密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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血 殺し 火
№4-1 派遣機関


 イギリスの首都【ロンドン】。時差の影響とフライト時間の関係からロンドンの時間は13時頃、1つ空港を経由して漸く明密は到着した。少々肌寒く感じるが、自分の周囲の空気の密度を操作して熱を閉じ込める事で温度は保たれている。

 

 着くやいなや何故か黒の長髪高身長の姿でアーカードが案内をする。明密にとって、この姿は初めて見るものであったので多少なりと驚くが直ぐに慣れた。尚この姿は搭乗受け付けの際からなっている模様。

 

 アーカードの案内で外に出ると、異様に停められている黒いリムジンと思わしき車。その側には茶色のシルクハットとスーツを着こなした紳士らしき人物。アーカードに付いていく形でその車に近付くと、その紳士は車のドアを開けアーカードは車内に入る。少し躊躇しながらも紳士に一礼をした後、アーカードに続くように車内に入る。

 

 余りにも見ることの少ない光景なので辺りを少しだけ見渡し、アーカードの前方の席に座る。入った事を確認した紳士は扉を閉め運転席に乗り込み、車を発進させる。

 

 発進してからある程度の距離を移動した後、アーカードが口を開いた。

 

 

「さてとだ、アケミツ……いや、ここではアレンスだったか」

 

 

 アーカードがそう言うと、改めて自分のヒーロー名に対する意気込みの様なものが固まった明密。アーカードはワイングラスに入った血液を少し飲み、ワイングラスを置くと話を続ける。

 

 

「今回我々が何故アレンス、お前を指名したかの理由だが……既に理解しているだろう」

 

「……僕が吸血鬼やグールと接触、そして戦闘という行為に至った事で指名をした。という事で宜しいですか?」

 

「それもある。だが先日の体育祭の件で我が主『インテグラ・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング』、そして運転している『バルバロッサ』が吸血鬼の件抜きでお前に興味を持ったというのもある」

 

 

 アーカードの言葉で運転席のミラー越しに映っている『バルバロッサ』を見ると、目線が合い会釈をした。明密は再度アーカードの方を向くと話を続けた。

 

 

「少しだけ話は変わるが今回お前が訪れる我々の機関、イギリス政府国教機関。通称【ヘルシング機関】は現在では“ヒーローを派遣する機関”として主に活動している」

 

「…………アーカードさん、一応話していた特務機関は?」

 

「勿論存在している。だが今現在では化け物共の活動もあまり確認されていない為、ある意味時代の流れに乗って存続を保っている様なものだ」

 

「そうなんですか」

 

 

 何時の間にかだが、窓の外は自然がちらほら見えている。どのくらいの距離を移動したのかは分からないが、大分進んだことは理解できた。またアーカードが口を開いたかと思えば、今度はお誘いの様だ。

 

 

「詳細は追々バルバロッサが話してくれる。アレンス、飲め」

 

 

 そう言ってアーカードが自らの影から、明密が何時も飲むキウイジュースを取り出して渡す。恐らく一度アパートに戻った際に入れておいたのだろうが、残り6本あると言われた時は何時の間に買ったのか皆目見当も付かなかった。

 

 蓋を開けて飲みつつ外を見る。口の中にはキウイの甘酸っぱさが感じられるが、視覚からは市街地から遠く離れた場所らしく林の中にでも入ったらしく木が多く見受けられる。普段では見られない光景に少しばかり見とれていた明密であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーカード様、アレンス様。御到着です」

 

 

 道のりがあまりにも長いため少し寝てしまったが、バルバロッサの声で目が覚めた明密。リムジンが停められるとバルバロッサは外へと出て2人が居るドアを開ける。

 

 アーカードが先に外へと出る。続くように外へと出ると、あまりにも大きすぎる屋敷が目に映る。ドアを閉める音が聞こえると、アーカードとバルバロッサの2人が屋敷の扉へと向かう。明密は鳩が豆鉄砲を喰らった様な表情のままアーカードたちを追いかける。

 

 バルバロッサによって扉が開かれ中に入ってみれば、最早『豪邸』。何も言葉が出てこない状況の中、扉が閉まる音が聞こえた後アーカードによって2人は部屋に転移される。

 

 その部屋には椅子に座っている白髪の女性。年齢的に70代程だが生気の様なものがひしひしと伝わっている。それこそ今現在居る若者よりも元気がある。

 

 

「ただいま帰還した。我が主」

 

「ご苦労だった。アーカード、バルバロッサ」

 

 

