密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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№0-3 悪鬼羅刹

「アー……カード……さん……」

 

 

 アーカードは明密の居る病室に入り、ベッドで呆気に取られている明密を不敵な笑みを作りながら見下ろす。まるで、一緒に遊ぼうと話を持ち掛けてくる子どもの無邪気さが感じ取られる。

 

 アーカードは明密の手首を掴み、開いている窓から飛び出す。

 

 

「えっ?えええええええ⁉」

 

 

 突然の事に驚きを隠せず、夜だというのに大きな声を挙げる明密。アーカードは笑みを作ったまま、“明密ごと”初めからその場に居なかったかの様に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次にアーカードと明密が現れたのは、何処かの廃ビルの中であった。アーカードは両足で綺麗に着地するも、急に連れてこられた明密はアーカードの少し前まで飛ばされる。痛みを感じつつも、直ぐに立ち上がり服に着いた石ころ等を叩き落とす。

 

 それが終わって明密はアーカードを見る。まだあの笑い顔は続いており、今度は少し楽しそうに口笛を吹いてみたりと……端から見れば身勝手という言葉では収まりきらない程の行動っぷりをしている。

 

 アーカードは口笛を吹き終えると、明密に話をする。

 

 その話は明密の心を揺り動かす事になるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アケミツ。お前の仲間を殺した奴に、会いたくはないか?」

 

 

 一瞬で明密の表情は変わった。追い求めていた仇を打ち倒す事ができるかもしれないから。

 

 明密はアーカードの目を見る。サングラス越しの目は何処か美しく感じてしまう目だが今の明密にはそんな美しさを感じとる事は愚か、それすら眼中にない程の意思の強さがあった。

 

 口を開いた。明密は疑問を解消したいが為に。

 

 

 

 

「ご存じ……なんですか?」

 

「あぁ、私はよく知っている。50年前にも、こんな事が起きていた」

 

 

 アーカードはコートに仕舞っていた銀色の拳銃を取りだし、それで遊ぶかの様に少し放り投げては取るという事を繰り返していた。しかし明密にとっては疑問が増えた様なものなので、再度口を開いた。

 

 

「50年前……それとどう関わってるんですか?」

 

 

 突如アーカードは拳銃で遊ぶ事を止め、銀色の拳銃を明密の額に向ける。しかもゼロ距離なので、霧状になる前に死ぬ可能性が高い。上手くいったとしても脳に障害が伴うという重症になりかねない。

 

 しかしアーカードはそれらを無視するかの如く、明密に問いかけた。試練の様に試そうとしているから。

 

 

「“それ”を聞けばお前は2度と普通には戻れなくなるぞ。それでも良いのなら……アケミツ、私はお前に話そう」

 

 

 何故銃を額に向けたのか。明密は直ぐに理解した。

 

 このアーカードは明密が拒否した瞬間殺すのだと。その程度と決めつけ、殺すのだろうと感じた。これでは一択しか選択肢は無い。

 

 だが明密の目は真剣な、それでいて全てを受け止める覚悟を持った『人間の目』をしながらアーカードに答えを出す。

 

 

 

 

 

 

「構いません。僕は……皆を殺した奴を……許したくないから」

 

 

 アーカードは明密の額に向けていた銃を仕舞いこみ、手を叩いた。ゆっくりと、ゆっくりと。

 

 

「よくぞ言ったアケミツ。それでこそ人間だ。貴様が倒そうとする相手は人間で倒さなくてはならないのだから」

 

「……どういう事ですか?」

 

 

 意味が分からない、それもそうだ。急に銃を向けられた挙げ句に生きるか死ぬかの選択を与えられ、答えた途端に銃を仕舞い拍手を向けられたのだから。

 

 そして、先程の発言。“人間で倒さなくてはならない”という、意味が理解できない発言に対しての質問を投げ掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の仲間を殺したのは、昔の私と同じ『吸血鬼』だからだ」

 

 

