密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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前書きコーナー

お気に入り登録者が200人に突入致しました!ありがとうございます!!200人になったので、番外編でも書こうかと考え中です。

では前書きはここまでとして、本編をどうぞ!







№3-5 騎馬ならぬ

 場所は変わって屋台が連なる通りに、ここでは珍しく茶色のシルクハットに茶色のスーツという暑苦しそうな服装をしている186㎝程の“外国人”が1人歩いていた。周囲に居る人間からは、この屋台が連なる通りで暑苦しい格好を見せられては此方も暑苦しくなってしまうのだが、当の本人は涼しい顔して焼きそば、たこ焼き、フランクフルトetc……兎に角色々買っており会場まで歩いて戻っている。

 

 ……かの様に思われたが会場から逸れて木々が集う場所に入ったと思いきや、その姿は無かった。しかし誰もその現象を見ていなかったそうな。“意外にも”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漸く第一種目も終了し現在居る人数である42人で、これから第二種目を始めていく。この会場の朝礼台に立っているミッドナイトを中心にステージに上がる生徒たち。無論、疲れてはいるが明密と出久も同様。まぁ明密は【回復】しているため徐々に体力は回復してはいっている。

 

 そんな中、次の種目が発表される。

 

 

「次はこれ!“騎馬戦”よ!」

 

 

 【騎馬戦】。そう騎馬戦だ。明密にとっては特に小中共に活躍の場があったのか疑ってしまう程の『興味ない競技』。しかし今回は4人1組ではなく2~4人で1組でもOKらしい。つまりは小さい者と大きな者がペアとなって組めば有利であったり、個性豊かで戦略が多いペアだったりと様々な種類がある。

 

 と、ここで先程の第一種目での獲得ポイント発表。因にだが与えられるポイントは一番下から5ポイント、10ポイントという風に上がっていく。明密は2位だったので205ポイントとなっていたが、逆に1位のポイントに驚きを感じてしまう明密。

 

 1位──10'000'000ポイント……この事実に周囲の目は出久に向けられ、全員目の色を変えて睨み付ける。だが明密だけは出久には目の色を変えなかった。

 

 ルールの方だが、先ず騎馬決めに15分。そして決められた騎馬の人数が得たポイントが加算され、その騎馬のポイントとなる。さらにはハチマキを取られようが騎馬が崩れようが必ず『15分』という制限時間の中、延々と動き回るのだそう。“個性”使用はルール上可能だが、『崩す』という目的での“個性”使用は厳禁。これに反する騎馬は即刻退場。

 

 そしてミッドナイトが合図をする。これにより全員各々の騎馬を組みに行くが、明密は出久に近付き手を取って言った。

 

 

「出久君!騎馬組もう!」

 

「へっ………?」

 

 

 これには誰しも明密と出久を見る。態々狙われる出久の所で騎馬を組むという無謀な行動に出る意味が分からないのは必然。これは出久にも当てはまる事であり、それに対して質問を投げ掛けるが明密は次の様に述べた。

 

 

「あ、明密君……本当に良いの…………?」

 

「うん。それにさ……皆が目の色変えて狙らってるのを見てるとさ、お節介って思われるかも知れないけど助けたいんだ。……これは狩りをしていてから考えてた事なんだけどね、『困ってる人間』が居れば助ける。それを心掛けてたからかな?だからさ……僕は君を助けたいんだ」

 

 

 最後に慈悲深き微笑みを出久に向けた途端、出久は文字通り滝の様に涙を流し明密に何度も何度も頭を下げて感謝していた。

 

 明密と出久はその後、お茶子が加わり“個性”の把握をしていく。

 

 

「そういえば明密君、競争に使った【変身】……だっけ?それって今も使える?」

 

「使えるには使えるけど……あれは時間が掛かるんだよね。これを考えると……もう1人居た方が良いのかな?」

 

