密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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№2-2 狩人は眠る

 アーカードは【シュレーディンガー】により比較的安全な入り口付近まで転移する。そこには傷付いた13号と残されたお茶子、芦戸、瀬呂、砂藤が待機していた。上鳴を砂藤に投げ飛ばしてキャッチさせ、アーカードは明密が向かった場所に行こうとした。

 

 

「ちょっと……待ってくれ」

 

 

 急に後ろから声を掛けられたのでアーカードは振り向く。声を掛けたのは耳郎響香と認識するアーカード。

 

 

「何だ?私はこれからアイツの元に行かなくてはならないんだが?」

 

「……さっきの、何なんだよ?」

 

 

 耳郎は少し声を震わせながら問いかける。だが、アーカードは何時もの傲岸不遜な笑みを向けたまま口を開く。

 

 

「ただの殺しあいだ。【人間】と【化け物】のな」

 

「「ッ!?」」

 

「お前達は知らないから当然だ。あれは最早人間ではない。【化け物】だからアケミツは“殺した”んだ」

 

 

 その笑みを崩さずにアーカードは消えた。残された者が思ったのは、ただただ純粋な“疑問”しか残らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今は広場で相澤が一人で敵《ヴィラン》との戦闘を繰り広げている。個性【抹消】を活かしつつ捕縛武器で敵と敵を衝突させたり、殴りかかる敵の攻撃を避けて反撃を食らわしたりと。しかし一人だ。流石に一対多数では疲れは溜まる。例え得意戦法だったとしても。

 

 その時、空から何かが落ちてくる音が聞こえた。敵もその音に気付き、上を見上げた。その内の1人の胴体に膝蹴りをしながら着地した奴……疎宮明密であった。

 

 

「何でッ、来たんだよッ!?」

 

「加勢します。さっきの確認で吸血鬼でない事が判明しましたので手加減はします」

 

 

 相澤は捕縛武器で敵を投げ飛ばし他の敵を巻き込ませる。明密は能力を使わず素の身体能力で敵に接近し、回し蹴りを食らわせる。他にも後ろから来ているが、そこにアーカードが割り込み殴り付ける。

 

 

「仕事は出来たと。それじゃあ人間は気絶させる程度で」

 

「あぁ。流石にこの場ではな」

 

 

 明密とアーカードは同時に走り出し敵の顔面に攻撃する。膝蹴りを与えた明密はその敵を蹴って、体を無理矢理後方に回転させる事で後ろの敵を鎮圧させる。左から来ている敵が火を吹き明密を襲うが、その炎に手で触れ密度操作で消滅させた。

 

 相澤は明密の戦闘を見ながら敵を着々と倒していく。次々に来る敵に対し、防御のみ個性を使い攻撃や反撃には一切個性を使用していない明密。やはり吸血鬼相手に死闘を繰り広げている明密にとっては、このぐらい造作も無い事なのだろうと確信する。

 

 一方アーカードは攻撃してくる相手の腕を軽く掴み、軽く後ろに放り投げる。それだけでも相手は飛ばされ他の敵と衝突する。異形型の敵がアーカードの胸を殴る。敵はにやりと口角を上げたが、そんなものは効いていない様に不敵な笑みをアーカードはする。そして反撃と言わんばかりに敵の顔面を殴ると敵は鼻から血が出て倒れた。

 

 三対多数となった戦況で未だ勝ち続けているのは、相澤とアーカード、そして明密の三人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ良い頃合いだと思うぞ、プロフェッサー」

 

「まだオールマイトが来ていないじゃあないか?死柄木君」

 

「オールマイトも生徒が“殺されれば”来るでしょ。例え『吸血鬼狩り』が殺されたとしても」

 

「うむ……ならば黒霧君!呼びたまえ!」

 

「えぇ……了解です!」

 

 

 突如、黒霧の体が大きくなった事に気付く相澤、アーカード、明密。それは敵から難を逃れた生徒たちにも見えていた。

 

 そして、その大きくなった黒霧の体から何かが出てきた。

 

 脳がむき出し、口は鳥の様な嘴となっている黒い巨体。瞳は小さくなっており、歯は全てが犬歯の様に鋭く尖っている。アーカードと明密、さらに相澤も気が付いた。

 

 コイツは【吸血鬼】であると。初めて生で見た相澤は信じられない様子に、アーカードと明密は今までの吸血鬼と違う事を確信していた。

 

 

「さぁ……行ってこい、脳無。『デイ・ウォーカー』」

 

 

 死柄木が、その何かに命令を下した。すると雄叫びを挙げ、周囲に居る敵を薙ぎ倒しながら明密たちに近付いている。

 

 

「各自散開!」

 

 

 相澤が指示を下す。それに合わせる様にアーカードと明密は散開する。そして先程まで居た場所には、その何かが勢い良く通り過ぎ去っていった。しかし、その先には入り口付近に居る生徒たちが居た。