 聞いた途端、明密は混乱してしまう。それもそうだ、『吸血鬼』という存在がこの世に居る事自体信じられないからだ。絵空事が現実となっている現代だが、それでも幻想の部分は残っているのだ。

 

 しかしその考え事はアーカードを見て不思議と納得していた。そしてアーカードの言葉。“昔の私と同じ”という言葉だけが、明密の心を動かしていた。

 

 

「アーカードさん……貴方は……まさか……」

 

「あぁ、“元”吸血鬼だ。今はそれすら判断しかねるが」

 

 

 “今は”。何故今は“違う”という様な発言をしたのか理解しかねるが、それを聞く前にアーカードに止められ話を続けられる。

 

 

「一連に起きたお前たちが言う『吸血事件』は、その名の通り『吸血鬼によって引き起こされた』事件という事だ。

 そして私は吸血鬼などの【化け物/フリークス】を殲滅する機関に所属している【化け物/フリークス】。

 ここ最近立て続けに吸血鬼が人間を【グール】にする事例が多発している為、私が動いているという訳だ。

 

 そして、今日ここに吸血鬼が来る」

 

 

 明密は直ぐ様警戒態勢に入った。辺りを見渡し、人影がないか捜した。それはアーカードが明密の肩に手を置き、左手人差し指で指差す方向に視線を向けると捜すのを止めた。

 

 何時、どうやって入ってきたのか理解が追い付かない。

 

 普通の人間に見える“死んだ様な白い肌”と“暗闇に光る赤い目”が視線の先にあったから。

 

 そして、その隣に紫の“もや”の様な者が居ることも。

 

 

「またお前か、同類」

 

「こんな所で出会うとは……つくづくツいてませんねぇ」

 

 

 アーカードは口角を思いっきり上げ、目を見開かせながら銃を取りだし構える。そして明密にこう言った。

 

 

「アイツらがお前の仲間を殺した奴等だ。

 

 さぁ…………やれ、アケミツ。

 

 お前の求める願いを、ここで叶えろ!!」

 

 

 そう言うと同時にアーカードは銀色の拳銃のトリガーを引く。放たれた弾丸は一直線に吸血鬼に向かうが紫色の“もや”が出現し、その中から複数体の“人間”……否、明密も理解していた。

 

 このような人間から放たれる事のない異臭、口から出ることのない呻き声、向けられる事のない赤い目。

 

 彼らは【グール】。吸血された哀れな『明密の仲間』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アアアアアアアアガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「「ッ!?」」

 

 

 突然の雄叫び。明密の目は黒い瞳は何処にも存在していなかった。真っ白な、血走った“眼球”のみがあった。

 

 吸血鬼と紫の“もや”らしき者は突然の雄叫びで耳を塞ぎ、アーカードは嬉しそうな表情のまま明密を見つめていた。

 

 グールは明密にドンドン近付く。彼を……明密を……人間を食らう為に。

 

 

「アーカードォ!!弱点はァ!?」

 

「心臓か頭を完全に潰せ。それ以外はない」

 

 

 刹那、彼は動いていた。手刀で、グール2体の心臓を貫き、破壊した。その一瞬の出来事には、吸血鬼も紫の“もや”の者も目を見開いた。

 

 それからの明密は早かった。人間かと思うぐらいの速度で、一瞬で近づき、グールの心臓を貫き、破壊し、次のグールへと移る。

 

 明密の脚は密度を操作し、バネの様な筋肉の性質に変え反発力を生み出している。

 

 明密の手は密度を凝縮させて、ダイヤモンド並みの固さで心臓を貫いている。貫く時は関節諸とも硬質化し、握り潰す時は関節の密度を戻していた。

 

 この様に冷静さを欠かず、力強く猛威を振るう明密。その姿や行動は【仏】とは称しがたい。言うなれば

 

       【悪鬼羅刹】の如し

 

 それに近かった。死者を殺す事で弔いをする者を、それ以外に何と呼ぶ?他者の死を背負って生きる者を何と呼ぶ?【悪魔】か?【鬼】か?【夜叉】か?

