着々と他の生徒たちの試験が終了していく。蛙吹と常闇、耳郎と口田、上鳴と芦戸、峰田と瀬呂。そして出久と爆豪の実践演習が終わった。簡潔に言えば完遂できなかった者は5名居る。それは決定事項になっている。
そして……残るは、ただ1人。最初に3vs1という他の生徒からしてみれば鬼畜の一言に尽きる
対する3名の教師は轟と八百万が対峙した相澤。青山とお茶子が対峙した13号。瀬呂と峰田が対峙したミッドナイトという明密を潰しに行く為の編成にしている。この編成はA組全員が知っているが、誰しも明密にとって相性が悪い編成だということは気付いている。
「相澤先生の【抹消】、13号先生の【ブラックホール】、ミッドナイト先生の【眠り香】……これは明密君対策。相澤先生の【抹消】で明密君の【密度操作】を無効化させて霧状になって回避するのを防いだり、威力増加を防いだり。13号先生は明密君が霧状になって逃走することを未然に防いでいる。ミッドナイト先生は最終手段かな?眠り香で眠らせて行動不能にさせる。誰から見ても合格させない様な布陣の中で明密君はどうするんだろうか?考えられるのは…………」ブツブツ
「緑谷君!何時もの癖が出ているぞ!」
「あっ!ご、ごめん!」
出久は何時もの様に予想している。これに関しては何時もの事……だと“今は”言いたい。何故ならば出久以外の生徒全員も、この試験がどうなるのか気になって“考えている”のだ。真面目という言葉が似合う八百万、蛙吹、天哉も、クラス内の実力は上である轟や爆豪も常闇も、全員。
そして、モニタールームからは試験結果の予想が飛び交っていくのは必然的であった。
「なぁ切島!明密とセンセーたち、どっちが勝つと思う!?」
「う~ん……どーだろーなぁ?明密もアレだしなぁ……」
「やっぱり、経験の差で先生たちが勝つんじゃないかしら?それに私たちと違ってハンデが無いんでしょ?」
「難しいな……
「ほぼ無理難題に近い状況で、どの様に行動し、どの様な対策を練るか。
尤もだ。これは生徒の実力を確かめる為の試験。明密という1人の実力によって結果は転がる。予想が未だに飛び交っている中でも、モニターに全員の視線は集まっていた。
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時は遡り、またもや会議室。この時は相澤が“対明密編成”に加わる3名を発表することになった。
「では先ず……13号先生、宜しくお願いします」
「了解しました、先輩」
「次に……ミッドナイト先生、宜しくお願いします」
「分かったわ」
「最後に……俺が行きます」
「完全に潰しに行ってる様なものだな、これは」
そう言ったのは痩せこけた“
しかし相澤は淡々とした表情を崩さないまま発言していく。
「いえ、恐らくこれでも“まだ足りない”方でしょう」
「“足りない”?……これがかい?」
「先程提示した疎宮明密の記録にもある様に、“個性”を用いらずして最高記録を持っている。逆を言えば“個性”を用いた場合、この記録を軽く凌駕するでしょう。現段階で最も手が掛かる生徒でしょう」
「だったら、何故3人にしたんだい?もっと増やせば良いのに」
「それについては検討しました。しかし……逆に増やしすぎては不味いです」
「あぁ、集団心理か」
解説を入れよう。相澤が何故人数を増やすのではなく、足りないと感じつつも3人という数で行こうとするのか。その答えは根津が言った【集団心理】の作用に関係していく。
人間というのは集団で生きる生物であり、個の力は弱くとも集まれば膨大な力を発揮できるという考えがある。しかし、それは全くの逆効果であるのだ。
人間というのは古代より群れて生活するという染み付いたものがある。だが集団というのは逆に人間の持つ力というものを100%引き出せないことがある。これを綱引きに例えると片方が1人、もう片方は10人という風にする。
人間が出せる1人当たりの力を100と仮定した場合、10人居る方では1人当たり10ほどの力しか出せないのである。合計してみれば100という数字は変わりないが、1人が出せる力は集団によって“弱らせている”のが真実である。故に10人20人出すより、なるべく少ない人数で行った方が良いと考えたのだ。
「とまぁ大勢で対策立てるより、疎宮明密が苦手とする分野の精鋭を出しておく方が効率が良いと判断しました。如何ですか?オールマイト」
「な、なるほど…………」
これにはオールマイトも何も言えない。というより、これが最善の対策だと自らも思った。その証拠に少し表情を曇らせるオールマイトであった。
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「……ああ言ったものの、正直難しいな」
そうぼやきながら戦闘態勢を取ったまま指定した場所に佇む相澤であった。ステージは市街地、単純であり複雑であるステージでの実践演習である。配置地点としては、やはりミッドナイトを脱出ゲート前に配置し、相澤は模造民家の屋根の上で待機。13号は相澤の指示で移動する為に構えている。
明密は現在教師の3人からは位置は分からない。しかし、それは明密とて同じ。しかも教師陣は数のアドバンテージで連携を取りながら追い詰めていく作戦を考えている。
だが、どうにも不確定要素が多すぎる。異常なまでの反射神経、運動神経などを考慮した場合を考えると恐らく教師陣でも対応できる者は数少ないだろう。
そんな考えをしている暇を与えないかの様に、試験開始のアナウンスが鳴り響く。それを聞いた瞬間、相澤は探索を始めた。
「………………」
