密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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一週間ぶりの投稿となりました。大変遅くなって申し訳御座いません。


№4-4 掲げる理想

 時は遡り数分前、とある路上にて戦闘が繰り広げられていた。居るのはヒーロー二人と敵一匹。ヒーローの名はそれぞれ【エンデヴァー】と【グラントリノ】、その二人相手に少なからず表情が面にでない脳みそ剥き出しの敵【脳無】。

 

 この脳無はUSJ程の奴では無いが、プロヒーローである二人と接戦とも言える戦いをしていた。奇襲としてエンデヴァーが炎を出したが尋常なスピードで避けられ、グラントリノのスピードをもってしても咄嗟に反応して身をかわされる事が起きていた。まるで人間ではなく、何か別のものと戦っている気分でもあった。

 

 ヒーローは仕事の全てが時間との勝負と言っても良いだろう。現に他の場所では火が巻き起こっている、そのため早いとこ応援に行かなくてはいけない。

 

 そんな時、その脳無の動きが止まった。正確には上を見上げた。瞬間、脳無の頭部が爆発四散して生命活動を停止される。その直後、脳無の死体に乗った幼女。この二人は何が起きたのか理解できぬまま立ち尽くしていたが、直ぐに切り替えて降りてきた幼女に尋ねる。

 

 

「お前さん、何もんだ?」

 

「……なぁに、ただの殺し屋さ。それ以上でも、それ以下でも無い」

 

「殺し屋?貴様の様な女が?それにしては声が年相応どころか男の様にも感じるが?」

 

「ま、そういう事だ。声や性別は気にするな」

 

 

 エンデヴァー、そしてグラントリノが幼女/アーカードに臨戦体勢をとる。目の前で殺し屋と言われた挙げ句、拳銃を持ち先程の脳無を目の前で殺したのだ。こうなるのは必然である。しかし…………

 

 

「今その力を向けるべきは、私では無い」

 

 

 たった一言。その一言だけだ。なのに、その一言が発せられた際に一緒に出た“殺気”だけが彼ら二人の動きを止めた。瞬間、アーカードは二人の目の前から姿を消した。

 

 この二人は、その殺気を放った一瞬で消えたアーカードに呆気に取られている。だが直ぐに考えを切り替えて、現在被害の多い広場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

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 その広場では二匹の脳無が暴れた形跡だけが、ただ残されていた。現場に駆け付けたヒーローは一部損傷が激しく、現段階では再起不能状態に貶められていた。

 

 その脳無二匹は今は暴れていない。いや、正確には“ついさっき動きを止めた”というのが正しい。この脳無二匹は最早人間ではない、そのため殺気にとても敏感である。だが敏感過ぎて大きな殺意が発せられた際には、その方向を向いて動きを止めてしまう事がある。

 

 現在の脳無が“それ”だ。他のヒーローを食おうとした瞬間、何処からともなく大きな殺気が発せられて動きを止めている状態にある。炎が蠢く中、その場では静かに炎が燃える音だけが響いていた。

 

 

 

 

「こんなに明るくては、月も星もよく見えないじゃないか」

 

 

 声のした方へと二匹は振り向く。さっきまで広場に居た者たちは全員行動不能にしたのに、まるで気付かれずに移動し“先程まで”そこに居たかの様に佇んでいた。

 

 

「こんな静かな夜だったのに……勿体無いじゃあないか」

 

 

 アーカードは【ブルート】と【改造カスール】をコートから取りだし、静かに佇んだ。

 

 

「まぁ、そこはガキというべきか。こんな夜の美しさを理解できぬ化け物《フリークス》だからな」

 

 

 脳無二匹はアーカードに向かい襲いかかる。本能的に察した。この存在は“ヤバイ”という事に。

 

 

「では私は楽しむとするか。精々楽しませてくれよ、くそガキ共」

 

 

 刹那、脳無二匹の攻撃をアーカードは受けた。そのアーカード本人は立ち尽くんだまま、ブルートとカスールを向けて発砲した。

 

 ハンドガンとは思えぬ音が響いた直後、二匹の脳が爆発四散した。原型は留めておらず、脳無二匹の残骸はピクピクと痙攣したままであった。

 

 

「やはり、この様……か。こんな夜を楽しめないとは……つまらん奴等だ」

 

 

 アーカードは消えた、初めから居なかった様に。残るのは負傷したヒーローと、脳無の残骸のみだけだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、所変わって路地裏。銃剣を振るう明密と刃こぼれした刀を振るうヒーロー殺し。二人の間には風が少しだけ舞っていた。

 