 

 

「気を引き付けます!」

 

「ッ!待て明密!」

 

 

 明密は脚の筋肉をバネの様にさせて跳んでいく。その何かの真上まで来るとベレッタ二丁を取り出し発砲する。しかし、その何かは効いている様子も無く明密の居る上空へと視線を向ける。

 

 瞬間、明密の視線からその何かは消えた。いや移動していた。“明密の前方”まで。明密は瞬間的に察知はした。しかし霧状になるのが遅れてしまい、ダメージを受ける。それにより明密は叩き落とされるが霧状になったため地面との衝突には至らなかった。しかし頭から血を流していた。

 

 明密にとって自分から流れる血は初めてではあるが、血や死体を見すぎた為あまり驚きもしなかった。

 

 上からその何かが重力に身を任せながら落下してくる。脚の筋肉をバネ状にさせ後退し、アーカードと相澤に合流する。その際頭から血を流しているので相澤が捕縛武器を少し契って巻き付けて止血する。アーカードは何故か表情を曇らせていた。

 

 その何かは着地する。相澤と明密、アーカードは戦闘体勢を整えながら話していく。

 

 

「相澤先生、アイツ吸血鬼です」

 

「吸血鬼……本来なら明密とアーカードの出番なんだが、さっきのダメージを見ると難しそうだな」

 

「私とアケミツの連携ならまだ可能性はある。相澤といったな?」

 

「あぁ」

 

「ならば貴様は他の奴を保護しておけ。無理矢理でも構わん」

 

「そうさせてもらう」

 

 

 相澤は後退し捕縛武器で生徒を捕まえるために行動を始めようとしたが黒霧のワープゾーンが出現し、その中から全身手の様なものを付けた人物が邪魔をする。咄嗟に避けてアーカードと明密の背後に移動する。

 

 

「チッ、回り込まれた」

 

「……仕方ない。アケミツ、私はコイツを移動させておく」

 

「ん。早くしろよ」

 

「あぁ。そうさせてもらう」

 

 

 アーカードは相澤の肩に手を置き【シュレーディンガー】で相澤ごと消える。残された明密は左手にベレッタを装備し、右手はガントレットの密度を腕にある銀の延べ棒で高め強固なものにさせて構える。

 

 今度は全身手の様なアクセサリーを付けた男が明密に話しかける。

 

 

「お前……一人でやり合うつもりか?」

 

「“やり”合う?“殺り”合うの間違いだろ?お仲間さん」

 

「……へぇ」

 

 

 手の様なアクセサリーを付けた男が明密に向かって接近する。即座に拳銃を構えるが後ろにその何かが迫る。殺気を感じた明密は狙われるであろう胴体を霧状にさせ難を逃れたあと、男に2発撃ってダメージを負わせる。男は左肩と左の二の腕から血が出る。明密は胴体の密度を瞬時に凝縮させ、その何かの腕を閉じ込めて拳銃を向けて乱射する。

 

 その内の1発が目に当たったのか、その何かは悶えて目を押さえる。その瞬間に明密は体を霧状にして腕を解放させる。そして密度を戻したあと、手の様なアクセサリーを付けた男は面白そうな笑みを浮かべていた。

 

 

「やるじゃん……吸血鬼狩り。脳無の目を潰すなんて」

 

「あの化け物、脳無って言うのか。スッゲェ力あるなぁ」

 

「そうだよぉ。本当なら【対オールマイト兵器】として個性を2つ、【ショック吸収】と【超再生】を付与させた物なんだけど……お前対策に『吸血鬼』にさせた。しかも太陽を浴びても死なない奴にしたのに」

 

「『デイ・ウォーカー』。そんなもの……いや、そうか。今までの“人工吸血鬼”は全てコイツを完成させるためか」

 

「おぉ!大当たりだよ君!凄いじゃん!」

 

 

 その男は高らかに声を挙げて明密に向けて拍手をする。何時気づいたのか男は尋ねると、明密は考えていた推測を全て話した。そして聞き終えた男は何処と無く嬉しそうな笑みを浮かべていた。しかし男はその後、残念そうな表情を浮かべた。

 

 

「どうした?気分でも悪くなったか?」

 

「あぁ……確かに気分は悪いね。だって」

 

 

 突如、明密の背中にとてつもない衝撃が走る。上に向かって飛ばされそうな勢いだったが、腕を掴まれ地面に叩き付けられる。叩き付けられる寸前に明密は誰か確認する。『デイ・ウォーカー』の脳無が目を開けていたのが見えた。恐らく個性の【超再生】で治したのだろうと理解すると、今度は反対側の地面に叩き付けられそうになるが霧状になって逃れる。

 

 

「脳無が殺しそうだから……って言おうとしたけど無意味だったか」

 

