密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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№5-8 背負うべき罪

 その日の昼頃、漸くB組の生徒が到着し“個性”強化訓練の実態を知ることとなった。名前に関しては普通というか、そのまんまという印象を受けるが実際はそうではない。一言で言い表すならば正に【地獄】と呼んでも良いほどである。

 

 B組生徒からして見れば虎の暴力行為(我ーズブートキャンプ)が印象的だろう。古臭いネーミングセンスに加え所々で思いっきり出久を殴る(鍛える)という行為を目の前で行っているのだから。

 

 だがそれも束の間、突如として鳴り響く轟音と風切音によって視線が集中する。少し特殊ではあるが4つの壁によって隔離された部屋の様なものがあり、そこから聞こえていた。しかもそれは連続的に鳴っている為、B組生徒の興味関心を集めている。

 

 さらにその隔離された場所から銃声の様な音も聞こえる為、注目され続けている。一体あの場所で何が起きているのか、あの場所で何が行われているのか誰も分からない。ただ、誰でも“これ”だけは思うだろう。

 

 “あの場所はヤバイ”と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!」

 

「フッ!」

 

 

 現在、その隔離された部屋内では明密が新たに生み出した新技に体を慣れさせる訓練をバルバロッサの案で行っていた。バルバロッサの手にはショットガンが握られているが、ゴム弾なので殺害までには至らない。

 

 しかしバルバロッサは“壁走り”をして移動しつつショットガンを発砲している。発射されるゴム弾を蹴散らすかの様に明密の左腕が回転し中規模の台風並みの風で防ぐ。

 

 この訓練には先ず明密の体に“人間の定義”から外れた行動に慣れさせる為。幸いその件は今まで培ってきた結果が現れているのか徐々に慣れ始めている。次に即座に高威力の風を放つ為にバルバロッサは銃を撃つ間隔を徐々に短くさせていっている。

 

 流石に明密も時間が少なければ少ない程、先程の風の威力は火を見るより明らかであり下がっていた。明密の殆どの“必殺技”と呼べるものは、何れも【溜め時間】というのが必要不可欠である。だが、高威力のものを放つ為に態々待つ(ヴィラン)も居ない。だからこそ短い時間で高威力のものが放てる様に訓練している。

 

 とは言っても明密も防いでばかりでは無い。所々で隙を作ってくれているのか、一瞬の隙に腕を急速に回転させ風での攻撃も使用していく。何度も使用している内に徐々にではあるが威力も上昇している。それほどまでに明密の成長速度も早いのだ。

 

 

「!?」

 

 

 しかし続けるという行動は何時かガタが来やすい。使用し続けていた結果なのか、腕の回転率が一瞬落ちた。そのチャンスの逃さないバルバロッサは“個性”である【知識具現化】を用いて足にブースターを取り付けた。ブースターの加速で距離を詰められるとショットガンを発砲し明密の体に当てる。

 

 

「ガッ!」

 

 

 体にゴム弾が当たった明密は体勢が崩れ仰向けに倒れこんだ。当たった事を確認するとバルバロッサはショットガンを消して明密の元に近寄り、口を開く。

 

 

「1分25秒……まぁ2回目にしては上出来ですな。アケミツ様」

 

「た、確かに……1回目は……ねぇ……」

 

 

 因にだがこの訓練は2回目であり、1回目は50秒であった。謂わずもがな訓練の継続時間である。この訓練内容でこのタイムというのは正直学生の粋を越えている。

 

 

「かなりの体力の消耗が見受けられますので、“あれ”を打ちますよ」

 

「ゑ"っ?」

 

 

 突如明密の声が野太くなったと思いきや、もののコンマ1秒で敬礼しつつ立ち上がった。

 

 

「ば、バルバロッサさん!僕はまだやれます!」

 

「…………駄目ですよアケミツ様、先程ので体力を殆ど使いきってしまわれたではありませんか」

 

 

 図星であるのか、ビクッと体が震えた。それを見たバルバロッサは“個性”を用いて明密を捕らえた。明密は脱出を試みようと“個性”を使おうとするが動けずに居た。

 

 

「電気信号を通達させて脳と体に『動くな』と命令させました。……さて、アケミツ様」

 

 

 またも“個性”を使用して何もない虚空から1本の注射器を取り出すと、針の先端を腕に射し込む。そして注射器の中に入っている液体が明密の体に流れ込んだ。

 

 

「ギィヤアアアアァァァァァ!!」

 

 

 その際、明密の断末魔がその場に居た全生徒と全プロヒーローには聞こえていたそうな。

 

 『バルバロッサ・D・ウォルゲイツ』

 “個性”【知識具現化】──ありとあらゆる知識を具現化可能!理論上は可能と言われる知識までも具現化するので規格外(チート)である!但し具現化した知識は忘れてしまうので何時もメモを持ち歩き再度覚え直す必要がある!具体的には『タキオン粒子』も範囲内である!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「現在の回転率……100回/秒…………フハッ」

