密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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皆さんお久し振りでございますm(_ _)m。20日以上も投稿期間を空けてしまいましたが、訳ありで少しの間進められることになりました。その件につきましては活動報告をご覧いただければ幸いです。

では、本編をどうぞ。


№5-11 分岐路

 誘拐事件の翌日。雄英高校では緊急会議を全教師が1つの部屋に集い行っていた。その中に異質とも言える者が2名居る。茶色のシルクハットを被り続けている政府国教機関【ヘルシング】のヒーローが1人、『バルバロッサ・D(ドム)・ウォルゲイツ』。そしてヘルシングの化け物討伐者『吸血鬼アーカード』。

 

 しかしその内の1名であるアーカードは苛立ちを覚えているのか、かなり険しい表情でただ一点だけを見つめていた。バルバロッサも然り、目を瞑り何か思案しているのかそうでないのか。全く理解できない。

 

 だが険しい表情なのはこの部屋に居る全教師とて同じである。何せ()()()1()()()()に苦戦し、あまつさえ雄英生の1人が誘拐されたのだ。このことはマスコミにも伝わり雄英高校前には多くの報道陣が寄せられているのだ。

 

 しかし多くの報道陣が訪れているのはそれだけに留まらなかった。誘拐された1人の他に、今でも重傷者として病院に搬送されている者が居るがそれが子どもであったということ。

 

 もうお分かりであろう。その重傷者は『疎宮明密』であった。何処で嗅ぎ付けたのかは知り得ないが、バレてしまっていた。これはかなり不味い状況にあると言える。

 

 何せこの子どもに“吸血鬼狩り”という世間一般からはかけ離れた殺しをさせているのだ。これには報道規制を敷こうとする政府の人間が慌ただしくしている姿が目に浮かぶ。

 

 そしてアーカードの苛立ちは“これ”であった。宿敵の面影を残している男を、赤の他人……という訳でもないが他人に()()()()()()()()()()()という事実が重なっているからだ。己への不甲斐なさも相まって非常に不機嫌であるアーカードであった。

 

 そんな不機嫌なアーカードも交えて会議が始まっていく。話題には【敵への認識の甘さ】が第一に取り上げられていた。1度は襲撃を受けかけていた雄英だが、その際は明密とアーカード、バルバロッサの3名で吸血鬼10体と敵複数との戦闘により危機は去った……と言いたかった。

 

 問題は何度も戦った『黒霧』と呼ばれている敵の“レベルアップ”であった。前回の雄英襲撃と比べると人数の少なさや密集度が相まって、今回は全方位に囲むという技を成し遂げ結果的に被害が出ているからだ。

 

 そして爆豪を連れ去り、明密を重症へと追い込んだことによって雄英の信頼はがた落ち。最悪雄英が潰れるということも有り得る。そう言ったのはスナイプであった。

 

 しかし突如アーカードが立ち上がり部屋から出ていこうとして行く。勿論、その行動に異議を唱えたのは校長である根津であった。

 

 

「待ちたまえアーカード君。何処に行くのかな?」

 

「……アイツの所だ。私は勝手に行かせてもらうがな」

 

 

 根津が止めようとするも、既にアーカードは消え去っていた。その様子を見ていたバルバロッサは少し溜め息を吐いた後、立ち上がりシルクハットを取って一礼した。

 

 

「失礼しました。アーカード様の粗相をどうか許してください」

 

 

 礼をしながらそう言ったバルバロッサは、顔を上げると続けて言葉を綴っていく。アーカードの心境を語るかの様に。

 

 

「アーカード様も随分お怒りなのです。何せ()()()()()()()()()()お気に入りの明密様があの様な状態になってしまったことに、御自身への不甲斐なさをずっと感じておられたのです」

 

「…………それで、何故アーカードが明密の所に行く理由になるんだ?」

 

 

 疑問を素直にぶつける『プレゼント・マイク』。その疑問には少しの間を置いて、目を瞑りながらゆっくりと口を開いていくバルバロッサが居た。

 

 

「……恐らく、先程の社会に対する信頼の下降という内容を聞いたこと。でしょう。アーカード様も何処かで分かってはいましたが、それをそのまま聞かされてしまった結果とも言えます」

 

「ッ……!す、すまない。失言だった……」

 

「いえ私は一向に構いません。社会に認められなければ我々とて存続も危うかった時期も御座いましたので」

 

 

 スナイプが謝罪の言葉を述べるが、バルバロッサは物腰柔らかに対応し少し緊張している空気は緩和されたと言っても良いだろう。

 

