密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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№3-6 再臨

 予選種目も無事に終え、1時間程の休憩中。明密、出久、お茶子は互いを労いつつ食事している。出久はカレー、お茶子は定食、明密はパンとシチューだそう。

 

 

「いやー、仏で妖精で神父さんって頭良いねー!それにさっきのカッコいい姿!」

 

「いや、せめて仏か妖精か神父のどちらかにしてくれませんか?」

 

 

 こう話しているのはお茶子と明密。お茶子は明密のアダ名を第一印象と第二印象で決めている様だが明密本人は、あまり心地好く思ってはない様だ。アダ名を1つだけに制約する辺り、このぐらいは妥協できるのだろう。

 

 そんな事をしている内に出久がある方向を見たあと、気付いたお茶子と明密も出久の見ている方向へと向く。何時もの赤い服装に、この巨体。死んでいるような白い肌と傲岸不遜な笑み、紛れもなくアーカードである。

 

 

「アーカードさん……何で来てるんですか?」

 

「私が労いに来るのが可笑しいか?アケミツ」

 

「可笑しくは無いですけど……それよりアーカードさんは何処に座ってたんですか?」

 

「西ゲート近くに座ってる。そこに我が主とバルバロッサも居るぞ」

 

 

 明密はアーカードの話をシチューを口に運びながら聞いている。バルバロッサという単語が聞き慣れなかったが、気にせずパンを食べている。ふと明密は思い出して、自分の首から2つのペンダントを手に取りアーカードに見せる。それらを見たアーカードは少しだけ驚いた後、また笑みを見せる。

 

 

「2つ……まさか2つとも掛けていたのか」

 

「えぇ。折角のお守りなんですから、2つとも持たなきゃ損ですし」

 

「……成る程。自分が誰かに何かを与えた時に相手が嬉しそうな表情をすると、こう自分も……か。中々味わう機会も少なそうだ」

 

 

 明密はアーカードの言葉に驚きを見せたあと直ぐに慈悲深い笑みを向ける。残された出久とお茶子だけは何が何だか分かっていない様子であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1時間の休憩も終え、広場に集まったのは良かったが……何故かA組の女子陣がチアコスをしている事に疑問符を浮かべるA組男子陣-1人例外-と司会2人、そして観客……は興奮している様だ。流石にアーカードとアーカードの主と知り合いは無いだろうと考える明密であった。

 

 それよりも今度はレクリエーションらしい。これは予選で落ちた者も決勝に進む者も参加できるらしい。……が、ここで予想外の事が起きる。

 

 第二種目の騎馬戦で『心操 人使《しんそう ひとし》』の騎馬のペアであった尾白、B組の『庄打 二連擊《しょうだ にれんげき》』が決勝への辞退を求めた。これには周囲に居る者も驚きを隠せずにいた。

 

 何でも騎馬戦での記憶が曖昧になっている事から自らの力で勝ち取った勝利で無い事から辞退を望んでいるそうだ。この判断に審判のミッドナイトは……好みで許可したそうだ。好みで許可をしてしまう審判もどうかと思うが、そもそも雄英は“自由”が校風として表されているため問題は無い……といえるか分からない。

 

 兎も角、この2人の辞退によって残りの2人の枠を埋めるためにB組から『塩崎 茨《しおざき いばら》』と鉄哲徹鐵が出場する事になった。

 

 そんでもってレクリエーション。明密は少し疲れも溜まっている為何処かで休もうかとばかり考えていたが、何処からか明密を呼ぶ声が聞こえた為その方向へと体を向ける。

 

 そこに居たのは騎馬戦時に迫ってきた泡瀬洋雪であった。今のレクリエーションは『借り物競争』なのだが、泡瀬の持つ紙に書かれてある内容を見ると少しだけ考えたあと理解ができた。そして泡瀬と共に走りミッドナイトに紙を渡し確認させる。ミッドナイトはOKを出し泡瀬はゴールした。

 

 因にだが、泡瀬の持っていた紙には“規格外”とだけ書かれた紙だったそうな。規格外ならアーカードも居るが泡瀬は明密の“個性”の応用技術や、それらを用いた身体能力の件から選んだそうな。恐らくミッドナイトは明密の複数の“個性”を知っているためOKを出したのだろうが。

 

 そんなこんなで時間が経ち、決勝戦へと進むトーナメント表が電光掲示板に表示される。

 

・1 緑谷 出久 vs 心操 人使

・2 飯田 天哉 vs 疎宮 明密

・3 爆豪 勝己 vs 瀬呂 範太

・4 轟 焦凍 vs 発目 明

・5 芦戸 三奈 vs 鉄哲 徹鐵

・6 切島 鋭児郎 vs 拳動 一佳

・7 八百万 百 vs 麗日 お茶子

・8 上鳴 電気 vs 塩崎 茨

 

