密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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真 新 狂気
№3-1 謝罪 そして 特訓


 2日後、明密は自宅のアパートで制服に着替えていた。しかし表情は少しだけ険しくなっていた。昨日の内に熱も平常まで下がり、夕方に帰宅した明密。

 

 しかし医者の話によれば、本来はこの2日間で治まる程の熱では無かったという。恐らく発現した“個性”による影響だと考えられると医者は言っていた。

 

 その個性の発現を明密は朧気に覚えていた。発現する前に、誰かが明密に尋ねた。『何故死んだのか?』と。明密は『デイ・ウォーカー』と呼ばれる吸血鬼の脳無に殺されたが、吸血鬼を殺し果てるまで死ねないと言った事を覚えている。

 

 それからだ。明密の個性が発動したのは。熱の下がり具合が早かったため、2日目に来ていた根津校長に話したところ新たに発現した個性は【再生】と【回復】だそうな。恐らく【回復】によって熱の下がり具合が早かったのだろうと推測できた。

 

 話を戻そう。熱も平常に戻り雄英に行く準備を終えた明密は誰も居ない部屋を出ていく。アーカードは一昨日から出掛けており、今は居ない状態なのだ。

 

 そして登校途中、飯田天哉とバッタリ遭遇する。お互いを見た途端、明密は天哉に近付いて頭を下げた。

 

 

「ごめんなさい!!」

 

 

 明密はゆっくりと頭を上げ、天哉の目を見ながら言葉を綴っていく。

 

 

「今まで隠していて、それなのに僕は君を拒絶して……心配をしてくれた大事な親友なのに……それなのに僕は!僕は、君を突き放してしまった……謝って許してもらうなんて考えない。でもこれだけは言いたかったんだ。もし……もし君が許さないのなら、僕はどんな仕打ちも受ける。その覚悟は……できているんだ」

 

 

 言っている最中だが、嗚咽が溢れてしまう明密。少しだけ浮かんだ涙を拭き取るため袖口で拭き取る。

 

 そんな明密の肩に暖かさが軽く乗せられる。その暖かさを感じつつ明密は天哉を見る。天哉の顔は何処か嬉しそうな、そして申し訳なさそうな表情をしていた。

 

 天哉は明密の肩から手を離し言葉を綴っていく。

 

 

「そうか……それが君の答えなのか。……でも、今は学校に行く時間だ。遅れて遅刻してしまっては不味いぞ」

 

「ッ!………ありがとう、天哉君」

 

 

 明密は早々に駅まで走っていく。高揚した気分を出したまま。しかし天哉はあることに気付いて明密を追いかけていく。

 

 

「ちょ!明密君!今僕の事を名前で呼んだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校の正門前に着いた明密と天哉。途中出久とお茶子に会い謝罪をしたあと、不意に2人の名前を明密が呼んだため2人に止められる結果となった。

 

 そしてクラスの中へと入ろうとした際、突如明密の頭に浮かび上がった予測される最悪な未来。少し手から冷や汗が出て、その手が震える。

 

 しかし後押しされる様に天哉、出久、お茶子、面倒そうだったが相澤に励まされた後クラス内に入りHRの時間に生徒全員に自身の隠していた真実を告げる。

 

 1年前からアーカードと共に『吸血鬼狩り』として動いていた事。素性を隠しながら、何度も何度も【殺し】をしていた事を。勿論、政府からの承諾もあっての発言。そして、こんな自分を受け入れてくれるのかを尋ねた。

 

 先に訪れていた出久、切島、耳郎、天哉は決断しているかの様に返事をする。明密という“1人の人間”を受け入れる様に。それに続き、お茶子や尾白たちが明密を受け入れる。最終的には一応全員が受け入れる結果となった。

 

 それが終わった所で明密は自分の席に戻り、今度は相澤が生徒全員に伝える事があるという。明密はネタバレとして聞いたため身構える事はしなかった。

 

 

「お前ら呑気にしてる所だが、まだ戦いは終わってないからな」

 

「ま、まさか…………!」

 

「まだ敵がッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「雄英体育祭が迫ってきている」

 

『クソ学校っぽいの来たー!!!』

 

 

 明密は何時もの様に席から立って生徒を静めていく。ここまで騒がれては困りものだが、これが何時ものA組だと嬉しく思いつつ迷惑になりそうなので少しだけ殺気を使ってみた。

 

 相澤の眼力も使用されなかったので相澤が疲れる事は無かったが、新しい脅威が生まれてしまったと本能的に感じ取った他生徒は少し冷や汗を流しながら席に着く。

 

 だが流石に敵に襲われた後という事もあって明密は「行うのであれば監視態勢はどの様にされるのですか?」と聞けば、今回は例年の5倍のヒーローによる監視を導入していくのだそうな。これにより安全であるという事を世間に認識させるのだそう。

 

