S.T.A.L.K.E.R.: F.E.A.R. of approaching Nightcrawler   作:DAY

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Interval 06 F.E.A.R.

「そろそろ収まったみたいだな」

 

 外の様子を見たストーカーはそう言った。

 空が赤い為、まだ夕方だと思っていたがそれはブロウアウトによって引き起こされた赤い空による錯覚だったようだ。

 ブロウアウトによる嵐が収まるにつれて、赤い空は暗くなり、数えきれないほどの星々が瞬く夜の空へと変わっている。都会の夜とは違い、人工的な明かりが全く無い為、普段なら肉眼では視認できない星まではっきり見える。

 陰鬱なZONEとは思えないほど美しい星空だ。

 

「いつもZONEは曇ってるんだけどブロウアウトの後は、雲も吹き飛ぶから空が綺麗になるんだ」

 

 ストーカーはそう言って無邪気に笑った。

 その後、彼はルーキーキャンプへの移動を提案してきた。

 軍曹からすれば夜の移動は危険な様に思えたが、ブロウアウトの後はミュータントも暫く鳴りを潜める為、むしろ安全ということでルーキーキャンプに移動することにする。

 Pseudodogはいつの間にか姿を消していた。ブロウアウトが収まった後、トンネルの反対側から出て行ったのだろう。

 

 あの犬が陣取っていた場所には犬の肩口に突き刺さっていた軍曹のナイフが置かれていた。

 この行為の意図する所は分からないが、ブロウアウトから逃れる為に武器と装備の大半を失ってしまった為、ナイフの一本でも今はありがたい。

 ナイフを回収すると血を拭って、鞘に納めて彼はトンネルの外に出た。

 

 

 

「……後で装備を回収しないといけないな」

 

 夜の闇を歩きながら軍曹は一人ごちた。武装と装備の大半をブロウアウトから逃れるために放り捨ててしまった。

 PDAや無線機、アノーマリー探知機等、必要最低限の物は身につけていたが、バッテリー、銃弾や医療品、食料等の消耗品は全てバックパックの中にあった。武器もナイフと自動拳銃のみだ。

 幸いフラッシュライトは手持ちとヘルメットに付いているのがあったが、それがなければ明かりもなくこの闇夜を彷徨うことになる所だった。

 軍曹の独り言が耳に入ったのか、隣を歩くストーカーが言葉を返してくる。

 

「……あんまり期待はしないほうがいいぜ。ブロウアウトに晒された装備は間違いなくボロボロになって使い物にならなくなってる。無い物と考えてシドロビッチの所で適当な装備を調達したほうがいい」

 

「憂鬱な話だ」

 

 あのトレーダーがどれだけふっかけてくるのかを考えると気が滅入ってくる。

 まさかZONEに入って初日で装備の大半を失う羽目になるとは。

 

「あんたの装備については俺のほうでもどうにかしてみるよ。俺の命と引き換えにしてくれたようなもんだからな。……でも、あんな高価なライフルとかそういうのは期待しないでくれ。ここじゃ最新式のライフルはそれだけで一財産なんだ」

 

「引き金を引いて弾が出れば文句は言わんよ。元々現地調達は得意でね。……だが水平二連は勘弁してくれ」

 

 あのオーバーンの戦闘でも自前で持ち込んだ武器はあっという間に弾が切れ、殺害した敵の武器を奪い取り、弾切れになってはまた別の敵の武器を奪い取るの繰り返しだった。

 そのためか自分の武器に対してさほど思い入れはない。

 勿論使うなら高性能な武器に越したことはないが、あのルーキーキャンプでのストーカー達の武装を見る限り、武器に性能を求めるのは諦めたほうが良さそうだ。

 だからといって水平二連の散弾銃を片手にZONEを彷徨うというのは、冗談を通り越して悪夢に思える。

 それを聞いたストーカーは小さく笑った。

 

「あれは本当に初心者用さ。銃に関しては俺のお古でよければ譲ってやるよ。拘らなければ使える物は結構あるんだぜ」

 

「そう願いたいね」

 

 夜の帰り道は行きと違って実にスムーズなものだった。

 ブロウアウトのせいかミュータントの気配は殆どなく、注意を払うべきはアノーマリーのみ。

 唯、来た時と位置が変わっているアノーマリーもあった。

 ストーカー曰く、ブロウアウトの後はアノーマリーの位置が変わるらしい。

 そのため、アノーマリーが多いZONEの最深部はブロウアウトの度に人が通れるルートを開拓し直さなければならないらしい。

 