 ぶつけ合った直後、ヒーロー殺しは腰に携帯しているナイフを投げたが明密は自身を霧状に変えて難を逃れる。その光景を見て一瞬だけ驚いたヒーロー殺しの表情を見た明密は、隙を狙うかの様に左手に持つ銃剣を逆手持ちで振るう。銃剣を刀で受け止めるが、威力も相まってビルの壁に衝突するヒーロー殺し。

 

 この一瞬を逃さない様に猛攻を仕掛ける明密。縮地の技法で近付き右の銃剣を振るうもジャンプされて避けられ、ナイフ数本を投げるヒーロー殺し。瞬間的に霧に変化して姿を消した後、今度は上から銃剣を振るう明密。

 

 ヒーロー殺しが防戦一方の状態の隙に出久、轟、ネイティブの三名は避難する為に場を離れようとしたが天哉だけが動こうともしなかった。

 

 

「飯田君!早く避難を!」

 

 

 しかし耳に入らなかったのか、動けずに居た天哉。それを見かねたネイティブが天哉を連れて避難していく。

 

 横目で確認した明密は向かってきたナイフ数本に対し、自身を霧状にさせて避け左手の銃剣を投げる。刀で銃剣を弾いたヒーロー殺し。

 

 明密はコートの内側からベレッタ(実弾装填)を取り出し五発発砲する。狙いすまされた弾道は一直線に進んで行くが、今回は不意打ちでは無いので上に避ける事で難を逃れる。

 

 

「(あと残り53秒!)」

 

 

 頭の中で考えていたのは時間制限。最初に撃ったフッ素100%弾頭の9㎜パラベラム弾の“個性”を停止できる時間を数えていた。時間がくれば出久や天哉たちが、また動けない状態になってしまう。早めに終わらせていきたかったが急にヒーロー殺しの動きが止まったかと思うと、口を開く。

 

 

「何故……邪魔をする?」

 

「……人の命を奪う行為を邪魔するのは、至極当然じゃないのか?」

 

「人の命……ハァ。お前は分かっていない。今のヒーローは腐りきってる、今のヒーローには自己犠牲の考えが無い。自己犠牲の果てに成果を讃えられる者が居ない。これは“粛清”だ」

 

「…………粛清、ねぇ」

 

 

 銃剣とベレッタを一旦降ろして、明密は自身の心の内を話す。

 

 

「お前に似た奴等を見たことがある。ソイツらは人間の姿をしていない者、“個性”を持たない者を粛清と称して殺害をしていく奴等だ……貴様の考えは、それが近い」

 

 

 銃剣とベレッタを握りしめている手に、さらに力を入れて話す。

 

 

「自己犠牲の果て?自らの身が傷付けば誰かを助ける事も出来ないのにか?その後で自分の幸せを潰してでも大事なのか?そんな下らない自己犠牲は、俺“たち”の様な屑で十分じゃないのか?」

 

「笑止!」

 

 

 このやり取りで10秒経った、残り43秒。それまでに確実に仕留めておきたいと考えた明密は攻めから一転、何故か逃げの一手に徹した。

 

 ある程度距離が空いた所で、ヒーロー殺しは壁に刺さったナイフ一本を抜き取り投げ付けた。明密はコートの内側から一丁の拳銃を取り出し、発砲する。

 

 その発砲音はあまりにも大きすぎている。その銃身は長すぎている。その弾の威力は破壊力が恐ろしい。そのナイフは銃弾によって砕かれ、もう一発放たれると刀が破壊され破片が手の甲に刺さる。

 

 

「硫化銀弾頭及び劣化ウラン弾頭、プラチナ&チタン合金弾殻、マーベルス化学薬筒NNA9。全長36㎝、重量14㎏。13㎜炸裂鉄鋼弾【ブラン】」

 

 

 恐らくは、この銃の紹介なのだろうと感じ取ったヒーロー殺し。しかし銃の事を少しかじった事のある者でも分かる、そんな銃は“何処にも存在しない”という事に。

 

 

「パーフェクトだアテナ!!」

 

 

 ヒーロー殺しは咄嗟に感じた。あの銃も、この者もヤバイと。所有している全てのナイフを抜き取り投げ付ける。しかし、これも全て【ブラン】によって撃たれ破壊された。

 

 だがヒーロー殺しの狙いはナイフの破壊だった。ナイフが破壊されている際に壁走りによって移動し、裾に隠していた小型ナイフを取り出し突き刺そうとした。

 

 そのナイフは明密の体が霧状になる事で回避され、さらに腕が明密の体に拘束され動けなかった。

 

 

「10%………バレットォ!!」

 

 

 空けた右手で加減を調整しながら、ヒーロー殺しの腹部にズドンという音を立てながら殴り付けた。ヒーロー殺しは体中の空気が全て排出されたかの様に苦しみ、意識を手放し気絶する。

