現在、明密は上鳴、青山、耳郎、峰田と共にチームとして行動している。今回の訓練は“サバイバル訓練”、要は生き残ったチームの勝利。そこに数という制限は無い。生き残る為に思考を巡らせ、死力を尽くす……死力は流石に言い過ぎだと思うが。
しかし、この考えを真っ向から無視してくる輩も居る。そんな者が居ても不思議ではない。素早く終わらせ、手柄を取る。人間という存在の中でも、せっかちという性格が当てはまるのだ。
つまり何が言いたいのかというと…………
「確実に爆豪さんは突っ込んで来ますよね」
「「「「確かに」」」」
スタート地点である岩山の上でミーティングしている5人。開始して10秒も経たずしてミーティングをして作戦を練っている。呑気だと思われるかも知れないが、この様な話し合いもサバイバルでは必須事項の一つに当てはまる。全員生き残る為には他者とのコミュニケーションというのは欠かす事は出来ない。
だからこそ少しの時間で話し合う。といっても、殆どが明密の提案ありきで動く様なものなのだが。大体の話を終えると、明密は何かに気付いた様に感じ後ろを振り返る。
「どした?明密」
「……皆さん準備、爆豪さん来てます」
「マジで?速すぎやしない?」
「残り350m。素早く位置について下さい」
明密が吸血鬼退治で培った
だが単独行動をする可能性は大きいと踏んでいたので、このチームは連携重視で行こうとしている明密。
先ずはある程度の索敵。明密が距離を、耳郎が正確な位置を教えていく。実際明密は殺気の反応によって位置は理解できるが、それはあくまでも自分だけという制約付きでの話。しかも索敵系統の“個性”を手に入れている訳でも無いので、具体的に“どんな場所に居るのか”は判断できない。
だからこそ耳郎の正確な索敵能力が役に立つのだ。場所に影響される爆発の反響音や他の音を聞いて、より鮮明に位置の確認が出来る。
「………大分近くなってきたよ」
「では……
そう言い終えると、耳郎は耳たぶのプラグを引き抜き明密と共に素早く前線に向かう。走っている途中、明密は聖書を取り出して展開する。宙に浮かぶ紙は次第に一本のロープの様に繋がる。紙とはいえ、侮るなかれ。この紙は対化け物用に作られた代物。幾ら威力の高い“個性”を持っているとしても、早々切れる事もなければ燃やされる事も無い。
前線に到着するや否や、直ぐ様耳郎はプラグを脚にある
それを爆発を用いて上に逃れた爆豪だが、今度は耳郎による遠距離攻撃。増幅された音というものは体や内部のダメージに変わる。遠距離による爆音攻撃が爆豪に放たれたが、それを横に避けて距離を縮めていく。
峰田のもぎもぎも、爆豪にとっては遅い速度で向かってくる面倒なスポンジと認識されているのか特に当たらない様に避けている。
爆豪が近付く。かなりの近い距離だが、誰一人動こうともしない。爆豪も明密の持つ紙のロープに注意しているのか、複雑な動きで近付いていく。
明密が持っている紙のロープを爆豪目掛けて投げる。それを予測していたかの様に爆豪はにやりと笑い、爆発の威力を上げていこうとした。
「かかった」
「ッ!?」
次の瞬間、明密の持つ紙のロープは単体となって分裂し聖書から多くの紙が出たかと思うと明密たちを包み込む様にドーム状に展開し爆豪の侵入を防ぐ。爆豪はその紙のドームに向けて爆発をするも、その紙はウンともスンとも言わなかった。燃えている様子も無い上に歪んだ訳でも無い。
さらに驚いた事に、そのドーム状に展開した紙は次に爆豪から逃げ道を失くすかの様に移動し爆豪を捕らえた。この化け物用に作られた代物では、最早どうする事も出来なくなった爆豪を置いていくかの様に明密は地面に手を触れて密度を操り岩の中へと4人を誘う。
