密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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前書きをば。

お気に入り登録者300人突破致しました!……早くね?このSSが26日に日間加点式のランキングに載っている事にも驚いてるのに……今は消えてるけど。

次にですが……更新が遅くなって申し訳ありません(´;ω;`)他の小説の連載を再開し、尚且つリアルが忙しくなったので執筆時間が取れませんでした。

こんな事がありましたが、何時もの様に続けさせていただきたいと思います!

では、本編どうぞ!







№3-7 余計な世話

 明密は天哉の元に駆ける。決して速くは無い。しかし常人の出せる速度でない事は見ている観客は生徒、教師陣や他のヒーローにも知れた。

 

 常人が出せない程の殺気の量、常人が出せない程の速度、常人が出せない程の威力、常人では味わった事の無い空気の冷たさが『疎宮明密』という逸脱した生徒を表していると言っても過言ではない。

 

 しかし、その殺気を受けている“影響”は必ずしも存在する。それは徐々にだが観客、生徒、教師陣、他のヒーローにも少なからず。無論、今明密の目の前に立つ『飯田天哉』もそうだ。

 

 この殺気量を真正面から受けて何も無いなんて事は無い。寧ろ影響は、ほぼ100%受けているだろう。この観客や生徒、教師陣や他のヒーローからも“頭痛”や“悪寒”という“貧血に似た症状”などが多発しているが目の前に居る天哉は親友である明密の背中に何かが見えそうな程の幻覚を受けてしまう。

 

 その隙を狙わない明密ではない。天哉に接近し右の銃剣を振るう。天哉は辛うじて左腕でガードするが重みで少し地面と摩擦しあう。左腕は斬れてはいないがダメージは大きい、一瞬で腕を持っていかれたと錯覚してしまう程の威力を放ったのだ。

 

 その銃剣を振るった明密の瞳には“明確な殺意”は存在しなかったが、それでも“本気”で戦う“覚悟”を持っていた。

 

 続けて左の銃剣を下から上へと振るう。それは天哉の顎へと向けられていたが、天哉は右腕でガードする。その右腕も、たった一撃で。されど一撃で、腕の神経が殆ど持っていかれた感覚を覚える。

 

 天哉の腕が両方とも上がらない様だ。ただし、あくまでも一時的な現象。時間が経てば腕は上がるだろう。

 

 だからこそ明密は、もう一度ステージの“中”に手を突っ込み引き抜く。両手にはそれぞれ“5本”ずつの銃剣があり、それを右手、左手という順に投げる。

 

 右手から投げられた5本の銃剣は天哉に迫るが、速度はそこまで速く無い。天哉の“個性”を用いれば、この程度なら逃げられる。そう思い行動に移る天哉だったが、後ろから銃剣が投げられ天哉の足元に突き刺される。

 

 これにより動きが一瞬、一瞬だけブレーキを掛けてしまう。天哉の両腕は今は殆ど機能を失っている状態だ、一瞬だけ動きが止まったが“個性”の発動中だ。では“個性”発動中、しかも体の一部が変化した―天哉はふくらはぎがマフラーになっている―タイプの速度上昇系“個性”を『発動直前で足止めされたら』どうなるだろう。

 

 答えはこうだ。『マフラーがオシャカになる』又は『危なげに転倒しかける』。

 

 予想は当たっていた。天哉の体が前へと倒れかける。その隙を狙わない筈の無い明密は天哉の背中を押して倒れさせ、最初に投げて地面に刺さっていた銃剣2つを天哉の首に当てる。逃げ場を失わせるために銃剣を交差させる。

 

 

「勝者!疎宮君!!」

 

 

 審判のミッドナイトから勝利宣言を受けとると出していた殺気を静め銃剣を消して天哉から離れる。立ち上がろうとしている天哉の手を掴み立ち上がらせると、天哉と明密は互いに目を合わせ握手をする。

 

 同時に観客から歓喜の声が挙がる。不愉快と感じていた殺気は無く、不調であった誰しもが元の状態に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、お疲れ」

 

