密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

9 / 40
強襲 因縁 死亡
№2-1 残酷な現実


 バスが動きを止め、ドアが開かれる。各々外に出て背伸びをしたりストレッチをしていたり。明密が出ると同時にアーカードも天井から降りる。太陽を浴びながら風を感じていたためか、少し焼けている様にも見えた。

 

 そして、生徒全員が注目する大きな建物。そこに入っていくと中には様々なステージらしき場所。建物が倒壊している場所や、暴風雨が発生している場所だったりと。誰かがUSJと某夢の国の名前を言った様だが、宇宙服を着た者がこの施設の説明と名前を言った。嘘の災害や事故ルームを略してUSJと。咄嗟に明密は版権的な問題を心配した。

 

 この宇宙服を着ている者。災害救助で幾度となくめざましい活躍をしているスペースヒーロー『13号』という。個性である【ブラックホール】により活躍をしている。この時、出久は13号の個性なら明密に対抗できると瞬時に考えた。その代わり明密には悪寒が走った。

 

 どうやら本来はオールマイトも来るそうだったが、何かしらの予定が入り来れない様だ。その事に呆れた相澤。それを踏まえて今度は13号から小言を。

 

 

「えー……始める前にお小言を一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ……」

 

「13号、とか言ったか?」

 

「?えぇ、そうですが?」

 

「救助も即座に行われるべきヒーローの仕事とやらだろう?お小言に時間を掛けては不味いんじゃあないか?」

 

「!そうですね!では伝えたい事だけを」

 

 

 急にアーカードが13号に、しかも珍しくごもっともな事をを言っていた事に対し生徒全員が驚くと同時に“よく言った”と考える者は明密を含んで少々居たという。

 

 13号が言うには個性関連の事。誰しも人を容易く殺せる個性を持っている事。13号の【ブラックホール】も使い用によれば確かに人を殺す事もできてしまう。

 

 それは地味と思われている個性でも、勿論派手な個性でも、明密の個性も、生徒全員の個性でも言える事である。人ではなく吸血鬼を殺している明密はその言葉が心に響いたが、アーカードは550年以上も人やら吸血鬼やら殺しすぎているので“個性を使わずとも殺せる”事を考えていた。

 

 その事を踏まえて、ヒーローとは傷付ける為に個性を振るうのではなく助ける為に個性を振るう事を教授する。その言葉に生徒全員が13号に向けて拍手をする。

 

 突如相澤の目付きが変わる。視線は広場を捉えており、その広場には見知らぬ人物たち。

 

 アーカードと明密は相澤の視線の先を見る。

 

 見慣れた者が一人。最初に吸血鬼狩りを行った時に居た敵が居た。その者を見て明密は表情を一変させる。

 

 あの霧の様な“敵”を。明密の顔は憎しみの表情へと変貌する。

 

 

「一塊になって動くな!13号、生徒をまm「アーカードォ!!武器を取ってこぉい!!」ッ!?」

 

「明密!?」

 

「「明密君!?」」

 

「認識した。直ぐに行く」

 

 

 明密は相澤の言葉を遮りアーカードを呼び捨てする。その突然の事に全員驚き、切島と出久、天哉が明密に反応する。

 

 アーカードは【シュレーディンガー】で消えたと思いきや、直ぐにトランクケースを持って戻ってくる。明密に投げて渡すと明密はトランクを開ける。その中からガントレットを取りだし片手だけ装着、拳銃二丁と弾倉20個をコスチュームの内ポケットに入れた後もう片方のガントレットを装着する。

 

 

「おい明密!何でそれを!?」

 

「見知った敵《ヴィラン》です!あの霧の奴がそうなんです!!」

 

「何だと!?」

 

 

 その霧からは多くの者が出てくる。多くは個性持ちの【人間】ということはアーカードと明密には理解できた。

 

 ただ少数、【吸血鬼】が居る事も理解できた。

 

 

「アーカード!行くぞ!」

 

「その怒り……久方ぶりに見たな。アケミツ」

 

 

 明密とアーカードは階段からジャンプする。明密は脚の筋肉をバネの様にしてジャンプし、アーカードは素の体力で跳んだ。

 

 

「相澤先生!明密君が!」

 

「……チッ!13号、急げ!俺も行く!」

 

 

 13号が明密の行動を指摘する。首にある包帯《捕縛武器》を手に持ち、ゴーグルを掛けて明密とアーカードを追いかける相澤。

 

 

「13号先生!!何で明密君が行っちゃんたんですか!?」

 

「麗日さん落ち着いて!兎に角今は此処から脱出を!」

 

 

 13号がお茶子を落ち着けさせ、明密を除く生徒全員を避難させようとする。しかし……そう上手くはいかなかった。

 

 

「させませんよ」

 

 

 回り込まれる。相澤、抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』の個性が解かれる一瞬の隙を狙い生徒全員と13号を足止めする。そしてその敵は恐怖に染めさせるような発言をした。

