密疎の狩人とシュレーディンガーの吸血鬼   作:(´鋼`)

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急に電波を受信して書きました。後悔はない。




狂い始め
№0-1 運命の歯車


 事の発端は中国で産まれた【光る赤子】によるものだった。それに続く様に相次いで産まれた赤子には特殊な能力が備わっていた。

 

 人々は特殊能力を“個性”と名付け、今では世界総人口の8割が“個性”を持つ超人社会となった。しかし“個性”を悪用し、自身らの欲望を満たす者も現れる。

 

 彼らはその者たちを【敵《ヴィラン》】と呼び、そのヴィランに対抗する為に新たに作られた職業こそ【ヒーロー】だ。

 

 彼らは幼き頃の夢であるヒーローになれる事が出来る様になったのだ。

 

 そして……ここにもヒーローを目指す者が2人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【私立聡明中学】

 

「なぁ明密ぅ、金貸してくれよぉ」

 

「ま、また?」

 

 

 校舎裏のとある一角。そこに三人の男子生徒が一人の気弱な男子生徒に金を貸せとせびている。即ちカツアゲである。

 

 このカツアゲの被害を受けている男子学生の名は『疎宮 明密《そみや あけみつ》』。

 

 容姿は黒髪ショートでアホ毛が頭の上にあり、目は垂れ目で少しとんがり耳。身長は166㎝と何処にでも居る中3学生だ。しかしながら気弱な性格が災いし、こうしてカツアゲに会わされる毎日なのだ。

 

 そんな中、その場所に一つの足音が響いた。四人とも音の方へと視線を向けると、眼鏡を掛けた七三分けの如何にも真面目という言葉が似合う男子学生が立っていた。

 

 

「君たち!!この様な場所で何をしているんだ!?」

 

「げっ!!生徒会長だ!!お前ら逃げるぞ!!」

 

 

 リーダー格の一人が合図するが、既に他の二人は逃げていたらしくリーダー格の男子学生は生徒会長に捕まり明密を連れて学年主任の所へと向かった。結果、日常的にカツアゲをしていた事が発覚しリーダー格の男子学生は退学処分沙汰となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何時もごめんなさい、飯田君」

 

 

 明密は先程の真面目な生徒会長『飯田 天哉』と共に帰路に着きながら話をしていた。明密の場合は殆どが謝罪であったが。

 

 

「気にしなくても良いさ。だが明密君も少しは対抗しなければ、あのままお金を盗られていた事は知っておいてほしい」

 

「うっ……返す言葉もないです」

 

 

 余談ではあるが、飯田天哉と疎宮明密は小学四年からの付き合いで仲が良い。きっかけは疎宮明密の気弱な性格で周りから虐められていた所に飯田天哉が助け船を出した事から始まった。それ以来、二人とも友人の関係にいる。

 

 しかし疎宮明密という人は、まだ気弱な性格のままである為こうして飯田天哉の助けを借りている始末。飯田天哉自身は頼ってくれても良いと言っているが、本人があまりそうしない性格なので助けてくれるのは偶然通りかかった時ぐらいなのだ。

 

 何時も二人で登下校をし、何時も二人で勉強をし、何時も二人でテストや入試に出てくる問題の話をしている為か、この二人は私立聡明中学のトップに立っている。勿論将来の事も話し合う事もある。

 

 

「そういえば明密君。まだ高校は決まってないのかい?」

 

「……うん、そうだね。それに一人暮らしだし、奨学金の事を視野に入れたとしても……些か抵抗を……かな?」

 

「君ほどの実力と個性を持っている人は、やはり雄英に行くべきと僕は考えているが……それでもか?」

 

「うん……でもやっぱり凄いよ飯田君は!!成績も優秀だし、凄い真面目だし、僕より凄い個性も持ってる。しかもちゃんと未来の事も考えてるから、尊敬するなぁ」

 

「明密君…………」

 

 

 疎宮明密は一人である。両親は既に他界し祖父母に預けられる事になったが、虐めの事も考えて中学二年の時に一人で暮らすようになったのだ。それ故にアルバイトの掛け持ちをしており何とか中学校に行けている状態だ。両親の遺産もあったが、全て祖父母に譲渡し自分は一切手を付けていない。

 

 ふと飯田天哉が腕時計を確認すると、明密に催促を掛ける。明密もスマホを取り出して時間を確認すると、そろそろバイトの時間という事を知らせていた。

 

 その場で飯田天哉と別れを告げて疎宮明密はアルバイト先に走って向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ファミリーレストラン】

 

 ここが疎宮明密のアルバイト先の一つ。主に接客やレジ係の担当をしている。気弱な性格といっても勤務態度は真面目で客や他のバイト仲間や店長からも評判は良い。疎宮明密から向けられる優しさは皆感動しており、その事から【仏】と賞賛する声も多々ある。

 

