密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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№5-5 ありきたり

 翌日、明密は何時もの様に支度を済ませたあと雄英へと向かう。道中、親友である天哉と合流し共に向かう。その道中の際の話は至ってシンプル、期末テストのことである。昨日の明密は3vs1という理不尽な条件のまま課題をクリアし、A組生徒から改めて注目される様になったのだ。しかしテスト終わりに明密はバイトだと言って早々と帰ってしまい昨日は結果的に誰からも応答しなかったのだ。

 

 つまりA組生徒では明密とテスト結果の話題で持ちきりなのだ。そのことを天哉の口から伝えると明密は淡々とした様子で“あれぐらいクリアしなければ即、御陀仏になる”という現状での明密の答えが帰ってきた。しかし続けざまに“かなりの賭けでもあった”と言えば天哉は何時もの様に質問をする。なぜ賭けでもあったのか?答えは簡単、【ブラックホール】の危険性であった。

 

 【ブラックホール】とは宇宙に存在する視認できないもの。明密が分かる範囲では白鳥座Ⅹ-1という地点にある。言うなれば“星の爆発によって産まれた産物”であり、ブラックホールは太陽の40倍以上の質量をもった天体が超新星爆発した際に生成され、あらゆるものを吸い込む存在。この世で確認されている一番早い“光”でさえも呑み込むのだ。そしてブラックホールに吸い込まれた物質は麺の様に伸びて吸い込まれ、目には見えないが質量として分解される。

 

 明密の賭けというのは正にそこであった。ブラックホールに吸い込まれれば体の形成すら出来ずに終わっていたからだ。実際明密は霧状から人形に形成する際に少々吸い込まれたのだ。再生と回復で無かった事になっているが。

 

 13号もプロヒーロー、そう簡単にヘマはしないだろう。だがブラックホールという危険性の高いものに態々自分から吸い込まれるというのは、最早自殺行為に等しい。13号が中止せざるを得ないことを予想した上での行動だったが、後々考えるとトンデモないことをしたのだと少し悪寒が走った明密であった。

 

 自分の一部が吸い込まれたことを聞くと天哉も体中に悪寒が走った。そんな感覚のまま同じように靴箱から上履きを取り出し、履き替えて教室に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じ、自分の一部が吸い込まれた…………」

 

「な、何か寒くなってきた……」

 

「炎ならあるぞ」

 

「轟さん、今は炎を出さないでください」

 

 

 

 今現在、A組はちょっとした寒期の到来でもあった。理由は謂わずもがな、明密のテスト内容の話で殆どこうなった。ある者は自分が吸い込まれる想像(妄想)をして自ら恐怖に陥ったり、またある者は“よく無事だったな”などの労いの言葉を掛けたり。例外として炎を出している轟、思考する出久、睨み付ける爆豪が居た。轟は炎を出しているため寒くなった者たちが集まっていた。

 

 そんな光景というのは一瞬にして崩されるものである。相澤が来た途端、まるで瞬間移動でもしたかの様に全員席に着いていた。無論、明密も然り。そして相澤は今回のHRでテストの発表をする。

 

 

「今回、不合格者が5名出た」

 

 

 分かりきっていた。全員合格しなければ楽しみにしていた林間合宿に赴けないからだ。

 

 

「しかし君らには1ヶ月休める道理は無い」

 

 

 と、ここで明密が首を傾げた。何か可笑しい。そう感じたからである。

 

 

「夏休み、林間合宿やるぞ」

 

「「「知ってたよ!やったー!!」」」

 

 

 一部の生徒が喋ったが、他は腕を上げて喜んでいた。そして続いていく様に喋っていく生徒たち。しかし相澤の一声で一時の静寂が訪れる。

 

 

「だが上鳴、芦戸、切島、砂藤、瀬呂の5名は林間合宿で補習を行う。言っとくが学校(此処)よりキツいから覚悟しとけよ」

 

 

 そう言われて後々項垂れていた5名であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 時は遡り、とあるバーの一室。だが雰囲気は険悪とも取って良いだろう。黒霧の目には女子、顎が焼け(ただ)れた男、全身手のアクセサリーを付けた『死柄木 弔』。そして白衣を着た『プロフェッサー』と呼ばれる男と、紹介人の男。

 

 

「おい黒霧、コイツら返せ。俺はこういうの大嫌いなんだよ」

 

「死柄木の意見に“不本意だが”同意することになるが……私も苦手だ」

 

「何で強調した?オイ」

 

 