アナウンスが鳴り始めた直後、なるべく殺気を感じ取りつつ密度操作で脚の筋肉をバネ状にさせて縮地の技法を用いて移動している。しかし移動しているといっても、ゲートに向かって移動していない。
“一番近くに感じる殺気”を中心に迂回しているのだ。なるべく裏路地などを利用しながら、しかし一瞬で裏路地を抜け別の裏路地へと移動していた。“個性”使用による縮地による速度は異常とも呼べるほど速い。通常の人間の視覚では確実に捉えることが出来ない速度。
「(………………居た)」
そのかいあってか、明密は直ぐに相澤の背後500mの位置に移動することが出来た。ここまでの所要時間は、およそ12秒。厄介極まりない相手は、即座に叩き潰す為に明密は霧状となり接近していく。
500…………450…………400…………350…………と確実に、それでいてバレない速度で霧状のまま接近を仕掛ける。このまま行けば、相澤はクリア。
「13号、やれ」
「ッ!?」
「了解!」
突然相澤の声が聞こえた。それに合わせてか、何時の間にか後ろに待機していた13号が【ブラックホール】で吸い込もうとする。慌てて人形になり銃剣を地面に突き刺してブラックホールに抗う。なんとか地に足が着いた所で密度操作で地面を液状化させようと試みた。
「させるとでも?」
「チィッ!」
しかし液状化は起こらなかった。原因は目の前に居る相澤、しかも武器である包帯を電柱に巻き付けて飛ばされない様にしながら“
「危ない危ない。まぁお前ならバレない事を考えて霧状になるのは予測できたから良しとするか」
「……1つお聞きします、相澤先生。何故“僕の居場所”がお分かりに?」
「…………この際だ、少しは教えてやる」
未だ両者警戒態勢のままだが、生徒の質問にはなるべく答える姿勢は崩さない様だ。
「まず居場所は分からなかった。だがお前のトレーニングの結果から、ある程度の予測はしたな」
「……へぇ。それで、どの様な予測に行き着きましたか?」
「お前の性格から即座に俺を終わらせようとするのは目に見えていた。しかもトレーニングじゃ縮地使ってただろ。んでもって縮地の技法で俺を追い詰めようとするなら姿を見せず迂回するルートを取る。その裏をかいて俺はお前を誘導していたのさ。勿論、時間も予測してだ」
「長年の経験の賜物ですねぇ……くわばらくわばら」
こんな話の中でも明密は徐々に姿勢を下げ、縮地の準備をしている。が、勿論それに気付かない
「言っとくが、下手に行動するのは」
「禁物。よく分かりましたよ、さっきので」
つまりは明密が行動した途端に後ろに居る13号の【ブラックホール】によって吸い込まれるという危険性。しかも制限時間まで粘っていくつもりらしい。これに明密は…………一旦目を閉じ、また開いた。そして深く息を吐きながら集中力を高めていく。
「でも行動しないと。ですよ」
「だよなぁ」
明密は一気に縮地の技法で相澤に近付く。しかし未だに距離は残り6mという所で13号の吸引によって引き離される始末。結果は同じ、そう思っていた。
だが実際はどうだ?明密は吸引されてはいるが、銃剣を地面に刺そうと“しなかった”。結果的に13号の元に近づこうとしていた。
「!?」
13号もブラックホールに吸い込まれてはタダでは済まない為、中断せざるをえなかった。しかし13号と明密の距離は、この時およそ1mほどしか無かった。吸引が中断されたのを理解した明密は引き寄せられた体勢から無理矢理体を回転させ銃剣の腹を13号の横腹に当てる。
銃剣の切れ味は明密の“個性”によってなまくら同然と化している。しかし強度の話は別、効果を示す為に強度は最高まで上げている。その銃剣でおもいっきり回転しながら体に衝突するとどうなるだろう?
「ぐふっ!」
答えは簡単、“確実に隙が生まれる”。明密もトレーニングルームで、憂さ晴らしにしている訳では無い。自分を更なる高みに到達させる為に筋力とて鍛えている。それに加えて最高強度の銃剣を回転しながら叩きつけられると大の大人とてダメージは入る。
相澤は明密に向けて包帯での捕縛を試みようとするが、直ぐに後ろを確認したため包帯は避けられた。しかも縮地によって距離が早々と詰められ、終にはショルダータックルによって壁に叩きつけられ首元に銃剣を当て壁に刺され身動きがとれない状態となった。
続いて明密は13号に向かい両手首に手錠を付けて終わらせる。
「13号先生、失礼しました」
「う、う~ん……骨じゃなかったけど凄い痛い……」
「……すみません」
こんな時でも謝る時は謝る。そんな変わらない明密を見て相澤は何処かホッとしている様子であった。
そして明密は縮地の技法を用いてゲートへと向かった。だが殺気の反応はあるため迂闊に近寄れないのが事実。しかも遠目で確認できたが、恐らくミッドナイトだということが分かった。だが、それでも策はある。因みにだが、移動中に“個性”が使用できる様になったことに気付いている。
明密はコスチュームの内ポケットから聖書を取りだし、それを展開し自分の周囲に紙を漂わせながらミッドナイトの前に現れる。勿論ミッドナイトはこの時、明密の行動は無謀とも思えた。それも覆されたが。
明密は聖書の紙を自分の前方に展開し、“個性”を用いた縮地で前に移動した。同時に紙も前方に動き盾の役割として機能していた。これにはミッドナイトもたじろぎ、そのまま明密をゲートに通させる結果となってしまった。
これにより明密は合格……したのだが結果が決まった途端、直ぐに相澤の元に駆けて銃剣を引き抜き謝罪したそうだ。
こうして生徒が緊張の中行った期末テストは終了し、皆は後日に発表される結果に緊張しながらも家に帰っていった。
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