密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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 遅くなって申し訳ございません!

 ここまで遅くなった理由としては少しスランプの様なものを味わってしまい、中々筆が進まなかったこと。そして新たなSSを書いてて遅れました。申し訳ございません!

 しかも最後が少し可笑しいと思いますが、次は頑張ります!

 ということで約2週間ぶりの投稿ですがお楽しみください。


№5-10 多勢に無勢

「…………とは言いつつ、絶対に来ないでしょうね。これ」

 

 

 この膠着状態を見れば絶対に動いたらアウトの雰囲気が漂っている状況。先程カッコ良く戦闘開始の台詞を吐いておいてこれは無いだろうと思うが、相手の戦意が既にボロボロなのは何故か気配で分かってしまう明密。右隣に居るバルバロッサをちらと見てみるが、欠伸をする始末。

 

 アーカードも戦意が削がれている相手を見ていると飽きているのか欠伸をしている。これでは話にもなりはしない。ましてや(ヴィラン)の戦意が削がれているのに攻撃をしては此方が敵になりかねない。というより成りたくないというのが本音だろう。

 

 

「ハァ…………アーカード、バルバロッサさん。帰りますよ」

 

「おや?宜しいのですか?」

 

「まっ、アケミツの言い分も分からん訳ではない。流石に暇過ぎる」

 

「つー訳で……」

 

 

 明密はブランを持っている手を瞬時に上げて発砲する。13㎜という破格の大きさの弾痕が敵の間をすり抜けて600m先の木に衝突する。敵は自分たちの後方から破壊音が聞こえたことで一斉に後ろを見る。

 

 

「もう来んなよ。お前ら相手に手加減するのも面倒だしよ」

 

 

 ブランを終い、アーカードに触れる。バルバロッサもアーカードに触れると姿を消す。姿を消した途端に敵からはドサッと地面に座り込んだ音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、大体の吸血鬼の排除および敵の抑止力としての活動は終了致しました。人間は誰一人殺してはいません」

 

「お前の殺してないは≠五体満足であるの方程式が浮かぶのは俺だけか?」

 

「……エスパーなんですか?」

 

「まさか、そう思っただけだ」

 

『(この2人何の話してんの!?)』

 

 

 完全に殺気が抜けた明密とアーカード、バルバロッサは施設への帰還を果たし施設内で相澤と話をしていた。何故他の者が居るのかということについては、明密が急に消えたと思いきや施設の至る所に紙が貼り付いていた為こんな事をしでかすのは明密のみという確信による“心配”の感情から来ている。

 

 実際には杞憂とも取れるべき行動なのだが、今の明密は何処か危ない雰囲気を漂わせている。そう発言したのは長年の親友である飯田天哉であった。

 

 だがこれまでの明密のことを考えると、危なっかしいというのは事実だろう。吸血鬼との死闘に加え、一度死を体験し、今度は何かに憑りつかれたかの様にトレーニングをしたり、人間の定義を逸脱した訓練など、殆ど自分に鞭を打ち続けていると言っても良いほどだ。

 

 しかし表情からは全く読み取れそうにない。それどころか他の生徒の前では何時もの謙虚さを忘れない至って“普通の学生”または“好青年”という言動や表情ばかりだ。

 

 先程の物騒な話の内容はさておき。

 

 

「一応これで予定されている催しは可能ですが、如何致しましょうか?」

 

「……まぁ相手も素直に聞くかどうかだが、明日は恐らく大丈夫だろうな」

 

「そうですか。では僕たちはこれにて」

 

 

 ソファから立ち上がり就寝部屋へと戻る明密。彼の背にのし掛かる罪の重さというのは彼自身気付くことすらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……ふぅ」

 

「……何か(やつ)れた?」

 

「何時ものことです」

 

 

 ソファに深く座り背を預けて溜め息を吐く相澤。そんな彼に近付き様子を見ていたマンダレイは声を掛けるも、要らぬ心配だと切り捨てた様子である。

 

 しかし相澤も窶れているだろう。何時もより気苦労し、何時もより緊張の糸を張り、例外として1人の生徒に化け物退治と称した“殺し”を行わせている。

 

 普通とは一風違った生徒。これまで相澤は出来る限りの範囲で監視を続けていた。彼という存在を“吸血鬼狩り”として捉えず“ただ1人の生徒”として。

 

 だが見てみれば、本当に1生徒として捉えれるのかどうか分からない程の実力があり恐ろしさもあった。

 

 化け物を狩る為に自らの成長を続け肉体的、精神的疲労を感じさせない様に自身に圧力を掛けている明密。もしも他の教論だった場合、こんな対応をどうすれば良いのか理解できない。それを示すかの様にトレーニングルームでの記録を随時更新し、最早誰からも記録を抜いた。

 

 恐らく現トップ3を大きく上回るであろうその実力。しかし相澤でも感じられる危機感。吸血鬼退治の為に自らを費やし犠牲にし、人道から大きく逸れた行為を幾度となく行うからこそ“危うい”。