 

 冗談じゃないと思う明密。背中を傷付けられて骨が壊れる寸前まで追い込まれた挙げ句、血反吐を出しながら立っていられるのは奇跡と考えている。そしてやっとアーカードが戻ってくるが、明密は満身創痍であった。

 

 

「派手にやられたな、アケミツ」

 

「あぁ……物凄く派手に、な」

 

「ここから逃げるか?アケミツ」

 

 

 アーカードは明密に尋ねた。確かに今ここで逃げれば自分は助かるかもしれない。傷を癒して死にそうな状態を回避できるかもしれない。

 

 

「…………殺すまで死ねるか」

 

 

 しかし明密は真っ向から拒否した。例え血反吐を吐き出そうが骨が壊れる一歩手前だろうが、明密は吸血鬼を殺すまで止められなくなっていた。ベレッタを仕舞い、一撃で決める様だ。アーカードはその行動に笑みを浮かべ、銀色の拳銃を構える。

 

 

「そうだな、アケミツ。ならば私がお前の楯となろう。隙を生み出し一発で仕留めろ」

 

「あぁ……頼むぜ」

 

 

 アーカードは拳銃を発砲する。13㎜拳銃『カスール』を連発し脳無の体に大きな穴を連続して空けていく。脳無の動きが止まり、その隙を突いてアーカードは心臓あたりを狙い撃っていく。徐々に広がりつつある穴は超再生でも追い付かない程のものとなっていた。

 

 

「今だ!アケミツ!」

 

 

 アーカードはしゃがみ姿勢を低くする。その後ろには腕を引き絞った明密。密度を操作し腕の筋肉をバネの様にさせダイヤモンド並みに硬質化させた手刀を放つ。最大まで引き絞った腕は伸び、手は脳無の心臓にまで到達する。

 

 しかし、脳無はその腕を掴み心臓から手を離そうとしていた。恐らく完全に刺さっていなかったのか、手は簡単に除けられ脳無の心臓と皮膚が元に戻っていく。

 

 明密は手と腕を霧状にさせて腕を戻し、アーカードに目で合図を送り再度挑戦をしようとした。

 

 しかしその寸前、後ろから轟音が響く。振り向けば、一度見ればその姿は忘れられない【ヒーロー】が現れた。そのヒーローは何時もの決め台詞を周囲に居る敵に向けて、そして明密に向けて言った。

 

 

「もう大丈夫!私が来た!!」

 

 

 平和の象徴『オールマイト』。現れた途端、男は嗤い脳無に命令を下す。

 

 

「やれ、脳無」

 

 

 その命令を聞いた途端、脳無は走り出した。平和の象徴に向かって。オールマイトに向かって。

 

 

「くそっ!アーカード!頼む!」

 

 

 明密はアーカードに触れて消える。脳無はオールマイトを自身の拳の射程距離まで接近し、殴り付けようとする。オールマイトも対抗するかの様に脳無の拳に向かって殴り付けようとする。

 

 刹那、オールマイトと脳無の間に現れた明密とアーカード。アーカードは瞬時にオールマイトに触れ消え失せ、明密は全身の密度を高めて防御をするが時間が足りず鉄と同じ位の強度しか出せなかった。

 

 勿論、脳無に殴られて腕がひしゃげる。腕からは筋肉と折れた骨の先が見えており、その凄まじい威力によって壁に衝突する明密。その辺りからは砂塵が舞い上がっていた。

 

 入り口付近に集められた生徒たちは砂塵の方を見る。砂塵が晴れると、壁にめり込まれていた明密が脱出し、両腕や頭から血を流している事を赤く染まった血を見て気付く。それにいち早く反応したのは出久とオールマイトであった。

 

 

「明密君!!/疎宮少年!!」

 

 

 オールマイトはアーカードを引き剥がし脳無に向かう。それを援護するかの様にアーカードはカスールで脳無の肩を狙う。しかし脳無は振り向き様に一発だけ何も無い空間を殴る。その瞬間に突風が巻き起こり弾丸は逸れ、オールマイトも進行を防がれる。

 

 明密は足を地面に突き刺して何とか突風に耐えており他の生徒たちは突風に耐えきる者は耐えたが、耐えられなかった生徒は飛ばされる。

 

 そして突風が起こっている最中に脳無は明密へと向かう。それをアーカードが瞬時に回り込み止めようと試みるが、単純なパワーは互角であり脳無とアーカードの腕が損失した。しかし脳無は隙を突いてジャンプをし明密に向かう。アーカードは腕を再生させ脳無を狙い発砲する。

 

 しかし弾丸は突風により脳無の首に当たったが、体勢を崩さなかった脳無は腕を片方だけ再生させ手刀で明密の胴体を貫いた。

 

 誰しも目を見開いた。その光景に。

 

 明密の死に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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