 バルバロッサは今の状態を良い機会だと思ったのか、今度は別の議題へと移りに行った。かなり慎重気味に物言う為、手に持ったシルクハットを被り直してから発言した。

 

 

「私共がこうして発言するのも烏滸がましいかと思われますが、私の今の考えを皆様に伝えたい所存です。先ず対策を取るべきは“敵アジトの発見”そして爆豪様の救出の作戦を立てていては如何でしょうか?……勿論、内通者の件も一時中止してもらえば幸いです」

 

「むぉ!?」

 

 

 何故かマイクが変な声を挙げて反応するも、そこは無視を決めていく全員。話を戻すが、バルバロッサの言い分には問題点も浮かんでいくのが分かる。

 

 先ず始めに()()()()()()()という簡単な疑問。それが分からなければ行動にも移すことはできない。ここでオールマイトの電話が鳴ったことによりオールマイトは席を外し、外へと出た。

 

 それと同時にアーカードが机を挟んでバルバロッサの目の前に現れる。突然のことに周囲は驚きを隠せていないが、バルバロッサは淡々と疑問を投げ掛ける。

 

 

「アーカード様、何様で御座いますか?」

 

「……今すぐ“個性”停止薬を作れ。アイツが()()()()()

 

『ッ!?』

 

 

 此処に居るアーカード以外が驚愕の表情になる。明密が暴れているというだけでも可笑しいのだが、本当の疑問はそこではない。

 

 明密は合宿所近くの病院に緊急搬送されて息も絶えつつあって意識不明の重体であった。それは搬送されて間もなくのことである。明密の体には心臓に1つ、首の肉を少し抉る様に穿かれた穴が横両端に2つ。そして頭に1発、これは全て銃弾の痕である。

 

 そして腹にボウガンの矢が突き刺さった時の穴2つ。これにはそれぞれ遅延性の毒と速効性の毒と2つ体に混入されていた。さらに銃弾を受けたことによる失血、穴の方は再生の能力で塞がれていたが目覚めて完全に回復するまで約2日掛かると医者から診断されていた。

 

 2日掛かる理由は2つの効果の違う毒による影響であった。どうやら明密の回復には先に死に至りやすいものから徐々に回復させていくのだが、遅延性の毒によって体には毒が回っており人為的に毒抜きをしようにも再生によって瞬時に塞がれるため完全に“個性”と本人の力と奇跡に任せてしまう結果となった。

 

 が、それらの結果が出されたとしても明密が常識を塗り替えた。そしてアーカードの報告では無理矢理体を動かしており、止めようとする者たちをはね除けて何処かへと向かっているというのだ。

 

 直ぐ様バルバロッサは“個性”停止薬を具現化させアーカードに持たせる。それを持ったアーカードは直ぐに消える。

 

 それと同時にオールマイトが部屋に入ってきた。どうやら敵連合のアジトが分かったとの報告を受けたが、この部屋の雰囲気が可笑しかった。

 

 バルバロッサから話を聞くと顔色を変えた。しかしオールマイトも友人から聞かされたことを伝えない訳がない。直ぐに話題をそちらに変えて、対策を練ろうと考えさせる。が……1人の呟きによって、それは急ピッチで進められていくことになった。

 

 誰の言葉かは、理解する暇さえ無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「もしかすると……疎宮は、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーカードが到着すると、目の前には小さくだが明密が居た。しかし服は昨日の、それも穴の空いた服を着ておりゆらゆらと殺意を出しながら歩き続ける“それ”は最早人間と呼べない。

 

 狩る者と狩られる者とで区別するならば、血に飢えた狩る者と答えるだろう。息は荒く、ずっと血走った目をしており獲物を探している化け物。闘争から闘争へと自らを死地へと赴かせる様な雰囲気を醸し出している。

 

 恐ろしいと感じるのはこの場に居る人間だけであろう。対してアーカードは……少しだけ憤慨していた。

 

 直ぐ様シュレーディンガーの効果で気付かれずに後ろに回り込み具現化してもらった“個性”停止薬の入った注射を打とうとした。

 

 刹那、血飛沫が舞った。鮮血が舞った。腕が転がり落ちて注射が離れた位置に置かれた。アーカードの腕が切り落とされていた。明密の手刀によって、瞬時に振り返った明密によって切り落とされていた。だが息が荒く、満身創痍の状況であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔を"ぉ…………する"な"ぁ"……」

 

「……明密…………」

 

 

 掠れた声でアーカードに聞こえる様に喋った明密。先程アーカードの腕を切ったであろう左手には血が滴り落ちていた。しかし関係ないと切り捨てるが如く明密は言葉を続けた。

 