 そうしてアノーマリーを避けつつ怪我をしたストーカーのペースに合わせた結果、ルーキーキャンプに着いたのは深夜になっていた。

 村の入り口で寝ずの番をしている見張りに挨拶をし、(見張りは新人の役目らしい)真っ先にシドロビッチの地下壕へと歩を進める。

 昼間と同じ手順で武装を解除し、ドアの中へと入る。

 地下壕の中ということもあるせいだろうか、シドロビッチの様子は昼間とほとんど変わらなかった。

 

「よう、ブルー。生きていたようでなりよりだ。せっかく生きてるって連絡が来たのに、その後すぐにブロウアウトが起きた時は正直諦めたぜ」

 

「へっ。あんな仕事で死ねるかよ。……と言いたいとこだが今回は本当にやばかった。あんたの寄越してくれたヒーローがいなかったら俺は今日だけで4回は死んでたよ」

 

 そう言いながら懐からストーカーは懐から取り出した小さなメモリーデバイスをカウンターに乗せた。

 シドロビッチはそれをノートPCに接続して中身を確認すると満足気に頷いた。

 

「間違いなく目的のブツだ。これで約束通りお前の借金は全部チャラ。ほれStone Bloodも用意しといたからこれで傷を治しときな」

 

 そう言ってシドロビッチは奇妙な石をストーカーに渡すと今度は軍曹の方に向き直った。あれが傷を癒やすというアーティファクトなのだろうか。

 

「あんたにも礼を言っとくぜ。色々大変だったようだがこのZONEに入りたての奴がブラットサッカーを始末して、ブロウアウトまで乗り越えて仕事をこなして見せた。間違いなくあんたは信頼できる戦士だ。で、情報が欲しいって言ってたな?」

 

「……ナイトクローラーという傭兵部隊だ。規模は恐らく中隊以上。装備はアーマカム社製の最新装備で固めてる」

 

「ふむ。実の所そいつらのことはまったく知らない訳じゃない。しかし付き合いがないから噂程度の事しか知らないってのも事実だ。えらく好戦的な連中らしいから付き合いたいとも思わないしな」

 

 シドロビッチはどう答えればいいか考えあぐねる様な表情をした。

 だがようやく掴んだ情報だ。どんな瑣末な事でも情報は欲しい。

 

「やはりそいつらはZONEで活動してるんだな?噂程度でもいい。何をやっているか、拠点はどこにあるかってことを知ることはできるか?」

 

「……何をやっているかについては、どこぞに頼まれてアーティファクトを探してるってのは間違いないだろう。だが拠点はZONEの奥にあるって事しかわからん。ナイトクローラーに限らず自前のルートを持つ傭兵部隊は拠点を絶対に第三者に明かさない。補給まで自前でやるから俺たちトレーダーが入り込む余地はない。しかし最近奴らの妙な噂を聞く」

 

「妙な噂?」

 

「奴ら装備と人員を強化してZONEの奥で大規模な活動を始めたって噂だ。その為、同じ様にZONEの奥で活動してるストーカー達やそれ以外の勢力……FreedomやDutyとトラブってるって話だ」

 

「なんだその……FreedomやDutyというのは?」

 

「Dutyは元はZONEを制圧するために送り込まれたウクライナの正規軍の生き残りだ。ZONEの拡大と脅威を抑えることを名目にして、日夜人類の為にミュータント共と戦っている自称正義の味方だ。Freedomは逆にZONEは人類にとって貴重な資源と言ってZONEの物を外に売り払ってる連中さ。

で、この2つの組織は考え方が正反対のせいで常に犬猿の仲だ。ZONEの奥はこの2つの組織が幅を効かせてたんだが、そこにナイトクローラーが割りこむようになってきたらしい。この2つの組織を相手に互角以上にやりあってるって話だ」

 

 そこに隣にいたストーカーが思い出したように話に口を挟んできた。

 

「そういえばストーカー仲間に聞いたことあるぜ。最近見たことのない傭兵部隊が勢力を広げて、FreedomやDutyの縄張りを乗っ取っちまったって。そいつらはストーカーに対しても敵対的なせいでZONEの奥地の治安が悪化してるってよ」

 

 その話を聞いて軍曹は考え込んだ。

 

