密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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№3~4 

 翌日、明密は病院に居た。病院に居るといっても怪我や高熱などで入院している訳ではない。今度は明密がお見舞いという形で訪れていた。

 

 入院している患者は天哉の兄である『飯田天晴』、ターボヒーロー【インゲニウム】としても有名だが近頃世間を騒がせている“ヒーロー殺し”によって現在の状態になっている。

 

 今は寝ているが包帯が所々に巻かれており、先に居た天哉と天晴の母親からは天晴はヒーロー活動は無理と医者に言われたのを聞いていた。そして、天哉に『インゲニウム』の名前を継いで欲しい事。明密は寝ている天晴を見つつ、自分自信を嘆いていた。何故人が殺されかけなければならないのか、何故天晴なのかという疑問を抱いている。

 

 そしてヒーロー殺し。所詮【殺人鬼】、明密とは似ているが違う思想を持った者。明密は人ならざる者を殲滅するという思想、そのヒーロー殺しは“腐りきったヒーロー”を粛正するという思想。

 

 人間が人間を殺すという頭のボルトが腐敗しきった輩と聞いただけで、明密の殺意はヒーロー殺しに向けられる。しかし幾ら殺意を向けたところでヒーロー殺しに何か影響はあるのか考えた所、何も無いと判断するのは時間が掛からず殺意を抑える。

 

 そろそろ診察の時間というので明密は3人に一礼をして病室から出ていく。明密の心の奥底には葛藤で埋め尽くされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院の扉を出ると何故かそこには葉隠、芦戸、耳郎、お茶子の4人が居た。その4人に近付き、話をする。あまり心の内を見せない様に笑顔に成りながら。

 

 

「皆さん、どうして此方に?」

 

 

 しかし尋ねても、しどろもどろになるだけで答えるのを躊躇している様子が伺える。その光景を見た直後、明密は何かを思い出した。仕方無く鍛え上げた自前の走力で“縮地”の技法を用いながら逃げた。

 

 その次の日に出掛けていた明密は先程の4人に偶然バッタリ遭遇したので逃げようとしたら今度は捕まえられてしまったとさ。そして現在、その4人が明密を捕まえた日では…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は……恥ずかしいですぅ…………」

 

 

 明密の家に押しかけて女装用の服を渡し着替える事と見た目と声を女性らしくさせる様に言われた結果、この様だ。

 

 黒い長髪でアホ毛がピョコンという擬音が似合う程に立っており、爽やか系である空色のTシャツに黄色のワンピースという服装にさせられた。しかも女声も相まって完全に年頃の女子にしか見えない。服を選んだ4人も明密とは思えぬ美しさと先程の恥ずかしがり様に見とれていた。

 

 もうこれで終わりにしてほしい明密だったが、処罰には“徘徊”も含まれていた為またも絶望する明密であった。しかし徘徊の件に関しては耳郎が付き添い人となっていたので、少しは安心するのであった。

 

 そして徘徊中なのだが……これには堪える明密。周りの、それも男達からの視線が体に突き刺さるかの様に痛い。道を歩けば男の視線が女装している明密に向けられ、チャラ男と呼ばれる人種からはナンパされる始末。

 

 あまつさえ自身の都合上目立つのは御法度なのだが、今の状態では目立ち過ぎている。まぁ明密も腹を括ったのか、午後になるとファーストフード店でお昼を一緒に食べていた。気にする必要性を少しだけ見失ってしまった明密は帰り際に少しばかりの後悔をしてしまったそうだ。

 

 家に帰ったのは良かったが、女装用の服は何故か明密のクローゼットに置かれる始末となった。やっと男物の自分の服に着替え、短髪に戻し落ち着いた。家まで付いてきてくれた耳郎には感謝しか覚えない。

 

 しかし遅くまで付き添ってもらった為、暗くなりつつあった。これでは心配という事で駅まで送る事にした。

 

 

「何か悪いね、送ってもらっちゃってさ」

 

「いえいえ。それに、こんな遅い時間まで付き合ってもらえて感謝してますから。……しかも女装で徘徊なんて精神が滅入りそうでしたから」

 

「あはは…………」

 

 

 そうこうしているうちにだが駅が直ぐそこまでの所まで到着していた。見送った後、自宅へと向かう。

 

 全くの余談だが、やはり吸血鬼の被害による事件は最近起こってはいないらしい。しかし明密は何か嫌な予感しかしなかった。気味が悪いと謂わんばかりに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様らの一団に俺も加われだと?」

 

 

 その日の夜、何処かで誰かがナイフを人間の首に添えて何かを言っていた。

 

 

「何を成し遂げるにも信念、“思い”がいる。無い者、弱い者が淘汰される。当然だ。だからこうなる」

 

 

 その人間は試していた。今、首にナイフを当てている人間に対して。だが人間だ、両方とも。

 