 

 否、それは違う。彼は【人間】だ。人間の【殺意】が彼を動かしているに過ぎない。罪を背負うのは【人間】特有だ。生存本能以外で殺しをするのは【人間】特有だ。

 

 【グール】を……【化け物】を殺すのは何時の時代も【人間】である様に、この時代にも【化け物】を殺す【人間】は存在するのだ。それが宿命と、運命と云わんばかりに。

 

 やがてグールは塵となって消えた。全て消えた。残ったのは吸血鬼と紫の“もや”の者。

 

 その目で吸血鬼を捉え、吸血鬼へと迫る。

 

 しかし吸血鬼は跳んで交わし、明密の後ろに移動した。

 

 そして、噛みつこうとした。

 

 それを予期していたかの如く、明密は霧となり姿を眩ます。吸血鬼は狼狽えていた。

 

 吸血鬼は殺意を感じとる能力に優れている。しかし優れている故、『殺意が此処彼処にある場合』は混乱してしまう。

 

 吸血鬼の後ろで発砲音が聞こえた。それは吸血鬼の腹部を貫き、一瞬の隙を生み出した。紫の“もや”の者が対策を取ろうとするが、突如現れた明密によって密度が操作され形を作り、殴られてしまう。

 

 “吸血鬼の後ろに居る”明密は手刀で心臓を突き刺し、抉り取り、左手で潰した。

 

 吸血鬼は塵と化し、消えた。それを見た紫の者は自身の真下に空間を作り、それに入って消えた。

 

 2人居る明密は密度を操作し1人に戻る。そうし終えると意識が消えて、その場で眠ってしまった。

 

 アーカードは眠った明密を見下ろし、拍手を掛けた。

 

 人道を踏破した者と認めたため。人の身でありながら吸血鬼を殺したため。アーカードは明密を持ち上げ、その場から消えた。明密ごと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。病院のテレビから流れるニュースには【謎の雄叫び 吸血事件との関連は?】というタイトルで流れていた。無論雄叫びは明密のものだが、明密はもう病室には居なかった。

 

 明密が居るのは、被害現場であるファミリーレストランであった。アーカードもそこに、明密の隣に居た。

 

 明密は口を開く。疑問を投げ掛ける様に。決意を決めた様に。

 

 

「アーカードさん、まだ吸血鬼は居るんですか?」

 

「少なくとも、何処からか漂っては来る。居る事に変わりはない」

 

「ならアーカードさん。いや、アーカード。僕も吸血鬼を殺す。その為に一緒に行動をしてくれ」

 

「……どうやら迷いは無いようだな」

 

 

 アーカードは明密の方に体を向け、見下ろす。だが、見下ろしてはいるが何処か対等な関係の様に感じ取れる。

 

 

「良かろう。お前に付き従おう。お前の殺意に身を任そうではないか」

 

 

 漸く、運命の歯車は狂い出した。

 

 彼は“恐怖”に“地獄”を見せる為、動き出した。

 

        draculaと共に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヤン「ヤンと」

ルーク「ルークの」

「「後書きコーナー!!」ドンドンパフパフ

ヤン「なあなあ兄ちゃん」

ルーク「どうした?弟」

ヤン「亀更新ってタグにあるのに何で早く投稿してんの?この作者は」

ルーク「そこは作者の気分に過ぎないだろう。あとは清涼剤である俺たちを早く出したかったからだ」

ヤン「それって洗濯物の汚れを落とすヤツ?」

ルーク「それは漂白剤だ」

ヤン「んじゃあ洗濯物をフカフカにするヤツ?」

ルーク「それは柔軟剤だ」

ヤン「それじゃあ臭いを消すヤツ?」

ルーク「それは消臭剤だ。清涼剤と言ったろ特大ブーメラン食らった愚弟」

ヤン「喧しい狗のU☆NN☆KO」

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