 

「ア"ァ"カァ"ドォ"……ぉ"れに……そいつ"を"……刺す……のがァ……?」

 

「お前を止めるには、これしかない」

 

 

 悲しげな顔で明密を見下ろしているアーカード。だがアーカードを見上げている明密の目からは執念を感じさせ、他の意見を一切聞くことをしそうにない。

 

 

「分か"って"て……やろ"ぅとぉ……!してるのがぁ……」

 

「……あぁ」

 

 

 そう、“個性”停止薬を使えば明密が密度操作による脱出も行動も制限でき簡単に制圧できる。しかし逆を言えば、それを使えば回復できないことになる。

 

 つまり完全に自己治癒に任せた療法も無意味に近くなる。治りかけの体に、さらに毒を打ち込もうとしているのと同じだからだ。

 

 それを確認し終えたあと、病院の入り口に向かって歩き始めた。心なしか少しだけ足取りが早くなっている。

 

 

「……アケミツ」

 

 

 アーカードが後ろから声を掛ける。明密は聞こえていた。耳に入っていた。しかし歩みを止めない。アーカードは続けて言った。

 

 

「お前は……そこまでして何故、“その様であり続ける”?」

 

「…………」

 

「もう……十分な筈だ。お前は頑張ってくれた、お前は何時も身を呈してまで他者を守り続けた。十分だ。もう十分だ!何故お前は!その身を焦がし続ける!?何故!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……初めて、生屍(グール)を……殺した時……思ったんだよ」

 

 

 明密は歩きながら、昔を思い出して誰かに聞かせるように言った。

 

 

「誰かが()()()()()()()()なんて……ソイツが辛いだろ。だからこそ俺は……この手で殺した。そして自らに誓いを立てたんだよ」

 

 

 首に未だぶら下げられてある2つの十字架を握りしめ、尚話し歩き続けた。

 

 

「だからこそ……潰す!ソイツらを作り上げてしまった元凶を、叩き潰す!もう2度と日の目を拝ませねぇ様に……殺す!もう2度と!誰かが成り果てるのは見たくない!」

 

 

 動かすのがやっとの体に鞭を打ち“個性”による強化で何処かへと赴こうとしていた。自分のやるべき事のために。

 

 だがアーカードが先回りし、明密を引き寄せ抱き締める。殺意無き行動に戸惑いつつアーカードを見上げた。

 

 

「何を……してる……」

 

「……お前が止まりそうに無いことは十分に理解した。だが今は回復に専念しろ、勝つものも勝てなくなるぞ」

 

「アーカード…………お前……」

 

「我が儘を聞くのも……悪くは無いと、な」

 

 

 アーカードはそう言うと既に結合済みの右手で頭に手を置いた。明密が敵連合の元へ向かうことに関しては咎めはしなかった。実力も、線引きも、覚悟も決まっていた。この状態の明密をどう止めることが出来るだろうか?

 

 だが一時的にでも休み、万全の状態に整えさせて向かわせること位は出来る。アーカードはこの状況で、その選択肢を選んだ。明密に関すると甘くなるというのだろうか、子をあやす様な感じで明密を病室へと戻していく。明密はアーカードの行動に内心驚きつつ、流されるが如くアーカードに従っていた。

 

 

 

 

 

 

「……さて、この部屋の有り様を何とかしようか」

 

「ごめん……皆」

 

 

 何故か病室に戻ればA組生徒が爆豪を除いて全員倒れていた。考えられるのは明密が起床した時に執念が暴走して立ちはだかる者を片端から対処していたと分かるだろう。

 

 そんな出来事もありつつ、時間だけは過ぎていく。誰からの干渉も受けず、誰からも支配されずに回り続けていく。時間を操れる“個性”があるならば、それはそれで見てみたい。

 

 時間にも場所にも定義にも存在にも()()()()()()“個性”ならばアーカードが居るが。

 

 時は進む。何時までも進んでいく。

 

 時は待たない。時は待てない。

 

 だが、時に()()()()なんて事は生きてる限り出来る。

 

 時が来るまでに準備を怠らない。そして回復に専念した。

 

 誰かの言い分は今は聞きたくない。時間が勿体ないから。

 

 誰かが生屍(グール)になる前に、誰かが被害に遭う前に。誰かが犠牲になる前に、誰かが化け物になる前に。

 

 

 

 

 

 疎宮明密(今居る化け物)という狩人(ハンター)が、化け物を狩る。

 

 

 

 

 

 


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