「あ、じゃああれ!あのおっきくて赤い服着た!」

 

「アーカードさんは………………」

 

 

 明密の脳裏から浮かぶのは今までのアーカードの行動とアーカードの性格から予想される未来。流石に殺しはしないが、全員を蹂躙しそうで怖いので止めた。

 

 

「いや、やめよう。アーカードさんはやめよう」

 

「えー!?どうしてなん!?」

 

「USJでアーカードさんの“狗”状態見たでしょ?あれだと他が恐怖しそうだから駄目」

 

「「あー……」」

 

 

 すると明密の脳内に突如として浮かんできた無謀ともとれるアイディア。だが今現在の人数と時間を考えればできなくもない。寧ろ制限時間内で【序でに】別のグループのハチマキを取れる可能性もある。この計画を伝えるために2人を手招きし、耳打ちする。この計画には2人共驚いたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーカード、お前が一目置いている生徒は何処に居るんだ?」

 

「……丁度、右側の芝生の中心辺りだ。我が主」

 

「あの3人の……髪が立っている者か?」

 

「あぁそうだ。……それにしても、よく見えたな」

 

「何時までも健康で。バルバロッサが居なければ成し得なかったよ。それとさっき当たったのは“まぐれ”というヤツだ」

 

「感謝の極みで御座います、インテグラ様」

 

 

 観客席のとある横に連なった3席。その右寄りの席では政府の人間が居ようがお構い無しの傍若無人さを持った“元”吸血鬼の『アーカード』。

 

 左寄りの席では、先程の茶色のシルクハットに茶色のスーツを着た外国人。名前を『バルバロッサ』という。アーカード曰く、「何処と無く伊達男と似ている」そうだ。

 

 そして、その真ん中に居る御高齢の女性。アーカードやバルバロッサからは『インテグラ』と呼ばれている。御歳74歳だが、そこいらの若者より若々しい印象を見受けられる。

 

 その3人はバルバロッサの買ってきた焼きそば、たこ焼き、フランクフルトを食べた後に色々と話していた。主にアーカードが一目置いている『疎宮明密』に。

 

 何を隠そう、ここに居る3名は『疎宮明密』を見に来たといっても過言ではない。その為に態々“イギリス政府国教機関”、通称【ヘルシング機関】から訪ねたと言っても過言ではない。明密の話をするアーカードの無邪気さが微笑ましかったそうな。

 

 

「だが……そのアケミツとやらは実力はあるんだな?」

 

「あぁ、勿論だとも我が主。伊達に吸血鬼《ノスフェラトゥ》を40以上殺してはいない。そうでなければ私がアケミツを始末していた所だ」

 

「日本での犯罪行為は違反ではありませんか?アーカード様」

 

 

 バルバロッサの正論にやれやれと謂わんばかりに溜め息を吐くアーカード。バルバロッサの方に向き、何処と無く楽しそうな声を出しながら話した。

 

 

「最初はアケミツに吸血鬼狩りを見られた。その事実の隠蔽の為に始末しようと考えたが……そのアイツにも苦難は訪れた。面白くなりそうだとアケミツを連れて“選択肢”を与えた、銃口を額に向けながらな。だがアイツは拒否をすれば死ぬ事を理解した上で、自らの決意で吸血鬼を狩る“運命”を自ら選んだ……この意味が分かるか?」

 

「その犯罪行為には意味があったと?」

 

「まぁな。そのお陰で、こうして見られるんじゃあないか。アケミツという狩人《ハンター》を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこう話している内に制限時間である15分が経った。こうして騎馬は集うが、明密たちの騎馬は……『3名』であった。

 

 アーカードはにやりと口角を上げ、面白いもの見たさで前のめりの状態になりながらステージを見ていく。

 

 そして、開始の合図が鳴り響いた。その瞬間に上に乗っている出久を明密は上に放り投げ、姿を変えていた。

 