 その倒れている人間は、もう一人の者に追い返す様に論す。しかし、何かの影響で動けない様だ。見ると腕に切り傷が出来ている。最後の人間、白衣を着た男は傷も無くパソコンに没頭している。

 

 

「あの白衣の男を見習え。アイツには何かしら信念があって行動している。だからこそ成功する」

 

「貴様なんぞに言われても嬉しく無い。私が求めるのは【さらなる進化】!人間を超越し、支配し、蹂躙する者だ!…………それとだ、私と」

 

「俺をアイツを比べんじゃねぇよ」

 

 

 倒れている者は首に添えられたナイフを【崩壊】させ、危険から逃れる。

 

 

「あんな吸血鬼とかいう架空の存在に心酔してる奴とは比較されたくねぇんだよ。こっちはオールマイトと“吸血鬼狩り”殺したいから、んでもって黒霧は私情でアイツを入れただけなんだよ」

 

「吸血鬼狩り?」

 

 

 倒れたままだ。しかし純粋な殺意は発している。殺意の中に信念があった。そして未だ、もう一本のナイフを首に添えている者は吸血鬼と吸血鬼狩りという単語に耳を傾けた。

 

 

「知ってるか?巷じゃ吸血事件なんて呼ばれてるんだぜ?だが実際はアイツが作り上げた吸血鬼による行為で、その吸血鬼を狩るのが吸血鬼狩りのガキだ」

 

「……聞いた事はある」

 

 

 倒れている者は瞬時に左手で触れようとしたが、避けられてしまう。倒れていた者は肩の傷を押さえながら話を、危害を加えた人物の話を聞く。

 

 

「1年前、被害者全員の血液が無い状態で死亡し翌日に居なくなったという不可解な事件か」

 

「そう、それだよ。その事件を起こした吸血鬼を使って、この社会を滅茶苦茶に壊したいだけなんだよ。ここに集まる連中はな」

 

 

 危害を加えた者はナイフを仕舞い、話した。自分と相手の利害の一致が確認できたから。

 

 

「成る程、今という現状を壊す……この一点において俺たちは共通しているという事か」

 

「はっ?お前何言ってんの?」

 

「さっきのはお前の姿勢を試した、だが今ので理解した。お前の歪な信念を見届けてからでも始末するのは遅くないと」

 

「結局始末されんのかよ……」

 

 

 その話の途中で黒霧は体が動かせる事を理解した。同時に白衣を着た男は高笑いしながら立ち上がった。その声につられる様に3人は白衣の男に視線を向ける。

 

 

「グランドプロフエッツァル、完成したのですか!?」

 

「あぁ!そうだよ黒霧君!漸くだ!これで我々が、人類を超越する!」

 

 

 そう言いながら配線に繋がれていた1つの試験管を高く掲げる。それを見ていた2人の内の1人は、何時もの様に首や頭を掻きながら黙らせる。もう一人は直ぐに“保須市”に戻す様にと言い、黒霧によって移動させられる。

 

 

「おいプロフェッサー、それどんなんだったか?」

 

「くひひひひッ。忘れたのか死柄木弔?」

 

 

 それは人類を超越する“液体”。しかし同時に人間である事を止める“液体”。闘争へと導く液体。

 

 

「【ヴェアヴォルフ】、要は【人狼】に……吸血鬼を越えた存在になれるのだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休みが終わり、珍しく明密一人だけで登校している。雨が降っている為、傘で登校していたが違和感が残っていた。クラスに入るとまだ天哉と出久が来ていないらしく、少しだけ溜め息を吐く。

 

 自分の席に着く前に女子勢-葉隠・芦戸・お茶子の3名ーから、男子勢-上鳴・切島・峰田・砂藤の4名-に囲まれ前日の事を事細かく質問攻めにされた。

 

 しかしそれは明密が困っている所に梅雨が止める事で事なきことを得た。明密は梅雨にお礼をしたそうだ。

 

 席に着くやいなや、急に肩に重みと冷たさが感じられた。流石に驚いた明密は咄嗟に後ろに振り向くと、久しぶりに見ると感じるアーカードが居た。アーカードという既知の存在を知る明密は安堵の溜め息を吐き、話しかける。

 

 

「アーカードさん、急にはやめてくださいよ。本当に怖いんですから」

 

「悪いな。久しくお前と戯れが出来そうだったものでな」

 

「……アーカードさん、何か嬉しそうですね。何かありました?」

 

「あぁ!勿論だともアケミツ!私は今高揚している!」

 

「隠しませんねぇ……」

 

 

 何故か問い掛けると答えによってアーカードがハイになっている現状を周囲に居る生徒は見たが、直ぐに目線を逸らして見てみぬ振りを貫いていた。まぁこの不敵な笑みが、さらに恐怖を駆り立てるのは致し方無い。

 

