密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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№2-4 疎宮明密:オリジン

「…………何を言い出すかと思えば。“藁の様に死ぬ”?何だそれ?現実見てから言えよ、ガキ」

 

 

 全身に手の様なアクセサリーを付けた男がそう言った。正論だ。確かにアーカードや先程の明密の行動で脳無は傷付きはした。しかし【超再生】という個性によって対したダメージにはなっていないのも事実だ。先程の明密の発言は普通に考えれば、ただの杞憂に過ぎない。

 

 “普通に”考えればの話だが。

 

 

「アーカード、少し時間をくれ」

 

「理解した」

 

 

 アーカードは自身の肉体をまたも狗に変え脳無に襲い掛かる。脳無は本能的に察知したアーカードの殺意のせいで逃げの一手しか取らなかった。

 

 その間、明密はオールマイトに触れて筋肉と骨の密度と皮膚の密度を操作する。

 

 

「疎宮少年?」

 

「オールマイト。貴方の筋肉と骨、そして皮膚の密度を操作させました。恐らく脳無にも対抗できる筈です」

 

「!!!」

 

 

 オールマイトは自身の体の感覚を確かめる。確かに元々強固な腕や脚の筋肉に満ち足りた感覚があり、骨までもが満ち足りた感覚があった。さらには皮膚が前よりも固い事に気が付いた。

 

 オールマイトは再度明密を見ると、今度は明密の口からとある作戦を聞かされる。簡単に説明された作戦を聞き終えると、オールマイトは明密に尋ねた。

 

 

「……本当に可能なのか?」

 

「今の所、可能性があるのは“これ”だけです。しかしやらないよりマシでしょう?」

 

 

 オールマイトに向けて少しだけ笑みを浮かべる明密。それを見たオールマイトも口角を上げ微笑んだ。

 

 

「分かった。その可能性に賭けようじゃないか!疎宮少年!!」

 

 

 オールマイトは未だアーカードに襲われている脳無に向けて拳を構える。その目には一点の曇りも無く、明密の考えた作戦を必ず成功させるという信念を持っていた。

 

 

「アーカード!交代だ!」

 

 

 それを聞いたアーカードが明密の元まで下がると、オールマイトが脳無に向かって接近し拳を振るう。それに対抗するかの様に脳無も拳を振るう。

 

 拳と拳が衝突する。お互い本気で殴った影響で周囲からとてつもない風圧が生まれた。そして全く効いていなかったという事実を含んだ脳無への攻撃は、脳無の腕がオールマイトの放った拳によって少し押されていた事実によって覆された。それにより、幹部である3名が驚きの表情を見せる。

 

 

「おいプロフェッサー、脳無が押されてるんだけど?」

 

「…………恐らく、あの甦った奴の能力が要因だろう。つくづく私の予想を遥かに越えおって!!」

 

 

 プロフェッサーと言われた白衣の男は憤怒を露にしていた。自分の予想に当てはまらない者に対しての憤りが、男をそうさせていた。

 

 当の明密はというと、オールマイトに伝えた作戦をアーカードにも伝えていた。横目でオールマイトを見ると、少々優勢のオールマイトが確認できた。拳と拳をぶつけ合うが、その度に脳無が押されているからだ。

 

 そして作戦を伝え終えると、アーカードはニヤリと口角を上げて笑っていた。オールマイトは明るい印象の笑顔だが、アーカードはどちらかと言えば狂気の笑顔をしている。

 

 

「理解した。私も協力しよう」

 

「サンキュ。オールマイト!行くぞ!」

 

 

 明密はオールマイトに向けて言い放ち、その後アーカードは狗になって脳無の背後に行く。その際に幹部の3名はアーカードに巻き込まれそうになったため、黒霧の能力で安全な場所に転移したあと事の成り行きを見ていた。

 

 オールマイトが脳無と対立し、アーカードが脳無の背後に廻って逃げ場を無くす。そして明密は自身を霧状にさせて脳無の周囲を、殺気を放ちながら移動していく。

 

 この明密の行動により、殺気を敏感に感じる吸血鬼の特性を利用した作戦が開始された。

 