 

 とても強く、恐ろしく、冷静であると同時に、彼は弱く、脆く、儚く、危うい存在である。誰かの言葉を借りるならば……

 

 

化け物(フリークス)に近付き過ぎている……か」

 

「フリークス?何それ」

 

「此方の話です。一々突っかかるのは野暮ですよ」

 

「ふーん……そっ」

 

 

 マンダレイは居間から離れていく。横目で見ていた相澤は再度溜め息を吐き、前髪を掻き上げて思案していく。

 

 どうすれば明密という“人間”を助けてやれるか。

 

 

「…………柄でもねぇな、オイ」

 

 

 1人、誰も居ない部屋でそう呟いた相澤であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 その翌日、朝食を採りしだい少しばかりの休憩のあと“個性”強化訓練を行っていく。明密は何時も通りバルバロッサとの訓練であったが、今回のは前回よりハードであった。

 

 3次元立体戦闘訓練に加え、バルバロッサの“個性”による対4次元戦闘訓練という鬼畜の所業ともとれる訓練内容であった。

 

 内容としては【地面やドーム状の壁に幾つか地雷を仕掛けている】のが1つ。半径30mの訓練場なので幾分か実際の戦闘の様な経験が可能である。

 

 そして最大の特徴として、この場の壁や地面に幾つかワームホールを設置しているという点。しかもバルバロッサのみにしか見えないという仕様の為、何処に設置されているかはバルバロッサだけである。

 

 これが4次元戦闘訓練の概要である。見えないワームホールにより相手が何処から来るのかを対処するという訓練である。流石にここまでするというのは異常に捉えられるかもしれないが、これはある意味対複数戦闘にも役立てるので行うことにした。

 

 勿論、明密自身が培ってきた“個性”使用法をフルに使用してバルバロッサを追い詰める。これは変わり無い。

 

 そして現在、その訓練が開始して約6分後。

 

 

「くっ!」

 

「疲れが見えてきましたね。ここで休憩しますか?」

 

「……はァ"…………まだ、や"れ"ま"ッ……す……!」

 

 

 慣れない訓練内容によって体力も精神も五感全ても、疲弊していた。右上瞼は微妙に痙攣し、息も荒くなっている。“個性”持続使用による疲労に加え人間の定義から外れた【暴嵐(イレギュレイト・ハリケーン)】──明密が名付けた──の連続使用による急速な体力の消耗。

 

 恐らくこれ以上やれば体にガタが来そうだが、そんなことを気にする必要性が無いという返事で未だ続けようとしている。

 

 勿論、バルバロッサも明密に対して過大評価も過小評価もしていない。それは謂わずもがなである。だからこそ今は現状に合った指示を出すまでである。

 

 

「いえ、休憩を取ります。約15分後に始めますよ」

 

「……はい"。がフッ…………」

 

 

 明密の体は糸が切れた操り人形の様に倒れ、目を開いたまま意識を失う。倒れた明密の元まで走り明密の体を持ち上げる。そして“個性”によって出現させたベッドの上に乗せ、明密の瞼を閉じる。

 

 バルバロッサは明密の“再生者(リジェネレーター)”の力を見越して短めの時間としている。この訓練期間で回復の“個性”の効果が成長してきていることは、明密にとっては弱点を減らすことに繋がるので良いのだが人道的なことを考慮すれば好ましくないであろう。

 

 下手をすれば化け物に成りかねない力なのだから。

 

 

「…………少し相談しますか」

 

 

 バルバロッサはその場から出ていく。足音は響いているが、その音は明密は聞こえはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「教官……ですか?僕が?」

 

「さっきバルバロッサと決めたからな」

 

 

 目覚めた明密が目を開くと相澤とバルバロッサの話し声が聞こえていた。それに気付き、ゆっくりとベッドから降り立つ。相澤とバルバロッサは起きたことに気付き明密の元に歩いていった。そこまでは普通だ。

 

 また訓練だと予想し体をある程度慣らしておこうとしたが、バルバロッサから変更の通告を受けた。それこそが、相澤の言っていた内容の一部である“教官”であった。

 

 

「聞いたぞ。3次元立体戦闘訓練に加えて対4次元戦闘っつう異常な訓練してて無理矢理にでも続けようとしたってな」

 

「うっ…………」

 

「まぁバルバロッサの訓練もどうかと思ったが、しんどい時はちゃんと言え。無理して体壊したら元も子もないだろ」

 

「…………はい」

 

「んで話した通り、お前には他の生徒にアドバイスを伝えること。体を酷使させない様にってのもあるが、お前の観察眼は目を見張るものがあるからな。それを他の奴等に役立てろ」

 

「……了解しました」

 

 

 渋々といった表情で相澤の出した命令に従う明密。内心「まだやる気かコイツ」と思っていたとか。しかしこれがどちらかと言えば最善なのだろう。

 