 

「……明密君?大丈夫なのか?」

 

「天哉く~ん…………ハハッ、何かね……前を見ると川が「しっかりしろぉぉぉ!」」

 

 

 バルバロッサの訓練が響いたのか、明密は誰も見たことが無いまでに放心状態……もとい危険度MAXの状態である。どんな光景かというと、前を向けば川があり対岸に黒い2人の人影が見えるという最悪の状態。明密の初人格崩壊を見ていたからなのか、全生徒は1つの思考に辿り着いた。

 

『訓練相手は明密(コイツ)よりヤバイ』

 

 そんな放心状態では今後の事を考えている余裕は無い。しかし明密の見ている光景は徐々に透明になっていっている。回復の“個性”が効いてきたのか、徐々に意識も元通りとなっていく。

 

 

「…………あっ、天哉君。あれ?川は」

 

「もう思い出さなくて良い!君は悪い夢を見ていたんだ!」

 

「あっ……うん、そっか」

 

『『(意外とアッサリ!?)』』

 

 

 回復が徐々に効いてきているとはいえども、まだ頭がボーッとしている所もあるので危なっかしい。見かねた相澤は天哉と明密は同じグループでカレー作りを行うらしい。因にであるが、バルバロッサは明密の訓練相手なので本日は施設に泊まるらしい。インテグラからの許可も貰っているそうだ。

 

 さて、カレー作りであるが自分たちで火起こしや炊き具合を見なければならない。

 

 

「という訳で藻草採取してきました」

 

「あと適当に真っ直ぐな木の棒もだ」

 

「「用意周到!」」

 

 

 実際は用意周到といってもカレー作りの開始直後に明密が“個性”を用いた縮地の技法で採取し、天哉もエンストしない様に走って見つけた。少しだけ出遅れる事にはなるもののカレーは作れる。班員の方だが他に切島と上鳴(何時もの2人)である。

 

 早速明密は“個性”を用いつつ準備をしていく。手頃な木の板の真ん中に人差し指の先端を置き、密度操作で丁度な位の大きさの穴を開ける。またも密度操作で空気を操り紐状にさせた空気を木の棒に巻き付けると、これまた密度操作で筋力を操作し摩擦熱で火種を起こす。

 

 既に用意されている燃えやすい素材に火種をくべ、また密度操作で空気を送り火力を上げる。既に用意されていた飯盒とカレーの入っている鍋が火の熱によって暖められていく。

 

 あとは明密の出番しかない。1人暮らしの知識に土鍋で炊く白飯という知識に関する情報を頭の中で整理しつつ、温度の関係も考えて時々様子を見ている。そんな様子を見ている3名は明密を見つつ感想を述べていく。

 

 

「完っ全オカンじゃん」

 

「それは明密君が1人暮らしで培った経験というものが」

 

「いやそれでも主夫力高ぇよ。というか、よく原始的な火起こしを実行できたな。他の班なんて……」

 

 

 他の班の火起こしは主に轟の炎によって発火されていた。他は八百万がライターを取り出したり、爆豪が“個性”で燃やし尽くそうとしていたりと。だが火起こしの材料は余分に採取していたので、他の班にもやり方を教えていたのはこの班だけ。

 

 

「明密見てくると文明の利器?それ使わなくても生きていけるなって実感させられるわ」

 

「俺は……難しいわ。てか今の生活に慣れちまうとなぁ」

 

「……まぁそうだな」

 

 

 そんなこんなで話をしていたら、明密が招集をかける。これにより班員は各々で飯盒を掛けている木の棒とカレーの入った鍋を置き中身を確認する。明密は「我ながら上出来」と小さく呟きつつカレーを用意する。疲れている影響もあるからか、皆カレーをがっつきながらも食していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふひー」

 

「いい湯でしたね」

 

「疲れが取れました」

 

 

 先程自分の食事量の3倍を食べ終え風呂に入り終えた明密。バルバロッサは普通に食事を終えて明密と合流する様な形で風呂に入った。

 

 この後は合同で肝試しをするのだが……この2人だけは別であった。少々殺気を醸し出しながら外に向かう。 

 

 

「……既に伝えております故」

 

「ありがとうございます。アーカード」

 

 

 呼び掛けに応じたのかアーカードは何処からともなく現れる。その笑みというのは、とても狂気的で何処か純粋でもあった。

 

 

「アケミツ、殺気の反応は理解しているな」

 

「隠しきれてないのが1体。紛れるように10体、他はただの屑だ」

 

「では……隠しきれてない方を私が」

 

「了解です……」

 

 

 既に閉ざされた玄関の扉や窓に向けて明密は聖書を展開させる。1つ1つの紙が施設全体に貼り付き、施設は結界によって閉鎖空間となった。

 