 先ずはアーカードが脳無の背後を塞ぎ逃げ場を失わせ、背後からの奇襲を含めた妨害行動を仕掛ける。これにより脳無は背中にダメージが加わり一瞬だが隙が生まれる。

 

 その隙を逃さずオールマイトは脳無に一撃を浴びせる。背中の傷は再生してしまうが問題は無い。寧ろ隙を生み出す事がアーカードの目的でもあった。

 

 そして明密。明密は自身を霧状にさせて殺気を放ち脳無の周囲を移動している。こうする事で脳無の撹乱を行い、さらに隙を生み出させる要因となる。

 

 アーカードが背後を塞ぎ殺気を放った奇襲をする。

 

 明密は脳無の周囲を霧状になって移動し撹乱させる。

 

 オールマイトは撹乱している脳無の隙を突き、強力な一撃を浴びせる。

 

 脳無とて弱くは無い。奇襲されても【超再生】という個性で無かった事になるから。

 

 だが【ショック吸収】という個性はどうだろうか?幾ら『オールマイト対策用の個性』だとしても、“吸収”ならば限度が存在する筈だ。もし“吸収”ではなく“無効化”であれば、明密の考えた作戦も水の泡と化していただろう。

 

 そして案の定“個性の限界”が訪れる。ショックを吸収し過ぎている影響で、脳無の体が所々オールマイトの拳の跡がめり込まれている。それも再生で無かった事にされるが、それも最早無意味と化す威力で拳はめり込まれていく。

 

 徐々に脳無が仰け反り始めた所にアーカードが奇襲を加える。案の定脳無は隙を生み出した。

 

 その隙を逃さなかったオールマイトは行動に移す。脳無の顎へアッパーを加え、脳無を少しだけ浮かせる。それを確認した明密は上半身と銃剣を形成し、周囲を移動しながら脳無を斬りつける。脳無の胸部に十字の形をした切り傷や腕や脚を切り落としていた。

 

 それを確認したアーカードは脳無の腰辺りの位置に噛み付きUSJの天井まで行き、天井に足の爪をめり込ませて張り付いた。

 

 それを確認した明密が全身を形成し、オールマイトの元へと行く。オールマイトは明密を持ち上げ投擲の構えをとる。

 

 

「Plus Ultra!!!」

 

 

 そしてアーカードが噛み付いている脳無に向かって思いっきり投げた。真っ直ぐ一直線に向かう明密は両腕の筋肉の密度と皮膚の密度を操作し、銃剣を前方に突きだし風圧の抵抗を弱める。

 

 アーカードは高速で向かってくる明密を確認すると、腰を噛み契り脳無の上半身と下半身を別れさせると退却する。

 

 刹那、向かってきた明密の銃剣が脳無の心臓部を貫いた。しかしオールマイトの投げる力が強すぎるせいか、脳無の心臓は明密の銃剣に突き刺さったまま脳無の体内から離れ、明密自身も脳無の体を貫いた。

 

 それにより体中が血まみれとなったが、心臓を取り出した事を確認すると明密は体と銃剣を液体にさせ天井に張り付いた。しかし脳無の心臓は個体を維持したままだったため天井に赤い染みが広がった。

 

 脳無は心臓が体から離れた途端、ピクリとも動かずにそのまま落下していき地面に血が広がった。明密は全身と銃剣を液体から個体へと密度操作して元に戻り、狗状態のアーカードの背中に乗せられる。

 

 アーカードが地面に降り立つと人型の姿に戻り、明密は地面に着地する。明密の体や服には血は付いておらず、付した血は明密とアーカードの後方でビチャッという音が鳴り響いたので地面に落下していたのだろう。

 

 明密とアーカードが脳無の残骸を確認すると、もう再生の余地は無いと確信し敵幹部の3人に殺気を向ける。オールマイトは敵幹部をじっと見つめており行動を起こそうとはしなかった。

 

 

「…………このチート共がぁ!!」

 

 

 手の様なアクセサリーを付けた男が声を挙げる。今までの殺し方を見ていた為、脳無があれほどまで苦戦し殺されるのを想定していなかった様だ。しかし、その男以上に憤怒の感情と表情をしている男が居た。

 

 