 この目の前に居る女性、アーカードの言っていた主である『インテグラ・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング』だと気付いた。咄嗟に緊張の糸を張りつめる明密だったが、それを見ていたインテグラは少し微笑みながら話した。

 

 

「固くならなくて良いぞ、少年。少し落ち着いてくれ」

 

「い、いえ。ですが……」

 

「アレンス、何時ものお前で良い。落ち着いたらどうだ?」

 

 

 明密はアーカードの方を見て少しだけ緊張の糸をほぐす。インテグラはアーカードと明密を見ながら少し微笑みを浮かべながらも、表情を元に戻し話していく。

 

 

「さて……先ずはヒーロー名を聞かせてもらえるか?」

 

「は、はい。リジェネレーター【アレンス】です」

 

「ほぉ……リジェネレーター………か」

 

 

 インテグラの表情は何処となく今昔を思い出している様で良い表情ではないのは見て取れた。また、その表情を見た明密は再度緊張していた。

 

 その緊張していた明密を見て、少しやってしまったと頭を抱えるインテグラ。溜め息を吐いた後、顔から手を退けさせ話を続ける。

 

 

「いやすまない、昔を思い出してな」

 

「は、はぁ…………」

 

「さて……先ずは自己紹介といこうか。私は『インテグラ・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング』、このヘルシング機関局長だ。バルバロッサ、次だ」

 

「了解致しましたヘルシング卿」

 

 

 バルバロッサは明密の方を向き、明密もバルバロッサの方へと体と目線を向ける。

 

 

「改めまして、『バルバロッサ・D《ドム》・ウォルゲイツ』と申します。このヘルシング機関でヒーロー兼執事を担当しております」

 

 

 バルバロッサが一礼をすると同じ様に明密も一礼をする。まさかのバルバロッサがヒーローだとは予想していなかったので、少し驚愕の表情を浮かべながらだが。

 

 

「さて……君には先に謝罪させてもらいたい。アレンス」

 

 

 唐突に話された話題。恐らく吸血鬼やグール関係の事件に巻き込まれ、尚且つその化け物を殺していくという本来であれば平和に暮らしていく筈の者を勝手に陥らせてしまった事による謝罪だろう。

 

 しかし明密の考えは違った。それは普通では尚更有り得ない反応であった。

 

 

「……いえ、謝罪は結構です。ヘルシング卿」

 

「どういう意味かね?」

 

「僕は大切な人たちを殺された。あまつさえ化け物の傀儡にされた。それを見て“僕自身”が殺したいと願った。平和なんて自分には要らない、皆が犠牲にならなければ良いんです。自ら望んだんです……そう考えているからこそ、謝罪は要りません」

 

 

 あまりにも意外な返答だった為その場に居たバルバロッサとインテグラの2名は驚くが、アーカードは明密の考えを素晴らしいと感じていた。同時に死なれては困ると心境にあって悶々とした気分にも陥ったが。

 

 

「そうか……分かった」

 

 

 願いを聞き入れてくれた事で明密はホッとしている。その後だが、アーカードは再度日本へと戻り吸血鬼による事件の捜索を任命される。明密は『アレンス』としてヘルシング機関の説明をバルバロッサの案内の元、聞いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所でですがバルバロッサさん」

 

「何でしょうか?」

 

「アーカードさんは何故日本に?」

 

 

 長い廊下を歩きながら各種の部屋の役割説明を聞いていた明密だが、ふとアーカードと最初に出会った時の事を思いだしバルバロッサに尋ねてみた。しかしバルバロッサの口から出たのは明密の首を傾げる事になったが。

 

 

「旅行です」

 

「………………はい?」

 

「そうですね……では、アーカード様の昔話は聞きましたか?」

 

「えぇ。アーカードさん自身から」

 

「アーカード様は20年前に漸く姿を保たれましたが、その頃は化け物の活動報告も殆ど確認されていなかったのです。仮に確認されたとしても私や他の者で十分でしたので退屈になされていたのです。せめてもの暇潰しとして旅行を提案したのは私なのですが、どうも興味を持たれたらしく」

 

「で、では……吸血鬼の件は?」

 

「本当に偶然だそうです。日本に来て同種の気配がするから追ってみれば、その状況だったそうです」

 

 

 つまりは明密は偶然が重なった状況を見てしまっていた事になる。運命とは何とも奇怪なものだと心境で語る明密であった。

 

 

「さてアレンス様、この部屋の説明です」

 

 