「奴らの目的はZONEの制圧か?他の競争相手を排除してアーティファクトの採掘でも独占しようって腹積もりか」

 

 その言葉にシドロビッチが首を横に振った。

 

「いくら勢力がでかくてもたかが傭兵部隊がZONEを制圧するのは不可能だ。しかし競争相手の排除ってのは十分にあり得るな。そういえばお前さんなんで連中を追ってるんだ?」

 

「奴らは外の世界でも傭兵として活動している。俺は俺のスポンサーから奴らが奪ったあるものを奪還しにきた」

 

 目的を隠しても仕方ないので、大雑把にかいつまんで話すとシドロビッチは頷いた。

 

「つまりお前さんは奴らと敵対関係にあるってことか?」

 

「そういうことになるな。奴らとしても俺の顔を見たら是が非でも殺しにかかってくるだろう」

 

 何しろ前回の戦いでは軍曹は100名以上のナイトクローラー隊員を殺害し、彼らの指揮官の一人も葬った。彼らからすれば不倶戴天の敵と言っても過言ではない。

 その言葉にシドロビッチは暫く俯いて考えこんでいたが、やがて顔を上げた。

 

「いいだろう。お前さんのやることに対して協力してやる。俺としてもナイトクローラーの連中がこのままアーティファクトの鉱脈を独占したら商売上がったりだからな。とりあえずここじゃ情報が足りないから、お前さんはこのまま北にあるBARって呼ばれてる廃工場に行ってみな。そこはストーカー達の溜まり場になっていてここよりは情報が得られるはずだ。BARのトレーダーには俺から話を通しておく」

 

 現地のトレーダー達の協力が得られるのはありがたいので、軍曹はその申し出を受けることにした。

 

「助かる。それとついでに装備も整えたい。ミュータントとブロウアウトの歓迎会で装備を殆どなくしちまったんでな」

 

 それを聞いてシドロビッチは商売人らしい好色な笑みを浮かべた。

 

「ああ。勿論構わんぜ。それが俺の本業だからな。だが銃に関しては、間が悪かったな。今は仕入れてる最中でルーキー用のポンコツしか置いてねえんだ。取り寄せるのに数日ほど時間がかかる」

 

「あんたの後ろの棚に置いてあるVSSは飾りか?」

 

 カウンターの後ろの壁に飾られているVSS消音狙撃銃を見ながら、やや不満げに言うとシドロビッチは困ったように頭を掻いた。

 

「勘弁してくれ。あれは予約済みの銃だ。昔は手当たり次第に銃を仕入れてルーキーにもそれなりの銃を売ってたんだが、いい武器を持って自分が強くなったと勘違いしたルーキーがトラブルを起こす事が多くてな。武器の仕入れは絞る事にしたんだよ。俺が売った武器を持って軍の検問所の連中に喧嘩売られたら、俺まで攻撃ヘリで吹き飛ばされちまうからな」

 

 そう言われては仕方がないが、武器の仕入れを待っている時間もない。どうしたものかと考えていると、

 

「そうだシドロビッチ。俺の予備の銃をあんたに預けてたろ。あれをこの人に渡してやってくれねえか」

 

 思い出したようにストーカーが声を上げた。

 シドロビッチはなんとも言えない顔をすると、

 

「あの借金のカタに預かってたMP5か。まあ使えんこともないが、状態は良くないぞ」

 

「水平二連よりは頼りになるだろ。あんたもそれでいいか?」

 

 ストーカーの言葉に軍曹は頷いた。

 

「……ああ。構わない。それと9mm弾のサブマシンガンだけじゃいまいち頼りないんで、念のためソードオフショットガンも欲しい。後はクイックローダーとMP5の予備のマガジンを最低でも5つ、9mm弾を300発、散弾を30発、食料と水を3日分、医療品、ZONEで必要な日常品、バッテリーとバックパックだ。それとクレイモア地雷も欲しい。どれぐらいで用意できる?」

 

「それなら用意できるぜ。だが地雷は諦めろ。この手の武器は唯でさえ狭いZONEを更に狭くしちまうから、扱う奴はZONEから叩きだされる決まりになってる。それ以外のブツなら金額はそうだな……。仕事の件もあるし負けに負けて、15000ルーブルにしといてやるよ」

 

 その金額を聞いて隣のストーカーが顔を引きつらせていたが、軍曹は構わず頷いた。恐らくかなりふっかけられているのだろうが、この程度なら経費で落ちる。

 