 

 

「初めまして、我々は敵《ヴィラン》連合。僭越ながら、この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは………最終目的として【平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたい】事。そして完全に私事ですが……“あの吸血鬼狩りを殺しに”「しぃッ!!」ッがっ!」

 

 

 突如現れた明密とアーカードの奇襲によって霧の者は首に巻かれてある鉄の部分を攻撃されダメージが入る。明密はアーカードの【シュレーディンガー】で瞬時に移動しガントレットを装着している拳で殴り付けた。

 

 

「逃げろ!お前ら!」

 

「ッゥ……こんのガキャア!!」

 

 

 明密は全員に逃げるよう促したが、怒りに身を任せた霧の者は明密、アーカード、13号、天哉、お茶子、砂藤、芦戸、瀬呂以外の全員の足元に何かワープゾーンの様な物を設置し強制転移させた。

 

 

「はぁ……はぁ……チィ、上手くいかないか」

 

 

 自身を落ち着けさせている霧の者。その隙にベレッタをホルスターから取りだし撃つ。辺りに響く銃声、しかし霧の者に当たる事はなかった。先程使ったワープゾーンを楯の様にし、弾丸を防いだのだ。

 

 しかし霧の者の後ろに移動していたアーカードは、持っている銀色の片手銃を弱点と思わしき鉄の部分に当てる。それにより動きは止まったが、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

「何が可笑しい!?」

 

「くくっ……1年ぶりですねぇ、名前はアケミツですよね?初めまして、『黒霧』という者です。敵連合幹部です」

 

「……何が言いてぇ?黒霧とやら」

 

「何が言いたいか?……それは私の台詞。貴方こそ何故隠して過ごしている?」

 

 

 “隠す”という単語を聞くと、明密と13号、そして残された天哉、お茶子、砂藤、芦戸、瀬呂が反応する。明密と13号は顔を歪ませ、天哉、砂藤、お茶子、芦戸、瀬呂は何の事か分からず仕舞いだった。

 

 

「……天哉、今すぐ他の先生たち呼んできてくれ」

 

「!!明密君、君は……「早く!一秒でも早く呼べ!飯田天哉ァ!」ッ!?」

 

「飯田君、早く行きなさい」

 

「…………分かりました」

 

 

 天哉は納得がしない感覚を覚えつつも、他の者を呼び出す為に走り出す。それを見ていた黒霧はまたも嗤う。

 

 

「やはり……バレるのは恐ろしいですか。その代わり教師の方々は知っていると」

 

「テメエらの目的は何だ?答えねぇと、今すぐその弱点に風穴空けてやる」

 

「くくっ……“今”?それで宜しいのですかねぇ?」

 

「……何?」

 

「あの時、私が個性を使い生徒と“他の吸血鬼”を別の場所に転移させました……貴方なら分かるでしょう?」

 

「ッ!?…………13号先生、コイツをお願いします」

 

「分かりました。……くれぐれも無茶はせずに」

 

「了解しました。アーカード、行くぞ」

 

 

 明密はアーカードに触れ【シュレーディンガー】で他の場所に転移する。13号は個性を発動させる準備をしており黒霧に向けている。しかしまだ不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

「貴方は終わりです。……ですが、何故そこまで笑っていられる?」

 

「ヒーロー……それは至極簡単な事です」

 

 

 突如13号の背中に衝撃が走り体勢を崩される。その後ろには眼鏡を付けた痩せ形の男が、その男の片手にはクロスボウが担がれていた。

 

 

「貴方がやられるからですよ……と言っても聞こえませんがね」

 

 

 眼鏡を掛けた男は再度クロスボウに矢を装填するが、残った者と13号を瀬呂の個性で遠くまで離れて避難させる。

 

 

「チッ、まぁ良い。グランドプロフェッツァル、移動しますよ」

 

「もう少しばかり体験したかったが……まぁ良い。オールマイトとハンターに実験台になってもらうからなぁ」

 

 

 黒霧と眼鏡を掛けた男は黒霧の個性でワープし、噴水前に転移する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『火災ゾーン』

 

「くそっ!あと少しなのに!」

 

 

 この火災ゾーンには『尾白 猿夫』が個性を使用して、あらかたの敵を倒していた。しかし残り1体が曲者であった。目に見えない程のスピードで移動し、攻撃をされ、後退する。この様な一連の行動を行っているのは、個性すら使わずに対応している者。

 

 そして既に限界でもあった。傷付き、疲れ果て、避ける事すらままならない状態にまで貶められていた。

 

 そして、その敵が尾白の首を狙い噛みつこうとする。尾白は動けずにいた。死を覚悟していたのか、何も考えずに目を瞑っていた。

 

 

 

 

 突如、何なのか判断しかねる音が尾白の前で聞こえる。目を開けば、明密が居た。

 