「貴様らぁ……よくも…………よくも!よくもよくもよくも!!この私の研究の成果を!!滅茶苦茶にしおってぇ!!」

 

 

 この白衣の男だった。ヒステリックになり明密、アーカード、オールマイトに憎悪を募らせている白衣の男だ。それを見ていた明密は溜め息を吐き、言い放つ。

 

 

「研究成果?人から化け物へと変貌させる外道の法理を使ったマッドサイエンティストが、何の権利があって口走ってんだよ?失せろ」

 

「ぐぎぎぎぎぃ……!この私の、あの方の崇高なる計画を!【外道】と呼ぶな!くそがきゃあ!!」

 

 

 プロフェッサーと呼ばれた男は白衣の懐から一丁の拳銃を取り出し明密に向けて発砲した。しかし吸血鬼の速度を見ていた事で反射神経が上がっている明密には弾丸を容易く避ける事ができた。

 

 そして弾丸を避けた後に、後方から発砲音が聞こえプロフェッサーと呼ばれた男の拳銃を弾き飛ばしたあと脚に弾丸が穿つ。

 

 オールマイトとアーカード、明密は発砲音のした後ろを見た。そこには大勢の教師陣が並んでおりいた。

 

 

「飯田天哉!ただいま戻りました!!」

 

「………ハハッ、漸く来たのか……ッ!?」

 

 

 明密が安堵の表情を浮かべた瞬間、明密はバランスを崩しかけた。アーケードは明密を受け止め、倒れない様にさせる。

 

 

「どうしたアケミツ?らしくないな」

 

「あ、あぁ。悪ぃ……ちょっと……頭が……クラクラする……だ……け……」

 

 

 そのまま明密は意識を失った。それを見た黒霧が一瞬にして白衣の男と手の様なアクセサリーを付けた男を包み込む。

 

 しかしここで何かに吸い込まれていく感覚を覚えた黒霧。それは生徒たちに支えられてはいるが復活した13号の【ブラックホール】によって吸い込まれていたのだ。

 

 だが如何せん距離が離れすぎているため黒霧は2人を包み込んだまま姿を消した。そして消え去る前に手の様なアクセサリーを付けた男は、こんな捨て台詞を吐いた。

 

 

「今度は殺してやる。平和の象徴も、吸血鬼狩りのガキもな」

 

 

 酷く憎悪がこもった台詞であった。

 

 消え去った後、アーカードは明密を抱えオールマイトに触れて転移しようとしていた。

 

 しかしオールマイトの体から煙の様なものが出現していくのを確認した。それを見たアーカードは少しだけ溜め息を吐きながら小さく「やはりか……」と呟いた。

 

 大勢の教師たちがオールマイトやアーカードの元へ到着する。他の生徒たちは相澤が連れて行きオールマイトの真の姿を見られないで済んだが、アーカードがオールマイトの真の姿を見た。

 

 それは殆ど骨と変わりない姿であった。その光景を見た教師陣は咄嗟にオールマイトを隠すが既に遅かった。

 

 だが先にアーカードは教師陣に明密を渡し容態を見てもらう事にした。来ていた『リカバリー・ガール』の判断によれば明密は高熱をだしているとの事。

 

 アーカードは痩せこけたオールマイトと共に搬送されていく明密を見届けつつ、他の教師陣と共に徒歩で学校内へと戻っていった。その際、オールマイトの真の姿を見た事は誰にも話さないと他の教師陣に言ったそうな。

 

 そして明密だが、高熱を出しており帰宅はままならず病院へと搬送されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヤン「ヤンと!」

ルーク「ルークの」

「「後書きコーナー!!」」ドンドンパフパフ

ヤン「何か今回短かったなぁアンちゃん」

ルーク「まぁ戦闘が話の内容だったしな。短くなるのも当然だ。だが一番気になる事が一つだけ」

ヤン「何々?何なのアンちゃん?」

ルーク「主人公がリジェネレーターになった事だよ。気付け」

ヤン「あぁ~……どんどんアンデルセンに近付いている主人公ね。リジェネレーター手に入れちゃったかぁ」

ルーク「攻撃しても霧状になって避けられ、攻撃入って傷付いたとしても再生と回復で無かった事にさせられる」

ヤン「それ何処のチート?」









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