 プロフェッサーと死柄木の間に険悪な雰囲気が漂っているが、黒霧が咳払いして意識を2人に向けさせ質問していく。

 

 

「では、御名前を」

 

「トガです!トガ ヒミコ!生きにくいです!生きやすい世の中になってほしいです!ステ様になりたいです!ステ様を殺したい!だから入れてよ弔くん!」

 

「支離滅裂だな」

 

「頭痛ぇ」

 

 

 似たような意見を言う辺り、死柄木とプロフェッサーは似ているのだろう。そして似ているからこそ嫌悪しあうのだろう。黒霧がまたも咳払いし質問を投げ掛ける。続くように男が自己紹介をする。

 

 

「では、御名前を」

 

「今は荼毘(だび)で通してる」

 

「本名を言え本名を」

 

「なら、そこの白衣の奴はどうなんだ?」

 

「ある御方に頼んでおいた。現状本名を出すと厄介極まりないのでな」

 

 

 何時もの口角を少しだけ上げたニヤけた微笑み方は気持ち悪いと改めて感じる弔。溜め息を付いて、また荼毘とトガ ヒミコに視線を向け話していく。

 

 

「……おい、そこの。お前もヒーロー殺しに感化された口か?」

 

「当たり前だ」

 

「…………ハァ、やっぱか」

 

 

 そう言い放った途端、弔は右手を出す。その動きからは殺気が込められており、それに対応するかの様に2人はナイフと拳を出す。

 

 しかし寸前で黒霧のワープゲートによって成功はせず、さらにプロフェッサーが指を鳴らすと入り口から10名の銃火器を持った男たちが入り口を塞ぎ銃を構える。紹介人の男は両手を上げている。

 

 

「落ち着いて下さい死柄木弔。あなたが望むまま行うのなら組織の拡大は必須」

 

「そして、ヒーロー殺しの余波によってこうして戦力が来てくれた。死柄木君、ここは受け入れるべきだと私はおもうのだがね?それに…………」

 

「…………うるさい」

 

 

 ワープゲートから手を引き抜き男たちが塞いでいる入り口まで怒りながらも外に出ていった死柄木弔。それを見ていた男たちはニヤニヤと嘲笑うかの様な目で見ていた。

 

 

「なぁ、そこのプロフェッサー」

 

「何かね?」

 

「あの野郎共何だ?何処で待ち伏せてたよ?」

 

 

 嘲笑するような笑みと声をしながらプロフェッサーは答えていく。それは自分の玩具を自慢する子どもらしく。

 

 

「テロリストの中でも特に“頭の狂った奴等(戦闘狂)”どもだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 時は戻って雄英。生徒全員には林間合宿のしおりが渡され用意するものなどを相談していた。ただ、明密にとってこれは死活問題でもあって。

 

 

「服の代金の事を考えると一週間着るから残り5着ほど。でもズボンやら上やら揃えると、かなりの金額になるのは火を見るより明らか。しかも今の所持金でも正直怪しいし、何より寝間着も必要だし……」ブツブツ

 

「おぅ、緑谷の真似やめろ委員長」

 

「僕には死活問題なんですよ」

 

 

 だいぶ出久の様に長々とブツブツ語ったが、要は服に掛かる代金を考えていたのだ。明密の生活も出来る限り最低限のものなので使わない所持金は預金するなどして将来の為に貯金しているのだ。あくまでも、それを使わない場合の所持金の計算をしていたのだ。そこに峰田がツッコミを入れるが、当の本人はキチンと答えていく。

 

 

「そもそも普段の生活だと服や寝間着なんて3セットあれば十分ですし」

 

「急なマジレスはNG」

 

 

 そう。何処かの本の題名にあるような最低限の数しか持たない明密にとって、今まで戦ってきた敵よりも強大すぎるのだ。貯金を切り崩すしか無いと観念しようとした時、丁度のタイミングで八百万が明密の方にやって来る。

 

 

「明密さん、お話は聞かせてもらいましたわ!」

 

「はい?」

 

「私の“個性”であれば、明密さんの要望に応じた衣服を差し上げますわ!必要分の衣服も私の方で用意させていただきます!」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

 

 まさかまさかの展開である。明密の人望(?)が招いた奇跡とも言えるだろう。これには明密も思わず八百万の手を取り、何時も以上の笑顔を向けて御礼を述べる。役に立てることが嬉しいのか八百万も明密に負けないほどの笑顔をする。

 