「瀬呂君、ありがとうございます」

 

 

 途中、次の試合に参加する瀬呂範太と出会う明密。労いの言葉を言われ少しだけ微笑むのだが、そのあと瀬呂の顔の表情が崩れる。瞬時に理解した明密は苦笑いしか起こらなかった。

 

 次の試合が『爆豪勝己』という、あまりにもモチベーションが下がる事になる相手と戦ってしまうため。少し考えた明密は瀬呂に“ある助言”だけを告げた。これに反応し明密の方を向いた瀬呂だが、既に明密の姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやアーカードさん、急に転移はやめてくれませんか?」

 

 

 どうやら消えた要因はアーカードによるものだそうだ。アーカードは明密の肩に触れており外に出た様だ。アーカードは手を退け、それを理解した明密はアーカードと向き合う。

 

 

「悪いな。どうにも抑えられんかった」

 

「いや何がですか?」

 

 

 あまりアーカードの口からは出さない言葉に疑問符しか浮かばない明密。何時もの様に不敵に微笑み続けるアーカードだが、何処か楽しそうなのは感じ取れた。

 

 そんなアーカードを見ていると明密も少しだけ笑った。アーカードの笑いに誘われ笑ってしまった明密だが、何処か楽しくなっていた様だ。

 

 

『さぁさぁ!第二試合の余興も良いが、次行くぜェ!』

 

 

 ふと司会であるマイクの声が響く。そろそろ対戦が始まるらしかったのでアーカードに頼んでA組の集まっている場所の前まで移動してもらい、そこでアーカードは自分の席に戻っていった。

 

 明密は生徒が集まる場所に戻ってくると、切島や上鳴を筆頭に色々と言われる始末。しかし、やはり一番影響が大きかったのは“殺意”による影響の様だ。何でもお茶子は顔が青ざめ、口田や八百万は項垂れ、峰田は恐怖に怯え、出久はブツブツと喋り始めてしまう始末。

 

 

「(何ですかそのカオス空間?)」

 

 

 そう思っている明密だが、原因を作ったのは明密自身である。その事に気が付くのは時間も掛からなかったそうな。そんな思考は司会であるマイクの声量によって掻き消されるが。

 

 

『第三試合!中学時代はある意味有名人!入試でも堂々の1位!A組ヒーロー科!爆豪勝己!』

 

『対するは!至って普通!何処をどう見ても普通!同じくA組ヒーロー科!瀬呂範太!』

 

 

 この時、誰しも2つ思っている事があった。1つはマイクの紹介があれだという事。というか精神的に抉られていっているのだ。もう1つは……お分かりだろう。瀬呂と爆豪の能力差を考えるとA組は心の中で合掌しか起きなかった。

 

 ただ明密と出久は思考が違っている。というより明密は“アドバイス”が何処まで通用するかの確認、出久は試合の展開を予想しているだけだが。

 

 

「試合開始!!」

 

 

 ミッドナイトの合図が響く。瞬間、瀬呂は右腕からテープを射出する。狙いは……爆豪の右手。しかしそれはいとも容易く避けられ“テープは地面に接着し”接近を許してしまう。

 

 今度は左腕のテープを爆豪の左手に狙いを定めて射出する。これも避けられるが“テープは地面に接着する”。爆豪は関係無しに突っ込んで行き、瀬呂に向けて爆発の準備をしていた。

 

 しかしここで予想外の事が起きた。瀬呂が腕を交差させると爆豪はテープに当たり一時的にだが身動きが取れなくなってしまった。一時的だが、それでも瀬呂は十分と考えている。

 

 両腕のテープを切り離し、再度爆豪の両手を狙ってテープを射出する。これが成功すれば爆豪の攻撃手段を減らす事はできるが、現実はそう甘くなかった。爆豪は咄嗟に爆発を用いて射出されたテープを爆風で飛ばした。爆豪はテープから自力で解放し爆発を用いて一気に接近する。

 