 そうこうしている内に天哉と出久が教室に入ってきた。勿論、入ってきた2人は未だ高揚し続けているアーカードを見て扉を閉めようと考えたが自分たちのクラスなので入るしか選択肢が無い。

 

 渋々と謂わんばかりに入っていく2人、席に着くと同時にまた扉が開かれる。だが今回はアーカードは退室しなかったので疑問に思う明密であった。

 

 教壇に立った相澤は全員に緊張感を与える事となる。

 

 

「今日のヒーロー情報学は特別だぞ」

 

 

 “ヒーロー情報学”、主にヒーローという職業に関係する法律、システムなどを理解する為にある特殊な授業。特別と言われて全員身構えるが、次の相澤の発言で殆どの者が歓喜する。

 

 

「コードネーム、ヒーロー名の考案だ」

 

『胸膨らむヤツきたあ!!』

 

 

 しかし生徒たちの歓喜も相澤によって瞬時に治められた。まぁ致し方無いが。

 

 話は戻されるが、体育祭によるプロヒーローからのドラフト指名が先ずは発表された。注目が集まったのは、2・3位である爆豪と轟であった。1位である明密は何故か表示されなかった。

 

 

「先生、質問宜しいでしょうか?」

 

「何だ?」

 

「何故、疎宮さんの名前が見当たらないのでしょうか?仮にも1位で目立たれているのにも関わらず」

 

 

 この可笑しな表示に指摘したのは八百万であった。その発言で他の生徒たちは再度表示を見ると、やはり明密の名が何処にも見当たらない。それに対し、相澤の答えはこうだった。

 

 

「明密か、もう決められてるぞ」

 

『ハイィィ!?』

 

 

 驚く生徒たちを無視し明密の名を、体験先の場所ごと表示する。そこには明密のフルネームと、職場体験先である【イギリス政府国教機関】と出ていた。それらを出した後、話をする相澤。

 

 

「明密は今回、我が雄英で事例の少ない海外行きだ。政府関係なのは初なんだがな」

 

『スゲエェェェェ!!』

 

 

 またもや歓喜が訪れるが黙らせた相澤。しかし今回の事で何故アーカードが退室しなかったのか納得した。つまりは体験先の案内として居たというシンプルな事。

 

 そして名前を決めていくに辺り、今回はミッドナイトが名前の審査をしていくのだそう。最初はツッコミ所の多い名前が2つ程出されていた。しかし梅雨のヒーロー名を気に続々と出されていく名前。

 

 気が付けば残されたのは明密、出久、天哉と……名前が物騒過ぎたため再審と判断された爆豪の4名であった。

 

 主に生徒の殆どは自身の個性を名前に表しているが、明密の場合【デンスティー】という感じで決めて良いのだが……如何せん納得する名前が無い。

 

 何が良いかと考えていると、天哉は自分の名前をヒーロー名として出し出久は【デク】という名前にしていた。未だ決めていない明密は悩みに悩んだが、ふとアーカードの昔話から聞いていた名前を思い出した。

 

 これを使って良いのか悩んだが、これに勝る程の名前を思い付かなかった明密は名前を少しだけ改良を加えて書き全員に見せた。

 

 リジェネレーター【アレンス】と。アーカードが言っていた宿敵『アレクサンドル・アンデルセン』と密度の英語読みで『デンスティー』を少しだけ合わせた名前だ。勿論、何故この名前にしたのかはミッドナイトに聞かれるが、こう答えた。

 

 

「先ずは名前に密度を英語で“density”と呼ぶ為そこから、そして……ある方から聞いた話の中に『アレクサンドル・アンデルセン』という人が居たのを思い出して“アレクサンドル”から取りました。リジェネレーターは僕の再生と回復の“個性”から」

 

 

 その話をしたアーカードを見てみる。不敵な笑顔は崩していないが、より一層笑みを浮かべている様に見えた。ミッドナイトがOKを出した。

 

 

「なら明密、さっさと早退して準備しろ」

 

「えっ?」

 

「時差の都合上だ。兎に角アーカードと一緒に行ってこい」

 

 

 時差関係の事を少し考えて納得したのは良かったが、直ぐにアーカードに触れられ下駄箱から靴を取り出しまたもアーカードによって帰宅した後に準備する。

 

 そして準備を終えた後、アーカードからパスポートを渡され空港までワープされ飛行機に乗って出掛けていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヤン「ヤンと!」

ルーク「ルークの!」

「「後書きコーナー!!」」ドンドンパフパフ

ヤン「さぁ兄ちゃん!次職場体験だよ!予定していたヘルシングに職場体験だよ!!」

ルーク「…………※※※※」

ヤン「兄ちゃん、分かるけどさぁ……ヘルシングにアンデルセン加入(仮)みたいだから恐ろしくなるけどさぁ」

ルーク「………………」

ヤン「あ、駄目だこりゃ。頭ん中で考えすぎてるし」




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