 雄英体育祭とは。かつてのオリンピックに代わる世界最大行事の1つであり、毎年5月に行われるビックイベント。そこでは様々なプロヒーローが素質ある生徒を調べるための場でもあり、生徒たちがプロヒーローに見てもらう場でもある。

 

 明密もこの雄英体育祭は知ってはいたが、その頃は興味自体も無く普通に生活が出来れば構わないといった感じであった。しかしながら明密も雄英の生徒、今回は真面目にしなければならない事も踏まえて考えながら授業を進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼時、何時もの様に天哉たちと昼食のために食堂へと赴くがオールマイトが出久を昼食に誘ったので出久はオールマイトの方へと向かう。

 

 かくゆう明密も切島、上鳴、芦戸、『常闇 踏陰』、耳郎、『葉隠 透』に昼食を誘われる結果に。天哉とお茶子も共に昼食をとる事を決めて食堂へと向かう。

 

 今回この様に切島たちが集まったのは、完全に“吸血鬼狩り”の事についてだった。確かに他者が聞けば興味を引く話題だろう。事実USJの際、常闇が飛ばされた所には吸血鬼は居なかったという。

 

 どういう訳か切島が聞くと、水が苦手な奴等ばかりだったと考えながら答える。まぁ殆どが人口吸血鬼だったため、USJの時もそうなのだろうと“水”が関係している場所は省いたのだ。

 

 矢継ぎ早に質問が繰り出される。今度は芦戸からで『アーカード』について尋ねられた。

 

 アーカードの場合は吸血鬼と答えて良いのか、はたまた別の存在なのか。明密自身、まだよく分かっていない所も多いがこうとだけ答える。

 

 

「生死が分からない存在ですかね?」

 

 

 補足としてアーカードの【シュレーディンガー】を説明すると誰しも納得した様に頷いた。生きているのか死んでるのかすら分からない存在であり、何処にでもいて何処にもいない存在であり、何者であって何者でもない存在のアーカード。考えている明密でさえも頭での理解が困難になりつつある。

 

 そしてこの質問も出てきた。明密は絶対この質問は投げ掛けられるのは予想していた。

 

 “殺した吸血鬼の数”について上鳴が尋ねてきた。この事には耳郎の耳たぶプラグが上鳴の頭に刺さり制裁が下ったが瞼をそっと閉じたあと開き、【40】という殺した吸血鬼の数を教えた。

 

 結果は謂わずもがな、ピシリという擬音が似合うほどに空気が固まった。USJで吸血鬼に襲われた者には理解できる様に、人間の常識を越えた身体能力や殺気を感じとる力を持ち合わせている奴等を40も殺しているのだ。

 

 それに続くかの様に“どの様にして殺した”のかを葉隠に尋ねられる。

 

 主な殺し方として【霧状になって撹乱させて心臓を貫く】という方法を使用している事を話す。それを聞くと「そりゃお前位しか出来ねぇわな」と上鳴が率直な感想を述べる。

 

 そんな話をしながら昼食をとり、クラスに戻っていこうとした時に明密が切島たちに振り返り感謝の言葉を述べたあと全員の名前を呼んで先々と戻っていった。切島たちは1歩だけ出したあと明密の変化に気付き追い掛けて行ったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後まで時は進み、明密は休み時間に予約していたトレーニングルームへと行こうとしていた。考えていたのは“対人戦闘”での技術を磨こうとしている。

 

 明密は吸血鬼を殺しているため、通常の生徒より身体能力は上位に食い込んでいるとは自覚している。しかしそのためか“いなす”という事を考えていない。主に霧状になって力任せに貫いているだけだから。他にはUSJで使用した蹴りの戦法を得意としてはいるが、危害を加えかねないので却下。

 

 そのため“いなす”技術を覚えようとトレーニングルームに行こうとしていたが、扉の前には爆豪と大勢の生徒たち。

 

 恐らくUSJ襲撃事件を生き延びたA組の者を見たかったのだろう。その様な興味を持つことは何ら不思議ではない。寧ろ人間としては、その様な興味を殺す事は一種の欲が無いと考えて良いだろう。実際にその欲が無い明密が例だが。

 

 ここでもまた爆豪の挑発的発言が他クラスの生徒たちに良くも悪くも影響を与えてしまう。B組の生徒の1人が爆豪に対し激怒の表情と声色を出していたが、爆豪は無視をする。しかしその去り際に、ある意味A組を鼓舞させる発言をする。

 

 

「上に上がりゃ関係ねぇ」

 

 

 たった一言、されど一言だが心に響く。黙らせたいのであれば上に行く。文句を言われたくなければ上に行く。シンプルながら合理的な言葉だろう。相澤が居たら合理的発言として認めてもらえる程に。

 

 これには他のA組の生徒も一部を除いて納得はしていた。勿論、明密もその内の1人。

 

