密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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前書きをば。

誤字・脱字報告を頂き修正致しました。報告してくれた黒帽子さん、ありがとうございます。

では、本編をどうぞ










№3-9 センスvs経験

 明密は試合を終えて控え室へと向かっている。炎を受けて皮膚が焼けただれていたが、それも大分再生しており殆ど火傷の痕も目立たないまでになっていた。焦凍から受けた炎と氷は全くと言って良いほど効いてすらいなかった。

 

 手のひらを見ながら開いたり閉じたりを繰り返して様子を見ている。明密は轟の攻撃では違和感は体には感じてはいない。しかし参った事に……少しだけ視界がボヤけている。頭が少しだけ重くなっている。足元が少しおぼつかない。

 

 理由は簡単【再生】の“個性”の代償である。人間が傷を治したり皮膚を再生したりする場合、それは人間の治癒力に委ねられる。明密の【再生】は脳から治癒力を強制的に高める信号を発しているに過ぎないからだ。

 

 故に脳に蓄積される熱が明密を苦しめている。これは脳無との戦闘終了時に倒れた状態と同じであるが、戦闘終了時には体が全くと言って良いほど動かなくなったので今の状態はマシな状態だと言える。

 

 何とか控え室に到着し扉を開ける。そこには爆豪と戦う『拳動一佳』がパイプ椅子に座っている姿があった。扉を開けた明密を見た拳動は椅子から立ち上がり明密に近付く。

 

 

「君、お疲れ様」

 

「は、はい……貴女も頑張ってくださいね」

 

「うん?……君、体調悪そうだね。疲れてる?」

 

「あー……少しリカバリー・ガールの所に行きますので、ご心配ありがとうございます」

 

「そうか?……まぁ体は大事にしなよ。元も子も無くなるからな」

 

「はい……」

 

「あ、それじゃあ行ってくるよ」

 

「行ってらっしゃいませ」

 

 

 拳動はステージに向かうために走って向かう。明密はリカバリー・ガールの所まで少しずつ歩いて向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいコレ、脇にでも挟んどきな」

 

「ありがとうございます」

 

 

 リカバリー・ガールの所まで着くと自身の状態を説明し、保冷剤とハンカチを貸してもらったがハンカチを使わず保冷剤を脇に挟んで落ち着いている。低温火傷になりそうだが、早めに治したいのでそのまま。

 

 

「しっかし今さら発現した“個性”の代償ねぇ……あんまりその“個性”を過信しすぎちゃいかんよ」

 

「善処します。次は使わないようにしますから」

 

「うむ、宜しい。全く、どっかのバカにもアンタの爪の垢を煎じてやりたいわ」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 明密が思っているのは出久の事なのだが、リカバリー・ガールはオールマイトと出久の両方を言ってないが話している。そんな事を知る由もない明密は脳に溜まった熱を冷ましている。一応【回復】の“個性”も相まって熱は思いの外冷めていっている。

 

 そんな中、何時ものマイクの紹介らしき声が聞こえるが明密は回復しきってはおらず騒音にしか聞こえなかった。

 

 少しだけ待つと爆発音が小さくだが聞こえてきた。どうやら試合が始まり爆豪が仕掛けているのだろう。考えている内に熱も下がりきったので渡された保冷剤を元の場所に戻す。

 

 

「では、僕はこれにて」

 

「はいはい、頑張んなさいな」

 

「ふふ、分かりました」

 

 

 一礼をした後、走って応援席に戻りに行く明密。改めてだが、自分がここまで残っている事に感心しつつ緊張の糸を張りつめさせる。2つの十字を握りしめながら深呼吸をしていた。しかし明密が来た時には殆ど終わりかけていたため直ぐに向かわなくてはいけなくなった事実に少し絶望していた。

 

 応援席に居るA組の殆どが明密に対しドンマイという言葉を心中で言っていたそうな。その際明密は席に天哉が居ない事に気付いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁて、いよいよ最終決戦!!激闘の最中、ここまで登り詰めたのは猛者は…………この2人!!』

 

『凶暴性!残忍性!共にレベルMAX!老若男女容赦なし!爆豪勝己ィ!!』

 

『対するは!もう俺にはコイツが人間って呼べるか分からねぇ!そして性格どっちが本当なんだ!?疎宮明密ゥ!!』

 

 

 紹介はあれだが、そんな事を気にしない様子を見せている観客が歓喜の声を挙げる。細く長い深呼吸をしつつ、目を瞑り心を落ち着けさせる。爆豪の方は至って凶暴性が全面的に現れている表情をしている。

 