 という対戦表となった。明密は第二回戦、そして一番の親友である天哉と戦う事になった。お互い思うことは一緒なのだろうか、天哉と明密は互いに近付く。

 

 

「明密君……この戦い、絶対に勝つ!例え君がどんなに強かろうと!僕は上に行く!」

 

「……なら僕も同じだ。天哉君に勝って、上に行く!行ってやる!君の親友として!ライバルとして!」

 

 

 ガシッという擬音が似合う握手。この様子の一部始終を見ていたミッドナイトは青い青いと言いながらも興奮状態に入っていたという。

 

 周りでは尾白が出久を何故か止めていたり、瀬呂が結果的に諦めていたり、お茶子と八百万は何時もの様子で接していたり、発目は轟に自分が作ったであろう発明品を轟に見せて話していたが呆気なく断られたりと。十人十色、各々が各々の思う通りに行動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一回戦の出久と心操がステージ上に上がり、プレゼントマイクから紹介文を言われる。

 

 

『第一試合!まずは雄英体育祭初!普通科からの刺客だあぁ!普通科!心操人使!』

 

『対するは!予選第一種目じゃ驚かせてくれたが、やっぱ成績の割に見た目は普通!ヒーロー科!緑谷出久!』

 

 

 観客からは声援が湧き起こるが1人は緊張、もう1人は不敵な笑みを浮かべていた。

 

 そんなステージ上に居る2人を見ているインテグラ、バルバロッサ、アーカードの2人と1体。インテグラとバルバロッサは、この戦いがどの様なものになるか楽しみにしている。アーカードは何時の間にか買っていた『りんご飴』を食べていた。食べ方は明密から教わったそうだ。

 

 そんなアーカードを見たバルバロッサは尋ねる。

 

 

「アーカード様、この戦いは興味無いのですかな?」

 

「ハッキリ言って興味は無い。……が、そうだな」

 

 

 アーカードはりんご飴を食べながらステージ上に居る『緑谷出久』を見た。

 

 

「今回は少なくとも、この戦いの詳細は気になる」

 

「左様で御座いますか」

 

 

 その直後、マイクからの開始の合図が言い放たれる。しかし、心操と出久は互いに一歩も動かずに向き合っていた。

 

 そんな状態が十数秒ほど続いたが、最初に戦局を動いたのは……『緑谷出久』だった。

 

 しかし、それは……最適とも呼べない行動であった。

 

 “自らステージの外へと歩きだした”からだ。これには誰しも驚いてしまうが、アーカード、バルバロッサ、インテグラは至って冷静であった。

 

 

「ほぉ……あの人間、【洗脳】か?恐らくだが」

 

「【洗脳】ですか……吸血鬼《ノスフェラトゥ》にも有効手段ですし、テロ活動を行う敵を操作できる。中々の“個性”ですな、インテグラ様」

 

「あぁ。しかし【洗脳】という強い“個性”を持っていながら何故直ぐに発動しなかった?」

 

「…………恐らく制限付きか。あの十数秒の間に何かした様だな。それ抜きとしても強いがな」

 

 

 そうこう話している間にも、出久はステージの外へと歩き続けている。このままでは出久は負けてしまう、そう誰しも思っていた。

 

 しかし、それは杞憂だったらしい。その出久は自分の指を犠牲にし心操の元へと走り出した。心操の左肩を掴み、場外へと押し出そうとした。それに抵抗し出久の顔面を殴る心操だが、それでも尚押し出そうとしている出久。心操は考えを変え場所を入れ換え押し出そうとしたが、それを読んでいた出久は背負い投げで心操を場外へと投げ出した。

 

 これにより第一試合は緑谷出久の勝利となった。見終えたアーカード、バルバロッサ、インテグラは何か話し合いをしていた。しかしその話はマイクの言葉でステージへと目を向ける事になる。

 

 

『さぁさぁ!次は第二試合!少しだけ待っててくれよ観客《オーディエンス》!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明密は現在、準備のため控え室に居る。パイプ椅子に座りテーブルに肘を着きながらだが、アーカードから貰った2つの“十字架”と“逆十字”のペンダントを眺めていた。この2つが、まるで共鳴している様に光で少しだけ輝いている状態を見ながら微笑んでいた。

 

 そんな時、控え室のドアが開かれる。その方向を見ると一回戦で出久と戦っていた心操人使が入ってきた。それを理解した明密は椅子から立ち上がり心操の元へと歩む。

 

 理解できない心操は立ち止まるが、そんな事はお構い無しと謂わんばかりに心操にお辞儀をする。これには何も言えずにいる心操。明密は言葉を綴ってはいくが。

 

 