 しかし他の生徒たちが密集しているのがA組前のドアだったため、溜め息を吐きながら他生徒が密集している前に位置する。勿論“表面上”は笑顔で対応するが。謝罪をしながら他生徒たちに話をしていく。

 

 

「皆様、大変失礼致しました。不快に思われた方がいらっしゃられましたら、僕の前まで来て言い分をお聞かせください。一応A組学級委員長ですので」

 

 

 それに従うかの様に集まる生徒。目の前に来たのは2名。金髪で何処か飄々としている男子と、切島と似て熱血タイプの男子。

 

 明密は名前を尋ねた後、集まったその2名の意見を聞いていく。

 

 

「では、お二方。名前をお聞かせ願いますか?」

 

「人に名前聞く時は、まず自分からだろぉが!」

 

「これは失礼しました。僕は『疎宮 明密』と申します。では、お名前の方を」

 

「俺はB組の『鉄哲 徹轍』っつうモンだけどよ!A組には嫌な奴しかいねぇのか!?」

 

 

 “嫌な奴”で何か頭の中で切れた様な感覚に陥った明密は表情を曇らせる。それに追撃を加えるかの様に放たれる発言。

 

 

「A組の学級委員長って聞いてみてどんな奴かと思ったけど、あんな狂暴そうな奴1人制御できないなんてねぇ。君たちA組も落ちたなぁ」

 

 

 カチンッと何かが、また切れた。そして明密は……本来“吸血鬼に向けるべきもの”を放った。何時もの血走った白い眼球だけになりながら、【殺気】を。

 

 変化の起きた明密を見て、扉前に居た生徒たちは恐怖に包まれた。その血走った白い眼球の状態で、明密は怒気を含みながら物申した。

 

 

「そうでしたか、これは失礼いたしました。しかし、貴殿方の意見を“黙って”聞いている限り貴殿方は何か誤解をされていらっしゃる」

 

「ご、誤解って一体な「人の話は最後まで黙って聞け」ッ!?」

 

「確かに僕のクラスメイトである『あの子』はあの様な言動によって敵を作り安いです。しかし、先程あの子が申した一言には貴殿方にも意味のある一言だったのです。そして、その一言を敢えて貴殿方に向けるとすれば……『そんな俺たちを観察する暇があるなら自分を強くしろ』という事と同じです。あの子はあの子なりに考えがあっての発言だったのです。それを貴殿方は批判の嵐という仇で返された……これには僕も黙ってはいられませんでした」

 

 

 それが終わると血走った白い眼球に黒い瞳が現れ、殺気も消えていく。一旦瞼を閉じ、開くと明密の表情は笑顔となっていた。

 

 

「そして皆様。大変申し訳ございませんが、道を空けていただけませんか?これでは帰宅の御迷惑になりますので」

 

 

 その言葉だけで道を空けていく他生徒たち。その出来た道を歩いていく。そして徐に立ち止まり言葉を綴り振り替える。

 

 

「あぁ、そうでした。1つだけ御忠告を。もしまた迷惑行為となる行動を続けられるのでしたら、その時は……“容赦はせんぞ”。Amen」

 

 

 そして歩き出す。明密は予約していたトレーニングルームへと向かう。その際、誰かが腰を抜かして音が響いたが気にせず向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーニングルームに到着すると始めにしたのはスマホでの“柔の技術”が行われている動画の閲覧。そして特に重点的に“柔の技術”が籠められている箇所を確認し行動していく。途中切島がトレーニングルームに入室したので“個性”無しの組手をする事になった。

 

 切島は主に拳での攻めを重点的に置いていたため柔の技術を使用しやすかったのだが、流石に最初は自分の実力を確認するため柔の技術は使わず本能的に戦った。

 

 主に蹴りを主体に置く明密と、主に拳を主体に置く切島の組手では接戦ではあったが相討ちとなってしまった。ここで明密が理解したのは“蹴り特化の戦闘”が上手く扱えてなかった事であった。それを改善するため研究しながら切島と再度組手をしていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある某所の“午前8時”。とある屋敷の中にて、その会話は行われた。

 

 

「『Day Walker』……まさか、その様な種まで製作が可能だったのか」

 

「あぁ、命令通りに“休み返上して仕事に入り浸っていれば”この様な結果が生まれてしまった」

 

「そして、アリシス姉弟に“新たな拳銃【二丁】”の依頼と。再生能力がバカ高く、しかも昼にも動ける【ヴァンパイヤ】に対抗する為に」

 

「あぁ……所で、私と共に吸血鬼狩りをしている奴なんだがな。聞いたことは無いか?雄英high schoolの催しを」

 

「私がJapanにまで行けと?」

 

「あぁ、勿論バルバロッサも連れて」

 

「アーカードがそこまで期待する学生か…………そうだな、私も見ていたい」

 

「ならば準備をせねばな。我が主」

 

「そうだな、我が従僕」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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