 因にだが、明密は爆豪の心持ちなどは気に入っているが発言は色々と気に食わない所がある。“死ね”だの“殺す”だの、明密は殺しを本当に行っており尚且つ成り果てた元人間に対し弔いを行っている。命の重みを若くして知っているため口癖だろうが無意識だろうが、その様な言動紛いの事をされると迷惑と感じている。

 

 ここで明密は考えた。完膚無きまでに叩き潰せば控えてくれるのでは……かと思ったが直ぐに否定した。こんな事で矯正が効くのなら苦労はしてないと直ぐに頭の中に浮かんだためである。

 

 そんな考えながらも明密は平常心を保ちつつ目の前に居る爆豪を見た。やはり表情は変わらない、何時もの泣く子も黙る凶暴な顔。

 

 

『それじゃあ最終決戦!スタート!!』

 

 

 マイクの開始宣言と同時に爆発によって加速して擬似的な空中飛行によって接近する爆豪。明密は拳を肩の高さまで上げて引き絞りながら構える。

 

 爆豪は何か来ると予想しており、爆発を用いて縦横無尽に移動している。明密の『空気弾《エアリアル・バレット》』は強力だが、巻き込む風が膨大過ぎる事を除けば一直線にしか行けない風の弾丸。故に相手が変則的に動けば狙いが定まらない。明密は爆豪が移動する度に体を動かして狙いを変えてはいるが定まらないのは確かだ。

 

 勿論、爆豪は狙って動いているというより“攻撃を当てさせない”という理由で動いているに過ぎない。しかし明密は“元から当てる気”など毛頭無かった。

 

 

「空気弾《エアリアル・バレット》!!」

 

「ッ!?」

 

 

 明密はステージに向けて拳を叩きつける様に殴る。すると、その殴った場所に吸い込む風と吹き出す風の両方が爆豪を襲う。しかもステージを殴った事で瓦礫や破片が空中に浮かび爆豪に向かっている。

 

 しかしこれでは近くに居る明密にも当たってしまうが、瞬時に自身を霧状にさせて吸い込む方の風の流れに乗る。爆豪は瓦礫や破片を爆発によって破壊し、風は殴られた場所の中心に着くことで影響を受けずに済んだ。

 

 済んだのは良かったが、顎に一撃を入れられる。爆豪が下に視線を向けると明密が元に戻ってアッパーを加えた後の姿が見えていた。吸い込む風に乗り中心に着いた明密は小さいが多数の自分を密度操作で作り視界から外れ、爆豪が着いた時を狙って元に戻り攻撃を当てたという事だ。

 

 爆豪もやられっぱなしという訳では無く、アッパーを食らった所で明密の顔面に向けて爆発を使用し攻撃と同時に上へと逃げた。そして爆発を使って明密から離れた。

 

 一方の明密は爆発によって視界を遮られたが体勢は崩さずに立っており、目は爆発の際に直ぐに閉じて守っていた。まだ足元に煙と風が蔓延っているが、直ぐにもう一度エアリアル・バレットを使用する事で爆煙を勝己の方に誘導させる。勝己は爆発で上へと逃げるが、ふと下を見ると風の威力が低下していた事に気付く。

 

 明密のエアリアル・バレットは謂わばバネの様にさせた筋肉を圧縮、そして解放させる事で威力の調整が可能だ。しかし急に行った場合は威力は、ほぼ最低のものとなる。

 

 その事を予測した爆豪は先程よりも威力の高い爆発で上から一気に降下する要領で加速しながら接近する。明密は脚の筋肉の密度を操作し、姿勢を低くして一気に駆ける。これによって当たる事は無く爆豪と距離を置く事に成功する。その爆豪は爆発でブレーキをかけてステージへと降り立った。

 

 この一連の攻防には誰しも固唾を飲む。片や、A組きっての天才であり天性の戦闘能力を持った爆豪。片や、あらゆる種目において才能を見せ人外じみた身体能力と“個性”を見せ付けた明密。この2人が本気で戦えば、どの様な結末が訪れるのか誰しも予想が付かなかった。

 

 今度は明密が仕掛けた。またもステージの“中”へと手を突っ込みながら爆豪に向かって走る。ステージの中心まで走った辺りで手をステージから出す。明密の両手にはまたも“5本の銃剣”が存在し、左足でブレーキを掛けて一回転しながら10本の銃剣を投げる。

 

 

「シャラオラァ!!!」

 

「うるせぇ!!黙れ偽善者!!」

 

 

 速度は速くも無く遅くも無かったが当たれば、それ相応のダメージが入るのは確かだと言える。爆豪は向かって来る銃剣に向けて爆発を発生させる。これにより銃剣は爆風によって銃剣の軌道を逸らすが、副次的に発生した煙の中から明密が現れ爆豪の腹に掌打を入れる。

 

 