「お疲れさまでした」

 

「…………あ、あぁ」

 

「……どうかされました?」

 

「あ、いや……まぁ……」

 

 

 突然の出来事にしどろもどろになる心操だが、それでも明密は笑顔を保ちながら話していく。

 

 

「貴方の顔、清々しいですね。良い顔ですよ」

 

 

 ただそれだけ。それだけを言うと控え室から出てステージへと向かう。その向かう後ろ姿を心操は見ているだけであったが、少し心は軽かったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ!続いて第二試合!ザ・中堅って感じ!A組ヒーロー科!飯田天哉!』

 

『対するは!常に笑顔!中性的な顔に隠れた本性は如何に!?同じくA組ヒーロー科!疎宮明密!』

 

 

 再度観客が湧く。しかも、この第二試合はアーカードが一目置く『疎宮明密』が戦う事もあってインテグラとバルバロッサも注目している。アーカードはどちらかと言えば応援に近い面持ちで楽しみにしているだろう。

 

 互いに向き合う天哉と明密。天哉はクラウチングスタートの構えをし、明密は天哉が構えた事を確認すると右脚を上げて後ろに移動させ構える。ミッドナイトは2人を交互に見た後、持っている鞭を鳴らしながら……

 

 

「試合開始!!」

 

 

 試合開始の合図を出した。

 

 

「3速!」

 

 

 ふくらはぎにあるマフラーから煙が吹き上げながら天哉は明密に一気に近付いていく。

 

 明密はその場からピクリとも動かずに構えた状態。しかし天哉との距離が僅か1メートルの所でカウンターとして下げていた右脚を用いて回し蹴りを放つ。

 

 天哉も1メートルの所で脚を真っ直ぐにさせ蹴りを放つ。考えていた事は同じだった様で、お互いの脚がぶつかり合い明密と天哉からは少しだけ風を感じていた。

 

 瞬時に明密は消え、先程まで天哉が居た場所まで移動したあと姿を形成する。急に消え、急に別の場所に現れるという現状に驚きを隠せずにいる観客。

 

 そんな歓声が響きあう最中、明密はステージに手を付ける。その直後、そのステージの“中”へと手を突っ込む。これにも観客は驚くが、明密は無視しながらステージから手を“引き出す”。

 

 そして明密の両手には、紛れもなく武器が。【銃剣】が、明密の両手に装備されていた。

 

 

『おいおい!あんなのアリかよ!?』

 

「事前に持っていた物は申告が必要ですが、作った物なのでアリです!」

 

『まぁだろうな。ヒーローなんざ一芸だけで勤まるなんざ出来はしない。だからこそ緊急で、尚且つその場にある物で武器を作るのはアリだろ』

 

 

 明密は銃剣の状態を確かめるべく、くるくると回していた。その隙を突いて天哉は一気に近付いて回し蹴りを放った。

 

 しかし明密は一旦霧状になり蹴りを回避し、未だに片脚を上げている天哉に体全体を使って押し倒す。押し倒した隙に霧状になって天哉から離れた場所で形を形成する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我は神の代理人 神罰の地上代行者」

 

 

 突如、その場の空気が冷えた様な錯覚を受ける観客。それはインテグラ、バルバロッサ、アーカードも感じていた。インテグラは昔の記憶が蘇り、バルバロッサは悪寒を感じとり、アーカードは身震いしながらも何処か昔の宿敵を思いだし一層笑みを浮かべる。自分も明密といち早く“闘い”を望んでいる様に。

 

 

『こ、これは……アピールか?』

 

『アピール……いや違うな。ありゃ本気で“やる”為のルーティーンだ』

 

 

 何時もの殺気、何時もの調子、何時もの感覚、何時もの……ではない瞳のある血走った目。“殺る”気ではなく今回は“やる”気を自ら醸し出す明密。

 

 

「我が使命は 我が神に逆らう愚者を」

 

「その肉の一片までも 残さず絶滅する事」

 

 

 銃剣を通常の持ち方にして右手に持つ銃剣を上から下に構え、左手の銃剣を重ねて【十字架】の形を作る。そして口角を普通ではない程上げて恐ろしい笑みを作りながら……

 

 

 

 

 

 

 

「       Amen!!     」

 

 

 

 

 

 

 野太く威圧し、大声を挙げ、アーカードが重ねる宿敵の面影を醸し出しながら、明密は天哉に向かい横に銃剣を振るう。それを上体を反らす事で避けた天哉だが、前髪が少しだけ削り取られる。

 

 追撃を狙い左手の銃剣を振り下ろす。天哉は間一髪で地面に倒れ転がる事で逃れ距離を取った。

 

 そして、ここからが【人間】と【人間】の対戦に勃発する。1人は【人間】なのか判断しかねるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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