平凡は、いちごと共に消ゆ   作:フリードg

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帰還。


休日出勤なんざクソくらえ……………………………


9話

 

 

 とりあえず、授業に遅れなくて良かったよ。

 

 色々落ち込み気味の真中には正直『鬱陶しいわ!』って思ったりしたけど、流石にストレートにそうは言ってない。ちょっと可哀想な気もしたから。

 

 大草や小宮山が言う通り、真中があそこまで入れ込んでるのは映画以外では初めてだった、って思うし その想いが打ち砕かれたのなら……仕方ないのかな? 

 

 でも、うん。……東城には失礼だよな。絶対。

 

 んで、今はちょっと長めの休み時間。通常の10分より2倍長い20分休みだから 少しゆっくり出来る。と言う訳で屋上にでも……と思って階段に向かったんだけど、昨日の今日だし、ちょっと自粛を……と思いなおしてUターンしたよ。良い場所だけど、良く考えてみたら先生とかに目をつかられちゃ大変だし。

 

「あっ 神谷くん!」

「ん?」

 

 そんな時だった。東城と廊下でばったり会ったのは。

 

「東城さん? どうした?」

「あの、その……もう一度お礼を言いたくて」

「プリントの事? それなら別に良いよ、ほんとに。真中に手伝って貰ったし。……それに実は詫びのつもりでもあるんだ」

「え? お詫び??」

 

 そうだよ。オレが真中にノートを渡したおかげで、遅れちゃったんだよくよく考えたら。まぁ前にも考えた通り、落とした本人にも責任はあるけど、ちょっと軽率だったかな? と少なからず自己嫌悪してた。役割を全部真中に渡した~と思ったとは言え 一番最初はオレだったから。

 

 

「いや、ノートを一番最初に見つけたのはオレだったんだけど……、真中に渡したんだ。オレが渡しとく、って言ってたし」

「あっ、そうだったんだ……。で、でも 別にどっちが悪いって事は無いと思うよ。だって、忘れちゃう事だって誰にでもあると思うし、神谷くんが見つけてくれてなかったら、あたしのノート……見つからなかったかもしれないし」

「そっか。ならちょっと安心できるかもな。っと、そうだ。東城は大丈夫だったのか?」

「え? 何の事……?」

 

 もうちょっと早めに訊いといた方が良かったかもしれない。……ちょっとカマかけになるけど、オレは自信があった。

 

あの時(・・・)、落ちただろ? 足とか怪我してないか?」

「っ……!」

 

 あ、東城驚いてるみたい。

 この様子じゃ本人も判ってるって思ってなかったかも。

 

「え、えっと……、その、それって……」

「そ。屋上での事。……どうにか捕まえられた、って思ってたけど……、落ちたから、正直オレも焦ったよ」

 

 東城は、今度はさっきとはくらべものにならないくらい、大慌てで頭を下げたよいきなり。

 

「ご、ごめんなさいっっ! あ、あの時助けてくれたのに、あ、あたし逃げちゃって……」

「……いやいや。別に構わないって。でも ちょっと……こんな所で大きな声でするのは……」

 

 思いの外、東城の声は大きかった。それに頭を下げてるし。

 ここは廊下で、その他大勢の生徒さんたちも往来してる。目立つ事この上無いって訳だ。

 

「あっ ご、ごめんなさい……」

 

 少しだけ小さくなっていってるけど、まぁ 大丈夫だ。

 

「大丈夫だって。あの場所、東城さんもお気に入り? ……隠れてて、驚かせて申し訳なかったけど、先に来てたのはオレだったから、そこん所は許してほしいな」

「いや、あたしを助けてくれたし……、許すも許さないも無いよ。えと、今度は感謝を受け取ってください。……ありがとう、神谷くん」

 

 にこっ と笑う東城の顔は、うん 謝ってる時よりずっと良い。皆地味地味って言ってるけど、別にそうは思わないかな。大人しそうなのは間違いないと思うけど、オレにも真中にもはっきりと返事を返してる所を見ると、人見知りって訳じゃなさそうだし。