 10'000'000ポイントを狙っていた他の組は落ちてくる出久を待ち構えるか、自ら取りに行こうとするか、“個性”の使用で取りに行こうとする者が集う。氷が、人間が、茨が、巨大な拳が、出久に迫る。

 

 しかし、それらを全てはね除け出久を背中に乗せた者が居る。人間とは思えぬ巨大な爪と手足、さらには九つに別れた尻尾。人間より一回り大きな体。

 

 明密の“個性”応用。【部分変身】。向かってくる脅威を弾き飛ばしたあと出久を背中に乗せ、獣の様に手足を地面に着ける。その後お茶子が背中に乗り、準備が整う。

 

 

「行くよ!2人共!」

 

「うん!」

 

「よーし!行こー!」

 

 

 瞬間、獣状態になっている明密は両手足で跳躍し空中へと逃げる。本来であれば重力に従って落ちてくるため着地狩りをされやすいが……明密とお茶子が居れば話は別だ。

 

 空中へと逃げた明密たちを追う様に爆豪が爆発を用いて追いかけ近付くが、明密は九つの尾を密着させ進行を防いだ。その際爆豪が尻尾に衝突しモフモフとした感触を味わったのは言うまでもない。

 

 そして、さらに上に上がろうと両手を動かす。すると、何かしら足場が出来たように明密の両手は虚空に手を“置いて”さらに上へと上がる。この辺りで良いだろうと考え両手足を虚空に“置き”その場から動かなくなった。

 

 

『おぉっと!またもや疎宮が見せてくるぅ!つか今度は尻尾あるじゃん!九尾ってヤツか!?』

 

『必要最低限まで体を変化させ、後は自分の筋力を操作したか。しかも空中に逃げれば敵も少なくなる』

 

『正しく合理的ってか!?こりゃ逃げ切られるかもな!』

 

『アホか。敵が“少なくなる”つったんだ。今みたいに「デクゥゥゥゥ!!」ほらな』

 

 

 雄叫びに似た怒声を言いながら明密たちの騎馬に爆発を用いて近付く爆豪。そのしぶとさに、ある種の尊敬を覚えつつ明密は逃げていく。

 

 しかし爆豪はまだまだ追いかけており諦める選択肢が無いようだ。狙った獲物は逃がさず捕まえる、正しく狩人の様だと思える執念を持ち合わせた爆豪。それを獣の素早さで逃げ切ろうとする明密。

 

 それでも尚、何故か距離を縮めていく爆豪。出久の話では恐らく発汗量が多くなっている可能性だとか。そして明密の前まで回り込まれ出久が頭に着けているハチマキを取ろうとした。

 

 

「お茶子さん!!」

 

「うん!!」

 

 

 合図によってお茶子に触れられた明密と出久。明密は軽く跳躍すると上へと浮かび上がる。その刹那、先程まで明密たちが居た場所を爆豪が通りすぎた。そして爆豪は瀬呂のテープによって回収される。その後無重力状態を解除してもらい空中に両手足を“置いた”。

 

 逃げ切れた事に安堵の溜め息を吐く明密、出久、お茶子だが、明密の左腕に何かが巻き付けられる。見てみると、茨が数本ほど巻き付いていたのだ。直ぐ様密度操作で消して事なき事を終えたが、今度は3方向から狙われた。

 

 

『おぉっと!ここでB組の泡瀬 洋雪《あわせ ようせつ》とA組の常闇 踏陰!さらに……鳥?』

 

『口田の“個性”か、考えたな。しかもB組の奴は明密と同じ様に空中走行……常闇は何だ?』

 

『いや分かんねぇのかよ』

 

 

 小さな小鳥明密の視界を奪いつつ出久が着けているハチマキを狙い、1人空中で走って明密たちの元に駆け付け、1人空中に放り出されたかの様に重力の影響を受けながらも【ダークシャドウ】でハチマキを狙っていく。

 