といっても一気に霧状にさせて
「いたっ!」
「いって!」
「あふん!」
「ぐおっ!」
「っと」
青山、上鳴、耳郎、峰田は着地に失敗して落ちる。耳郎は運良く上鳴を下敷きにすることで被害を抑える事が出来たが、上鳴はさらにダメージを受ける事になった。明密は身体能力を用いて綺麗に着地し、ドーム状に爆豪を包み込んでいる紙を一気に回収し上を霧状にさせた岩の密度を戻す事で防壁にさせる。ダメ押しで天井に聖書の紙を展開させて補強を図る。
案の上破壊しようと爆発を起こしているが、この天井は壊れなかった。その爆発音を聞きつつ上鳴に少しだけ放電してもらおうと言おうとしたが、何処か近くで誰かが誰かを殴った音が響いたので慌てて駆け付ける事態となってしまった。
「まだ後頭部が痛い……」
「ま、まぁ。今回は仕方がありませんよ。ほら暗闇でしたし視界も安定しませんでしたし」
「上鳴……許羨ッ!」
「黙ってろ変態!」
耳郎のプラグが峰田の頭に突き刺さり、この空洞に峰田の声が響く。今は上鳴が少しだけ放電した電気の密度を操作して球形にさせ、その球形の周りだけ絶縁体である岩を薄く張った簡易的な灯りで暗闇を照らしている状態だ。
どうやら制裁によって峰田が痙攣しているが、関係の無い様に青山が口を開く。
「まさか、こんな作戦が成功するなんて……エレガントじゃなかったけど、これも全て僕のお陰「皆さんのお陰ですよ」」
「この作戦が成功したのも上鳴さん、耳郎さん、青山さん、峰田さんのお陰です。ありがとうございます」
「オイオイ、作戦の発案者はお前だろ明密。この作戦が無かったら今ごろ俺らは……」
「そんなif話してんじゃねぇよ上鳴ィ!」
「チッ、まだ足りなかったか」
「耳郎さんクールダウンしてください」
後はこのまま残りの時間を空洞で過ごすだけなのだが、耳郎には念のため外の様子を知る為に岩にプラグの片方を刺してもらっている。安全性はバッチリである。
「なぁなぁ、何か暇だから話そうぜ」
最初に持ちかけたのは峰田だった。今でも(少し)忙しい耳郎はパスしている様だが、それを無視して峰田の出してきた話題は思春期の男子が話しそうな話題の一つ【好きな女性のタイプ】になった。この場に女子が居るのにも関わらず。
「いや何でその話題なんだよ?」
「何だよ?上鳴、お前好きな女のタイプ居ねぇのか?ホモかよ?」
「いやホモじゃねぇし!」
「というか、今の場では好ましくない話題じゃありませんか?」
「うるせぇ良い子面委員長!俺たちの話題にケチつけんな!」
「ケチって……先ずここには“女性”もいらっしゃるのに、その様な話題を話されるのは如何かと」
女性という言葉に耳郎がピクリと反応するが、峰田が墓穴を掘った発言をしたため直ぐに制裁された。しかし意外にも、この話題に乗った人物も居た。
「僕の好きな女性のタイプ、聞きたくない?」
「えっ!?何々青山のタイプ!?」
この話題に釣られた上鳴を見て頭を抱える明密と耳郎。この後の青山の発言で、その行動はやめたが。
「僕はね…………僕の全てを受け入れてくれる女性が好きだ!」
「くぁー!そっちか!よりによって
意外にも青山にも好きなタイプは居るという。上鳴にも居るには居るが、内緒にされる。そして話題は自然と明密に流れる事となる。
「じゃあ明密、お前の好きな女性のタイプなんだ?」
「何故僕なんですか?」
その方面の話には疎いどころか殆どの関わりが無さそうな明密に振る上鳴。しかしそれを遮る様に耳郎が明密を呼ぶ。それに応える様に耳郎の元へと行く。
「外から足音と……声?でも変」
「変とは?」
「何かヴゥーとかヴァーとかしか聞こえなくて」
「…………他には?」