「ゴフォッ!」

 

『おぉっと生々しいの入ったぁ!そして性格変わってるぅ!』

 

「調子に……のんじゃねぇ!!」

 

 

 明密の右手首を掴み、右手で高威力の爆発を顔面向けて放つ。

 

 

「ぐおっ!!」

 

 

 これには仰け反る明密。その仰け反った際に目を閉じながら爆豪から離れてしまう。爆豪は隙を狙い、またも爆発を発生させようとした。

 

 しかし殺気を人一倍敏感に感じやすい明密は咄嗟に目を見開き両腕でエアリアル・バレットを使用して距離を取る。爆発が発生した際には明密はギリギリ爆煙が当たる程の距離まで後退していた。

 

 既に観客は熱狂の渦が巻き起こり、興奮冷めやらぬ状態に陥っている。一人は殺し合いの中で培った経験を生かしつつ、本気に近い状態で“やり”合っている明密。一人は天性の戦闘センスを持ち真正面から明密という狩人《ハンター》と応戦している爆豪。

 

 この応戦に次ぐ応戦も、もうじき終わりを告げる。これ以上戦いを引き延ばすのは愚策と両者考えたのか明密はステージに手を突っ込み銃剣を引き抜き、爆豪は明密に向かって駆け出す。

 

 

『何か空気変わったぞ!!これはお互い決めに行くか!?』

 

 

 爆豪は爆発を用いて空中へと高く飛び、明密は右腕の骨と筋肉、皮膚の密度を操作し銃剣を後ろに下げ構える。真っ直ぐ爆豪へと視線を向けると、爆豪は爆発によって爆煙を纏いながら回転しつつ向かって来る。

 

 

「ハウザー!!」

 

「エアリアル!!」

 

 

 明密は大きく縦に振りかぶるモーションを行い、爆豪はかなりの距離まで詰めると両手を明密に向け爆発を行う。

 

 

「インパクトォォ!!」「スラッシュゥゥ!!」

 

 

 最大威力の爆発と同時に膨大な風圧が巻き起こる。これにより観客全員が、会場の外に居る人間たちが風圧を感じる事となる。

 

 爆煙は風圧により消し飛ばされ、上空に居る爆豪は風圧によって飛ばされつつあったが爆発を用いて場外を防ごうとしている。明密は全身の密度を操作して重くさせ銃剣を刺す事でステージのラインギリギリを粘っていた。

 

 風圧が止むと爆豪はステージ内へと落下していくが爆発で体勢を立て直し整え、明密はギリギリの所で踏ん張って耐えた。

 

 

『まだ終わらねぇ!コイツらバカみてぇにスゲェ威力出してんのに、まだやるのかよ!?』

 

『いや……この勝負決まったな』

 

『えっ?』

 

『見てみろ』

 

 

 マイクは相澤がステージを指差すのでステージへと目線を向ける。何が起こったのか分からなかったが、明密が爆豪を場外へと押し出していた。

 

 

『…………はい?』

 

「勝者!疎宮君!!」

 

『はいぃぃぃぃ!?』

 

 

 考えれば直ぐに分かるカラクリだが、明密は“個性”の【回復】によって僅かだが体力が回復した事で何とか爆豪よりマシに動く事が出来たのだ。不意に接近された事で体力をほぼほぼ使いきった爆豪は判断が鈍り、押し出されたという結果になった。

 

 

『なな何と!既に体力が尽きてるのにも関わらず、まさかの押し出し!!そして優勝は!A組ヒーロー科!疎宮明密ゥ!!』

 

 

 肩で息をする明密を観客の熱い声援が包み込む。明密は観客席を見渡し、ある場所に目線を向けると首に下げていた2つの十字を手に取り空に掲げ笑顔になる。

 

 

「そう!!あれかし!!!」

 

 

 そして明密の視界は真っ暗になった。誰かに支えられたが、それを見ている気力も今は無い。少しだけ休ませて欲しいと心から願う明密であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒れそうになった明密を支えたのは他でもない、アーカードであった。明密が目線を向けていた場所はアーカードたちが座っていた所で、その場所を見ながら笑顔で叫んだのだ。単なる報告のつもりなのだろうが、アーカードにとっては益々殺し合いをしたくなる為のトリガーとなってしまった。

 

 しかしこのまま倒れては今度宿敵と呼ぶ際に、どうしても笑いが止まりそうに無いとアーカードは考えた。それと同時に『疎宮明密』という一人の人間に再度興味が湧いた。

 

 その後明密は漸く目覚め、表彰台へと立ちオールマイトから金メダルを授与される。ふと2位に居る爆豪を見ると納得してないのか暴れているが、拘束されていて滑稽ものだったとアーカードは語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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