 

「えっと……最終的には助けれてないけど、受け取っておくよ。ノートの件はオレからももう1回くらいは真中に言っとくから。念を押しとかないとな」

「クスっ…… 漫画が返ってくるのがおくれたんだよね?」

「そーそー。……あのせいでオレ結構面倒くさい事になったんだよなぁ……」

 

 その後は時間こそは短いけど暫く東城と談笑してた。

 西野に続く、家族以外の異性との交流ってヤツかな。……今の所は特に問題ないよ。

 

 っていうか、あまり交流が無かったのは、小学生 それも低学年時代から 姉に、『女子には気を付けろ~~ 怖い生き物だからね~~』って何度か刷り込みされてたせいだきっと。

 

 怖い云々は別にしても 交流してると姉が凄く絡んできそうだったから、と本能から判ってたからだと思う。きっと。……流石に今は学校だし、見られる心配なんかないから大丈夫だろ。

 

 と言う訳でそろそろいい時間だ。

 

「さて、そろそろ予鈴も鳴るし、戻ろうか」

「うん。あ、あたし先生にちょっと用があるからまた教室で」

 

 

 

 

 

 東城と別れて、教室に戻ろうとした時だったよ。

 

 何時からかは判らないけど、何だか視線を感じる気がした。

 

 気のせいかな? って思ってたその矢先。

 

 

 

 

 

 

 

『違うんだよ! オレの場合は好きとか嫌いじゃなくて! ただ あのコのパンツがめくれる瞬間をビデオに収めたいだけなんだ!!!』

 

 

 

 

 

 何だか、視線とかそんな些細なのが一気にぶっ飛んでしまう様な衝撃的なセリフが廊下の隅々に響いてる気がした。

 

 うん、空耳だよきっと! そんな正直な男子なセリフ。幾らなんでも理性が勝つって! 考えたとしても理性が勝つに決まってる! 口にまで出てこないって!

 

 

『あっ! 違った!! 捲れるのはパンツじゃなくて、スカートね、スカート!!』

 

 

 もう一度、聞こえてきた。

 聞き覚えのある声……。いやぁ とても身近にある声。さっきも何度か聞いたし、話してたヤツの声。

 

 

『パンツとかスカートとか、そーゆー問題じゃねぇだろ!?』

『わ―――っ 真中が変態だあああああ!!!』

 

 

 そうそう、真中って名前だったよ。忘れてた。……も、友達止めようかな?

 

 ガックリと頭を抑えた後、追いかけっこしてる3人を発見。

 

「違うっつの! 芸術なんだよ! オレが求めてんのは芸術!!」

 

 

 まぁ、確かに判る面もある。女性の裸体を描く裸婦画って言うのもあるし、芸術と言っても良いかもしれない。でも、ここは平凡な中学校。芸術美術専門学校! なーんて肩書なんかない極普通の生徒達が集まる中学校なんだ。

 そんな場所に、そんな感性を持ち込んできて……。

 

 

「そんなんで周りに弁解なんかできる訳無いだろ!」

「ぷげっっ!」

 

 オレは勢いよく横切りそうな真中の足を引っかけた。盛大に頭からダイブする姿を見て、少しだけ溜飲下がる。

 

「……欲望に忠実なのは良いかもしれんが、周囲の目を考えろっての」

「いってぇなぁ! って神谷!? 違う違うって! 欲望じゃなくて芸術!!」

「その芸術を強く求めようとする欲の事言ってんの。傍から聞いたら普通に変態だから。……オレ、結構念を押したつもりなんだけど、真中の耳には届かなかったか……。くっ……オレの声はお前には届かないの……か?」

「何悲壮な顔して、んなセリフ言ってんだよ!! 妙に感情も込めやがって!! 知ってるんだぞ! 絶対、それからかってる時の表情と声ダロ!」

 

 うん。判ってるならよろしい。

 でも、お仲間だと思われたくないのは事実だった。偽らざる本心ってヤツだよ。

 