 午後十時半。漸くアルバイトも終わりの時を迎える時、女性のバイト仲間が話しかける。

 

 

「ねぇねぇ明密君知ってる?最近起こってる事件」

 

「えっ?えっと……あぁはい。一応」

 

「それがねぇ、今度はこの近くで吸血事件が起こったのよ!!」

 

 

 その女性から発せられた声に少し身を震わせたが、直ぐに治まった。

 

 【吸血事件】……警察やヒーロー、彼らがそう呼ぶ事件の名称である。事件の内容としては、『被害者の血液が全て無かった』事から名付けられた。さらに吸血された被害者が翌日直ぐに消えて無くなるという不可解な事件である。警察やヒーロー等は吸血し転移させる“個性”を持った者の犯行と考えられているが、世俗的には『吸血鬼の仕業』と噂されている。

 

 

「ま、また物騒ですね。それは」

 

「でしょー!!もう嫌になっちゃうわねぇ!!」

 

 

 最近はこの吸血事件で周囲はヒーローの警戒下の中にある為自分が好きなヒーローを写真に納める大チャンスな出来事であるが、明密自身は好きなヒーローというのも目指すヒーローというものも居ない為そこまで騒ぐ必要はないと考えている。しかし吸血事件がこの近くで起こった事に関しては気持ちの良いものではない。

 

 真っ先に考えていたのは友人である飯田天哉の事。そして周囲の被害の事や亡くなった被害者の遺族の方々を考えていた。

 

 ヒーローでもない限り一般人の“個性”使用は禁止されており、もし必要性の無い時に“個性”を使ったのならば大目玉を食らってしまうのは必然。しかし今回の事件騒ぎで護身と称して“個性”を乱用する者も増加している為ヒーローや警察は緊張の糸がほどけないでいる状態なのだ。

 

 明密は店の制服から学校の制服に着替えたあと荷物を持ち、帰りの挨拶を告げてから帰宅するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道の途中。明密はコンビニで商品を選びながら吸血事件の事を考えていた。しかし考え事の大半は他者に関してばかりの事だ。明密自身の事は何一つ考えていない。

 

 自分自身が気弱な性格なのだが、その気弱な性格は良い意味で捉えれば『優し過ぎる』のだ。そのせいか時々自己犠牲とも捉えられる行動を起こしたりするのも明密の性格。

 

 そんな考えの中、明密はキウイジュースに明日の朝食や足りなくなった消耗品を買い揃えてレジへと向かう。

 

 

「あ、すいません。辛味噌チキン一つお願いします」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 笑顔で接客をしている60代に見えるこの女性。何時もこの時間帯に来る明密に対して色々と労いの言葉を掛けてくれたりするので、明密からしてもこの女性には好意を持っている。

 

 

「はい、お待ちどうさま。最近は物騒だからね、早く帰って戸締まりするんだよ」

 

「はい。分かりました」

 

 

 買った品物が入っているビニール袋を受け取り、お金を払ってコンビニを出る。ふと明密が空を見上げると、赤く丸い満月が辺りを照らしていた。不気味な感情と綺麗だと思う感情の最中、明密は帰路に着こうとしていた。

 

 一歩踏み出した途端、何処からか呻き声が聞こえた。さらには足を引き摺る様な音まで聞こえてくる始末。その音は近くからしていた為、音の方向まで行ってみた。

 

 その音に近付き、灯りのある場所に通りかかった際に姿を見る。

 

 姿としては普通の人間と変わり無い後ろ姿。しかし歩き方からは生気が無いように感じ取られる為、不審に思い明密はその後ろ姿を見つからない様に追跡する。

 

 そして、それが右に曲がった所で場所が分かった。ここは随分前に空になったビルであり、この場所に何かあると踏んで中に入ろうとする。

 

 瞬間、何者かに見られている感覚を覚えた。咄嗟の事でついつい“個性”を発動させ、周りから見えなくさせた。いや、自分自身や荷物が『霧となって消えた』という表現が正しい。

 

 個性【密度操作】──自身や触れた物の密度を操作できるぞ!!

 

 密度を操作して霧状に状態変化させ姿を消したのだ。そして密度を元に戻して人の形に戻り、荷物も元通りにした。そしてビルの中へと入ろうとする。

 

 玄関まで行き着いた途端、突如としてビル内を響く音。それが何か確信した明密はビルの中へと入っていき、音のした部屋まで駆け抜ける。

 

 上に上がる度に音は大きくなり、その部屋に着いた時の音は耳を塞がなければいけない状態であった。

 

 荷物を扉近くに置き、“個性”で霧状になったあと扉の隙間から部屋に入る。

 

 

「ッ!!!」

 

 

 その光景を見て驚愕する。それもその筈、明密が見ていた光景は……『銃を持った人物が明密の近くにいる人物を撃っていた』のだから。

 

 そして、歯車は動き出す。明密とdraculaの歯車は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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