 余談ではあるが、その時のA組は2人の眩しい笑顔によって心が浄化されたり一部の者は目が眩んだりしたという。そして密かに【天使2人組】というアダ名を付けられたのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 さらに翌日、明密は帰ってきたアーカードの“シュレーディンガー”を使用してもらい八百万の御宅へとやって来た……のは良かった。そこはヘルシング機関には劣ってしまうが、豪邸であり明密は目をパチクリさせていた。

 

 

「敷地はヘルシングより狭いな」

 

「あれは国の機関ですよ?“普通の”豪邸と一緒にするのは可笑しいと……あれ?話してる内容も可笑しい様な…………」

 

 

 少しの間困惑していた明密であったが、直ぐにインターフォンを押して来たことを知らせる。すると直後にインターフォンから八百万の声が聞こえた。迎えを行かせるとだけ伝えると近くの門が開き車のエンジン音が聞こえた。

 

 およそ1、2分ほどでリムジンがやって来た。運転席から出てきた執事と思わしき人物に誘導される様に車内に入り玄関へと向かった。そして玄関に到着すると、使用人に案内され広間の様な場所に辿り着いた。

 

 

「お待たせしました!明密さん!」

 

 

 いそいそとした様子で紙を持ってきた八百万が広間に入ってくる。明密は笑顔で対応するが、聞きたいことを一先ず尋ねておく。

 

 

「八百万さん、その紙はなんです?」

 

「明密さんに似合うデザインをプロのデザイナーと共に考えてましたの!全部で50枚ありますわ!」

 

「何でそんなに多いんですか?」

 

 

 50枚のアイディアが載せられている紙の一部を持ちお互いソファに座った後、紙を近くにある机に広げて明密は1つ1つを見ていく。ただ明密はこれといってお洒落に興味は持たないので、中々奇抜なデザインの物もあれば服と言えるか怪しい物まで勢揃いであった。アーカードはそのデザインを見て少し考え事をしたあと、少しだけ声を漏らしながら笑った。

 

 

「…………ククッ」

 

「アーカードさん、今さっき何を考えてましたか?」

 

「これらを着たお前を想像してみたら……笑ってしまいそうだ」

 

「それはどちらの意味で?」

 

「自分で考えろ」

 

 

 あぁ、恐らく予想通りなのだろうなと明密は頭を抑えた。目の前に居る八百万(同じ天使)のニコニコとした微笑みを見ていると、本当のことを言いづらくなってしまう。しかしまだ残り39枚、まだ希望はあるだろうと1つの紙を手に取る。

 

 

「うん?」

 

「どうかされましたか?明密さん」

 

「ん。あぁ、いえ。少し……」

 

 

 手に取った紙を見せる。何故か奇抜なデザインの中では一般向けの服装や色合いである普通の男物の服であった。それを確認した八百万は直ぐにその紙を取り背中に隠した。しかし無意味であったが。

 

 

「あ、あの……八百万さん?」

 

「す、すいません!どうやら失敗作も交じっていたみたいで!」

 

「はい?」

 

 

 訳を聞くと、始めはデザイナー抜きで自分で考えていたのだが何処から嗅ぎ付けて来たのか急に親がデザイナーを一時的に雇い施しを昨日受けていた様であった。その際に先程のアイディアは失敗作だと言ったのを真に受けたらしい。

 

 まぁ明密にとっても普通の人にとっても、あれぐらいの服装が丁度良いだろうと思っているので……

 

 

「八百万さん」

 

「は、はい!」

 

「先程のデザインで服を作ってくれませんか?」

 

「えっ……でも、これは…………」

 

「僕から見たら、それは失敗作とは思えませんよ。だって僕の為に考えてくれた服なんですよね?」

 

「…………はい」

 

「でしたら、僕は有名なデザイナーと共に作った作品より相手を考えて描いてくれた作品が良いです。そっちの方がどんな作品よりも愛着が湧きますからね」

 

「っ!…………はい!了解しました!」

 

 

 八百万はその言葉を聞いた途端、直ぐに紙を漁り10数枚の紙を持って別の部屋に移動した。そして暫く経って戻ってきたのだが…………

 

 

「どうですか!?これなんて!」

 

「…………八百万さん、1つ良いですか?」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で女性用ばっかりなんですか!?」

 

「えっ?前に峰田さんから“明密さんは女装趣味があるから”と言っていたのを聞いたので…………」

 

「…………あとで必ず地獄の業火で焼き(それ相応の態度で対応し)ましょうかねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




*アンケート待ってるぜ。

*まだまだ期間はあるから、どしどし来てくれよ。

*お願いだぜ。

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