「それによぉ! オレなんかよりよっぽど小宮山の方がエロいじゃねーかよ!」

「エロと変態は、正直違う気がするケド。まぁ 否定はしないな」

 

 矛先が小宮山に向かったと思ったら、逃げてた小宮山が引き返してきた。

 

「コラァァ……! ぬぁに言ってんだぁぁぁ? 真中に神谷ぁ! オレのどこがエロいっつんだよぉ……! 否定しろや!」

「否定なんかできっかよ。神谷の気持ちは判る! もうそれなりに長い付き合いだ。変態でエロは小宮山の方だ!!」

 

「なぁ……大草。オレちょっと距離置いた方が良いかな……?」

「止めたり纏めたりする役が減るから勘弁してくれ……。唯一の常識人が減られるのは困る……」

「………はぁ」

「なら、口直しに今度合コンにー」

「断る」

「デスヨネー」

 

 真中は小宮山と、オレは大草とちょっとした言い合い。

 いや、真中と小宮山だけかな? 言い合いしてるのは。

 

 

「それにいつもいつも、つかさちゃん、つかさちゃん、って女の事ばっかじゃねぇか。考えてんのはよぉ!」

「んだとテメェ! オレのは健全な感情なんだよ。つかさちゃんの魅力も知らねえくせにこの野郎~~~」

「おめぇだってつかさちゃんの履いてるパンツくらい想像すんだろぉ、布団の中とかでよぉ~~~~~!!」

 

 

 ……何だか、矛先がおかしくなってないか?

 

 

「なんで、西野の話になってんの?」

「あぁ、それは かくかくしかじかで……」

 

 

 大草に説明して貰ったけど、2人して盛大に間違えてる事に同時に気付いたよ。

 あの屋上の女の子は東城だったんだし。

 

 

「布団の中であ~~んな事やこ~~~~んな事考えて、いろいろとシちゃってんだろ~!」

「そー言う事はまじめな恋愛をした事ねぇヤツが考えてんだよ!」

「んだよ、片想いのくせに!!」

「片想いをなめるな!! お前、誰かのことを想って 枕を涙で濡らした事があるのか!❓ええっ!?」

 

 

 話しが何だか重い。……想い、じゃなく 重い。

 誰かの事を想って涙を濡らすのは……オレだってないな。うん。ってか、そんな事より。

 

 

「お前ら大声で何言い合ってんだよ……。せめて誰もいないトコでやってくれやこのアホ共」

「その点は、私も同感だよ。もうっ 蓮の事見習ってほしいよ」

 

 

 そーだそーだ! って思ったんだけど……、なんだろ、この感覚。つい最近も この感覚感じた事あるゾ? ごく自然に会話の中に入ってきてて、本当に自然に一緒にいて、違和感を中々感じる事が出来なくて驚くって展開。

 

「…………」

 

 一度経験したから、直ぐに反応する事が出来て良かった。後ろにいるのって絶対……。

 

 

 

『あはは、ごめんごめん。名前で呼んじゃった』

 

 

 

 目が合うなりにこっ と笑みを見せてくれる女の子がいたよ。

 うん、西野だ。

 

 後ろに沢山の男子生徒諸君を引き連れてる。……良かった。あの笑顔がオレに向けられてる、って事が判った様子はないし、皆ただただ顔を赤くさせてるだけだし。

 

 ここの中学校の皆って結構純なんだな。直ぐに顔を赤くして。

 

 西野は、オレの事をぐっ と引き寄せて後ろに追いやると、真中達の前に立ってた。

 

 それにしても、結構力強い……?