 小鳥によって明密は視界が塞がれているが、それでも尚諦めない。

 

 

「出久君!お茶子さん!耳塞いでて!!」

 

 

 明密は大きく息を吸い込み、何かを準備している。そうこうしている内にダークシャドウは直ぐそこまで迫り、小鳥は嘴でハチマキを咥え、泡瀬は明密たちに近付いていた。

 

 その刹那、明密が遠吠えを挙げる。しかしその声量は人のものでは無く、『化け物』の様に大きな遠吠えだった。それは周囲に居た小鳥を怯えさせ、ダークシャドウを怯ませ、駆け付けてくる泡瀬と空中に居る常闇の耳を塞がせた。そして泡瀬は自分の騎馬まで降りて、常闇はある程度の場所からピンクの何かに巻き付かれ回収される。

 

 これに続くかの様に下では大きな遠吠えに耐えられず動きを止める者も居た。特に障子には絶大なダメージを与える事になっている。かくゆう一番近くに居る出久とお茶子も耳を塞いでいるがダメージはあるだろう。

 

 

『おっとぉ!!ここで大・声・量!俺の“個性”の意味!』

 

『空気の操作か。“個性”の使用時に空気を操作する事を応用させて振動を細かくさせたな』

 

 

 この大声量によって難を逃れたがダメージが出久たちに向かってしまった事は素直に謝罪した明密。

 

 しかし、今度は後ろから。しかも“ひゅるるる”という音をさせながら明密たちの騎馬に向かう。それを確認しようと明密は後ろを振り返るが、それは出久とお茶子たちを巻き込んで覆い被される。見ればネットの様な物が被せられていた。

 

 お茶子が向かってきた所を確認すると、轟の騎馬に居る八百万が大砲を生成して発射した物であった事が確認できる。

 

 さらにネットは凍らされる。これは轟の“個性”だと瞬時に理解できたが、どうやって凍らせたのか理解ができない。後ろを向いていたお茶子は轟が何かヒモの様な物を掴んでおり、それを凍らせているのが見えている。その凍らせたヒモを、さらに凍らせて足場を作り上っていく轟。

 

 しかしこれを知らない明密でもネットが体に被せられている為、密度操作で普通に消えてしまうが。慌てて落ちる轟を一発で回収した所を見たお茶子であった。

 

 

「やっぱり轟君と明密君の“個性”じゃ軍配が上がるのは明密君か。明密君の密度操作なら氷だとしても水だったり水蒸気にできたり出来るからね。でも体の一部に触れている場合に発動できるから遠距離攻撃には弱い。この体育祭で遠距離の“個性”を持っている人は居るけど全部触れられているから明密君も“個性”の発動ができる。でも一瞬の内に通り過ぎる様な“個性”ならどうなんだ?………」ブツブツブツブツ

 

「「出久君/デク君、恐い」」

 

「あぁ!ご、ごめん!」

 

 

 何はともあれ、制限時間になった。結果はご覧の通り、上空に居る出久、お茶子、明密の騎馬が1位となった。他は順に心操、爆豪、轟の騎馬が上位にランクイン。しかし残り1名は欲しかったのでB組の『拳動 一佳《けんどう いつか》』が入る事になった。

 

 それら決勝戦でのトーナメントを決めるために1時間程の休憩を終えてから始めるのだそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騎馬戦が終わった事を確認したアーカードは嬉しそうな笑みを溢しつつ、椅子から立ち上がり何処かへと向かう。

 

 

「アーカード、何処に行くんだ?」

 

「なぁに、労いの言葉でも掛けてやろうとな」

 

「そうか。なら早くしてくれ」

 

「了解した。我が主」

 

 

 アーカードはトコトコと明密が向かうであろう食堂へと歩いていく。それを見ていたインテグラとバルバロッサの目には、何処と無く嬉しそうなオーラが漂っているのが見えた様だそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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