 実際相手を見る観察眼もクラス内でトップに立つだろう明密。彼から貰う助言というのは全生徒に良い薬となるだろう。それを受け付けなさそうな者も若干居るが、問題は無いと考えている。

 

 勿論既に教授している全員に伝えている。マンダレイあってのことだが。勿論他の生徒は驚いていたが明密の出すアドバイスは意外にも好影響を及ぼした。

 

 そして時は流れて午後8時頃。この日は催しとして肝試しをするという。先にB組の生徒が定位置に着きA組が指定されたルートを通る。実に分かりやすい。

 

 

『(絶対明密(アイツ)には通用しねぇと思う!)』

 

 

 しかしB組は明密に対して緊張感を持っていた。実際他の者に恐怖を植え付けている時点で恐怖させる側に居るのは間違いないと言っても良い。

 

 A組も似たような感じであるが唯一違うといえば……

 

 

「おい偽善者!よくも好き勝手にやってくれたな!オイ!」

 

「知りませんよそんなこと」

 

「んだとぉ!?」

 

 

 爆豪が明密に文句を垂れている所だろう。実はこれより前に模擬戦闘訓練を爆豪としていたが、結果は明密が本気を出さず勝利。爆豪は実質惨敗である。しかし本気で戦っていない事に腹を立てた様で、料理の時も食事の時も突っ掛かっていた。

 

 まぁ圧倒的に力の差があるのにも関わらず果敢に立ち向かっていった爆豪の姿勢には称賛を与えざるを得ないが。

 

 そうこうしている内に数グループは向かったのだろうか、人が少ない。明密、爆豪、出久、轟、八百万、お茶子、蛙吹、相澤、バルバロッサのみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 “その人数だけで良かった”と言っても過言では無かっただろう。黒い霧が相澤やバルバロッサを除いてその場に居る全員をドーム状に包み込んだということを考えれば。

 

 

『ッ!?』

 

「黒霧!」

 

「御明察」

 

 

 明密は一瞬にして正体を見破り答えた。それに合わせるかの様に黄色く光る目が明密たちの上に怪しく光り存在感を出す。しかし右目だけしか無かった。

 

 

「テメエ、こんな所まで来て一体何の用だ?」

 

 

 轟が尋ねた。ただ、その答えは明密のリミッターを外すのには適していた。

 

 

「吸血鬼狩りの殺害……というのは置いておき、今回はあなた達の仲間を此方にスカウトしようかと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それだけか?」

 

 

 明密は脚の密度を操作し脚を回転させ終えた瞬間、目に向かって走り出した。ただ異常な速度であることは間違いない。だが……

 

 

「ッ!?ぐっ!」

 

「明密君!」

 

「疎宮さん!」

 

「疎宮!」

 

 

 何処からか細いパイプ状の物が明密の体を貫いた。一瞬何処から来たのか確かめるため視野を広くすると、先程まで明密の居た場所の下にボウガンがあることが理解できた。

 

 それを抜き取ろうとボウガンの矢に手を掛けた明密。それを綺麗に抜き取り地面に降り立とうと姿勢を整えようとした。

 

 だが一瞬、ほんの一瞬だけふらつきが起こった。

 

 

「ッ!?」

 

「今です!」

 

 

 突如、明密の目の前にナイフが飛んできた。ギリギリ首を横に倒してナイフを避けるも少々擦った様だ。

 

 次にそのドーム内に煙が立ち込めてきた。感付いたのかその場に居た者たちは皆口を手で押さえ、八百万は創造でガスマスクを作り手渡していく。

 

 しかしそれを狙うかの様にボウガンの矢が後ろから飛んでくる。明密は先程の要領で瞬時に移動しボウガンの矢を自らの体で受け止めた。

 

 ボウガンの矢を体から抜き取る。そして再生し回復するのだが、何故かバランスが取り辛くなっている。そうしている間にもガスは充満し濃度も濃くなっていた。まだ渡されていないのは爆豪と明密のみ。

 

 案の定爆豪も息苦しくなっているが八百万がガスマスクを渡そうとしても受け取らなかった。それどころか目の前の黒霧を倒そうと必死だった。

 

 明密も同じだった。だが回復の“個性”が効いているとはいえ、喰らい続けるとジリ貧なのは火を見るより明らかだ。証拠に目もガスによって侵食されているのが分かる。

 

 そして明密の判断力が鈍っていたのか目の前から来る銃弾の雨に気付かなかった。

 

 

「ぐっ!あがっ!がふっ!ぐがっ!」

 

 

 その内の4発が明密の体に当たったが、その後の弾丸は地面の密度操作で壁を作って凌いだがそれを気にまた倒れてしまう明密であった。

 

 そしてその頃。時を同じくして爆豪が連れ去られたという。それを気に黒霧は撤退しガスは辺り一面に広まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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