 そして結果は……瀬呂の戦闘不能により爆豪の勝利となった。しかし、入試1位の実力を持つ爆豪を一泡吹かせた事でA組の他生徒からも観客席から見ていたヒーローからも司会と解説の2人も驚きの表情にあった。

 

 出久はブツブツと語り始めたが何時もの事だと考える明密。その明密はというと……微笑みながら小さく拍手をしていたそうだ。

 

 暫くしてだが、第四試合の轟と発目との対戦だが……これは轟が巨大な氷の固まりをステージ外まで作り上げて発目の動きを止める事で勝利となった。ミッドナイトからの判定を聞いたあと明密は氷に触れて水蒸気にさせる。轟は発目を熱で暖めていたそうだ。

 

 丁度、試合開始時に爆豪がA組応援席に到着し終わり頃に瀬呂が到着した。その際に瀬呂に対し労いの言葉が幾つも投げ掛けられ、瀬呂は表情を明るくさせて頬を掻いていた。

 

 続いて第五試合なのだが……これは芦戸が圧勝した。というより徹鐵も男気溢れるタイプなので女子には手を出していなかった事から負けたのだが。しかし徹鐵が複数人のヒーローに目を付けられたのは後々知ることになる。

 

 続き第六試合。切島と拳動という、これまた男子vs女子の対決になっていた。拳動の“個性”は手を大きくさせるというシンプルな物で、その“個性”で手を扇の様に風を起こしていた。対する切島は騎馬戦の際に明密が使用した獣状態の真似なのか、両腕を硬質化させ地面に突き刺しながら前進していく。判断的には良かったのだが、風が止んだ事で一気に駆けていった切島に待っていたのは……巨大な手に捕まえられて場外という結果。しかし試合での行動が複数人のヒーローに目を付けられたのは後々知ることになる。

 

 またもや続いて第七試合。お茶子vs八百万という組み合わせだが、先にお茶子が八百万に向かって走る。そのお茶子はというと八百万が生成した“網鉄砲”によって捕らえられ身動きできない状態に。つまりは八百万の勝利。

 

 最後に上鳴vs塩崎の対決となったが……敢えて言おう、瞬殺であったと。上鳴の瞬殺負けであった。

 

 これによりベスト8に進出する生徒が決まった。そして、次の対戦表が決まる。少し特殊だが、くじによってランダムに決められた様だ。

 

 

1 爆豪 勝己 vs 芦戸 三奈

 

2 轟 焦凍 vs 緑谷 出久

 

3 八百万 百 vs 拳動 一佳

 

4 疎宮 明密 vs 塩崎 茨

 

 

 発表されたと同時に爆豪と芦戸はステージへと向かう為に足を進める。芦戸の足取りは重い様に見えた。一方の出久と轟は控え室へと向かい歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は経ち、爆豪と芦戸の対戦が始まったが結果は予想通りだった。芦戸の完敗である。男女関係無く勝ちを狙いにいく姿勢は誰しも“少しは”見習った方が良いだろう。特に男気溢れる2人は。

 

 続いて轟と出久との対戦になる。つまりはマイクの紹介が入る。

 

 

『さぁ第二試合!お互い体育祭予選で好成績という組み合わせ!!A組ヒーロー科!緑谷出久!!バーサス!轟焦凍!!』

 

 

 この2人には期待の声、表情がそこかしこに現れる。どちらが勝つか、どの様な手段で相手を倒すのか。様々な予想が繰り広げられる中、マイクの開始宣言が言われる。

 

 瞬間、轟は足から地面を伝い氷を生み出していく。対する出久は左中指をデコピンの要領で放つ。すると生み出された氷は出久の目の前で止まり、その後破壊され所々に散らばる。風圧を諸に受けた轟だが後ろに氷を生み出す事で後ろに飛んでいく事を防いだ。

 

 またもや轟が氷を生み出していく。しかしそれも出久は左人差し指をデコピンの要領で放つ事で破壊していく。次も同じ様に氷が生み出されるが、左薬指で氷を破壊していく。

 

 この試合に多くの観客、生徒、ヒーローが予想できなくなっていた。しかし、それを思わない者も“5名”居る。

 