 

 一旦霧状になり拘束を解いた後、銃剣でコスチュームの一部を切り取り腕に巻き付けて拘束する。その際、布の密度を操作して簡単には外れない様に変えた。

 

 ヒーロー殺しを再起不能にさせた事で緊張の糸を解く明密。“個性”が解除された全員は路地裏へと駆けつけると、ヒーロー殺しを拘束している明密の姿があった。

 

 しかしバレない様に姿を隠している明密はヒーロー殺しを持ち上げ駆け付けた全員に譲渡する。

 

 

「俺はこれにて。そろそろ御迎えが来るんでな」

 

 

 迎えという事を聞こうとすると、明密の後ろから幼女になったアーカードが現れた。アーカードは明密の肩に触れて姿を消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イギリスのヘルシングへと帰還したアーカードと明密は、現在インテグラの部屋に居る。

 

 

「ただいま帰還致しました、インテグラ卿」

 

「ただいま帰還した、我が主」

 

「御苦労、二人とも」

 

 

 この後、アーカードは警戒をする様に日本へと戻る事になった。

 

 

「御苦労様でした、アレンス様」

 

「バルバロッサさん……いえ、大丈夫です」 

 

「……アレンス様、その服はどうされたのですか?」

 

 

 バルバロッサは先程明密がヒーロー殺しを捕縛する際に布の一部を使用した欠けている部分を指摘する。その指摘された部分の事を話した明密は少し苦笑していた。

 

 

「少し……敵を拘束するのに使用しまして」

 

「そうでしたか…………では、アテナ嬢にコスチュームを一から新調してもらいましょうか」

 

「えっ……ですが、悪いのでは?」

 

「では雄英高校に通達しておきましょう。それにブランの性能に耐えれるコスチュームが欲しかった所でしょう?」

 

「それは……否定できません」

 

「では、好意を受け取って下さい。これは私どもの謝礼と思っていただければ」

 

 

 渋々ながら明密はバルバロッサの提案を受け、疲れを取る為に浴室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本に戻ったアーカードは幼女の姿をしている。ビルの屋上に鎮座し、上から見下ろしていた。見ていた光景は、先程明密が倒したヒーロー殺しの様子。吸血鬼は全て片付けた為、心配する必要は無い。

 

 だが妙に胸騒ぎというのがある。何故起こっているのかアーカード本人でも理解できていないのが事実だ。念のためブルートの感触を味わいつつ、その光景を見つめていた。

 

 刹那、群衆の中に一つの人影が瞬時に入り込んだ。それは一人だけ連れ去り群衆から少し離れた所に位置した。

 

 

「飯田君!」

 

「飯田!」

 

 

 二人の声が響いた。その二人の声には聞き覚えがあるが、今は天哉を捕まえた奴を確認する。

 

 見たところ普通の人間と大差なさそうに見える。しかしアーカードには分かった。“あれ”は化け物だと。しかもアーカードやセラスたちとは違う“別の化け物”。

 

 

「おぉっと全員変な動きを見せんなよ!?そうしたらコイツ殺すぜ!?」

 

「チィ!」

 

「それにしてもスゲェ……やっぱりスゲェなぁ!あんな“液体”一つで、ここまで変われるなんて…………!俺は変わった!他の奴等に負けない“力”を手に入れた!!これでどんな奴だろうと負けはしねぇ!!」

 

 

 “液体”。その単語を聞いた群衆と見下ろしているアーカードは疑問を覚えた。アーカードは特に思考を働かせた。

 

 先程の発言に奇妙な感覚を幾つか覚えた。まずは【液体】、今まで出会った化け物には機械だったりと何かしら工作された痕が発見できた。今回の場合は先程戦った脳無同様、何処にも細工の形跡は無かった。

 

 そして今感じている違和感。先程も思ったが吸血鬼とは何かが違っている。その者の容姿は爪や牙は吸血鬼と酷似しているが何かが違うとアーカードの第六感が感じていた。そして極めつけは……【黒い体毛】であった。

 

 そう、まるであれは…………【ヴェアヴォルフ】。

 

 その時、いきなり殺気が感じ取れた。人間の殺意だ。どうやら捕らえていたヒーロー殺しが動きだし、ヴェアヴォルフの脳に直接ナイフを叩き込む。

 

 その隙にアーカードは天哉を救出し、流れる様にヴェアヴォルフの背後に移動してブルートの弾丸を相手の心臓の辺りに撃った。このあとの処分をどうしようかと考えていると、人間らしからぬ殺意を一瞬だけ感じとったと思いきや直ぐに消えた。

 

 アーカードは、この殺意の余韻に浸りながら姿を消した。嬉しそうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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