明密は少し考えて別の質問をする。先程耳郎が言った様な声には何処か聞き覚えがある。というより耳や脳に何時までもこびりついて、忘れることが出来ない声だ。それを悟らせない様にした。
「…………左上から緑谷たちの声」
「左上……了解しました」
「へっ?」
岩の薄い箇所を密度操作で霧状にさせ出入り口を作る。その出入り口から明密は外へと出て、左上へと向かおうとした。しかし岩肌を見ると登っている他の生徒たちが見えた。しかも耳郎の情報通り不気味な声を挙げながら。
しかしそれも直ぐに終わった。皆が意識を取り戻し何が起きていたのか理解できていない状態で混乱している。上を見上げれば天哉たちが吹き飛ばされていたので、慌てて跳躍と聖書を駆使して吹き飛ばされていた生徒たちを保護する。
その直後、大きな爆発音と共に一人の断末魔が聞こえていた。
「頭が痛いです」
「知らん」
今回の案件によって後始末が大変だったので苦労をした明密。アーカードと共に帰宅しているが、何時もの様に適当にあしらわれる状態に。負傷者である緑谷の見舞いをしたのだが、全身に包帯が巻かれている状態での御対面というのは中々くるものがあったらしい。
そんな事があったとしても、現実は大体非常である。疲れていようがいまいが、明密は何時もの様にバイトに励む。奨学金制度によって今の雄英スクールライフが送れているが、雄英の額が異常である。といっても現在のバイト先に加えて、もう二件バイト先で仕事をすれば何とか卒業までには払える計算である。
アパートに帰れば疲れをとった後に勉強や課題を早くこなし、何時もの如く就寝しようとした。しかしそれを妨げる様に携帯から着信が来る。少しだけイラつきを覚えながら荒々しく携帯を取り着信に出る。
「もしもし御役人様?今から寝ようと思ってたんですけど?」
『あぁ、すまない。それは悪い事をした』
携帯からの声は悪びれている様子すら伺えないというのに、こうも平気で嘘を吐けるな。ということが頭に過った明密。しかし次の一言で、そんな思考も直ぐに消える。
『君に連絡したのは吸血鬼とは関係ない』
「…………珍しいですね」
『今回君に伝えること。それはイギリスでの目撃報告によるものだ』
「?…………態々、ですか?」
『そうだ。ヘルシング機関所属のヒーローが黒い“もや”の者と白衣を着た者が【弾圧会】の者と話しているのを見たというらしい』
目が覚める。一気に思考が加速する。相手は何を考えている?
「……
『……数にして10名。しかも調べでは、この10名は特に銃火器の扱いに長けている』
「部隊編成でもするつもりか?……アーカードを監視に向かわせる。良いな?」
『了解した。まだイギリスでの目撃情報もある為、未だイギリスに居る事は確認されている』
その言葉を聞いたと同時に通話を切る。アーカードを横目で見ると、アーカードは理解しているのか頷き姿を消した。
眠れない夜になりそうだ。そうぼやきながら明密は夜風に当たりに行く。
「…………部隊、ねぇ」
とある一角のバー。椅子に座って呟いた男が一人。気になっていたのは、ある男が言い放った“部隊”という単語のみ。その時、そのある男はこう言っていた。
『今回の作戦では人数的にも問題が生じる。しかし幾ら
『「吸血鬼の
男は思い出した途端、椅子から立ち上がり呟いた。
「むしゃくしゃする」
あの男が言っている事は、ある種の理想論に過ぎない。しかしあの時、あの男が語っていた時の饒舌ぶりに“先生”が動いた。その事にむしゃくしゃしている。何故だか分からないが、とても胸中がパンクしそうになる程まで何かが溜まっている。頭で理解していても、自分の“心”が納得できない。
男は外へと出る。こんな日に、こんな時に感じた思いは、夜風と共に空へと流れさせようとしているかの様に。