 

 

 

「キミたちー! 突然の告白。気持ちはとってもありがたいかもだけどぉー ここは廊下ダゾ! 告白するなら もっと人目につかないところでしろ!」

 

 

 

 突然の西野の登場に度肝抜かれた事だろうな、特に小宮山。

 

 

「つっ、つっっっつっぅっ!!」

 

 だって、口が上手く回ってないし。

 

「つかさちゃん!!!」

 

 あ、漸く口に出せたみたいだ。

 

「も――っ こーゆの、嫌いなんだよなぁ~~」

 

「つかさちゃん髪切ったの!? いいなぁ、その髪型もすっごく似合うなぁ~~♡」

「うん、ありがと」

 

 あ、真中も顔赤くさせてる。

 ……でもよく考えてみると 不思議じゃないか。西野可愛いし。結構傍で見てたら、オレも恥ずかしかったし。

 

「こんなヤツはほっといて!」

 

 西野は真中の事見てたみたいだけど……、それに気づいた小宮山、真中を片手でぶっ飛ばした。相変わらずのパワーだ。

 

「あ、あのつかさちゃん、オレは………」

 

 おっ、告白タイム? って思った。あれだけ、西野の話題を出しまくってて、本人を前にそれを伝えるなんて、相当な勇気だな、と思ったんだけど……。

 

 

「悪いけど。あたし、怖い顔の男って駄目なの」

 

 

 見事に一蹴されてた。

 西野って、結構容赦ないんだな。小宮山に至っては、何処から降ってきた?? って思う、ドリフもびっくりな量の金盥が頭上からガラガラどっさりと振ってきて、埋まってしまってた。

 

「それと、夜な夜なパンツの事考えてるのはキミ? パンツの柄の事まで口にするなんて、えっち過ぎるぞ!? 判るっ!?」

 

 それって、オレの事も含まれてない?

 

 と言う訳で ゆっくりゆっくりと移動して逃げようとしてたら、西野って背中にも目があるの? って言うくらいのタイミングで。

 

 

「逃げたらまた呼んじゃうかもしれないよ」

 

 

 皆は、誰に対して言ってるのか判んないだろう。………だけど、十分伝わったよ。だって、動けなかったもん。さっきの東城の時とはくらべものにならない程の人数に囲まれてて、こんな場所で言われようものなら……、どうなってしまうのか。小宮山なんか、ゾンビのごとく復活して、襲い掛かってきそうな気がするし。

 

 そもそも、先に約束破ったのそっちだろー! って言いたいけど、それ言ったら火に油どころじゃなく、火薬だから止めといた。

 

 

 それは兎も角 西野の言ってる意味が判らず、顔を赤くさせて固まってる真中にもう一言。

 

「あたしの今日のパンツはいちご模様! 判ったらこれ以上えっちな事、大声で言わない、考えない! 判ったな?」

 

 自分でバラしちゃってるよ。

 うん? でも昨日も同じだった様な気がするケド。

 

 それは兎も角、西野は2人に笑いかけた後 この場から去っていこうとしてオレの前を横切った時。

 

「また後で」

「???」

「話したい事あるから」

「何が?」

「授業始まるから 早く帰ろーっと!」

 

 小声で話してくれたのは、良かったかも。誰も聞いてないと思うし。

 と、言う訳で嵐の様な西野は去っていった。嵐が去っていったら 当然の如く この場も静かになる。男子生徒達も一緒になって消えていったから。凄まじいの一言。ここにも1人天災クラスがいたか。

 

「おぉい! 神谷! 手伝ってくれぇ! この2人動かねぇ!」

「ん?? ……ああ、なるほど」

 

 大草のヘルプを訊いて、真中たちの方を見てみると……、真中は石化しつつ 顔を赤くさせて、小宮山に至っては 瓦礫の山に埋もれててピクリとも動けてない。

 死んだ?

 

 

「もーーー! おまえら授業始まるってば~!」

「オレは知らんぞー。庇ったりもしないぞ。次の後藤先生、結構なスパルタだって事判ってるくせに」

 

 

 

 大草の大声が効いたのか、オレの脅迫めいた事実が効いたのか判らんケド、2人は何とか復活してた。

 

 それにしても、西野の話って何? 

 その次の授業内容が頭の中に入ってこなかったよ。

 

 

 

 嫌な予感 ビンビン感じたから。

 

 


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