「それで結構だ。その代わりまともな物を頼む」

 

「毎度あり!とりあえず今夜はルーキーキャンプで休んでいきな。明日までには物はこちらで用意しといてやるよ」

 

「頼んだ」

 

 流石に疲労も溜まっていたため、今日はここで休んだほうがいいだろう。

 そう考え軍曹は地下壕から出ようと出口に向かった。

 しかしその背中にシドロビッチからの声がかかる。

 

「ちょっと待った。そういえばお前さんの名前を聞いてなかったな。短い付き合いになると思って聞かなかったが、こうなると話は別だ。あんたのことはなんて呼べばいい?」

 

 その問いかけに軍曹は暫く考えこんだ。

 わざわざこのZONEで本名を名乗る事に意味はない。適当な偽名でも構わないはずだ。

 そこまで考えて軍曹の脳裏に一つの単語が浮かんだ。

 

 ―――どうせ偽名ならその名前自体がナイトクローラーへのメッセージとして使えるものがいい。 この名前が奴らの耳に入れば、自分がお前達を追跡しているという宣戦布告にもなる。

 

「フィアー(F.E.A.R.)だ」

 

「……フィアーね。恐怖とは随分ハッタリの効いた名前だな?」

 

「ナイトクローラー共がこの単語を聞けば眼の色を変える。これはそういう名前だ」

 

 目を丸くするトレーダーを背にして軍曹は……いや、フィアーは出口の耐爆扉をくぐった。

 すると慌てた調子でストーカーが追ってくる。

 

「おい、待ってくれよフィアー。上の村で寝床を探すのなら、皆に紹介するぜ。飯と酒ぐらいは奢らせてくれ」

 

「頼む。……そういえばあんたの名前も聞いてなかったな」

 

「ブルーだ。まあZONEじゃこの手の名前はよくあるのさ。ZONEに来てからは半年近くになる。この辺じゃそれなりに知れた顔さ」

 

 暗に偽名だと匂わせながら、自己紹介してくる。

 人懐っこい性格だがこの若さでZONEに来ているということは、偽名を名乗らざるを得ない過去の一つや二つあってもおかしくはない。

 フィアーはブルーの他愛ない世間話を聞き流しながら、これからの事を考えた。

 

 シドロビッチのあの様子なら、頼まなくても自分の事をトレーダーの情報網に流してくれるはずだ。

 後はF.E.A.R.の名前に釣られてやってくるであろう、ナイトクローラー達を捕らえて情報を聞き出せばいい。

 だがそれよりもまずは眠りたい。

 流石に初日でこれ程のイベントに遭遇するとは思わなかった。

 外周部でこれとは先が思いやられるが、まずは休息を取るべきだと体は言っている。

 見ず知らずの連中の拠点で熟睡するのは危険を伴うが、その辺りの安全は隣のストーカーが保証してくれるだろう。

 今夜は酒でも飲んで寝ようと決めて、フィアーはシェルターの外に出た。

 夜空を見上げると燦然と輝く無数の星々と欠けた月が輝いている。

 

 ―――この星空は酒のツマミには良さそうだ。

 

 それが初めてのZONEの夜に対するフィアーの感想だった。




 ようやく軍曹の名前が決まった。といっても偽名ですが。本名は多分原作でも永遠に明かされることはない。
 まあZONEはウルフとかフォックスとかブラックとかスカルとか、そんな厨二(むしろ小学生レベル)センスなネームの奴が溢れてるからそう目立たないと思います。

 あとシドロビッチが言ってた、いい武器持って調子にのって軍に喧嘩売った馬鹿は作者のことです。
 まさかリベンジに来た軍人達のせいでルーキーキャンプが滅びることになるとは思わなかった。
 MOD入れると本当に攻撃ヘリまで来ます。


 ZONE観光案内。
 ブロウアウト。二作目以降はエミッションとも。
 定期的に起きるチェルノブイリ発電所からの大爆発でZONEの風物詩。
 放射線とか精神波とかいろいろ含んでて浴びると死ぬ。もしくはゾンビになる。
 起きる寸前に一応警告のサイレンがなるが、どう頑張っても避難所に辿りつけない場合は諦めてゾンビになる準備をしよう。
 ボロボロの廃屋で防げたと思ったら、頑丈そうな小屋じゃ駄目とかイマイチ防げる基準がわからない。
 MODごとにいろんな表現があって面白い。

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