 とある地下の一室の扉を開けながらそう言うバルバロッサ。昔の事だが特務機関としての機能があった頃の部屋だが、今では専属メカニックの製作部屋だそうだ。

 

 

「失礼します御二人とも」

 

「何の用ー?執事さーん」

 

 

 奥の方から声が聞こえてきた。声から察するに明密と同年代か、それ以下らしき声が響いた。しかし次に明密が感心を持ったのは着ている上着が引っ張られる感覚の方に視線を向けさせた者だった。

 

 

「………………………」

 

 

 身長は恐らく150㎝程で明密を見上げている子ども。10歳か11歳程の少年が明密を見ていた。その事に気付いたバルバロッサも明密の見ている方を向き話をする。

 

 

「ログウェス殿、此方職場体験に来たリジェネレーター『アレンス』様で御座います。不審者では御座いません」

 

「…………」

 

 

 バルバロッサと明密を交互に見る『ログウェス』という少年。すると今度はバルバロッサの言った発言に釣られたかの様に奥から人影が現れる。

 

 身長は明密と同じ170㎝程、発達した胸部と着ている黒色のパーカー、金髪で空色の両目が特徴的な同年代と思わしき女子が出てくる。

 

 

「何々、雄英生徒!?しかも旦那の御墨付きが来たの!?」

 

「アテナ嬢、落ち着き下さい」

 

 

 『アテナ』と呼ばれた女子は明密との顔の距離を10㎝程まで近付き、じっくりと明密の周囲を回りながら観察しているようだ。その際、上着の端を掴んでいるログウェスを見て少し驚いていた。

 

 

「相も変わらず此処は騒がしいな」

 

「あー!旦那ー!」

 

「…………だんなぁ」

 

 

 後ろを見るとアーカードが来ていた様だ。どうやらシュレーディンガーで来たが、何故この部屋に来たのか分からない明密。

 

 アテナとログウェスの2人はアーカードの事を旦那と呼んでいるが理由がよく分かっていないのは置いておく。

 

 

「アレンス様、此方『ログウェス・アリシス』殿と『アテナ・アリシス』嬢で御座います。見掛けによらず我がヘルシング機関のメカニックを担当なされておられます」

 

「そ、そうでしたか……」

 

 

 やはり外国、自由な所は自由だ。日本の方が制約がありすぎるというのもあるが。

 

 

「あっ!そうそう旦那!完成してるよ!」

 

「ほぉ……見せてくれ」

 

「あいよ!」

 

 

 勢いよくログウェスと共に奥へと走っていくアテナ。何処か嬉しそうにしていたが、何かとアーカードに尋ねる明密。

 

 

「お前にも関係あるぞアレンス」

 

「持ってきたよー!」

 

 

 中々に持ってくるのが早いと感じたが、アテナとログウェスが持ってきていた銃身が長い2丁の銃があった。これを銃と呼んで良いのか理解しかねるが、アテナがこの2丁の銃を説明していく。

 

 

「はい先ずは赤いヤツ!旦那が昔使ってたヤツを“見ながら”だけど造ったよ!全長39㎝、重量16㎏、法儀式水銀弾頭13㎜炸裂鉄鋼弾、赤くペイントしたから名付けて【Blut《ブルート》】!!」

 

「ドイツ語で……血」

 

「何故血液を名前に?」

 

 

 今度はログウェスが持っている同系統である茶色の銃。これはアーカードに譲渡されたが、アーカードは躊躇せず明密に渡した。

 

 

「ぼ、僕ですか?」

 

「あぁ、このためにアリシス姉弟に作らせたと言っても過言では無い」

 

「だ、旦那?それ人間には……」

 

「要らぬ心配だ。アテナ、説明を頼む」

 

「う、うぅん……命名【ブラン】、同じく13㎜炸裂鉄鋼弾。但し違うのは硫化銀弾頭と劣化ウラン弾頭使用可。どちらもチタン&プラチナ合金弾殻。マーベルス科学薬筒 NNA9。全長36㎝、重量14㎏」

 

 

 渡された拳銃は最早拳銃の域を越え、ハンドガンタイプの大砲を持っている気分であった。少し短めだが威力は膨大だろう、銃口を見れば所持しているベレッタよりも全ての銃よりも大きい。

 

 これを見ると脳無の時に手も足も出なかった時の自分の攻撃力に比べて大きいものになる。殆どの吸血鬼の体は形すら保てないだろう。人間とて、ひとたまりも無い。

 

 但し扱えるかは別の問題だ。その事を予期していたのかバルバロッサは夜になったら付いてくる様に言って、また別の場所へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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