 

「筋肉酷使すれば筋繊維切れるし、走り続ければ息切れする。“個性”だって身体機能、何らかの限度がある筈だろ」

 

「僕も“個性”を酷使すれば疲労で形すら保てなくなる可能性だってありますよ」

 

 

 A組内でそう言ったのは、爆豪と明密の2人。

 

 

「誰だってそうだ。“使う”という事は何かを犠牲にしなければならないのだから」

 

「私の“個性”にも『その知識を忘れる』というデメリットも存在しますし、何より重複使用は避けたい“個性”ですから」

 

「故に連発できない。私は無個性だが“2つ個性”があれば強調しあって上手く利用できる事は理解している」

 

 

 観客席でそう言ったのはアーカード、バルバロッサ、インテグラの3名。この3名はそもそも、この様な光景は可愛いものだと若干飽きが生じている。

 

 ステージでは轟が氷を再度生み出し、それを出久が左小指で破壊する。轟は氷を生み出し、それを足場として駆けていく。それを見た出久は直ぐ様【右中指】で破壊するが、上から奇襲として右手で殴ろうとしたが間一髪で避ける出久。

 

 しかし左手には氷が生み出されており、そこから氷が出久に向かって行った。出久は氷に足を捕らえられピンチに陥る。轟はトドメとして氷を展開していくが殴る事で右腕全体に力を入れて破壊する。その風圧は凄まじいものだが、同時に出久もダメージを受けていく。

 

 その風圧を轟は防ぎ再度出久の前に立ちはだかる。ここで出久は轟の“弱点”を見つけて理解した。出久に向かって生み出される氷だったが、出久は【傷付いた右人差し指】で氷を破壊した。轟は風圧で押し飛ばされるが、氷を形成し何とか耐える。

 

 出久は轟に向かって叫んだ。「全力で掛かってこい」と。アーカードは出久の姿を見て……明密を見ていた時と同じ表情をしていた。それは【高揚】、己を犠牲にしても尚挑み続ける姿を宿敵と重ねていた。

 

 轟は出久に向かって走っていくが動きが鈍くなっている。体に霜が付着している為、体を動かしづらいのだ。ある程度まで近付き轟が右足で加速した瞬間、出久は生々しく轟の腹部に拳を入れて吹っ飛ばす。しかしこれには出久もダメージを負う。

 

 轟は立ち上がり、氷を放つが規模が小さくなっている。それは簡単に避ける出久だが、接近され氷が放たれる。しかし吹き飛ばして氷を破壊していく。それの反復がどんどん続けられており出久の左手の指もボロボロだ。

 

 しかしそれでも接近して拳を振るい、氷を避け続ける出久。生々しいが、それでも尚挑み続けている。轟という1人の人間に。またも氷が生み出されるが口を用いて親指で吹き飛ばす出久、それを後ろに氷を生み出す事で防ぐ轟だが体の機能が著しく低下しているのが分かる。

 

 轟は出久の頭突きで飛ばされ、そして拳を入れられて吹き飛ばされる。

 

 しかし予想外の事が起きる。轟が左の炎を【使用した】のだ。これにより右半身に付着していた霜は取り除かれ体の機能も元に戻った。その際に誰か叫んでいたが気にしないでおこう。

 

 出久と轟はお互いに本気でぶつかり合う。轟は左の炎の影響で右で大規模な氷を生み出し、それを出久は脚に力を込めて跳躍し避ける。途中ミッドナイトやセメントスが危険と判断し“個性”を使用するが、最早止まる事は出来ない。

 

 出久の腕が振るわれ、轟の左手から炎が放たれる。瞬間、何重もの壁が作られるが破壊され大規模な衝撃波が生じた。冷やされた空気が熱によって一気に膨張したため風が巻き起こる。明密は咄嗟に“個性”で空気の壁を作り被害を抑え、バルバロッサは咄嗟に出した壁でインテグラを守る。

 

 立ち上った煙が晴れてステージが露になる。

 

 結果は出久の場外。よって轟が進出となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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