 その者の心臓を右手で貫いていた。蹴りでその者を離れさせ、荒い呼吸をしながら佇んでいた。尾白は今の状況を理解できなかった。

 

 

「明……密?お前……何を…………」

 

「…………アーカード、頼む」

 

「あぁ」

 

 

 アーカードに触れ明密は消える。その場に元々居なかったかの様に。そこには血の跡すら残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『倒壊ゾーン』

 

「くそっ!んだよコイツ!?早ぇ!」

 

 

 切島が敵と応戦……否、接戦……それも違う。一方的な攻めを受けていた。

 

 

「遅ぇ遅ぇ!!あとよぉ!」

 

 

 突如、敵が自身の後ろに蹴りを放つ。その素早い蹴りは後ろに居た爆豪に当たり、その後回転して切島の横腹を蹴る。切島は硬化して防いでいたが、硬化した皮膚が剥がれていた。

 

 

「お前らの殺気なんぞ簡単に読めんだよ!特にそこの爆発野郎は簡単すぎだぜ!イージー過ぎんだよぉ!」

 

「くっそがぁ!!」

 

 

 爆発の影響を利用し距離を詰める爆豪。近付くと爆破をするため手を伸ばすが、避けられ腹に膝蹴りを食らわされる。蹴られた事で天井に亀裂が入った。

 

 

「爆豪!!」

 

「お前で最後ォ!!」

 

 

 切島は咄嗟に硬化をして防御をする。敵からの手刀を食らわされ、腕の皮膚が剥がれていく。

 

 そして敵が着地し、再度攻撃を食らわせようとした。

 

 その敵は突如、何かに怯えた様に辺りを見渡す。

 

 銃声が聞こえ目を瞑り、耳を咄嗟に塞いだ切島。その銃声の正体はアーカードからしており、その近くに明密が現れた。また直ぐにアーカードと明密は消えさった。

 

 切島は目を恐る恐る開けると、そこには先程まで戦っていた敵の頭が撃ち抜かれていた。しかしそれ以上に驚いたのが、その死体がドロドロに溶けていく様を見たからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『土砂ゾーン』

 

「うっふぅ!!冷てぇ!」

 

「チィ!」

 

 

 残り1体の筋肉質の敵が轟に襲い掛かる。しかしコイツは何度も何度も凍らせたが、何度も何度も氷を破壊していく。恐らく増強系の個性だろう。しかし轟は考えていた。普通の増強系の個性なら、隙を突いて体をガチガチに氷で固めさせたとしても無理矢理破壊される可能性は皆無に等しい。

 

 そう考えている内に接近されていた。咄嗟に氷の壁を作る轟だが、その氷の壁はいとも簡単に破壊されてしまった。

 

 しかし直後、その敵の心臓が誰かに貫かれる。血を吹き出し、貫いた手や腕は血塗れであった。

 

 その敵が倒れた。しかし敵の後ろには誰も居なかった。後ろから貫かれた筈なのに、あたかも誰も居なかったかの様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『山岳ゾーン』

 

「あぁー……同じ個性持ちだからなぁ。どーしよっかねぇ?」

 

「ウェ、ウェーイ?」

 

 

 アホ面になっている上鳴が捕まっている。同じ個性持ちの敵に。しかし敵は何かを悩んでいた。その隙に耳郎が脚に耳たぶのプラグを挿そうとすると電気が流れる。

 

 

「いたッ!」

 

「耳郎さん!」

 

「言っとくが、お前らのする事は殺気を読めば分かる。下手に抵抗なんざしたらお前らもお仲間も殺すぜ」

 

 

 耳郎は右脚を抑えながら姿勢を低くし、八百万は耳郎を庇う様にする。しかし、まだ敵は上鳴の事を見て何かを考えていた。

 

 そんな事を続けていると、敵がため息を吐きながら言葉を綴る。

 

 

「だーかーらー!俺には殺気が分かるって言って……」

 

 

 敵の口が止まった。同時に敵の思考も止まった。相手をしてはいけない者に出会ってしまったから。吸血鬼でも恐怖に陥る相手を見てしまったから。

 

 見えたのは腕を引き絞りながら落下している明密。しかし黒い瞳は無く、あったのは血走った白い眼球だけであった。明密は落下しながら敵の心臓を貫き、返り血を浴びた。上鳴はこれにより脱出したが、目の前で起きた事が信じられないというように耳郎と八百万は見てしまった。

 

 その場から漂うのは血の臭い。見えるのは血濡れた神父服と血濡れた体。

 

 

「……アーカード、あの3人頼む。怖くて動けねぇ筈だから」

 

「お前はどうする?」

 

「…………殺しに行く」

 

「そうか……なら、取っておいてくれ」

 

「そりゃアーカードの仕事の早さに関わる」

 

「違いない」

 

 

 アーカードは上鳴を持ち、八百万と耳郎の2人に触れ別の場所に行く。明密は、脚をバネの様にさせて広場へと向かう。血濡れた己は放っておいて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。