あたしはどうしても諦めきれなかったんだ。蓮の歌、また聴きたいってずっと思ってたから。

 

 

 だから、確か あたしは『蓮にほれ……』ん? 

 ……………………んん??

 

 

 あ あたし なんて言った? 

 

 蓮に 何? 蓮に……ほ、惚れ? え、ええ!?

 

 

「ぁ………」

「……判った?」

 

 

 頭の中が……急速に熱く、それと同時くらいに冷たくなってく気がした。一気に血の気が引いたのと同時に 頬が真っ赤に染まってると思う。だって だって あたしは蓮に 思いっきり言っちゃったんだから!

 

 

「わ、わぁぁぁぁ!! ご、ごめっ え、えとそのっっ!!」

 

 

 そうだよ! なんであたし、今の今まで判ってなかったんだ??

 

 あ、あたし 蓮にほ 惚れちゃったって言っちゃったんだよっ!❓ 蓮の歌のことばっかり考えててとんでもない事口走っちゃってたんだよ!❓

 れ、蓮が顔を真っ赤にさせた理由がよく判ったよ! 

 

 でも……顔が赤くなってるって事は、蓮も……。

 

 

「ふぅ、今回のコレは ほんとうに時間が止まった気がしたよ。西野は 人を驚かす天才だな。いつの間にか背後に現れるし、いつの間にか会話に紛れたりするし……」

「べ、別に天才なんかじゃないし、嬉しくないよ! 元々そんなつもりだって無いんだし!」

「つまりは、天然と言う事か? 随分と性質が悪いぞ……。心臓にも宜しくないな」

「た、ただ蓮が困ってる顔みてやりたかっただけなんだよーっ!」

「今は西野だって 言った事理解して慌ててたじゃん! つまりぜんぜん説得力無しだ!」

 

 確かに蓮の言う通りだよ……。

 今回ばかりは蓮の勝ちだって思う。勝ち負けなんて無いって思うけど……。あたしの負けだ。

 

 でも、この後だったんだ。

 

 

 

 蓮の顔が さっきとは違った風に見えたのは。

 

 

 

 

「でも、西野がオレの歌で……。そんな風に言っちゃったって事、正直嬉しいよ。褒めてくれた事もそうだし、聴きたいって言ってくれた事も嬉しい。光栄だ。ありがとな」

 

 

 少し恥ずかしそうにしてるけど、笑顔だった。はにかんだ笑顔って言うんだと思う。

 なんだろう……。歌を聴いた時みたいに あたし 胸がドキドキしてるのが判るんだ。

 

「オレはな。その……、『歌』をうたう事が嫌いって訳じゃないんだ。……まぁ 歌は昔からちょっと色々とあって。そのおかげで 以前は人前でも歌ったりしてたんだけど…… ちょっとした出来事があって あまり歌う事が無くなって……、そこからずるずる と今の状態って感じかな」

「え、うん……そっか……。そうなんだね」

 

 

 胸がまだドキドキしてる。蓮の言ってる事がなかなか聞きとれないよぉ……。でも何とか辛うじて聞きとれてる。

 

 歌を聴けないのはやっぱり残念って思うけど、今日の所は良いって思ったりもしてるよ。

 

 ちょっと、あたしの頭も冷やしたいから。帰ったら水シャワーだね……。だって頭から思いっきりかぶりたい気分だから……。

 

 

「だけど、西野にチャラにしてもらえるなら、やっぱり構わないよ」

「……えっ!?」

「ははっ、最初は 他のにしてって言っておいて格好悪いけど。……そこまで褒めてもらえたのは、久しぶりだからな」

 

 蓮が にこっと笑った。さっきのあのはにかんだ笑顔に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも次に、困ったのはあたしの方だったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓮がそう言ってくれたのは凄く嬉しかったんだけど、その後一体どうなった? どうやって家にまで帰れたかが判んないんだ。

 

 気付いたらあたしは家に帰ってて、考えてた通り思いっきり頭から水シャワーを浴び続けてた。まるでワープでもしたの? って思えるくらい。子供かあたしは。

 

 

「うー 背中が、すっごい熱い……。ぜんぜん冷えないよぉ……」

 

 

 どれだけ水シャワーを浴びてるか判んない。でも全然冷えないんだ。季節柄普通は寒い筈なんだけど……。

 

 

 

 

 うん、そうだよね。もう 自分にくらいは白状しないといけないよね。

 

 

 

 

 あたし あの屋上で蓮と出会ってから、蓮の事ばかり考えてる。確かに切っ掛けは歌だった。あんな綺麗な歌声初めて傍で聴いたから、惹きつけられて、引き寄せられたんだと思う。それから、蓮の事ずっと探してたんだ。屋上で逃げられちゃったあの時から。

 

 見つける事が出来て本当に嬉しかったし、別の女の子と話してる時は 胸の奥がちくっ とした。嫌な気分になっちゃった。

 

 

 

「そう、だよね。あたし…… 蓮のこと……」 

 

 

 

 うん。そうなんだ。

 

 でも 蓮はどう思ってるんだろう。顔は凄く赤くなってたけど『健全な中学男子なんだから』と言ってたから……やっぱり照れちゃっただけなのかな?

 

 特別に……って事は無いのかな?

 

 

「うぅぅ~~~……!! もやもやするーー!」

 

 

 この後は、いつまでお風呂にいたのかは判んないんだけど、お母さんが心配して呼びに来てたよ。おまけに水シャワーだったから 身体が冷えてて 『何してるの! 風邪ひくでしょ!』って怒られちゃったよ……。

 

 

ちゃんとお風呂にその後入ったんだけど、身体が冷えてるってお母さんに言われたんだけど、背中はまだ凄く熱かったよ。

 

 でも、心配かける訳にはいかないから ちゃんと入ったよ?

 

 それに風邪引いて……蓮に会えなくなるのも嫌だからね。

 

 

「よし……っ! あたしからぐいぐい行っちゃおう。そうだったよね。あたし 本当は告白を待つんじゃなくて、自分からガンガン告っちゃうタイプだもん!」

 

 

 攻めに攻めてが心情! 受け身なんて性に合わないもんね。

 歌を聴きながら告るって言うのも面白いかもね。

 

「うぅ~ん……。ユリは告白はロマンチックに~って言ってたけど、歌も結構そうだよね? あたしは好きだもん」

「ちょっとー! つかさちゃん! 今度はのぼせちゃうわよー!?」

「わわっ! ごめんお母さん! 直ぐにあがるよー!」

 

 

 

 

 意気込んだんは良いけど。

 なんか、今日のあたしダメダメだよ……。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。