 

「アーカード、バルバロッサさんを」

 

「あぁ……了解した」

 

 

 アーカードはバルバロッサに触れると瞬時にその場から消え、明密は“個性”を用いた縮地を用いて森の中に突入していく。右腕を回転させつつ。

 

 突入していって僅か5秒という時間で目的地近くまで到達する。1度足を止めた明密は左腕も回し始める。そして1歩、足を踏み出す。小さな木の枝があったのか、パキッという音が周囲に響いた。

 

 瞬間、明密を囲う様に殺気が発せられた。目を配らせながら位置を確認していく。およそ100mに位置しており動く様子も無い。長く空気を吐き、そして短く空気を吸い込む。そして今度は短く空気を吐く。

 

 辺りに殺気を発生させる。瞬間周囲に居た殺気の正体たちが動き出した。それに合わせるかの様に回転させていた腕を元に戻す。大規模の台風並みの風が2つ発生させつつ真空波による被害を発生させる。

 

 さらに足を移動させつつ他の殺意の発生源を全て倒しきる様に移動していく。左腕の回転は終わったが右腕の回転を使用し牽制していく。左腕の回転は960回転ほどあったが、右腕は1580回転ほど行っていたので牽制の風は十分に発生させる事は出来る。

 

 

「ッアァ!」

 

 

 15秒という持続時間で回転も終了する。回転が終わったことを知っているかの様に殺気の発生源は明密に接近して行く。その際10数発の銃声が聞こえたが、それを対応していく様に銃剣て数発弾き“個性”を使用して後退していく。

 

 後退に合わせるかの様に別の方から殺気の発生源が近づくが、“個性”によって右腕の筋力を増強させ鉄器と鉄器がぶつかる音が響く。その後に銃声がかなり近くで聞こえたが銃弾には当たらなかった。逆に左手の銃剣を振るうが後退され避けられる。後退時に発砲していくが姿勢を低くさせることで避ける。

 

 

「……ふぅ、流石【弾圧会】の奴等だな。銃撃戦は玄人だな」

 

「いいや、“元”弾圧会だ」

 

 

 殺気の正体が姿を現す。ガスマスクを被っているので顔は確認できないが、ミリタリーショップで見かけるジャケットやヘルメット等を装着しており正しく傭兵の様な姿。右手にはサブマシンガンと思わしき銃を片手で持ち肩に置いている。

 

 

「ガキかと思っていたがよぉ……中々どうしてこうも」

 

(ヘッド)、さっきのでマシンガン破損したんだけど?」

 

「黙ってろボンクラ」

 

 

 話している所だが明密は銃剣を持って体勢を立て直す。それに気付いたかの様に10人全員が明密に視線を集中させる。

 

 そこにアーカードが突如として現れる。不敵な笑みを溢しながらも、闘争本能の赴くままに狩る化け物(フリークス)

 

 

「アーカード、早いな」

 

「あそこはバルバロッサが請け負った。私はどちらかといえば彼方が良かったのだがな」

 

「らしいや」

 

 

 明密はアーカードの服の一端を掴むと、合わせる様にアーカードと明密は転移する。気配も無く消えた事に対応できる様にサブマシンガンを構えるが、何処からか声が響いていく。

 

 

「さぁ……貴様らも化け物ならば、私に闘争を見せてみろ!」

 

「我は神罰の地上代行者!貴様らにはこれより神罰を下そう!Amen!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……どうしましょうかねぇ?」

 

「今さら怖じ気付いたかぁ!もっと楽しませろやぁ!」

 

 

 バルバロッサの現状は不利と言える。後ろには先程の施設に居た子ども、目の前には日本では指名手配となっている(ヴィラン)。しかしバルバロッサは逆に笑みを溢していた。

 

 

「どうやら貴方の頭も“個性”同様筋肉質の様ですねぇ。いやはや“こういう”のはどうも面倒だ」

 

「おうおうおう!随分と余裕ぶっこいてるなぁ!」

 

「…………ハァ。ま、良いでしょう。アーカード様よりかは幾分かマシですし」

 

 

 肥大化された敵の右腕を何処からか出現させた地雷をぶつけさせ破壊していく。しかし破壊されたのは覆っている筋肉繊維だけであった。

 

 

「おや、流石に一筋縄では無理ですか」

 

「そんなモンで殺れると思ってんのか!?オイ!」

 

「まさか」

 

 

 突如、敵は後ろから心臓を1突きさせられる。しかし敵は裏拳で退かそうとしたが、瞬時に離れバルバロッサの元に行く。人間とは思えないが女性の腕から赤黒い腕が生えている。

 

 

「楽しむのでしょう?なら存分に楽しみましょうじゃありませんか」

 

「“そいつ”もお前の個性か!おもしれぇ!」

 

 

 その場に居た2名は共に狂気的な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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